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平成17年仙審第6号
件名

漁船第三十一盛秀丸消波ブロック衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月30日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,大山繁樹,黒岩 貢)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三十一盛秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
球状船首の圧壊,いか釣り機制御装置の損傷 甲板員1人が約3箇月の加療を要する左膝骨近位端骨骨折

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件消波ブロック衝突は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月27日06時11分
 新潟港
 (北緯37度57.5分 東経139度05.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十一盛秀丸
総トン数 19トン
全長 25.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 558キロワット
(2)設備及び性能等
 第三十一盛秀丸(以下「盛秀丸」という。)は,A受審人の父親が所有し,平成12年7月に進水した,いか一本釣り漁業に従事する軽合金製漁船で,いか釣り機を両舷にそれぞれ7台備え,集魚灯は3キロワットのものを58個装備していた。
 操舵室は,右舷前部に操舵スタンド,同スタンドの左側に順にGPS,魚群探知機2台,自動衝突予防援助装置付きのレーダー2台,ジャイロコンパスなどを設置し,左舷中央部出入口近くに,背もたれと肘掛けの付いた自動車の座席を加工して取り付けた,座面の高さが床から約80センチメートルのいすを有し,その左前方の側壁面に機関及び舵の遠隔操縦装置の制御部をコードで導いていた。

3 事実の経過
 盛秀丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首1.2メートル船尾2.8メートルの喫水をもって,平成16年5月26日11時00分新潟港を発し,新潟県佐渡島北方の漁場に向かった。
 ところで,盛秀丸は,主な漁場を日本海として,毎年5月の連休明けから6月末までは新潟港を基地とし,操業は11時ごろ出港して翌日の07時に始まる競りに間に合わせるよう帰港する夜間操業を行っていた。
 そして,A受審人は,甲板員を操業に専念させるため,漁場への往復などの操船はほぼ1人で行い,自身の休息を,入港中の水揚げや補給などが終わってから出港までの2時間半ばかり及び操業中の22時ごろから4時間ばかりとるようにしていたものの,漁模様が良いと甲板員の手助けを行うなど十分な休息が取れず,市場が休みの毎週日曜日と第2及び第4水曜日の前日以外は連日の操業が続き,睡眠不足気味であった。
 16時30分A受審人は,前示漁場に至って操業にかかり,23時ごろから休息をとろうとしたものの,いか釣り機のトラブルの警報音が鳴ったり,自船の周囲2海里以内に10隻ばかりのいか釣り漁船がいて周囲の見張りに気を遣ったりして,十分な休息をとることができなかった。
 翌27日02時20分ごろA受審人は,するめいか約500キログラムを漁獲して操業を終え,帰途に就くこととし,同時30分弾埼灯台から337.5度(真方位,以下同じ。)5.6海里の地点で針路を133度に定め,機関の毎分回転数を1,100とし,11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
 発進後A受審人は,甲板員を甲板の水洗いや操業の後片付けなどに当たらせ,自身は操舵室左舷側に設置したいすに腰を掛けた姿勢で当直に就き,04時30分ごろから約10分間甲板員と交代して朝食をとったのち,再び同じ姿勢で単独の当直に就いて続航した。
 A受審人は,05時16分新潟港西区西突堤灯台(以下「西突堤灯台」という。)から318度9.2海里の地点に達したとき,睡眠不足が高じて眠気を催したので,眠気を払うためいすから降り,操舵室の外で外気に当たって過ごし,同時26分再び操舵室に戻って当直を続けることとしたが,一旦眠気を払ったのでまさか居眠りすることはないと思い,立って外気に当たりながら当直を行うなど居眠り運航の防止措置をとらず,再度いすに腰を掛けた姿勢となって進行した。
 05時59分A受審人は,西突堤灯台から346度1.6海里の地点に達したとき,港に近づいて安心したこともあって気が緩み,前方の漁船が第2西防波堤の北端付近で変針して港内に向かうのを見て,自船もその地点で変針しようと考えているうち,間もなく居眠りに陥った。
 こうして,盛秀丸は,A受審人が居眠りに陥り,06時04分第2西防波堤の北端を右舷正横に見る転針予定地点を航過し,海岸に向首したまま続航中,06時11分西突堤灯台から091度2,300メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その船首が新潟空港北側海岸の消波ブロックに衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,球状船首の圧壊及びいか釣り機制御装置に損傷が生じたが,自力で新潟港に入港し,のち修理され,甲板員1人が約3箇月の加療を要する左膝骨近位端骨骨折を負った。

(本件発生に至る事由)
1 十分な休息が取れず,睡眠不足気味であったこと
2 いすに腰を掛けて当直をしていたこと
3 眠気を感じたこと
4 眠気を払ったあと,まさか眠ることはないと思い,再びいすに腰を掛けたこと
5 港に近づいて安心したこと
6 平素より入港する漁船が少なかったこと
7 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,居眠りに陥ることはなく,予定地点で転針を行い,発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,眠気を払ったあと,まさか眠ることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと,居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,十分な休息が取れず,睡眠不足気味であったこと,いすに腰を掛けて当直していたこと,港に近づいて気が緩んだことは,いずれも本件発生の過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件消波ブロック衝突は,新潟港北西方沖合において,同港西区に向けて南東進中,居眠り運航の防止措置が不十分で,新潟空港北側海岸の消波ブロックに向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,新潟港北西方沖合において,同港西区に向けて南東進中,眠気を催した場合,居眠りに陥らないよう,立って外気に当たりながら当直を続けるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,一旦眠気を払ったのでまさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いすに腰を掛けて当直中,居眠りに陥り,新潟空港北側海岸の消波ブロックに向首進行して衝突を招き,球状船首の圧壊及びいか釣り機制御装置に損傷をそれぞれ生じさせ,甲板員1人に約3箇月の加療を要する左膝骨近位端骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:13KB)

参考図2
(拡大画面:17KB)





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