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平成17年横審第89号
件名

モーターボート晃進丸モーターボートサザンクロス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂,小寺俊秋,濱本 宏)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:晃進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:サザンクロス船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
晃進丸・・・右舷船首外板の亀裂等
サザンクロス・・・左舷船首外板の亀裂,ハンドレールの倒壊及びキャビンの圧損等

原因
晃進丸・・・見張り不十分,船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
サザンクロス・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,晃進丸が,見張り不十分で,増速して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,サザンクロスが,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月18日20時50分
 京浜港横浜区
 (北緯35度27.4分 東経139度39.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート晃進丸 モーターボートサザンクロス
総トン数 10.0トン  
全長   9.72メートル
登録長 12.92メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 250キロワット 224キロワット
(2)設備及び性能等
ア 晃進丸
 晃進丸は,平成3年4月に第1回定期検査を受検した最大搭載人員15人のFRP製プレジャーボートで,船体中央部に操舵室を設け,同室前面に3枚の,両側面に各1枚の窓ガラスを有し,同室右舷側の操縦席からは右側角の窓枠が妨げとなって,右舷船首方に20度前後の死角が生じていた。また,音響信号装置として電子サイレンを備えていた。
イ サザンクロス
 サザンクロス(以下「サ号」という。)は,平成9年7月に第1回定期検査を受検したFRP製プレジャーボートで,船体中央部に操縦席を有するキャビン及びその上部に操縦席と助手席を設けたフライングブリッジを備え,両方の操縦席で操舵と機関操作ができるようになっていた。キャビン前面に2枚の,両側面に各2枚の窓ガラスを有し,フライングブリッジは無蓋で,風防用の透明アクリル製囲壁が前面及び両サイドを高さ約30センチメートルで囲っており,同ブリッジ右舷側操縦席からの見通しは良好であった。
 音響信号装置としてモーターホーンがフライングブリッジの右舷側に,同装置のスイッチが同操縦席の舵輪左横に備えられていた。

3 事実の経過
 晃進丸は,A受審人が船長として単独で乗り組み,同乗者13人を乗せ,横浜みなと祭の花火大会を見物する目的で,船首0.65メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,平成16年7月18日17時30分京浜港東京区の係留地を発し,同港横浜区第1区に向かった。
 ところで,横浜みなと祭の花火大会は,例年7月に行われ,平成16年は近代日本開国・横浜開港150周年記念事業横浜開港記念みなと祭第49回国際花火大会として7月18日に山下公園において開催され,見物のために近郊から多数のプレジャーボートが集まり,港内交通の整理のために,海上保安部の巡視艇が任務に当たっていたが,特に同大会の終了後には見物の同ボートが一斉に動き始めるため,操縦者には注意深い見張りと操船が求められるところであった。
 A受審人は,18時30分山下公園沖合に至り,横浜北水堤灯台(以下「北水堤灯台」という。)から258度(真方位,以下同じ。)450メートルの地点で投錨して花火大会を楽しんだのち,揚錨して帰航することとし,20時46分少し過ぎ錨泊地点を発進し,針路を横浜航路の右側端に向く122度に定め,他のプレジャーボートの動きに注意しながら機関を微速力前進にかけ,5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は,正規の灯火を掲げ,前面窓ガラスに反射する計器の明かりで前方が見にくかったので,操縦席から立ち上がり,身体を前方に倒し,顔のすぐ右側が窓枠となって右舷船首約30度から同50度の範囲に死角を生じる状態となって続航した。
 20時49分半A受審人は,北水堤灯台から181度360メートルの地点で,横浜東水堤灯浮標を右舷方約40メートルに航過し,針路を横浜ベイブリッジ橋梁灯(P4灯)及び同橋脚基部に設置されている同橋脚灯を正船首少し右に見る103度に転じたとき,右舷船首28度140メートルに,白,紅2灯を掲げたサ号を視認でき,その後同船が前路を無難に航過する態勢で接近することが分かる状況であったが,船首方を一瞥(いちべつ)して支障となる他船はいないものと思い,右舷船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船に気付かなかった。
 転針後A受審人は,横浜ベイブリッジに向けて増速したところ,サ号に対して新たな衝突のおそれを生じさせて接近する状況となったが,依然見張り不十分で,このことに気付かず,増速を止めるなどの衝突を避けるための措置をとらずに続航した。
 A受審人は,20時50分わずか前速力がほぼ15.0ノットに増速されたとき,右舷船首至近にサ号を認め,とっさに左舵をとって減速したが及ばず,20時50分北水堤灯台から161度410メートルの地点において,晃進丸は,船首が左に回頭して062度を向いたとき,15.0ノットの速力で,その右舷船首部が,サ号の左舷船首部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で,風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,サ号は,B受審人が船長として単独で乗り組み,友人1人を乗せ,花火大会を見物する目的で,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日18時10分京浜港横浜区第4区の係留地を発し,同第1区に向かった。
 B受審人は,18時30分ごろ北水堤灯台から175度900メートルの地点に至り,漂泊して花火見物ののち帰航することとし,20時45分前示漂泊地点を発進し,正規の灯火を掲げ,フライングブリッジの操縦席で舵輪を握り,東水堤に沿ってゆっくりした速力で進み,他のプレジャーボートが少なくなったのを確かめた後,20時48分半北水堤灯台から178度580メートルの地点で,針路を神奈川県鶴見区大黒町の精糖会社岸壁角に向く032度に定め,機関を微速力前進にかけ,5.0ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 定針したときB受審人は,左舷船首60度340メートルのところに,白,緑2灯を掲げた晃進丸を認めることができ,同船はゆっくりした速さで接近し,自船が同船の前路を無難に横切る状況であったが,左舷方の見張りを十分に行っていなかったので,同船に気付かなかった。
 20時49分半B受審人は,晃進丸が,左舷船首81度140メートルとなり,その後同船が左転し,前路を右方に横切る態勢で増速を始め,新たな衝突のおそれを生じさせて接近する状況となったが,船首方の先航船に気を取られ,左舷正横方を一瞥したのみで,接近する他船はいないものと思い,同方向の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく続航中,20時50分わずか前,波切り音と女性の叫び声を同時に聞いて振り返ったとき,左舷正横至近に晃進丸を認め,クラッチを中立としたが効なく,サ号は,ほぼ原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,晃進丸は,右舷船首外板に亀裂等を生じ,のち修理され,サ号は,左舷船首外板に亀裂,ハンドレールの倒壊及びキャビンに圧損等を生じ,のち廃船処理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,京浜港横浜区において,航行中の両船が衝突したもので,衝突地点は港則法に定められた横浜航路内であるが,花火大会直後で多数のプレジャーボートが帰途に就いていたとき,横浜ベイブリッジを目指して横浜航路に入ったのち増速した晃進丸と,京浜運河に向けて東水堤の蔭から同航路を横切る態勢で北上したサ号とが衝突していることから,港則法による航路内の航法規定及び海上衝突予防法横切り船の規定によらず,海上衝突予防法第38条,第39条の規程によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 晃進丸
(1)右舷船首方に死角があったこと
(2)死角を補う見張りを行わなかったこと
(3)前路のサ号に気付かずに増速したこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 サ号
(1)船首方を先航する他のプレジャーボートに気を取られていたこと
(2)左舷正横方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,同方の見張りを十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

3 その他
 花火大会が催されて,多数のプレジャーボートが集まったこと

(原因の考察)
 晃進丸が,右舷船首方の死角を補う見張りを十分に行っていたなら,前路を無難に横切る態勢のサ号を認めることができ,増速を中止して衝突を回避することができたと認められる。
 また,晃進丸が,増速しないで引き続き5ノットの速力で航行していたなら,サ号は晃進丸の前路を無難に替わり,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,右舷船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったこと,増速してサ号に対して新たな衝突のおそれを生じさせたこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 船体構造上,窓枠により右舷船首方に死角が生じていたことは,特別の状況とは言えず,身体を動かして死角を補う見張りを行うことは容易にできたのであるから,原因とするまでもない。
 一方,サ号は,左舷正横方の見張りを十分に行っていたなら,早期に晃進丸に気付き,同船に対して警告信号を行い,大きく右転するなり,機関を停止するなりの措置により衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,船首方を先航する他のプレジャーボートに気を取られていたこと,左舷正横方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,同方向の見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 晴天の夜間で,花火大会が催されて多数のプレジャーボートが集まったことは,安全な速力で航行し,見張りを十分に行っていれば,互いの接近に容易に気付くことができることから,原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,京浜港横浜区において,晃進丸が,見張り不十分で,増速して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,サ号が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,京浜港横浜区において,横浜ベイブリッジに向け東行する場合,港内は花火大会後の帰途に就くプレジャーボートが多かったから,前路を無難に航過するサ号を見落とすことのないよう,右舷船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,サ号に気付かずに増速し,新たな衝突のおそれを生じさせたまま進行して同船との衝突を招き,晃進丸に右舷船首外板の亀裂等を,サ号に左舷船首外板の亀裂及びキャビンの圧損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,京浜港横浜区において,京浜運河に向け北上する場合,港内は花火大会後の帰途に就くプレジャーボートが多かったから,接近する晃進丸を見落とすことのないよう,左舷正横方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首方を先航する他のプレジャーボートに気を取られ,左舷正横方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,同方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,晃進丸に気付かず,同船に対して警告信号を行うことも機関を使用して停止するなどの衝突を避けるための措置もとらないまま進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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