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平成17年神審第114号
件名

水上オートバイウルトラ150-A1水上オートバイアドベンチャー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎,中井 勤,横須賀勇一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:ウルトラ150-A1船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:アドベンチャー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ウルトラ150-A1・・・右舷前部ケーシングに亀裂,サイドミラー折損 同乗者が右腓骨骨折
アドベンチャー・・・左舷前部に擦過傷

原因
アドベンチャー・・・動静監視不十分,船員の常務(安全な船間距離)不遵守(主因)
ウルトラ150-A1・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,アドベンチャーが,ウルトラ150-A1を追走中,動静監視が不十分で,同船との安全な船間距離を確保しなかったことによって発生したが,ウルトラ150-A1が,転針する際,後方の確認が不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月24日12時25分
 兵庫県加古川市加古川河口
 (北緯34度44.2分 東経134度48.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイウルトラ150-A1 水上オートバイアドベンチャー
全長 2.89メートル 2.89メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 106キロワット 106キロワット
(2)設備及び性能等
ア ウルトラ150-A1
 ウルトラ150-A1(以下「ウ号」という。)は,平成12年7月に第1回定期検査を受けた,最大搭載人員が2人のシートに跨る型式の水上オートバイであった。
 その船体中央やや前方には棒状ハンドルが設置され,同ハンドル左グリップ付近に機関始動スイッチ,機関停止スイッチ,緊急機関停止スイッチなどが,同右グリップ前方には,引き金状のスロットルレバーが装備されていた。
 同ハンドル前方には,速力計,機関回転計,燃料油量計などが表示される液晶マルチファンクションメーターがあり,船首部両側にはサイドミラーが取り付けられていた。
 速力は,海面が静穏などの条件が良ければ,毎時100キロメートルを出すことが可能であった。
イ アドベンチャー
 アドベンチャー(以下「ア号」という。)は,平成11年4月に第1回定期検査を受けた,ウ号と同型の最大搭載人員が2人の水上オートバイで,ウ号と同様の設備と性能を有していた。

3 参加していた遊走グループの関係等
 A及びB両受審人は知人同士で,B受審人の父親が会社の同僚と共同購入した1隻を含む3隻の水上オートバイで遊走を楽しむグループに参加し,主に神戸港第4区の須磨地区で遊走していたが,平成17年からは,水上オートバイを預けることができるサービスショップが近く,比較的海面が平穏な兵庫県東播磨港加古川河口で遊走するようになった。
 同グループは,平成17年7月24日午前,加古川市にあるサービスショップに集合し,同ショップ作業員により近傍の水路に降ろされた水上オートバイ3隻をテント等が設営された加古川河口東岸の砂浜に回航したのち,同日11時過ぎから運転者や同乗者を交代しながら,加古川河口での遊走を開始した。

4 遊走水域の状況
 加古川河口の川筋は,ほぼ南方向に向かい,瀬戸内海に流れ込んでおり,水上オートバイの遊走水域は,相生橋下の砂州の南から,西岸にある海浜公園に並ぶまでの区域で,南北1,600メートルほど,東西400メートルから700メートルの制限された水域であった。
 この水域では,一般の船舶は通航しないので,水上オートバイが自由に遊走することができたが,遊走する水上オートバイの隻数が増えると,互いの接近に注意する必要があった。
 この日は,前述したグループ以外にも水上オートバイが数隻遊走していたが,特に輻輳する状況ではなかった。

5 事実の経過
 ウ号は,A受審人が船長として1人で乗り組み,知人C1人を後部座席に同乗させ,船首尾とも0.2メートルの喫水で,平成17年7月24日12時15分東播磨港加古川河口東岸の砂浜を発し,同川河口での遊走を開始した。
 A受審人は,グループの他2隻の水上オートバイ船長と打ち合わせをしないまま出発し,独自の判断で加古川河口にて直進,旋回や蛇行運転など遊走を繰り返した。
 12時24分11秒A受審人は,東播磨港高砂東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から039.5度(真方位,以下同じ。)1,500メートルの地点で,針路を201度に定め,スロットルレバーを中程度として毎時37キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)で川下に向かって進行した。
 12時24分21秒A受審人は,東防波堤灯台から041度1,350メートルの地点に至ったとき,後方を振り返って,自船の左舷後方100メートルに自船と同方向に航走するア号を視認したが,距離が離れていたので,特に気にすることなく,前方に向き直って続航した。
 12時24分45秒A受審人は,東防波堤灯台から045度1,200メートルの地点に達し,ハンドルを右に切ってから旋回することとしたとき,ア号が後方5メートルに接近していたが,自船に後方から接近する水上オートバイはいないものと思い,後方の確認を十分に行わなかったので,ア号に気付かなかった。
 12時24分57秒A受審人は,ハンドルを右に切り,右回頭し始めて速力がわずかに落ちてきたところ,12時25分東防波堤灯台から047度1,050メートルの地点において,船首を251度に向けて毎時30キロメートルの速力となったウ号の右舷船首部に,船首を223度に向け毎時46キロメートルの速力のア号の左舷船首が,後方から28度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好であった。
 また,ア号は,B受審人が船長として1人で乗り組み,C同乗者の友人1人を後部座席に同乗させ,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水で,同日12時15分加古川河口東岸の砂浜を発し,同川河口での遊走を開始した。
 B受審人は,グループの他2隻の水上オートバイ船長とは打ち合わせをしておらず,独自の判断で加古川河口にて遊走を繰り返した。
 B受審人は,川上へ航走したあと,川下に向かうため左旋回をして,12時23分56秒東防波堤灯台から038度1,870メートルの地点で,針路を206度に定め,スロットルレバーを中程度より少し強めにして毎時46キロメートルの速力で川下に向かって進行した。
 定針したとき,B受審人は,付近で遊走していたウ号から一旦目を離していたものの,同号と並走して川下に向かうつもりであった。
 12時24分21秒B受審人は,東防波堤灯台から041度1,500メートルの地点に達したとき,右舷船首30度100メートルのところに川下に向かって遊走するウ号を認めることができ,そのまま続航すると,ウ号と著しく接近する状況であったが,同号が左舷方を並走しているものと思い,動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 12時24分45秒B受審人は,東防波堤灯台から045度1,200メートルの地点に至って,船首方5メートルのところで同じ方向に航行しているウ号が視界に入ったが,右転して離れようと考えている間に,更に接近していった。
 12時24分58秒B受審人は,ウ号が右回頭を始めて速力を落としたことに気付き,右にハンドルを切ってスロットルレバーを離したが,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ウ号は右舷前部ケーシングに亀裂と右舷サイドミラーに折損を,ア号は左舷前部に擦過傷をそれぞれ生じ,両船の乗船者は全て水中に転落し,C同乗者が右腓骨骨折を負った。

(航法の適用)
 本件衝突が発生した海域は,港則法適用海域であるが,港則法に適用すべき航法規定がないので,一般法である海上衝突予防法で律することとなる。
 河口の制限された水域において,高速航行可能で操縦性能の良い水上オートバイが,複数で自由に直進や旋回などの変化の多い遊走を繰り返している状況下では,海上衝突予防法の定型的航法を適用することはできず,船員の常務を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 ウ号
(1)転針する際,後方から接近してくる水上オートバイはいないものと思い,後方の確認が不十分であったこと
(2)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 ア号
(1)ウ号が左舷方を並走しているものと思い,同船の動静監視が不十分であったこと
(2)ウ号との安全な船間距離を確保しなかったこと

3 その他
(1)加古川河口の遊走水域が制限された水域であったこと
(2)A及びB両受審人が遊走方法について事前に打ち合わせなかったこと

(原因の考察)
 本件は,ウ号が,後方の確認を十分に行っていたなら,ア号が追走して接近してくることに気付き,衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,後方から接近してくる水上オートバイはいないものと思い,後方の確認を十分に行わないで,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,ア号がウ号の動静監視を十分に行っていたらなら,ウ号との安全な船間距離を確保することができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,ウ号が左舷方を並走しているものと思い,同船の動静監視を十分に行わないで,安全な船間距離を確保しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A及びB両受審人が,遊走方法について事前に打ち合わせなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 加古川河口の遊走水域が制限された水域であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,水域の状況に応じて対応を取れば安全に遊走できるのであるから,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,兵庫県加古川河口の制限された水域において,両船が蛇行運転などを繰り返して遊走中,ア号が,ウ号を追走した際,動静監視が不十分で,ウ号との安全な船間距離を確保しなかったことによって発生したが,ウ号が,右転する際,後方の確認が不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,兵庫県加古川河口の制限された水域において,ウ号を追走した場合,右舷前方の同号に著しく接近しないよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,ウ号が左舷側を並走しているものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同号に気付かず,安全な距離を確保しないまま進行してウ号との衝突を招き,ウ号の右舷前部ケーシングに亀裂及び右舷サイドミラーに折損を,ア号の左舷前部に擦過傷を生じさせ,ウ号同乗者に右腓骨骨折を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,兵庫県加古川河口の制限された水域において,ア号と共に遊走中,直進から右旋回に入ろうとする場合,自船を追走するア号を見落とさないよう,後方を確認すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,後方から接近する水上オートバイはいないものと思い,後方の確認を行わなかった職務上の過失により,ア号に気付かず,同船との衝突を招き,前示損傷等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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