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平成17年広審第106号
件名

漁船幸神丸モーターボートはづま衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,黒田 均,道前洋志)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:幸神丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:はづま船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸神丸・・・損傷ない
はづま・・・右舷前部の外板などが破損して転覆

原因
幸神丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
はづま・・・音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,幸神丸が,見張り不十分で,錨泊中のはづまを避けなかったことによって発生したが,はづまが,避航を促す有効な音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月16日11時50分
 愛媛県柳原漁港西方沖合
 (北緯33度57.3分 東経132度46.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船幸神丸 モーターボートはづま
総トン数 4.9トン  
登録長 12.54メートル 4.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   18キロワット
漁船法馬力数 90  
(2)設備及び性能等
ア 幸神丸
 幸神丸は,平成4年11月に進水したFRP製漁船で,同県柳原漁港を基地として活魚の運搬などに従事していた。
 操舵室は,船体後部に設置されていたが,その前方には見張りの妨げとなる構造物は存在せず,同室内には右舷寄りに舵輪が,その左舷側にレーダーがそれぞれ備えられていた。
 航海速力は,機関を回転数毎分1,900として20ノットであり,速力が10ノットを超えると船首部が浮上し,操舵室の舵輪後方で見張りにあたると,立っていてもいすに座っていても正船首から右舷側5度及び左舷側7度の範囲の見通しが船首部によって妨げられ,死角が生じる状況となっていた。
イ はづま
 はづまは,昭和60年5月に第1回定期検査を受けた,最大搭載人員4人のFRP製モーターボートで,船尾に船外機を取り付けてそのハンドルを握って操船するようになっており,船体上に見張りの妨げとなる構造物はなく,航海計器や灯火の設備も,汽笛も備えておらず,錨泊中に表示する形象物が船首部の船倉に格納され,長さ3メートルの竹竿を係留索や錨索をとる船首部のかんぬきにロープで括り付けて立て,その先端に形象物を表示するようになっていた。
 速力は,機関を全速力前進として毎時約30キロメートルであった。

3 柳原漁港について
 柳原漁港は,愛媛県松山港北方4海里に位置し,港口が西方の安芸灘に面する掘込方式の漁港で,港口北側には西端部に柳原港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)を設置し287度(真方位,以下同じ。)方向に長さ95メートルの,南側には282度方向に長さ100メートルの各防波堤が,また,同防波堤灯台から297度70メートルの地点を起点として192度方向に70メートル延びる防波堤(以下「一文字防波堤」という。)がそれぞれ築造されており,南北両側の防波堤の各西端と一文字防波堤間が船舶の通航路となっていた。

4 事実の経過
 幸神丸は,A受審人が単独で乗り組み,活魚を運搬する目的で,船首0.45メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,平成17年4月16日09時30分柳原漁港を発し,二神島北東部の船着場に向かい,10時00分同船着場に到着してたいなど100キログラムの活魚を載せ,11時20分同船着場を発進して帰途についた。
 A受審人は,舵輪後方に置いたいすに腰を掛け,レーダーを1.5海里レンジとしたものの,視界が良かったことから専ら目視によって見張りにあたり,時折船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを行いながら安芸灘を東行し,11時42分少し過ぎ北防波堤灯台から267度2.7海里の地点で,針路を087度に定め,機関を回転数毎分1,900にかけて20.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 11時47分A受審人は,北防波堤灯台から266.5度1.1海里の地点に達したとき,前路を一瞥して他船を見かけなかったので,その後舵輪後方のいすに腰を掛けたまま,船首方の死角を補う見張りを行わないで続航した。
 11時48分A受審人は,北防波堤灯台から266度1,400メートルの地点に差し掛かったとき,正船首1,230メートルのところにはづまを視認でき,同船が錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示していなかったものの,船首で波が立っていないことや風に船首を立てたまま動かない状態であったことから,同船が錨泊中であることが容易に分かり,その後衝突のおそれがある態勢で接近したが,前路に他船はいないものと思い,船首を左右に振るなど,依然として船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かず,同船を避けることなく,船首の上方に見えていた一文字防波堤の南端上部を注視して進行した。
 A受審人は,11時50分わずか前一文字防波堤に100メートルばかりに接近し,機関を回転数毎分500に下げた直後,11時50分北防波堤灯台から253度170メートルの地点において,幸神丸は,原針路のまま,10.0ノットの対地速力になったとき,その右舷船首部が,はづまの右舷前部に前方から26度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西南西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,はづまは,B受審人が単独で乗り組み,同乗者1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって,同日06時30分大浦漁港の船着場を発し,柳原漁港西方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は,07時ころ一文字防波堤南方1,000メートルのところに錨泊して釣りを開始したものの,釣果がなかったことから,釣り場を変えることとし,同防波堤西方沖合の海域の様子をしばらく見ていたところ,その付近を通航して柳原漁港に出入りする船舶を見かけなかったので錨泊しても支障ないものと判断し,11時20分前示衝突地点付近に移動し,左舷船首から水深10メートルの海底に重さ6キログラムの鋼製錨を投じ,直径12ミリメートルの合成繊維製錨索を30メートル延出して船首部のかんぬきに係止し,船外機を停止して錨泊を始めた。
 B受審人は,錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないまま,船首が西南西風に立った状態で,船体中央部のさ蓋の上に,同乗者が船体後部に置いたクーラーボックスの上に,いずれも救命胴衣を着け船尾方を向いて腰を下ろし,右舷から釣り竿3本を,船尾から釣り竿2本を出して魚釣りを始めた。
 11時48分B受審人は,241度に向首していたとき,船首方を振り返ったところ,右舷船首26度1,230メートルのところに幸神丸を初認し,その後同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,避航を促す有効な音響信号を行わず,避航の気配を見せないまま間近に接近しても,そのうち同船が避航措置をとるものと思い,直ちに機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく,なおも避航を期待して幸神丸を見守るうち,11時50分わずか前同船が至近に迫って衝突の危険を感じ,同乗者とともに海中に飛び込んだ直後,同じ船首方向のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸神丸は,損傷がなかったが,はづまは,右舷前部の外板などが破損して転覆し,B受審人及び同乗者は,幸神丸に救助された。

(本件発生に至る事由)
1 幸神丸
(1)船首方に死角が生じていたこと
(2)船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(3)錨泊中のはづまを避けなかったこと

2 はづま
(1)柳原漁港の入口付近に錨泊したこと
(2)錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示していなかったこと
(3)避航を促す有効な音響信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 幸神丸が,船首方の死角を補う見張りを十分に行っていれば,錨泊中のはづまの存在に気付いて同船を避けることができ,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,船首方の死角を補う見張りを十分に行わず,錨泊中のはづまを避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 船首方に死角が生じていたことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認めらない。
 一方,はづまが,避航を促す有効な音響信号を行い,間近に接近したとき衝突を避けるための措置をとっていれば,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,避航を促す有効な音響信号を行わなかったこと及び間近に接近したとき衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,柳原漁港の入口付近に錨泊したこと及び錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示していなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認めらない。しかしながら,海難防止の観点からいずれも是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,愛媛県柳原漁港西方沖合において,同漁港に向けて帰航する幸神丸が,見張り不十分で,錨泊中のはづまを避けなかったことによって発生したが,はづまが,避航を促す有効な音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,愛媛県柳原漁港西方沖合において,同漁港に向けて帰航する場合,舵輪後方で見張りにあたると船首方に死角が生じていたのだから,前路の他船を見落とすことがないよう,船首を左右に振るなど,船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,前路に他船はいないものと思い,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中のはづまの存在に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,はづまの右舷前部の外板などを破損し,転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,愛媛県柳原漁港西方沖合において,錨泊して魚釣り中,船首方に幸神丸を認め,同船が衝突のおそれがある態勢で避航の気配を見せないまま間近に接近するのを認めた場合,直ちに機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,そのうち幸神丸が避航措置をとるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,錨泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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