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平成17年横審第98号
件名

モーターボートエミリア防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月23日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂,西田克史,古城達也)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:エミリア船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
船首を圧壊,のち廃船処理
船長が顔面多発骨折,頸椎捻挫等,同乗者1人が死亡,同1人が右側頭骨陥 没骨折等,同1人が左手月状骨脱臼及び三角骨骨折等

原因
船位確認不十分,過大速力

主文

 本件防波堤衝突は,船位の確認が十分でなかったばかりか,港内を安全な速力で航行しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月19日22時42分
 京浜港横浜区第1区東水堤
 (北緯35度27.2分 東経139度39.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートエミリア
全長 6.85メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 110キロワット
(2)設備及び性能等
 エミリアは,平成11年7月に第2回定期検査を受検した,キャビンを有する一層甲板型モーターボートで,船体中央部に操舵スタンドと一人用の椅子を設け,同スタンドの左側にキャビンへの入り口が,同スタンドには,機関操縦装置のほか簡易マグネットコンパス,操舵輪,及び回転計,燃料計,バッテリー,チルトの各計器類が備え付けられていた。

3 東水堤
 東水堤は,山下ふ頭の北方300メートル付近に位置し,横浜北水堤灯台(以下「北水堤灯台」という。)から182度(真方位,以下同じ。)660メートルの地点を中心に005度及びその反方位の方向に,水面上の部分が幅4.5メートル長さ197メートルで築堤され,低潮時及び高潮時の水面上高さがそれぞれ約3.5メートル及び約1.5メートルで,北端に4秒間に1閃光の緑色光,南端に3秒間に1閃光の赤色光を発する光達距離6.8キロメートルの標識灯がそれぞれ設置されていた。

4 事実の経過
 エミリアは,A受審人が船長として1人で乗り組み,知人3人を乗せ,夜景を見る目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成15年12月19日22時10分京浜港横浜区第5区の係留地を発し,堀割川から堀川を経由して同第1区東水堤の西側海域に向かった。
 ところで,横浜ベイブリッジが結ぶ本牧ふ頭A突堤と大黒ふ頭間の海面には,横浜航路を挟んで北から順に4本の橋脚が建ち,これを示す橋梁灯及び同橋脚基部にこれと同期する橋脚灯がそれぞれ設置され,東水堤側から見て横浜ベイブリッジ橋梁灯(P8灯)ないし同(P2灯)まで偶数の,あるいは同ブリッジの東側から見て横浜ベイブリッジ橋梁灯(P7灯)ないし同(P1灯)まで奇数の各橋梁灯及び橋脚灯は,夜間に港内を航行するプレジャーボートなどの格好の目標となっていた。
 A受審人は,平素から堀川を経由して港内に入り,同港内あるいは磯子沖で釣りを楽しむことが多く,港内に通じる水路及び東水堤を含む付近の地形については良く知っており,これまで堀川から北上してみなとみらい地区の観覧車に向かって進むときには,進行方向の同地区が明るく,これを背景とする東水堤及びその両端の標識灯が見えにくかったことから,同水堤に向首することとならないよう,横浜ベイブリッジ橋梁灯(P6灯)及び同(P4灯)を,それぞれ右舷方に見て横浜航路の中央あるいは中央より北側付近に達していることを確かめたのち,同航路内を西行することとしていた。
 22時33分A受審人は,横浜マリンタワー灯台から110度300メートルの地点付近で,堀川から港内に入り,速力を上げて山下ふ頭及び本牧ふ頭A突堤に沿って北上し,22時38分北水堤灯台から133度1,400メートルの地点に至り,一旦機関を中立としてたばこに火を点け,一休みしたのち,前示観覧車の明かりに向かうこととし,22時40分半北水堤灯台から132度1,130メートルの地点で発進し,針路を同観覧車に向く275度に定め,機関を全速力前進にかけ,20.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 発進するときA受審人は,辺りを一瞥(いちべつ)して横浜航路内に達しているものと思い込み,北水堤灯台と横浜ベイブリッジ橋梁灯との位置関係を確かめるなどして船位を十分に確認しなかったので,同航路から外れた地点で発進したことにも,そのまま進行すると東水堤に向かうことにも気付かずに続航した。
 こうして,A受審人は,22時41分半東水堤が正船首方310メートルとなり,ゆっくりした速力で航行し,余裕をもって確認すれば,同水堤の影及びその両端の標識灯を認めることができる状況であったが,港内を過大な速力で進行し,同水堤及び同水堤両端の標識灯に気付くいとまもなく続航中,22時42分北水堤灯台から182度660メートルの地点において,エミリアは,原針路,原速力のまま,東水堤に直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 衝突の結果,船首を圧壊し,のち廃船処理され,同乗者1人が死亡し,同1人が右側頭骨陥没骨折等を,同1人が左手月状骨脱臼及び三角骨骨折等をそれぞれ負い,A受審人が6週間の入院を要する顔面多発骨折,頸椎捻挫等を負った。

(本件発生に至る事由)
1 港内を安全な速力で航行しなかったこと
2 発進前に船位を確認しなかったこと
3 横浜航路内に達しているものと思い込み,東水堤に向けて進行したこと
4 夜間で東水堤の標識灯が見えにくかったこと

(原因の考察)
 船長が,発進する前に,船位の確認を十分に行っていたなら,横浜航路内に達していないこと及びそのまま進めば東水堤に向首することに容易に気付き,同水堤との衝突は回避できたものと認められる。
 また,夜ゆっくり走っているときに確認すれば東水堤の影が見えると供述している船長が,港内を安全な速力で航行していたなら,同水堤の影,同水堤両端の標識灯及び横浜東水堤灯浮標に気付くことができ,同水堤との衝突は回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が発進前に船位の確認を十分に行わなかったこと,横浜航路内に達しているものと思い込み,東水堤に向けて進行したこと及び港内を安全な速力で航行しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 夜間で東水堤の標識灯が見えにくかったことは,都会の明かりを背景とする港において,特別の状況と言えず,安全な速力で航行すれば,同標識灯を視認することができると認められるから,原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,夜間,京浜港横浜区において周遊中,船位の確認が十分でなかったばかりか,港内を安全な速力で航行せず,東水堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,京浜港横浜区において,横浜ベイブリッジ付近で西方に向け発進する場合,同方向の東水堤及びその両端の標識灯が見えにくかったから,横浜航路内を航行するよう,北水堤灯台とベイブリッジ橋梁灯との位置関係を確かめるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,辺りを一瞥して横浜航路内に達しているものと思い込み,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同航路を外れた地点から発進したことにも,そのまま進行すると東水堤に向かうことにも気付かず,同水堤に向首進行して衝突を招き,船首部に圧壊を生じさせ,同乗者1人を死亡させ,同乗者2人に右側頭骨陥没骨折等及び左手三角骨骨折等を負わせ,自らも顔面多発骨折等を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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