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平成17年門審第85号
件名

漁船かね丸貨物船ゴッデス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(尾崎安則,西林 眞,片山哲三)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:かね丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
かね丸・・・右舷船尾部を損傷,転覆した主機,電装品及び電気系統を濡損,船長が海中に投げ出され海面に浮遊していたオイル類が目に入り,両眼にアルカリ化学熱傷等
ゴッデス・・・右舷船尾外板に擦過傷

原因
ゴッデス・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,ゴッデスが,動静監視不十分で,漁ろうに従事中のかね丸の進路を避けなかったばかりか,至近距離で同船に向けて針路を転じたことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月14日21時58分
 関門海峡西口
 (北緯34度1.5分 東経130度49.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船かね丸 貨物船ゴッデス
総トン数 2.9トン  
国際総トン数   8,890トン
全長 13.95メートル 135.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 48キロワット 7,982キロワット
(2)設備及び性能等
ア かね丸
 かね丸は,昭和58年6月に進水した小型機船底びき網漁業に従事する全通一層甲板型のFRP製漁船で,船体ほぼ中央に機関室を有し,上甲板上の同室囲壁後部に操舵室を配置し,操舵室内には,GPSプロッタ,魚群探知機及び主機遠隔操縦装置を装備していた。
 そして,底びき網漁具は,直径21ミリメートルの合成繊維製ロープを引綱とし,同綱の先端に長さ50センチメートルのチェーンを連結し,その先に直径19ミリメートル長さ約100メートル(m)の合成繊維製ロープ2本(以下「股綱」という。)を長さ約11mのビームの両端にV字形にそれぞれ繋ぎ,同ビームに長さ約30mの網を取り付けて1本の引綱で引いていた。本件当時,引綱を船尾中央部から約110m伸ばして漁具の全長を約240mとしていた。
イ ゴッデス
 ゴッデスは,1997年に日本で建造された船尾船橋型の鋼製貨物船で,専ら本邦と中華人民共和国との間におけるコンテナの定期輸送に従事しており,バウスラスターを有し,船橋前面から船首端までが116mあり,船橋前部の上甲板下に貨物倉4個を,同甲板上に2基のデリッククレーンをそれぞれ設けていた。
 航海船橋甲板にある操舵室内には,前部中央に操舵スタンドを,その右側に,右舷側から順にジャイロコンパスのレピータ,2号レーダー及びアルパ機能付の1号レーダーを,その左側に機関遠隔操縦盤をそれぞれ装備していたほか,GPSプロッタ等を備えていた。
 また,操舵室からの前方の見通し状況は,本件当時の喫水における眼高が19.8mであり,コンテナが上甲板上に2段ないし3段積みされていたことから,船首端から前方約110mまでの海面が見えない死角を生じていたほか,後部デリッククレーンのブームを航海船橋甲板右舷側の架台に載せて格納していたことから,右舷側に死角を生じていたが,いずれも両舷側にあるウイングまで移動することで補うことができた。
 旋回性能は,航海性能表によれば,載貨状態で17.1ノットの全速力前進中,舵角35度をとって旋回したときの最大縦距は593mで,右旋回したときの最大横距及び90度回頭に要する時間は,それぞれ537m及び1.5分,同じく左旋回したときは,556m及び1.6分であった。

3 事実の経過
 かね丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.47m船尾1.45mの喫水をもって,平成17年3月14日14時30分山口県下関漁港を発し,15時20分福岡県藍島北東方の漁場に至って操業を開始し,19時50分同島北北東方2海里ばかりの漁場で,トロールにより漁ろうに従事していることを示す垂直に連掲した緑,白2灯ほか,両舷灯及び船尾灯を表示し,当日3回目の曳網(えいもう)を開始した。
 21時47分A受審人は,大藻路岩灯標から034度(真方位,以下同じ。)1.4海里の地点で,針路を150度に定め,3.0ノット(対地速力,以下同じ。)の曳網速力で進行中,同時53分半少し前同灯標から046度1.3海里の地点に差しかかったとき,右舷船尾38度1.0海里のところにゴッデスの白,白2灯を初認し,両灯火の開き具合から,同船が自船の船尾方至近を東行する態勢であることを知ったが,漁ろうに従事中の灯火を表示した自船を十分に替わして行くだろうと考え,揚網を開始することとした。
 21時54分半A受審人は,大藻路岩灯標から049度1.3海里の地点に至り,機関のクラッチを中立として引綱の巻き込みを開始したことから,自船が船首をほぼ150度に向けた状態で,リールによる巻き込み速度に合わせて,網がある330度方向に2.5ノットの速力で後退を始めた。
 21時56分少し前A受審人は,大藻路岩灯標から046度1.3海里の地点で,引綱の巻き込みを終えて停留し,股綱を機関室囲壁両舷側の各ローラーで巻き上げる準備のために同綱を両手で手繰り寄せる作業にかかり,折からの風の影響等で船首が135度を向いたとき,正船尾方640mのところに接近したゴッデスを再び視認し,同船の右舷灯については気にかけていなかったものの,両マスト灯がいったん垂直に並んだのち,後部マスト灯が少しずつ右方に開くとともに左舷灯を見せるようになり,同船が右回頭して自船の右舷側至近を航過する態勢をとったことを知り,その動静を監視しながら同作業を続けた。
 21時57分A受審人は,ゴッデスが右舷船尾方240mに接近したところで,その後部マストが左方に動き始め,両マスト灯の間隔が狭まりつつあるのを見て,同船が今度は左回頭を始めたことを認め,不審に思っていたところ,両マスト灯がほとんど重なり,同船が自船に向けたことを知り,衝突の危険を感じ,急ぎ操舵室上の緑色回転灯を点灯して注意を喚起し,股綱を船外に放し,機関を全速力前進にかけて右舵一杯としたものの及ばず,21時58分大藻路岩灯標から046度1.3海里の地点において,かね丸は,わずかな前進行きあしが生じ,船首が248度に向いたとき,ゴッデスの右舷船尾がかね丸の右舷船尾に前方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,ゴッデスは,パキスタン人船長Bほかパキスタン人1人,フィリピン人3人,ミャンマー人2人,インドネシア人12人が乗り組み,コンテナ7747.36トンを積載し,船首7.05m船尾7.94mの喫水をもって,同月13日11時00分中華人民共和国チンタオ港を発し,関門海峡を経由する予定で,京浜港に向かった。
 翌14日21時18分B船長は,白島西北西方5.4海里の地点で,関門海峡通航に備えて昇橋し,航行中の動力船を示す灯火が表示されていることを確認したのち,自ら操船指揮を執り,船橋当直中のインドネシア人の三等航海士を見張りに就け,甲板手を手動操舵に当たらせ,機関を全速力前進にかけて進行した。
 21時48分B船長は,大藻路岩灯標から314度2.1海里の地点で,針路を関門海峡西口に向く098度に定め,16.5ノットの速力で続航し,同時51分半同灯標から340度1.4海里の地点に差しかかったとき,1号レーダーで右舷船首方1.4海里ばかりのところにかね丸の映像を認め,同船の北側を安全な距離をとって替わすこととした。
 21時53分半少し前B船長は,大藻路岩灯標から000度1.3海里の地点で,右舷側のウイングに出て,右舷船首13度1.0海里のところにかね丸の垂直に連掲された緑,白2灯とその左側に白1灯を初認し,同船がトロールにより漁ろうに従事中であることを知ったものの,同船が舷灯を見せていなかったが,1号レーダーに同船のベクトルの向きが種々変化して表示されていたことから,同船が船首方向を定めないままほぼ停留状態で操業していると考え,双眼鏡を使用するなどして同船の動静監視を十分に行わなかったので,同船が南南東方に向首してゆっくり曳網していることに気付かず,針路を090度に転じたのち,同じ速力で進行した。
 21時54分半B船長は,大藻路岩灯標から015度1.3海里の地点に差しかかり,かね丸を右舷船首34度0.8海里のところに認めるようになったとき,依然として動静監視を十分に行わなかったので,同船が引綱の巻き込みを開始し,船尾灯を見せながら低速力で後退を始めたことに気付かず,同船が引綱の巻き込みによって南南東方に向けた船首を左右に振りながら北北西進することから,同船の船首方向を錯覚し,その舷灯を視認しないまま,船尾灯をマスト灯と思い込むようになり,同船が回頭して自船の前路に向かって北進を開始したものと考え,左転するなどして漁ろうに従事中のかね丸の進路を避けることなく,急きょ右転して同船を左舷側に替わすこととした。
 21時55分少し前B船長は,大藻路岩灯標から019度1.3海里の地点で,右舵一杯を令したところ,右に回頭しながらかね丸に著しく接近する危険な態勢となり,同時56分少し前同灯標から032度1.3海里の地点に至り,船首が145度を向いたとき,停留したかね丸を左舷船首8度640mに見るまで接近したものの,同船を左舷側に何とか替わすことができる状況にあったが,同船が停留していることや,その船首の向きを把握していなかったので,この状況に気付かず,その緑,白2灯と船尾灯とがほとんど重なったのを見て,同船がさらに回頭して自船の前路に向けたと思い,同船の船尾方を航過することとし,同時56分左舵一杯を令し,左回頭中,ゴッデスは,船首が098度に向いたとき,転舵によって速力が約8ノットに落ちた状態で前示のとおり衝突した。
 B船長は,衝撃を感じなかったことから,同船との衝突を回避できたと考えて予定の航海を続け,京浜港に入港したのちに海上保安部の事情聴取を受け,自船がかね丸と衝突したことを知った。
 衝突の結果,ゴッデスは,右舷船尾外板に擦過傷を生じたのみであったが,かね丸は,右舷船尾部を損傷したほか,転覆して主機,電装品及び電気系統を濡損し,のち修理され,A受審人は海中に投げ出され,翌朝捜索に来た僚船に救助されたが,海面に浮遊していたオイル類が目に入り,両眼に約1週間の加療を要するアルカリ化学熱傷等を負った。

(航法の適用)
 本件は,夜間,関門海峡西口において,漁ろうに従事中のかね丸と東行中のゴッデスが衝突したものであるが,同海域には海上交通安全法及び港則法の適用がないので,海上衝突予防法が適用されることになり,トロールにより漁ろうに従事中であることを示す灯火を表示していたかね丸と,航行中の動力船であることを示す灯火を表示していたゴッデスとの間において発生したのであるから,同法第18条の規定を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 かね丸
(1)警告信号を行わなかったこと
(2)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ゴッデス
(1)動静監視を十分に行わなかったこと
(2)かね丸が回頭して自船の前路に向かって北進を開始したと錯覚したこと
(3)右回頭し,かね丸に著しく接近する危険な態勢としたこと
(4)かね丸がさらに回頭して自船の前路に向けたと思ったこと
(5)至近距離でかね丸に向けて左回頭したこと

(原因の考察)
 かね丸が,ゴッデスとの間に衝突の危険があると予見できるのは,その距離が240mとなり,ゴッデスの船首端とかね丸との距離が約120mとなった直後であり,このときに警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとったとしても実効性がないと認められるので,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因とならない。
 一方,ゴッデスが,動静監視を十分に行っていたなら,かね丸の船首方向が分かり,同船が回頭して自船の前路に向かって北進を開始したと錯覚することはないので,右回頭して同船に著しく接近するような動作をとらず,したがって,危険な態勢となることはなく,漁ろうに従事中の同船の進路を避けることができたと認められ,また,同船がさらに回頭して自船の前路に向けたと思うこともないので,至近距離で同船に向けて左回頭することはなく,本件発生に至ってなかったものと認められる。
 したがって,B船長が,動静監視を十分に行わなかったこと,漁ろうに従事中のかね丸の進路を避けなかったこと及び至近距離で同船に向けて針路を転じたことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,関門海峡西口の藍島北方において,関門航路に向かって東行中のゴッデスが,動静監視不十分で,漁ろうに従事中のかね丸の進路を避けなかったばかりか,至近距離で同船に向けて針路を転じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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