日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年門審第4号
件名

貨物船信栄丸貨物船ゼンシン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,上田英夫,片山哲三)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:信栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:ゼンシン三等航海士

損害
信栄丸・・・左舷船首部に凹損等
ゼンシン・・・右舷後部の端艇甲板フロアープレートに圧損等

原因
ゼンシン・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
信栄丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ゼンシンが,前路を左方に横切る信栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,信栄丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月30日03時09分
 福岡県部埼東方
 (北緯33度58.0分 東経131度02.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船信栄丸 貨物船ゼンシン
総トン数   199トン
国際総トン数 1,369トン
全長 58.51メートル 72.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 88キロワット 1,029キロワット
(2)設備及び性能等
ア 信栄丸
 信栄丸は,平成元年5月に進水した全通二層甲板を有する船尾船橋型鋼製貨物船で,レーダー,GPS,自動操舵装置,探照灯,エアーホーン等を装備していた。また,同船は主として西日本の各港間で運航されていた。
イ ゼンシン
 ゼンシン(以下「ゼ号」という。)は,1986年に日本で建造された全通二層甲板を有する船尾船橋型鋼製貨物船で,AIS,レーダー,GPS,自動操舵装置,信号灯,エアーホーン等を装備していた。また,同船は,主として日本,中華人民共和国,台湾及びベトナム社会主義共和国の各港間で運航されていた。

3 事実の経過
 信栄丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首0.9メートル船尾2.7メートルの喫水をもって,平成17年9月29日15時00分愛媛県三島川之江港を発し,博多港に向かった。
 ところで,A受審人は,船橋当直時間帯及び同当直者については固定することなく,同人のほか2人の乗組員の計3人により,その都度,単独の船橋当直体制を定めることとしており,当時,翌30日01時から関門海峡を通過するまで自らが当直にあたるように時間を割り振っていた。
 30日01時ごろA受審人は,周防灘航路第3号灯浮標付近で船橋当直に就き,周防灘推薦航路に沿って西行し,02時41分部埼灯台から110度(真方位,以下同じ。)5.9海里の地点に至り,自動操舵により,針路を300度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,正規の船灯を点灯し,下関南東水道推薦航路の北側寄りを進行した。
 定針時,A受審人は,左舷船首51度1.4海里のところにゼ号の船尾灯を初認し,03時01分少し過ぎ部埼灯台から094度2.2海里の地点に達したとき,同船のマスト灯2個及び緑色舷灯を左舷船首65度1,350メートルのところに視認するようになったが,同船とはほぼ平行に航行しており自船と同様に間もなく関門航路に入航するために左転するだろうと思い,その後,ゼ号に対する動静監視を十分に行うことなく続航し,同時05分半わずか過ぎ予め転針地点としていた同灯台から079度1.46海里の地点に達したので,針路を関門航路に向首する287度に転じた。
 転針したとき,A受審人は,ゼ号のマスト灯2個及び緑色舷灯を左舷船首61度700メートルのところに視認することができ,その後同船が前路を右方に横切り,明確な方位変化なく衝突のおそれがある態勢で接近していたが,依然,同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船に対して警告信号を行うことも,更に接近するに及んで右転するなどして同船との衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 こうして,A受審人は,船首方のみの見張りを行って続航中,03時09分少し前ゼ号の信号灯の照射により,初めて同船と接近していることに気付き,衝突の危険を感じて,慌てて探照灯により同船を確かめたのち,手動操舵に切り替えて右舵一杯をとったが効なく,信栄丸は,03時09分部埼灯台から060度1,740メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その左舷船首部がゼ号の右舷後部に後方から23度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力5の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,ゼ号は,船長C及びB指定海難関係人ほか7人が乗り組み(全乗組員,中華人民共和国籍),スクラップ928.26トンを積載し,船首2.50メートル船尾4.35メートルの喫水をもって,同月29日15時30分広島港を発し,関門海峡を経由する予定で,中華人民共和国寧波港に向かった。
 ところで,C船長は,船橋当直の1時から5時の時間帯をB指定海難関係人,5時から9時の時間帯を一等航海士及び9時から1時の時間帯を自らが,それぞれ操舵手と2人1組で行う4時間交替の3直制で実施することに定め,夜間命令簿に,集中して見張りを行うこと,慎重に操船すること,正確な避航動作を行うこと,度々船位を確認すること,予定進路上を航行すること,早期に注意喚起信号を行うこと及び問題発生時には船長に直ちに報告することを記載していた。
 翌30日01時00分C船長は,周防灘航路第2号灯浮標の手前に達したとき,自身が付近の航行経験が豊富で,また,B指定海難関係人も船橋当直経験が豊富で,かつ,同人の普段の仕事ぶりが優秀であったことから,関門海峡東口付近まで同人に操船を任せても大丈夫と思い,口頭により関門航路第37号灯浮標に到着したときに報告するよう指示して,同人に当直を引き継いで降橋し,操舵室の一層階下にある自室で就寝した。
 B指定海難関係人は,操舵手Dとともに当直に就き,機関を全速力前進にかけ,9.7ないし10.2ノットの速力で,正規の船灯を点灯して,周防灘及び下関南東水道の両推薦航路に沿って西行し,02時55分部埼灯台から117度2.6海里の地点で,右舷船尾67度1.0海里のところに信栄丸のマスト灯2個及び紅色舷灯を初認し,同船は追越し船であるから同船が自船を避航すると思って進行した。
 03時00分半B指定海難関係人は,部埼灯台から112度1.75海里の地点に至り,D操舵手を手動操舵に就けて針路を324.5度に定め,引き続き機関を全速力前進にかけ,9.7ノットの速力で続航した。
 03時05分半わずか過ぎB指定海難関係人は,部埼灯台から089度1.17海里の地点に達して自船が324度を向首したとき,信栄丸のマスト灯2個及び紅色舷灯を右舷船首82度700メートルのところに視認し,その後同船が前路を左方に横切り,明確な方位変化なく衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,依然,信栄丸は追越し船でありやがて避航動作をとるだろうと思い,減速するなどして同船の進路を避けることなく,関門航路へ入航したのちに転針するつもりで,同針路,同速力のまま進行した。
 こうして,B指定海難関係人は,信栄丸を右舷方に視認しながら続航中,03時08分少し過ぎ同船の動静に不安を感じ,操舵をD操舵手と交代して同時08分半わずか前部埼灯台から067度1,790メートルの地点において,左舵20度をとるとともに,汽笛を吹鳴したのち,右舷ウイングに出ていた同操舵手に信号灯を同船に対して照射させたが及ばず,ゼ号は,310度を向首したとき9.4ノットの速力で,前示のとおり衝突した。
 C船長は,就寝中,衝撃を感じて昇橋し,信栄丸と衝突したことを知って,事後の措置にあたった。
 衝突の結果,信栄丸は,左舷船首部に凹損などを生じ,ゼ号は,右舷後部の端艇甲板フロアープレートに圧損などを生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,部埼東方の海域において,信栄丸とゼ号の両動力船が,互いに他の船舶の視野の内にある状況の下,互いに進路を横切る態勢で衝突したものであり,同海域は海上交通安全法の適用海域であるが,同法には本件に適用する航法規定がないから,一般法である海上衝突予防法第15条によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 信栄丸
(1)ゼ号も自船と同様に間もなく関門航路に入航するために左転するだろうと思い,ゼ号に対する動静監視を行わなかったこと
(2)警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ゼ号
 信栄丸を自船に対する追越し船と思い,信栄丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 信栄丸が,ゼ号に対する動静監視を行っていれば,同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを認めて,警告信号を行い,更に接近するに及んで右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることによって,本件の発生を防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,ゼ号も自船と同様に間もなく関門航路に入航するために左転するだろうと思い,動静監視が不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 ゼ号が,信栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めた際,減速するなどして同船の進路を避けていれば,本件は発生していなかったと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,信栄丸を自船に対する追越し船と思い,信栄丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,部埼東方において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北西進中のゼ号が,前路を左方に横切る信栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行中の信栄丸が,ゼ号に対する動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,部埼東方を西行中,左舷方に北西進中のゼ号を認めた場合,同船との衝突の有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,ゼ号も自船と同様に間もなく関門航路に入航するために左転するだろうと思い,船首方のみ見張りを行い,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,ゼ号が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行わず,更に接近するに及んで右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き,信栄丸の左舷船首部に凹損などを生じさせ,ゼ号の右舷後部の端艇甲板フロアープレートに圧損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,部埼東方を北西進中,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する信栄丸を認めた際,減速するなどして同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:32KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION