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平成17年横審第110号
件名

漁船第三十八海幸丸漁船第五十五盛漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢,古川隆一,濱本 宏)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第三十八海幸丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第三十八海幸丸漁ろう長
受審人
C 職名:第五十五盛漁丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
D 職名:第五十五盛漁丸甲板長

損害
第三十八海幸丸・・・左舷側中央部から後部にかけての外板に数箇所の凹損
第五十五盛漁丸・・・右舷側船首部外板に凹損

原因
第五十五盛漁丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三十八海幸丸・・・警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五十五盛漁丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事する第三十八海幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第三十八海幸丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月16日07時30分
 ハワイ諸島北西方沖合
 (北緯38度40.1分 東経166度54.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十八海幸丸 漁船第五十五盛漁丸
総トン数 319トン 119トン
全長 49.41メートル  
登録長   31.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット 588キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三十八海幸丸
 第三十八海幸丸(以下「海幸丸」という。)は,平成2年8月に進水した可変ピッチプロペラ付き鋼製漁船で,従業区域を甲区域とし,周年まぐろ延縄漁に従事していた。
 船橋は,船体中央部から船尾まで続く船尾楼甲板前端にあり,投縄,揚縄等の漁ろう作業は同甲板後端で行われ,同甲板上部は船橋後方から船尾まで続く船橋甲板となっていた。
 船橋内は,前部中央に操舵スタンドがあり,その左舷側に2台のレーダーが,右舷側に機関遠隔制御装置,GPSプロッター,魚群探知機等がそれぞれ設置され,右舷端に椅子が置かれていた。
イ 第五十五盛漁丸
 第五十五盛漁丸(以下「盛漁丸」という。)は,平成5年8月に進水した可変ピッチプロペラ付き鋼製漁船で,従業区域を乙区域とし,周年まぐろ延縄漁業に従事していた。
 船橋は,船体中央部から船尾まで続く船橋甲板前端にあり,その一つ下の甲板が船橋下部から船尾まで続く船尾楼甲板で,同甲板後端において投縄,揚縄等の漁ろう作業が行われた。
 船橋内には,前部中央に操舵スタンドが,左舷側に2台のレーダーが,右舷側に中央から順に無線電話,魚群探知機,プロッター,機関操作盤等がそれぞれ配置され,前部ガラス窓の上部には左から風向風速計,ドップラーログ,GPS等が取り付けられ,両舷端に椅子が置かれていた。

3 事実の経過
 海幸丸は,A受審人,B指定海難関係人ほか日本人7人が乗り組み,操業の目的で,船首3.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,平成16年9月29日11時00分岩手県宮古港を発し,途中,大韓民国釜山港港外でインドネシア共和国(以下「インドネシア」という。)人船員11人を乗り組ませたのち,翌月13日01時00分(日本標準時,以下同じ。)ハワイ諸島北西方沖合の漁場に至って操業を開始した。
 ところで海幸丸は,1日1回の操業で,通常,01時ごろから05時ごろまで投縄,3ないし4時間漂泊待機したのち,10時ごろから23時ごろまで揚縄,その後次の投縄まで漂泊又は漁場移動をするという方法で操業していた。投縄は,9ないし10ノットで航走しながら行い,B指定海難関係人が船橋当直に就いて投縄当番の5人の乗組員が作業に当たり,揚縄は,B指定海難関係人,甲板長,一等航海士,A受審人の順に交代で同当直に就き,他の乗組員が揚縄作業に当たった。また,投縄終了から揚縄開始までの漂泊時には,A受審人が同当直に就いていた。
 投縄する幹縄の全長は140キロメートル,投縄する距離は約60海里で,幹縄には370メートルごとにオレンジ色の浮子が付き,浮子と浮子の間に釣針を付けた9本の枝縄が取り付けられるほか,投縄開始,終了両地点間にラジオブイ16基を幹縄に付けて投入していた。
 越えて16日00時00分揚縄作業時の船橋当直に就いていたA受審人は,無資格のB指定海難関係人に同当直を引き継ぐ際,間もなく揚縄が終了し,何時間か後には投縄のため航行を開始することが分かっていたが,同人が漁ろう長であり,甲種甲板部航海当直部員の認定を受けていたことから,改めて指示することもあるまいと思い,航行中,他船が接近したら報告するよう十分に指示しなかった。
 船橋当直に就いたB指定海難関係人は,00時40分揚縄が終了したのち漂泊し,02時55分投縄開始のため5人の投縄当番を起こして救命胴衣,ヘルメットを着用させ,航海灯のほか,トロール以外の漁法により漁ろうに従事していることを示す赤,白各全周灯を連携して点灯したうえ,03時00分北緯38度00分東経166度50分の地点において,針路を005度(真方位,以下同じ。)に定め,9.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で投縄を開始し,自動操舵により進行した。
 B指定海難関係人は,日出となっても各灯火を消灯せず,漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げないまま続航したところ,07時15分左舷船首52度3.3海里のところに前路を右方に向け東進中の盛漁丸を認め,接近する様子であったため,07時20分自船が投縄中であることを知らせて避航を促そうとVHFで同船を呼び出したが応答がなく,07時21分北緯38度38.8分東経166度54.8分の地点に達したときには,盛漁丸の方位に明確な変化がないまま2.0海里に接近し,衝突のおそれのある状況となったことを認めたが,A受審人に報告しなかった。
 07時25分B指定海難関係人は,短音を何回か吹鳴しても,依然,盛漁丸に避航の気配が見られなかったが,双眼鏡で同船の甲板上に作業中の乗組員を見かけたことから,船橋にも当直者がいて見張りをしており,いずれ自船の進路を避けるものと思い,警告信号を行わないまま続航した。
 07時29分B指定海難関係人は,左舷側至近に接近した盛漁丸に衝突の危険を感じ,機関回転数を下げてプロペラ翼角を0度としたものの,さらに転舵するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく,07時29分半ようやく手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが及ばず,07時30分北緯38度40.1分東経166度54.8分の地点において,海幸丸は,045度を向首し,約5ノットとなったその左舷側中央部に盛漁丸の右舷側船首部が後方から15度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の南西風が吹き,視界は良好で日出時刻は04時02分であった。
 A受審人は,船体の衝撃を感じて急ぎ昇橋し,事後の措置に当たった。
 また,盛漁丸は,C受審人,D指定海難関係人ほか日本人8人とインドネシア人6人が乗り組み,操業の目的で,船首2.7メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,同月11日11時00分宮城県気仙沼港を発し,ハワイ諸島北西方沖合漁場に向かった。
 盛漁丸では,船橋当直をC受審人,D指定海難関係人ほか2人の日本人甲板員による2時間輪番制とし,各直に1人のインドネシア人甲板員を付けていた。
 ところで,インドネシア人甲板員は,日常や仕事上の会話については,身振り手振りを加えてなんとか不自由なく意志を交わせるものの,十分な日本語の理解力はなく,また,乗船経験も浅く,見張り等,船橋当直にも不慣れであった。
 一方,C受審人は,日本人船橋当直者が,当直時間中であっても時々船橋を離れ,作業をしているのを認めていたが,超えて16日04時00分北緯38度40.1分東経166度09.3分の地点において,同当直を日本人船橋当直者に引き継ぐ際,改めて当直中の注意事項を伝えることもあるまいと思い,船橋を離れる際は報告するよう指示することも,それを次直に申し送るよう指示することもせず,同報告についての指示を徹底しなかった。
 06時05分D指定海難関係人は,北緯38度40.1分東経166度35.7分の地点において,前直の日本人船橋当直者から引き継いでインドネシア人甲板員のEとともに船橋当直に就き,針路を前直から引き継いだ090度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.6ノットの速力で進行した。
 06時30分D指定海難関係人は,便意を催したため,E甲板員にその旨を伝え,C受審人に無断で船橋を離れたが,用を済ませた際,漁場まであと2日で到着するので操業準備作業にかかることを思い立ち,日本語の理解力に乏しく,かつ船橋当直に不慣れなE甲板員1人を船橋に残したまま,同人に自分の居場所を告げることもなく,船橋下部の右舷側甲板に赴いて同作業を始めた。
 こうして盛漁丸は,D指定海難関係人が船橋を離れ,一方のE甲板員は船橋左舷側の椅子に腰をかけて左舷方をぼんやりと眺め,07時20分海幸丸から呼びかけられたVHF電話にも気付かないなど,前路の見張りが十分にできないばかりか,他船からの呼び出しにも応答できない状況で続航した。
 07時21分盛漁丸は,北緯38度40.1分東経166度52.9分の地点に達したとき,右舷船首43度2.0海里のところに前路を左方に北上する海幸丸を認めることができ,同船が漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げていなかったものの,同趣旨の赤,白全周灯を連携していること,船型から見て同業船であること,船尾甲板にはヘルメットに救命胴衣を着用した数人の乗組員がおり,船尾から繰り出される幹縄付属のオレンジ色の浮子などが認められることなどから投縄中であることが分かり,その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,見張り不十分で,このことに気付かず,漁ろうに従事する海幸丸の進路を避けることなく続航した。
 07時29分半E甲板員は,ふと右舷方を見たとき,右舷船首間近に海幸丸を認め,D指定海難関係人を探したものの,見つからず,船長室にいたC受審人に報告した。
 急ぎ昇橋したC受審人は,右舷船首至近に迫った海幸丸を初めて認め,直ちに左舵一杯,プロペラ翼角を後進15度としたが及ばず,盛漁丸は,ほぼ060度を向首し,約6ノットとなった速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,海幸丸は左舷側中央部から後部にかけての外板に数箇の凹損を,盛漁丸は右舷側船首部外板に凹損をそれぞれ生じたが,その後いずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,投縄しながら北上中の海幸丸と,漁場に向け東進中の盛漁丸が衝突したもので,適用航法について検討する。
 海幸丸は,漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げていなかったものの,盛漁丸が十分な見張りを行っていたら,その船型からまぐろ延縄漁に従事する漁船と分かり,赤,白全周灯を連携して点灯していたこと,船尾からオレンジ色の浮子が次々と繰り出されていること,後部甲板上には数人の甲板員が作業中であったことなどから,投縄中であることが推認できる状況にあったものと認められる。
 したがって、本件は、漁ろうに従事する船舶と航行中の動力船との衝突であり、海上衝突予防法第18条各種船舶間の航法で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 海幸丸
(1)漁ろうに従事することを示す形象物を掲げていなかったこと
(2)他船が接近したら報告するよう指示してなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 盛漁丸
(1)当直中,船橋を離れる際の報告について指示を徹底していなかったこと
(2)日本人船橋当直者が,日本語の理解力に乏しく,かつ航海当直に不慣れなインドネシア人甲板員を残して船橋を離れたこと
(3)インドネシア人甲板員が見張りを十分に行っていなかったこと
(4)漁ろうに従事する海幸丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 海幸丸は,A受審人が,他船接近時の報告を受け,在橋していたならば,盛漁丸と衝突のおそれがある態勢で接近したとき,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることができ,本件の発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,無資格の船橋当直者に対し,他船が接近したとき報告するよう指示していなかったこと,警告信号を行わなかったこと,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 海幸丸が,漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からは是正すべき事項である。
 一方,盛漁丸は,日本人船橋当直者と日本語の理解力に乏しく,かつ船橋当直に不慣れなインドネシア人甲板員とが当直に就く状況下,C受審人が日本人船橋当直者に対し,当直中,船橋を離れる際の報告について指示を徹底していれば,同当直者が船橋を離れてもC受審人が昇橋して十分な見張りを行うことができ,操業中の海幸丸に気付いて同船の進路を避けることができ,本件の発生を防止できたものと認められる。
 したがって,C受審人が,日本人船橋当直者に対し,当直中,船橋を離れる際の報告について指示を徹底していなかったこと,同当直者がインドネシア人甲板員を残して無断で船橋を離れ,見張りを十分に行っていなかったこと,漁ろうに従事する海幸丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 インドネシア人甲板員が見張りを十分に行っていなかったことは,同人が日本語の理解力に乏しく,乗船経験が未熟で船橋当直に不慣れであったこと等を考慮すると,同人に多くを期待すべきではなく,原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,ハワイ諸島北西方沖合において,漁場に向け東進中の盛漁丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事する海幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが,海幸丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 盛漁丸の運航が適切でなかったのは,船長が,無資格の日本人船橋当直者に対し,船橋を離れる際の報告について指示を徹底していなかったことと,同当直者が,日本語の理解力に乏しく,かつ船橋当直に不慣れなインドネシア人甲板員を残して無断で船橋を離れたこととによるものである。
 海幸丸の運航が適切でなかったのは,船長が無資格の船橋当直者に対し,他船が接近した際の報告について十分に指示しなかったことと,当直者が,同報告をしなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 C受審人は,ハワイ諸島北西方沖合において,漁場に向けて東進中,無資格の日本人船橋当直者と日本語の理解力に乏しく,かつ船橋当直に不慣れなインドネシア人甲板員とにより船橋当直を行わせる場合,日本人船橋当直者に対し,船橋を離れる際の報告についての指示を徹底すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,改めて指示することもあるまいと思い,船橋を離れる際の報告について指示を徹底しなかった職務上の過失により,日本人船橋当直者がインドネシア人甲板員を残して無断で船橋を離れ,見張りが十分に行われないまま航行中,漁ろうに従事する海幸丸との衝突を招き,自船の右舷側船首部外板及び海幸丸の左舷側中央部外板にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,ハワイ諸島北西方沖合において,無資格の船橋当直者に当直を行わせる場合,接近する他船を認めたら報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,同当直者が漁ろう長であり,甲種甲板部航海当直部員の認定を受けていたことから,改めて指示することもあるまいと思い,接近する他船を認めたら報告するよう十分に指示しなかった職務上の過失により,海幸丸が接近した際,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,ハワイ諸島北西方沖合において当直中,接近する盛漁丸を認めたとき船長に報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。
 D指定海難関係人が,ハワイ諸島北西方沖合において当直中,日本語の理解力に乏しく,かつ船橋当直に不慣れなインドネシア人甲板員を残して無断で船橋を離れ,見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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