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平成17年神審第117号
件名

水上オートバイ桃次郎水上オートバイマホ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄,横須賀勇一,村松雅史)

理事官
宮川尚一,小俣幸伸

受審人
A 職名:桃次郎船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a
受審人
B 職名:マホ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
b

損害
桃次郎・・・船首部に擦過傷
マホ・・・左舷中央部に破損等 船長が左頸骨開放骨折等及び同乗者が左足関節捻挫等

原因
桃次郎・・・船員の常務(安全な船間距離)不遵守
マホ・・・見張り不十分,船員の常務(前路に進出)不遵守

主文

 本件衝突は,両船が遊走中,マホを追走する桃次郎が,安全な船間距離をとらなかったことと,マホが旋回する際,後方の見張り不十分で,桃次郎の船首方至近に向け,減速するとともに左急旋回したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月5日14時10分
 大阪府せんなん里海公園沖合
 (北緯34度20.4分 東経135度11.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ桃次郎 水上オートバイマホ
全長 3.16メートル 3.15メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 106キロワット 55キロワット
(2)設備及び性能等
ア 桃次郎
 桃次郎は,平成16年7月に新規登録された,C社製のMJ-XLT1200型と称する,最大搭載人員3人のウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで,船体前部に操縦ハンドル,その後方に跨乗式操縦席と同乗者用座席が設けられていた。
 同船は,操縦ハンドルで船尾ノズルの噴出方向を変えることにより旋回し,同ハンドル右側グリップのスロットルレバー操作により速力調整を行うことができ,最高速力は,時速約90キロメートル(以下「キロ」という。)となっていた。
イ マホ
 マホは,平成16年5月に新規登録された,C社製のMJ-XL700LTD型と称する,最大搭載人員3人のウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで,船体前部に操縦ハンドル,その後方に跨乗式操縦席と同乗者用座席が設けられていた。
 同船は,操縦ハンドルで船尾ノズルの噴出方向を変えることにより旋回し,同ハンドル右側グリップのスロットルレバー操作により速力調整を行うことができ,最高速力は,時速約67キロとなっていた。

3 本件発生海域
 里海公園は,大阪府阪南市と同府泉南郡岬町にかけての海岸沿いに,大阪湾に面して造成された人工砂浜の海浜で,同海浜を囲むように東西両側から中央に向け突堤などが突き出て入り江をなし,入江口が海に面する東西両側に設けられていた。同公園は,近年の海洋レジャーの普及に伴い,夏期に海水浴客などで賑い,それ以外の時期には,近郊から水上スポーツを楽しむ愛好者などが集まるところとなっていたが,本件時は,シーズン前で他の水上オートバイなどは見られなかった。

4 事実の経過
 桃次郎は,A受審人が1人で乗り組み,救命胴衣を着用し,遊走の目的で,船首尾とも0.20メートルの喫水をもって,平成17年6月5日13時55分淡輪港西防波堤灯台から097度(真方位,以下同じ。)1,400メートルに所在する,三等三角点田山(以下「田山三角点」という。)から282度590メートルの,里海公園内人工浜の波打ち際を発進した。
 ところで,A受審人は,B受審人及び友人やその家族など7人ほどで,里海公園内人工浜に集合したのち,同公園沖合において,水上オートバイ3艇とプレジャーボート1艇を乗り回して遊走を楽しんでいた。
 A受審人は,操縦席に座って操縦にあたり,里海公園西方のヨットハーバー沖合まで航走し,引き返して発航地に戻ることにし,海岸沿いに東行した後,西側入江口の水路においてB受審人と友人が乗船したマホと左舷を対して航過したとき,これを追走することを急に思い立ち,急いで左旋回し,同船の左舷後方から増速しながら追尾を開始した。
 14時09分47秒A受審人は,西側入江口付近の,田山三角点から288度545メートルの地点において,針路を006度に定め,時速50キロの対地速力(以下「速力」という。)で,マホを右舷船首方に見ながら進行した。
 A受審人は,14時09分48秒マホを右舷船首33度20メートルに認めるようになり,遊走中のマホがどのような動きをするのかも分からず,このまま続航すれば,先航するマホが急減速や急旋回したときなどに対応できずに衝突の危険があったが,マホが引き続き沖に向けて直進するだろうから大丈夫と思い,減速して安全な船間距離をとらなかった。
 その後,A受審人は,マホを見守りながら追走中,14時10分わずか前,同船が右舷前方13メートルとなったとき,突然,左急旋回を始めたのに気付き,驚いてスロットルレバーを放し,次いで操縦ハンドルを右にとるとともに,スロットルレバーを握り込んだが及ばず,14時10分田山三角点から303度600メートルの地点において,桃次郎は,ほぼ原針路のまま,時速約20キロの速力で,その船首が,1回転したマホの左舷中央部に後方から40度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の初期にあたり,海面は穏やかで,視界は良好であった。
 また,マホは,B受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,いずれも救命胴衣を着用し,遊走の目的で,船首尾とも0.20メートルの喫水をもって,14時08分田山三角点から282度590メートルの,里海公園内人工浜の波打ち際を発進した。
 B受審人は,操縦席に座って操縦にあたり,西側入江口の水路において,帰航する桃次郎と左舷を対して航過したのち徐々に増速し,14時09分48秒西側入江口を抜けた,田山三角点から291度545メートルの地点で,針路を002度に定め,時速50キロの速力で進行した。
 定針したとき,B受審人は,桃次郎が左舷船尾37度20メートルに近づいており,その後も同船に追尾される状況で,専ら前路に注意を払って続航中,14時09分54秒その場左急旋回を行うことを思い立ち,同旋回を行うと,桃次郎の船首方至近に向かうことになり衝突の危険があったが,後方から近づいてくる他船はいないものと思い,後方の見張りを十分に行っていなかったので,左舷後方に桃次郎が接近していることに気付かなかった。
 B受審人は,14時09分55秒田山三角点から301度585メートルの地点で,後続の桃次郎が左舷船尾18度15メートルとなっていたとき,スロットルレバーを緩めて減速し,次いで14時10分わずか前,操縦ハンドルを左に大きくとって桃次郎の船首方至近に向け左急旋回を行って1回転したのち,マホは,船首が326度に向いたとき,時速約25キロの速力をもって,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,桃次郎は,船首部に擦過傷を生じ,マホは,左舷中央部に破損等を生じたほか,B受審人が約3箇月の加療を要する左脛骨開放骨折等を,及び同乗者が約10日間の通院を要する左足関節捻挫等をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,里海公園沖合の大阪湾で発生したものであるが,港則法の適用海域ではなく,海上交通安全法には本件に適用される航法の規定がないことから,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用されることとなる。
 本件の場合,事実の経過で示したとおり,両船が里海公園西側入江口付近でそれぞれ針路を定めた以後,衝突まで約12秒の短時間で,また,約140メートルの極めて近距離の間に発生しており,時間的にも距離的にも余裕がなく,定形航法を適用するのは妥当でないことから,予防法第38条及び第39条に定める船員の常務により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 桃次郎
(1)A受審人が,西側入江口の水路においてマホと航過したとき,急に追走することを思い立ったこと
(2)マホの左舷後方を追走したこと
(3)A受審人が,マホが引き続き沖に向けて直進するだろうから大丈夫と思い,マホとの安全な船間距離をとらなかったこと

2 マホ
(1)B受審人が,後方から近づいてくる他船はいないものと思い,後方の見張りを十分に行わなかったこと
(2)桃次郎の船首方至近に向け,減速するとともに左急旋回を行ったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,里海公園沖合で,両船が沖に向けて高速力で遊走中に発生したものであるが,遊走するに当たっては,両船が適切な船間距離を確保して航走することが船員の常務として求められるところであり,桃次郎は,マホの後方を追走した際,同船に衝突することにならないよう,マホとの安全な船間距離を保って航走すべきで,周囲の状況や付近海域の広さなどから,この措置をとることに何ら支障のない状況にあり,十分な船間距離をとっていたなら,マホが減速して左急旋回したときにもこれに対応できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,マホが引き続き沖に向けて直進するだろうから大丈夫と思い,マホとの安全な船間距離をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,マホは,里海公園の西側入江口の水路を通航し,桃次郎と左舷を対して航過したのち沖に向けて北上中,急左旋回するときに,前路,左右のみでなく後方の見張りを十分に行っておれば,桃次郎が左舷後方至近を追走していることが分かり,同旋回を中止することで衝突を回避することが容易にできたものと認められる。
 したがって,B受審人が,後方から近づいてくる他船はいないものと思い,後方の見張りを十分に行わず,桃次郎の船首方至近に向け,減速するとともに左急旋回したことは本件発生の原因となる。
 また,A受審人が,里海公園の西側入江口の水路においてマホと航過したとき,急に追走することを思い立ったこと及びマホの左舷後方を追走したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,遊走中とはいえ,他船をむやみに追走することは事故につながるおそれがあり,海難防止の観点から控えるべきである。

(海難の原因)
 本件衝突は,大阪府里海公園沖合において,両船が遊走中,マホを追走する桃次郎が,安全な船間距離をとらなかったことと,マホが旋回する際,後方の見張り不十分で,桃次郎の船首方至近に向け,減速するとともに左急旋回したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,大阪府里海公園沖合において,北上するマホの左舷船尾方を追走する場合,先航する同船が急減速や急旋回などしたときに対応できるよう,安全な船間距離をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,マホが引き続き沖に向けて直進するだろうから大丈夫と思い,安全な船間距離をとらなかった職務上の過失により,マホが減速し,左急旋回したときに対応できずに同船との衝突を招き,桃次郎の船首部に擦過傷を,マホの左舷中央部に破損等をそれぞれ生じさせ,マホの船長に約3箇月の加療を要する左脛骨開放骨折等を,及び同乗者に約10日間の通院を要する左足関節捻挫等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,大阪府里海公園沖合において,北方に向けて遊走中,左急旋回を行うことを思い立った場合,左舷後方から接近する桃次郎を見落とさないよう,後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,後方から近づいてくる他船はいないものと思い,後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,桃次郎が左舷後方至近に接近していることに気付かず,桃次郎の船首方至近に向け,減速するとともに左急旋回して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせたほか,自らと同乗者が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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