日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年横審第103号
件名

水上オートバイ高登II水上オートバイレオ−VII衝突事件
第二審請求者〔受審人A〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋,田邉行夫,西田克史)

理事官
河野 守

受審人
A 職名:高登II船長 海技免許:操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a
指定海難関係人
B 職名:C協会理事
補佐人
b,c

損害
高登II・・・船底部に擦過傷
レオ−VII・・・フロントハッチカバー割損,船長が多発外傷による急性循環不全により死亡

原因
レオ−VII・・・操縦の自由を失って競技コース内で反転したこと(主因)
高登II・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,水上オートバイの競技大会における練習走行中,先航するレオ−VIIが,操縦の自由を失って競技コース内で反転したことによって発生したが,後続する高登IIが,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月16日11時17分
 静岡県手石港弓ヶ浜沖合
 (北緯34度38.0分 東経138度53.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ高登II 水上オートバイレオ−VII
総トン数 0.1トン 0.1トン
全長 3.12メートル 3.12メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 112キロワット 88キロワット
(2)設備及び性能等
ア 高登II
 高登II(以下「タ号」という。)は,D社が製造し,型式STX-15Fと称するウォータージェット推進装置を装備した3人乗りFRP製水上オートバイで,C協会が主催するジェットスキー大会IN弓ヶ浜(以下「弓ヶ浜大会」という。)に参加するため,静岡県手石港の同浜に搬入されていた。
イ レオ−VII
 レオ−VII(以下「レ号」という。)は,D社が製造し,型式STX-12Fと称するタ号と同仕様の船体を有し,同船より機関の出力が小さい水上オートバイで,弓ヶ浜大会に参加するため,手石港の同浜に搬入されていた。

3 C協会
 C協会は,ジェットスキー(D社の登録商標)によるマリンスポーツの振興を目的として1984年に設立された任意団体で,同目的の主旨に賛同する法人及び個人を会員とし,国内ジェットスキー競技規則の制定や,同競技の開催・指導等を行い,毎年6回,ジェットスキー競技大会を開催しており,競技規則,競技参加資格や,走行方法及び安全確保に関する諸注意を参加者に周知するため,競技に先立ち行われるライダースミーティングの内容等を詳細に定め,公式競技ルールブックとして発行していた。

4 弓ヶ浜大会
 弓ヶ浜大会は,C協会が開催する平成17年の第1回目の大会で,手石港の弓ヶ浜を会場として,同年4月16日及び翌17日の2日間実施の予定で,16日は予選を,17日は準決勝と決勝を行うこととなっていて,両日とも競技開始前にライダースミーティングを実施するとともに,16日の予選開始前には練習走行を行うこととなっていた。

5 競技コース
 競技コースは,弓ヶ浜の海岸線に沿って横約110メートル,沖合に向かって縦約100メートルの海面に,黄色丸ブイ,赤色丸ブイ,黄色三角ブイ及び赤色三角ブイを設置して設定されており,競技コース中央部の海岸線付近には,静岡県青野川河口左岸の導流堤(以下「導流堤」という。)先端から000度(真方位,以下同じ。)410メートルの地点にスタートゲートが設けられ,また,同コース両サイドの縦方向は,インコース及びアウトコースの2コースが,それぞれジグザグに進行するように設定されていた。
 走行順路を示すブイは,1番から13番まで番号が付され,スタートゲートから沖合に向いて右側に,海岸側から沖合へ向かって1番から6番までの各ブイが,スタートゲート正面付近の沖合に7番ブイ及び8番ブイが,左側に,沖合から海岸側へ向かって9番から13番までの各ブイがそれぞれ設置されており,3番ブイから13番ブイまでは,インコースを示す丸ブイとアウトコースを示す三角ブイとが一対となっていて,また,黄色のブイは右に見て,赤色のブイは左に見て回頭するように定められていた。
 本件発生地点付近のブイは,アウトコース3番ブイ(以下,ブイの名称を示す場合は「コース」を省略する。)が,導流堤先端から002度334メートルの地点に設置され,同ブイから2番ブイが292度35メートル,イン3番ブイが040度20メートルに設置されていた。

6 競技及び練習走行
 競技は,使用艇の性能や競技者の技量レベルによって,ヒートと称する数隻ないし10隻程度のレース単位に組み分けされ,競技コースを各ヒートごとに定められた回数周回してその順位を競うものであった。
 走行方法は,スタートゲートからコースの中央を沖合のインまたはアウト7番ブイに向かい,そこで左転し,インコースまたはアウトコースごとに8番ブイを航過し,9番ブイからジグザグに進行して13番ブイに至り,同ブイからスタートゲート前を1番ブイまで直線走行し,再びジグザグで6番ブイへ向かって反時計回りにコースを周回するもので,6番ブイ以降は,イン9番ブイまで直行できるようになっていた。
 また,インコースとアウトコースの選択は,スタート直後の7番ブイで選択したいずれかのコースで最初の13番ブイまで走行しなければならないが,その後は,2番ブイ及びイン9番ブイを回るときに,その都度自由に選択できることとなっていた。
 練習走行は,使用艇の性能や競技者の技量レベルがほぼ等しい2ないし3ヒートを一つのグループとして,アルファベット順にAからJまでの10グループを構成し,各グループごとに10分間競技コースを航走するもので,最初の半周は大会関係者のマーシャル艇が,インコース及びアウトコース各1隻で先導することとなっていた。

7 競技参加資格
 C協会は,会員の技術レベルの資格として,下位から順に,ノービス,エキスパート,ナショナルB級及び同A級の各資格を設けていた。
 エキスパートの資格を取得するためには,同協会が実施する技量審査会において,実技及び学科試験の成績が一定以上であることが求められ,同資格は,同審査会の成績によってさらに1級,2級,3級及び級外に分けられていて,2級以上の資格を競技大会への参加資格と定め,資格の昇格及び降格は,前年の競技大会の成績によって判定することになっていた。

8 事実の経過
 タ号は,エキスパート1級の資格を有するA受審人が1人で乗り組み,弓ヶ浜大会における練習走行を行う目的で,レ号及び他の参加艇4隻とともに同走行Gグループを構成し,平成17年4月16日11時15分競技コースのスタートゲートを発し,7番ブイ方向の沖合へ向かった。
 B指定海難関係人は,弓ヶ浜大会の実行委員長として運営にあたり,同月15日午後,同年最初の大会であったことから,比較的周回が容易になるように競技コースの設定を行い,同大会関係者による試走を行って同コースの安全性を確認し,翌16日07時30分から参加者の受付と参加艇の状態や参加者の資格等をチェックするオフィシャルチェックを行い,08時30分から開会式とライダースミーティングを実施するなど,公式競技ルールブックの規定に従い,安全確保に留意して弓ヶ浜大会を進行し,10時30分から練習走行を開始したものであった。
 発航後,A受審人は,先導するマーシャル艇に追随し,アウト7番ブイを左舷に見て左転したのち,アウトコースを進行してアウト13番ブイに至り,イン13番ブイを過ぎたところでマーシャル艇が左転してコースから外れたのち,走行方法に従って競技コースを1周した。
 A受審人は,2周目に入り,1番及び2番ブイを左に見て大きくふくらんで左転していたころ,左舷船首方の2番ブイ至近に先航するレ号を認め,11時16分58秒少し前(以下,時刻については「11時」を省略する。)アウト3番ブイから247度28メートルの地点で,針路を058度に定め,速力40キロメートル毎時(以下「キロ」という。)として進行した。
 定針したとき,A受審人は,レ号が左舷船首2度30メートルとなり,その直後に右転を開始してアウトコースへ向かうのを認めたものの,自船もアウトコースに向かうため右転しようとしていたので,アウト3番ブイに気を取られてレ号から目を離し,同船に対する動静監視を十分に行わなかった。
 A受審人は,16分58秒少し過ぎアウト3番ブイから251度21メートルの地点に達したとき,右舷船首14度24メートルのところで,レ号が操縦の自由を失って反転し,低速で自船の船首方に向かう状況となったが,このことに気付かず,直ちに針路を外したり大幅に減速するなど,衝突を避けるための措置をとらずに続航中,アウト3番ブイに並ぶころ船首至近にレ号を認め,急ぎ減速しようとスロットルレバーを緩めたが効なく,17分00秒導流堤先端から001度337メートルの地点において,タ号は,同じ針路,速力のまま,その船首がレ号の船首に正面から衝突し,同船を乗り切った。
 当時,天候は晴で風力3の東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 また,レ号は,エキスパート1級の資格を有するE(一級小型船舶操縦士免許受有)が船長として1人で乗り組み,弓ヶ浜大会における練習走行を行う目的で,前示のとおりスタートゲートを発した。
 ところで,は,発航前に,スポンソンと称する,船尾両舷の水面下に装備され旋回性や直進性などの操縦性能に影響を与える板状の部品を,大型の部品と交換していた。
 E船長は,競技コースを1周し,2周目の1番及び2番ブイを左舷に見て左旋回した後,アウト3番ブイとイン3番ブイの間に向首し,速力40キロで進行した。
 16分58秒少し前E船長は,アウト3番ブイから356度7メートルの地点で,アウトコースへ向かうため右転を開始し,16分58秒少し過ぎ同ブイから078度3メートルの地点に達したとき,交換したスポンソンによる操縦性能に十分習熟していなかったことによるものか,操縦の自由を失って反転し,低速でタ号の船首方に向かう状況となり,レ号は,238度に向首し,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,タ号は船底部に擦過傷を,レ号はフロントハッチカバーに割損をそれぞれ生じ,E船長が病院に搬送されたが,12時08分多発外傷による急性循環不全により死亡が確認された。

(航法の適用)
 本件衝突は,水上オートバイの競技大会における練習走行において,先航する水上オートバイが操縦の自由を失って反転し,後続の水上オートバイと衝突したもので,先航する水上オートバイが旋回中であったこと及び数秒間の短時間で発生したことから,海上衝突予防法に定める定型航法を適用することはできず,同法第39条によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 タ号
(1)アウト3番ブイに気を取られレ号に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)レ号が操縦の自由を失って反転したことに気付かなかったこと
(3)レ号が自船の船首方に向かってくる状況になったことに気付かなかったこと
(4)直ちに衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 レ号
(1)操縦性能に影響を与える部品を交換したこと
(2)操縦の自由を失って反転したこと
(3)タ号の船首方に向かう状況となったこと

(原因の考察)
 本件は,レ号が操縦の自由を失って反転し,タ号の船首方に向かわなければ発生しなかった。
 したがって,レ号が操縦の自由を失って反転し,タ号の船首方に向かう状況となったことは,本件発生の原因となる。
 E船長が,発航前に操縦性能に影響を与える部品を交換したことは,同人が死亡しているため本件発生との因果関係を明らかにすることはできないが,競技に参加する場合は,交換した部品による操縦性能に十分に習熟してから参加するべきである。
 タ号の本件発生についての回避可能性については,A受審人の当廷における,「同じ速力で走っていて,2ないし3メートル前で反転しても,前を見ていれば動作がとれる。」旨の供述及びFスターターに対する質問調書中,「多くのレースを見てきたが,当時のような状況になることはいくらでもある。距離から見て後続艇は十分に避けられると思った。」旨の供述記載により,A受審人がレ号に対する動静監視を十分に行い,レ号が操縦の自由を失って反転したのを視認していれば,衝突を避けるための措置をとる余裕があり,直ちに針路を外したり大幅に減速するなど,衝突を避けるための措置をとれば,本件の発生を避けることができたと認められる。
 したがって,A受審人が,アウト3番ブイに気を取られレ号に対する動静監視を十分に行わなかったので,同船が操縦の自由を失って反転し自船の船首方に向かってくる状況になったことに気付かず,直ちに衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(主張に対する判断)
 本件について,レ号がタ号に向けて逆走したことが本件発生の原因である旨の主張があるので,以下,このことについて検討する。
 レ号が逆走したと主張する根拠は,A受審人に対する質問調書中,「レ号が反方位に走ってきたことで時間的な余裕がなくなった。」旨の供述記載及び当廷における同旨の供述によるもので,同人は衝突した瞬間のレ号の状況を見て逆走したものと判断しているが,衝突地点と両船の位置関係のとおり,逆走と言えるほどの航走距離があったとは認めらず,また,第三者の目撃によって作成されたジャッジシート及び事故報告書各写にも逆走の事実は認定されていないことから,レ号がタ号に向けて逆走したとする主張は認めることができない。

(海難の原因)
 本件衝突は,静岡県手石港の弓ヶ浜沖合において,水上オートバイの競技大会における練習走行中,先航するレ号が,操縦の自由を失って競技コース内で反転し,後続するタ号の船首方に向かったことによって発生したが,タ号が,動静監視不十分で,直ちに衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,静岡県手石港の弓ヶ浜沖合において,水上オートバイの競技大会における練習走行を行う場合,先航するレ号の航走状態の変化に直ちに対応できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷船首方のアウト3番ブイに気を取られ,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,レ号が操縦の自由を失って反転し,自船の船首方に向かう状況になったことに気付かず,直ちに衝突を避けるための措置をとらずに同船との衝突を招き,タ号の船底部に擦過傷を,レ号のフロントハッチカバーに割損をそれぞれ生じさせ,E船長が多発外傷による急性循環不全により死亡する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:22KB)

参考図2
(拡大画面:10KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION