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平成18年門審第2号
件名

引船美恵丸引船列漁船俊栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:美恵丸一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:俊栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
美恵丸・・・右舷船尾外板に擦過傷
俊栄丸・・・船首部に割損

原因
美恵丸引船列・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
俊栄丸・・・見張り不十分,音響信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,美恵丸引船列が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る俊栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,俊栄丸が,見張り不十分で,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月1日19時20分
 鹿児島県内之浦港東方沖合
 (北緯31度19.1分 東経131度08.6分)

2 船舶の要目
船種船名 引船美恵丸 起重機兼浚渫台船第十八正栄号
総トン数 113トン  
全長 27.87メートル 53.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  
船種船名 漁船俊栄丸  
総トン数 4.95トン  
登 録 長 10.40メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 107キロワット  

3 事実の経過
 美恵丸は,限定近海区域を航行区域とする2機2軸の鋼製引船で,船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み,船首尾とも2.5メートルの喫水となった第十八正栄号を船尾に引き,美恵丸の後端から同号の後端までの長さが200メートルとなる引船列を構成し,マスト灯3個,両舷灯,船尾灯及び引船灯を掲げ,船首2.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年3月1日18時10分鹿児島県志布志港を発し,鹿児島港に向かった。
 C船長は,発航操船に引き続いて単独で船橋当直に就き,機関を全速力前進に掛けて6.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。そして,19時00分火埼灯台から348度(真方位,以下同じ。)4.0海里の地点で針路を139度に定めて続航し,同時10分夕食を終えて昇橋したA受審人に同当直を委ねて降橋した。
 A受審人は,単独で船橋当直に就いて同じ針路及び速力で進行し,19時14分火埼灯台から004度2.7海里の地点に達したとき,右舷船首20度1.5海里のところに,前路を左方に横切る態勢の俊栄丸の白,紅2灯のほか,数個の作業灯を初めて認めたが,自船は台船を曳航して速力が遅いので,相手船が,自船の船首方を無難に航過するものと思い,漫然と前方をながめていて,同船と衝突のおそれがあるかどうかが分かるよう,引き続き,同船に対する動静監視を十分に行わなかった。
 その後,A受審人は,俊栄丸が方位に変化なく衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然,動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,速やかに右転するなどして同船の進路を避けなかった。
 A受審人は,同じ針路及び速力で続航中,19時20分少し前ふと右舷前方に目をやり,目前に迫った俊栄丸に気付き,汽笛による短音を連吹して機関を中立としたが効なく,19時20分火埼灯台から016度2.3海里の地点において,美恵丸引船列は,原針路,原速力のまま,美恵丸の右舷船尾部に俊栄丸の船首右舷側が前方から35度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,俊栄丸は,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,平成16年5月に一級小型船舶操縦免許証の交付を受けたB受審人が単独で乗り組み,操業の目的で,同日07時00分志布志港を発し,内之浦港東方3海里ばかりの漁場に至って曳網を繰り返し,漁獲物約50キログラムを得て操業を終え,船首0.40メートル船尾1.65メートルの喫水をもって,19時14分少し前火埼灯台の北北東方1.4海里ばかりの地点を発して帰途に就いた。
 B受審人は,発進してすぐ,針路を354度に定め,機関を全速力前進に掛けて9.2ノットの速力として自動操舵で進行し,19時14分火埼灯台から029度1.5海里の地点に達したとき,左舷船首15度1.5海里のところに,前路を右方に横切る態勢の美恵丸引船列の白灯3個及び緑灯1個を視認できる状況であったが,最後に揚げた漁獲物の選別作業が残っていたことから,左方を一瞥しただけで,同方向にある石油備蓄基地の多数の灯火に紛れた美恵丸引船列の灯火を見落とし,付近に接近する他船はいないものと思い,同作業を行うこととした。
 そして,B受審人は,前方が死角となる後部甲板上のネットローラー後方に赴き,中腰になって漁獲物の選別作業を開始し,その後,美恵丸引船列の方位が変わらず,衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然として付近に接近する他船はいないものと思い,身体を左右に移動するなどして前方死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,美恵丸引船列に気付かず,同引船列が避航の様子を見せずに近づいていたが,有効な音響による避航を促す信号を行うことも,更に接近した際,右転するなどして衝突を避けるための協力動作もとらずに続航中,俊栄丸は,同じ針路及び速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,美恵丸は右舷船尾外板に擦過傷を,俊栄丸は船首部に割損をそれぞれ生じ,のち,俊栄丸は修理された。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,内之浦港東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南下する美恵丸引船列が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る俊栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上する俊栄丸が,見張り不十分で,有効な音響による避航を促す信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,内之浦港東方沖合を南下中,前路を左方に横切る態勢の俊栄丸を認めた場合,同船と衝突のおそれがあるかどうかが分かるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船は台船を曳航して速力が遅いので,相手船が,自船の船首方を無難に航過するものと思い,漫然と前方をながめていて,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,俊栄丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,速やかに右転するなど,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,美恵丸の右舷船尾外板に擦過傷を,俊栄丸の船首部に割損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,内之浦港東方沖合を北上する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,最後に揚げた漁獲物の選別作業が残っていたことから,左方を一瞥しただけで,同方向にある石油備蓄基地の多数の灯火に紛れた美恵丸引船列の灯火を見落としたまま,付近に接近する他船はいないものと思い,前方が死角となる後部甲板上のネットローラー後方に赴いて同作業を行い,同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する同引船列に気付かず,有効な音響による避航を促す信号を行わず,更に接近した際,右転するなど,衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同引船列との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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