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平成17年横審第97号
件名

漁船第三十三若潮丸貨物船エバー リファイン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(古城達也,黒岩 貢,西田克史)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第三十三若潮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第三十三若潮丸甲板員

損害
第三十三若潮丸・・・右舷船首部外板の圧壊及び右舷外板後部を損傷
エバー リファイン・・・左舷外板後部に擦過傷

原因
第三十三若潮丸・・・居眠り運航防止措置不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
エバー リファイン・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第三十三若潮丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切るエバー リファインの進路を避けなかったことによって発生したが,エバー リファインが,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月20日19時40分
 千葉県野島埼東方沖合
 (北緯34度54.0分 東経141度02.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十三若潮丸 貨物船エバー リファイン
総トン数 19トン 53,103トン
全長 20.40メートル 294.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   34,421キロワット
漁船法馬力数 190  
(2)設備及び性能等
ア 第三十三若潮丸
 第三十三若潮丸(以下「若潮丸」という。)は,平成3年4月に進水した,まぐろはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部の操舵室には,遠隔操舵装置,主機遠隔操縦装置,レーダー,GPSプロッターや魚群探知機等が備えられ,同室上部の右舷側前方には見張り台が設けられて,左右両舷に渡した板(以下「椅子(いす)」という。)に座って見張りをするようになっており,遠隔操舵装置を操舵室から持ち運んで操舵することはできたが,航海計器等の設備はなく,レーダーを見るためには同台から降りる必要があった。
イ エバー リファイン
 エバー リファイン(以下「エ号」という。)は,平成7年1月に日本の造船所で進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,操舵室にはエンジンテレグラフ,レーダー,自動衝突予防援助装置,GPS等が備えられていた。

3 事実の経過
 若潮丸は,A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首1.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,平成16年1月20日12時00分千葉県銚子漁港を発し,同港南方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,船橋当直を,自らも含めた乗組員全員による単独2時間交替の7直輪番制とし,14時00分次直の当直者に引き継ぐことにしたが,乗組員は全員銚子漁港に停泊中,1週間の休暇をとり,十分な休養をとっているので特に指示することもあるまいと思い,眠気を催したとき船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置の申し継ぎを指示することなく降橋した。
 B指定海難関係人は,18時少し前当直交替のため昇橋し,前直者から特に引き継ぎ事項もないまま船橋当直に就き,18時00分勝浦灯台から093度(真方位,以下同じ。)34.8海里の地点で,針路を178度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,7.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 B指定海難関係人は,航行中の動力船の灯火を表示して,見張り台に上がり椅子に腰を掛けて見張りに当たっていたところ,海上は平穏で周囲に他船も認めなかったことから,19時30分眠気を催すようになったが,当直交替まであと30分なので我慢できると思い,船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置をとることなく,いつしか居眠りに陥った。
 19時35分B指定海難関係人は,勝浦灯台から111度37.5海里の地点に達したとき,右舷船首68度1.9海里にエ号の白,白,紅3灯を認めることができ,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,居眠りしていたので,このことに気付かず,エ号の進路を避けることなく同じ針路,速力のまま続航し,19時40分勝浦灯台から112度38.0海里の地点において,若潮丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首部がエ号の左舷外板後部に後方から62度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。
 A受審人は,自室で休息中,衝撃を感じ,急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
 また,エ号は,船長C,一等航海士Dほか16人が乗り組み,コンテナ貨物36,633.9トンを積載し,船首12.10メートル船尾12.15メートルの喫水をもって,同月20日11時36分静岡県清水港を発し,アメリカ合衆国ロスアンゼルス港に向かった。
 C船長は,船橋当直を航海士と操舵手の2人による4時間交替の3直制とし,発航操船後,二等航海士と操舵手に同当直を委ねて降橋した。
 D一等航海士は,16時00分伊豆諸島の大島付近で二等航海士から船橋当直を引き継ぎ,17時18分野島埼灯台から126度6.9海里の地点で,針路を085.5度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,21.6ノットの速力で進行した。
 D一等航海士は,航行中の動力船の灯火を表示して,レーダー2台を作動させ,見張りに当たっていたところ,19時24分左舷前方6海里に若潮丸のレーダー映像を初めて探知し,19時35分勝浦灯台から113.5度36.5海里の地点に達したとき,左舷船首19.5度1.9海里に同船の白,緑2灯を視認するようになり,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを知った。
 19時37分D一等航海士は,若潮丸が1.1海里に接近したとき,注意喚起のため同船に対して閃光を照射し,上甲板の通路灯をすべて点灯したものの,警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 19時39分わずか過ぎD一等航海士は,若潮丸が至近に接近しても避航の様子がないことから,衝突の危険を感じ,操舵手に右舵10度,続いて右舵一杯を令したが及ばず,19時40分エ号は,116度を向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 D一等航海士は,衝突の衝撃もなく,若潮丸と航過後も同船の灯火が点灯していたので無事に航過したものと思い,C船長にも報告しないまま航海を続けていたところ,翌日会社からの連絡で,衝突したことを知った。
 衝突の結果,若潮丸は,右舷船首部外板の圧壊及び右舷外板後部に損傷を,エ号は,左舷外板後部に擦過傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,千葉県野島埼東方沖合において,南下中の若潮丸と東行中のエ号とが衝突したもので,以下,適用航法について検討する。
 両船は,正規の灯火を点灯しており,若潮丸からエ号を右舷船首68度に見る態勢で,また,エ号から若潮丸を左舷船首19.5度に見る態勢のまま,接近したものであり,両船が互いに進路を横切る態勢であったと認められ,従って本件は,海上衝突予防法第15条横切り船の航法により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 若潮丸
(1)A受審人が,次直の当直者に船橋当直を引き継ぐ際,眠気を催したとき船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置の申し継ぎを指示しなかったこと
(2)B指定海難関係人が,眠気を催した際,船長に報告するなどの居眠り運航防止措置をとらなかったこと
(3)B指定海難関係人が,居眠りに陥ったこと
(4)エ号の進路を避けなかったこと

2 エ号
(1)警告信号を行わなかったこと
(2)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 若潮丸が,居眠り運航の防止措置を十分にとっていれば,エ号に対する見張りを行うことができ,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのが分かり,同船の進路を避けることができたものと認められるから,若潮丸の船橋当直者が,眠気を催した際,その旨を船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったこと,居眠りに陥ったこと,エ号の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,次直の当直者に単独の船橋当直を引き継ぐ際,眠気を催したとき船長に報告するなどの居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示していれば,船橋当直者からの報告を受けることができたと認められるので,同受審人が,当直に就く乗組員は全員十分な休養をとっていたので特に指示することもあるまいと思い,眠気を催したとき船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置の申し継ぎを指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,エ号が,余裕のある時期に若潮丸に対して警告信号を行い,更に間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,同船との衝突を回避できたものと認められるから,D一等航海士が,警告信号を行わなかったこと,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,千葉県野島埼東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南下中の若潮丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切るエ号の進路を避けなかったことによって発生したが,東行中のエ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 若潮丸の運航が適切でなかったのは,船長が,次直の当直者に,眠気を催したとき船長に報告するなどの居眠り運航防止措置の申し継ぎを指示しなかったことと,無資格の船橋当直者が,眠気を催した際,その旨を船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,千葉県銚子漁港を出航したのち,次直の当直者に船橋当直を引き継ぐ場合,眠気を催したとき船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置の申し継ぎを指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,当直に就く乗組員は全員十分な休養をとっていたので特に指示することもあるまいと思い,居眠り運航の防止措置の申し継ぎを指示しなかった職務上の過失により,無資格の甲板員が居眠りに陥り,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するエ号に気付かないまま,その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,若潮丸の右舷船首部外板に圧壊及び右舷外板後部に損傷を,エ号の左舷外板後部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,千葉県野島埼東方沖合を南下中,船橋当直に就いて眠気を催した際,その旨を船長に報告するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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