日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第121号
件名

漁船正栄丸漁船第一米沢丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:正栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第一米沢丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
正栄丸・・・船首下部に擦過傷
第一米沢丸・・・右舷中央部防舷材に破損,マストに曲損等 船長が右腓骨骨折等,甲板員が右肋軟骨損傷等

原因
正栄丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第一米沢丸・・・見張り不十分,音響信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は,正栄丸が,見張り不十分で,停留状態の第一米沢丸を避けなかったことによって発生したが,第一米沢丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月23日13時00分
 鳥取県東伯郡橋津川河口北方沖合
 (北緯35度30.5分 東経133度52.3分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船正栄丸 漁船第一米沢丸
総トン数 1.5トン 0.9トン
登録長 7.06メートル 6.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 25 30

3 事実の経過
 正栄丸は,船体後部に機関室囲壁及びその後端上部に舵輪や機関操縦装置を備え,刺網漁業などに従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和54年10月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成17年1月23日07時00分鳥取県泊漁港を発し,同漁港西方沖合9海里の漁場に向かい,同漁場でさわら1本釣り漁を行ったのち,12時30分同漁場を発進して帰途についた。
 ところで,A受審人は,正栄丸の速力が10ノットを超えると船首部が浮上し,舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて見張りにあたると,船首部によって正船首から左右各舷5度の範囲で死角が生じることから,平素は時折立ち上がるなどして船首方の死角を補う見張りを行っていた。
 A受審人は,発進したあと,舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて操舵にあたり,船首方に死角が生じていたものの,折から東方寄りの波が高く,付近に他船を見かけなかったので,死角を補う見張りを行わないで陸岸寄りを東行し,12時58分少し前鳥取県東伯郡橋津川北方沖の,泊灯台から263度(真方位,以下同じ。)3.7海里の地点で,針路を090度に定め,機関を半速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 定針したとき,A受審人は,正船首方800メートルのところに南方に向首して停留状態の第一米沢丸(以下「米沢丸」という。)を視認でき,その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが,前路に他船はいないものと思い,いすから立ち上がるなど,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 A受審人は,いすに腰を掛けたままの姿勢で,米沢丸を避けることなく続航し,13時00分泊灯台から262度3.2海里の地点において,正栄丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,米沢丸の右舷中央部に,直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の東風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 また,米沢丸は,船尾中央に船外機を取り付けて刺網漁業に従事する無蓋のFRP製漁船で,B受審人(昭和51年5月小型船舶操縦士免許取得,平成15年6月二級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士の免許に更新)及び甲板員1人が乗り組み,刺網漁の目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日12時00分橋津川左岸の船着場を発し,前示衝突地点付近の漁場に向かい,12時05分同漁場に到着し,西方に向かって投網を始めた。
 ところで,B受審人が行う刺網漁は,浮子及び沈子を付けた長さ100メートル幅5メートルの網を1反としてそれを8反繋ぎ合せ,両端に旗付きのボンデンを立てて海中に投入し,揚網時には投網開始地点に戻って機関を停止し,同受審人が浮子側を,甲板員が沈子側をそれぞれつかみ,左舷前部に取り付けた電動揚網機を使用して網の方向へわずかに船体が横移動しながら,約50分かけて右舷側から網の全部を巻き取るものであった。
 12時13分B受審人は,泊灯台から262度2.8海里の地点にあたる網の東端で,船首を南方に向けて機関を停止し,形象物をなんら表示しないまま,電動揚網機の船体中央寄りに立って浮子側を,甲板員が左舷舷側寄りに立って沈子側をそれぞれつかみ,西方にわずかに横移動しながら揚網を開始した。
 12時58分少し前B受審人は,180度に向首していたとき,右舷正横800メートルのところに正栄丸を視認でき,その後同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが,接近する他船が停留状態の自船を避けるものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 B受審人は,正栄丸が米沢丸を避けないで接近したが,避航を促す有効な音響信号を行うことなく揚網を続け,13時00分少し前右舷正横至近に同船を認めて旗付きのボンデンを振ったが,及ばず,米沢丸は,180度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,正栄丸は,船首下部に擦過傷を,米沢丸は,右舷中央部防舷材に破損,マストに曲損等の損傷をそれぞれ生じたが,いずれも修理され,また,B受審人が右腓骨骨折等を,米沢丸の甲板員が右肋軟骨損傷等をそれぞれ負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,鳥取県東伯郡橋津川河口の北方沖において,東行する正栄丸が,見張り不十分で,停留状態の米沢丸を避けなかったことによって発生したが,米沢丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,鳥取県東伯郡橋津川河口の北方沖において,同県泊漁港に向けて東行する場合,船首方に死角が生じていたのだから,前路の他船を見落とすことがないよう,船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前路に他船はいないものと思い,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,停留状態の米沢丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,正栄丸の船首下部に擦過傷を,米沢丸の右舷中央部防舷材に破損,マストに曲損等の損傷をそれぞれ生じさせ,B受審人に右腓骨骨折等を,米沢丸の甲板員に右肋軟骨損傷等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,鳥取県東伯郡橋津川河口の北方沖において,停留状態で操業に従事する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,接近する他船が停留状態の自船を避けるものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する正栄丸に気付かず,避航を促す有効な音響信号を行わないで同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:20KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION