日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第53号
件名

貨物船おれんじ丸モーターボート第二来丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(川本 豊,吉川 進,道前洋志)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:おれんじ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二来丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
おれんじ丸・・・船首部に亀裂や凹損
第二来丸・・・船体中央部や両舷のブルワーク等を圧壊,廃船処理 船長が4箇月の加療を要する全身打撲

原因
おれんじ丸・・・見張り不十分,狭い水道等の航法(右側航行)不遵守,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
第二来丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,おれんじ丸が,航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,第二来丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月26日08時38分
 香川県土庄港
 (北緯34度29.3分 東経134度10.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船おれんじ丸 モーターボート第二来丸
総トン数 10トン  
全長 14.10メートル 7.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 287キロワット 30キロワット
(2)設備及び性能等
ア おれんじ丸は,昭和63年7月に進水した船尾部に船橋を有するFRP製の貨物船兼交通船で,船橋前方には貨物倉1個を有し,専ら香川県小豊島を基地として土庄港と香川県高松港や岡山県宇野港等との間で牛,飼料,おがくず及び堆肥などを輸送していた。また,航海計器は,操舵室内にレーダーやマグネットコンパスのほか操舵輪が備えられていた。一方,航海速力は回転数毎分1,800で16ノットであり,回転数毎分1,500では約14ノットの速力となるが,このとき船首部が浮上して,椅子に腰掛けた姿勢で見張りを行うと船首方に15度の範囲にわたって死角が生じる状態であった。
イ 第二来丸(以下「来丸」という。)はFRP製の釣り船で,船体中央部に機関室を備え,その前方には2個のいけすやボイドスペースを,その後方には機関操作用のクラッチ及びスロットルレバーのほか舵柄を備え,航海速力は回転数毎分2,600で約14ノットであった。

3 事実の経過
 おれんじ丸は,A受審人が1人で乗り組み,肉牛3頭約2トンを載せて船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年9月26日08時25分香川県小豊島北岸の係留地を発し,土庄港に向かった。
 ところで,土庄港は,港口が西方に面してその幅が南北に1,400メートルあるものの,鹿島の畝木埼と小豆島の大谷地区との間は400メートルとなり,そこから港奥までの2,000メートルの間は航路筋となっていて最奥部付近ではその幅が50メートルに狭められていた。
 A受審人は,発進後,機関を全速力前進にかけて回転数毎分1,800とし,16.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行して土庄港の港域内に入ったのち畝木埼を右舷側に見て付け回し,08時35分半高見山153メートル頂(以下「基点」という。)から333度(真方位,以下同じ。)1,700メートルの地点に達したとき,土庄港の航路筋をこれに沿って港奥の目的地である,基点から047度900メートルの中央野球場桟橋まで航行することとなったが,航路筋の右側端に寄って航行することなく,針路を126度に定めて機関の回転数をやや下げて毎分1,500とし,14.0ノットの速力で航路筋の左側を手動操舵により進行した。
 A受審人は,定針後,船首部が浮上して船首方に15度の範囲で死角が生じたが,畝木埼を付け回したとき港内に他船を認めなかったので,出航船はいないと思い,そのまま椅子に腰掛けて操舵にあたり,08時36分基点から337度1,480メートルの地点に達したとき,右舷船首7度930メートルに出航する来丸を視認でき,その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,椅子から立ち上がるなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,減速するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 A受審人は,08時38分少し前,右舷船首至近に来丸のマストを初認したが何をする暇もなく,おれんじ丸は,08時38分基点から008度880メートルの地点において,原針路,原速力のままその船首が来丸の左舷側中央部に前方から52度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の東風が吹き,潮候は上潮の末期であった。
 また,来丸はB受審人が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同日08時30分土庄港吉ヶ浦地区の係留地を発し,同港の北方沖合1海里ばかりの釣り場に向かった。
 B受審人は,発航したのち機関を前進に切り替えてゆっくり進行したのち,08時36分基点から010度720メートルの地点において,航路筋の右側端寄りに向かうため針路をC造船所のクレーンに向首する358度に定め,機関を微速力前進にかけて2.5ノットの速力で手動操舵により続航した。
 B受審人は,定針したとき,左舷船首45度930メートルに来丸を視認でき,その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,港内を一瞥して入航船はいないと思い,釣りの準備に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
 B受審人は,もう少しC造船所に近寄ったのち針路を港口に向けるつもりで続航するうち,08時38分少し前ふと前方を見ておれんじ丸を初認したが何をする暇もなく,来丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,おれんじ丸は,船首部に亀裂や凹損を生じたが,のち修理され,来丸は,船体中央部や両舷のブルワークなどを圧壊して全損となり,B受審人が4箇月の加療を要する打撲傷を全身に負った。

(航法の適用)
 本件は,香川県土庄港において入航中のおれんじ丸と出航中の来丸とが衝突したもので,以下適用する航法について検討する。
 土庄港は,港則法が適用される海域であるが,同法には本件に適用される航法の規定がないので,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することとなる。
 土庄港は,事実で示したとおり,港口付近の畝木埼から港奥にかけての約2,000メートルにわたり航路筋となっているので,これに沿って航行する場合には,予防法第9条が適用されることとなる。
 また,両船は互いに針路を横切り衝突のおそれのある態勢で衝突に至ったことから,予防法第15条の横切り船の航法の適用が考えられるが,両船の視認関係が,それぞれ衝突の2分前及び船間距離が930メートルであることから,定形航法を適用して,おれんじ丸が避航義務を,来丸が針路速力の保持義務をそれぞれ履行するには,十分な時間的及び距離的な余裕がなかったものと認められるので予防法第15条の適用はなく,本件は,同法第38条及び39条の船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 おれんじ丸
(1)港内を14.0ノットの速力で航行したこと
(2)航路筋の右側端に寄って航行しなかったこと
(3)港内を船首死角が生じた状態で航行したこと
(4)椅子から立ち上がるなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(5)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 来丸
(1)釣りの準備に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 おれんじ丸は,予防法の航法に従って航路筋の右舷側に寄って航行していれば,来丸との見合い関係を生じることはなく,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,航路筋の右側端に寄って航行しなかったことは,本件発生の原因となる。
 おれんじ丸は,船首死角を補う見張りを十分に行っていれば,来丸の存在及びその後の接近に気付いて減速するなどの避航動作をとることが可能であり,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,死角を補う見張りを十分に行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 おれんじ丸が,港内を14.0ノットの速力で航行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,衝突2分前には両船の視認関係が発生していることから,船員の常務として,両船ともに避航動作をとることが可能と認められることから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,船舶が輻輳する港内においては減速して航行することが求められるので,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 おれんじ丸が,船首死角が生じた状態で港内を航行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,椅子から立ち上がれば船首死角は解消されたのであるから,本件と相当な因果関係あるとは認められない。しかしながら,このことは,港内においては特に厳重な見張りが要求されるので,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 来丸が,見張りを十分に行っていれば,入航中のおれんじ丸の存在及びその後の接近に気付き,減速するなどの衝突を避けるための措置をとることが可能であり,衝突を回避できたものと認める。
 したがって,B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,香川県土庄港において,入航中のおれんじ丸が,航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,出航中の来丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,土庄港を船首死角が生じた状態で航行する場合,他船を見落とさないよう,椅子から立ち上がって死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,港奥に向けて定針したとき港内に他船を認めなかったので,出航船はいないと思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,来丸を見落として同船との衝突を招き,おれんじ丸の船首部に亀裂や凹損を生じさせ,来丸の船体中央部や両舷ブルワークなどを圧壊させたほか,B受審人に4箇月の加療を要する全身に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,土庄港を出航する場合,他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,港内を一瞥して入航する他船はいないものと思い,釣りの準備に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,おれんじ丸を見落として同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION