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平成17年門審第69号
件名

貨物船千進丸貨物船第二十八松島丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,西林 眞,上田英夫)

理事官
金城隆支,花原敏朗,三宅和親

受審人
A 職名:第二十八松島丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第二十八松島丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)

損害
千進丸・・・船首部及び左舷外板に凹損
第二十八松島丸・・・右舷船首部外板に凹損等

原因
第二十八松島丸・・・錨地の選定不適切,電源復旧措置不十分

主文

 本件衝突は,第二十八松島丸が,台風避難にあたり,錨地の選定が適切でなかったばかりか,暴風下での転錨作業中に電源を喪失した際,電源の復旧措置が速やかに行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月7日11時15分
 大分県佐伯港
 (北緯32度59.6分 東経131度54.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船千進丸 貨物船第二十八松島丸
総トン数 749トン 455トン
全長 69.70メートル 69.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 千進丸
 千進丸は,平成8年11月に大分県佐伯市で進水した船首楼船尾楼付一層甲板船尾船橋型の限定近海区域を航行区域とするセメント運搬船で,船首両舷に1節の長さ25メートルで径36ミリメートルの錨鎖各8節と重量1,320キログラムの無かん錨各1個がそれぞれ備えられていた。
イ 第二十八松島丸
 第二十八松島丸(以下「松島丸」という。)は,平成5年2月に広島県呉市で進水した,バウスラスタを装備した全通船楼二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,船首両舷に1節の長さ25メートルで径22.5ミリメートルの錨鎖8節と重量1,295キログラムの無かん錨を備え,操舵室には,前部中央に操舵装置,ジャイロコンパス及び船舶電話などを組み込んだ航海コンソールを,その右舷側に,主機の遠隔操縦ハンドル,計器類及び各種表示灯などを備えた主機操縦パネル並びにバウスラスタ操作パネルを設けた操縦盤,左舷側に,レーダー2台及び発電機制御盤をそれぞれ配置していた。
 主機は,C社製のA28R型と称する定格回転数毎分280のディーゼル機関で機関室下段中央に据え付けられ,三相交流電圧445ボルト容量100キロボルトアンペアの軸発電機(以下「軸発」という。)等を駆動するようになっており,操舵室の主機遠隔操縦装置には,AC100ボルト及びDC24ボルトが給電されていて,AC電源喪失時にはDC電源のバックアップにより遠隔操縦が可能であった。
 発電装置は,軸発のほか,いずれも三相交流電圧445ボルトで,ディーゼル機関(以下「補機」という。)で駆動する容量200キロボルトアンペアの主発電機(以下「主発」という。)1台と容量40キロボルトアンペアの同機関駆動非常照明用発電機(以下「停泊用発電機」という。)1台を備えており,出入港時には,軸発及び主発を単独運転として軸発から船内電源に,主発からバウスラスタにそれぞれ給電されていた。
 そして,発電機制御盤は,盤面上の右舷側に主発の,左舷側に軸発の各電力計,周波数計,電圧計及び電流計を,中央に同期検定器をそれぞれ配置し,計器類の手前には制御位置表示灯と運転状態表示灯が配列されていた。また,盤前面部には,補機の発停,主発,軸発及びバウスラスタ用気中遮断器の入切並びにオメガクラッチの嵌脱を行うための遠隔操作ボタン及び表示灯用調光器が組み込まれていた。

3 事実の経過
 千進丸は,船長Dほか5人が乗り組み,セメント1,427トンを積載し,船首3.86メートル船尾4.83メートルの喫水をもって,台風18号避難の目的で,平成16年9月5日18時12分大分県津久見港を発し,同県佐伯港に向かい,20時36分佐伯港本港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から358度(真方位,以下同じ。)1,270メートルの地点に両舷錨を投じ,錨索をそれぞれ6節延出して双錨泊を開始した。
 D船長は,同月7日10時ごろ単独で守錨当直に就いていたとき,自船の南南西方300メートルばかりのところに錨泊していた松島丸が転錨作業を開始したのを認め,その後,風力12の南寄りの風を観測するようになり,11時00分機関を始動して舵と機関とを適宜使用し,走錨防止に努めた。
 千進丸は,180度に向首して船位を保持していたところ,松島丸が,風圧に抗しきれず,走錨を始めて北方に圧流され,11時15分北防波堤灯台から358度1,420メートルの地点において,千進丸の船首と松島丸の右舷船首部が後方から75度の角度で衝突した。
 当時,天候は雨で風力12の南南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,大分県南部に大雨,暴風及び波浪の各警報が発表されていた。
 また,松島丸は,A及びB両受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,海水バラスト500トンを積載し,船首1.9メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,台風18号避難の目的で,同月5日11時50分高知県須崎港を発し,佐伯港に向かった。
 A受審人は,21時30分ごろ佐伯港に入港し,台風18号の接近に伴い,南寄りの強風が吹くことを予想していたが,水深14メートルで底質が泥の錨かきのよい地点だから大丈夫と思い,南寄りの風波の影響が軽減できるよう,佐伯港奥の大入島北方の島陰に投錨するなど,錨地の選定を適切に行うことなく,21時50分北防波堤灯台から351度1,140メートルの地点に左舷錨を投入し,次いで右舷錨を投入して両舷とも錨鎖6節を延出したとき,すでに錨泊していた千進丸を北北東方300メートルばかりのところに認めた。
 翌6日A受審人は,20時ごろから台風接近に伴う風が強まったので守錨当直を配し,明けて7日06時ごろ昇橋して一等航海士と共に同当直に就いた。
 B受審人は,機関用意の指示が出ることを予想し,08時30分自らの判断で船内電源を停泊用発電機から主発に切り替え,操舵室で待機していたところ,レーダー監視を続けていた一等航海士から走錨している旨の報告を受け,自ら確認して船尾方の陸岸に約50メートルまで接近していることを知り,転錨することを決断したA受審人から機関用意の指示を受け,09時30分機関用意を行うと共に,船内電源を軸発から,バウスラスタ電源を主発からそれぞれ給電するように切り替え,同室で各機器の運転監視に就いた。
 ところで,B受審人は,操舵室の発電機制御盤の補機の発停ボタンにビニールテープを施していたうえ,夜間,眩しいので,同制御盤前面部の警報表示灯用調光器を暗の位置まで絞り込み,運転状態がすぐに判別できない状態としていた。
 09時40分ごろA受審人は,B受審人から機関用意が整った旨の報告を受け,強まった南寄りの風のなか,舵と機関とを適宜使用して船体の姿勢を保持しながら,両舷錨を同時に巻き揚げ始めた。
 B受審人は,操舵室の発電機制御盤の軸発の電力計の指示を見て高負荷であることを知ったものの,平素,両舷錨投入時には同時に揚錨していてブラックアウトしたことがなく,そのような事態になるとは予想もしていなかったので,軸発の負荷を下げるような対策をとるよう船長に進言することも,船内の不要の電源を切ることもせずに各機器の運転状態の監視を続けた。
 A受審人は,両錨の抜錨を終えたのち,一昨日の投錨位置の100メートルばかり南の地点に転錨すべく2度試みたものの,強風のためかなわず,投錨地点を変更することとし,10時40分ごろ千進丸から南南東方に約300メートル離れた,北防波堤灯台から002度1,100メートルの地点に3度目の投錨を行い,両舷の錨鎖を6節延出したところ,後方の千進丸との距離が近くなり,不安を覚えて再度錨を打ち直すこととした。
 そして,A受審人は,11時03分両舷錨鎖を同時に巻き揚げに掛かり,右手で主機の遠隔操縦ハンドルを,左手で舵輪をそれぞれ操作し,機関を全速力前進に掛けて舵を適宜使用し,強まった南南東風に抗して船体の姿勢を保持しながら揚錨作業を続行中,同時11分錨鎖3節を巻き揚げたところで,船内の不要の電源を切るなどして軸発の負荷を下げる対策をとっていなかったので軸発が過負荷となり,気中遮断器がトリップして船内電源を喪失したとき,船内電源喪失時には主機の遠隔操作ができないものと思い込んでいたので,主機の遠隔操縦ハンドルを中立にした。
 このとき,B受審人は,操舵室で機関の運転監視に就いていて,室内の照明が消えたことから,船内電源を喪失したことを認め,強風下での転錨作業で操舵機等を使用中であったことから,速やかに電源を復旧させる必要があり,発電機制御盤で電源復旧の措置がとれることを知っていたが,運転状態が直ちに判別できない状態となっていたので,確認のため機関室に向かうこととし,速やかに発電機制御盤で主発の給電先をバウスラスタから船内電源に切り替える措置をとることなく,A受審人にバウスラスタの電源を切るよう指示して急ぎ機関室に向かった。
 松島丸は,A受審人が主機の遠隔操縦ハンドルを中立にしたことから,推進力を失い,風圧に抗しきれず,徐々に船首を西に向けながら北方に圧流され始め,11時14分山神受審人が機関室で主配電盤を操作して電源復旧の措置をとり,電源が復旧したとき,千進丸にほぼ横向きの態勢で約30メートルまで接近していたことから,同時14分少し過ぎA受審人が,機関を全速力後進に掛けたものの,及ばず,船首を255度に向けて後進中,左横からの強風に圧流されて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,千進丸は船首部及び左舷外板に凹損を生じ,松島丸は右舷船首部外板に凹損等をそれぞれ生じたが,のち,いずれも修理された。
 
(本件発生に至る事由)
松島丸
(1)錨地の選定を適切に行わなかったこと
(2)発電機制御盤前面の警報表示灯用調光器を暗の位置まで絞り込んでいたこと
(3)両舷錨を同時に巻き揚げていたこと
(4)軸発の高負荷運転に気付いた際,軸発の負荷を下げるような対策をとるよう進言せず,船内の不要の電源を切ることもしなかったこと
(5)船内電源を喪失したこと
(6)船内電源を喪失した際,主機の遠隔操縦ハンドルを中立にしたこと
(7)船内電源を喪失した際,速やかに同電源の復旧措置を行わなかったこと
 
(原因の考察)
 松島丸が,台風接近により南寄りの強風が吹くことを予想していたのであるから,その風の影響を軽減できるよう島陰に投錨するなどして,錨地の選定を適切に行っていたなら,走錨はしなかったものと認められ,本件は回避されていたものと考えられる。また,転錨中に電源を喪失しても,発電機制御盤での切替え操作ができたのであるから,速やかに同制御盤での切替え操作を行い電源を復旧していたなら,主機及び操舵機を適宜使用し,強風に抗して船体の姿勢が保たれていたうえ,安全な錨地に転錨することができたものと認められ,本件は回避されていたものと考えられる。
 従って,A受審人が錨地の選定を適切に行わなかったこと及びB受審人が転錨中に電源を喪失した際,速やかに電源を復旧しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 発電機制御盤前面の警報表示灯用調光器を暗の位置まで絞り込んでいたことは,当時,B受審人が,各発電機の負荷状態を知り,同制御盤で電源復旧の措置がとれることを知っていて,速やかに電源復旧の措置をとることができる状況にあったのであるから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,このことは,海難防止の観点から,是正すべきことである。
 両舷錨を同時に巻き揚げていたこと,軸発の高負荷運転に気付いた際,軸発の負荷を下げるような対策をとるよう船長に進言せず,船内の不要の電源を切ることもしなかったこと,船内電源を喪失したこと及び同電源を喪失した際主機の遠隔操縦ハンドルを中立にしたことはいずれも,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。
 
(海難の原因)
 本件衝突は,佐伯港において,松島丸が,台風を避難するにあたり,錨地の選定が不適切であったばかりか,台風接近に伴う暴風によって転錨を余儀なくされ,転錨作業中,船内電源を喪失した際,同電源の復旧措置が速やかに行われなかったことにより,操船の自由を失い,錨泊中の千進丸に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,佐伯港において,台風避難の目的で,錨地の選定を行う場合,台風の北上に伴って南寄りの強風が吹くことが予想されたのであるから,強風の影響を軽減できるよう,島陰に投錨するなど,錨地の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,底質が泥で錨かきのよい場所に両舷の錨鎖をそれぞれ6節延出するので大丈夫と思い,錨地の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,南寄りの強風の影響を大きく受ける地点に投錨し,暴風が吹くなか,転錨を余儀なくされて転錨作業中に船内電源を喪失したとき,その復旧が速やかに行われず,操船の自由を失って圧流され,千進丸との衝突を招き,千進丸の船首部及び左舷外板に凹損を,松島丸の右舷船首部外板などに凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,佐伯港において,台風の接近に伴う暴風によって,転錨を余儀なくされ,操舵室で各機器の運転状態を監視して転錨作業中,船内電源を喪失した場合,同室内に発電機制御盤を備えていたのであるから,同制御盤を使用し,速やかに船内電源の復旧を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,状況を把握しようとして機関室に向かい,船内電源の復旧を速やかに行わなかった職務上の過失により,操船の自由を失って圧流され,千進丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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