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平成17年横審第69号
件名

ケミカルタンカー旭生丸桟橋衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月7日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂,黒岩 貢,小寺俊秋)

理事官
小須田 敏

受審人
A 職名:旭生丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
旭生丸・・・フォクスルデッキ,左舷側外板及び同船尾外板等に亀裂を伴う凹損等
桟橋・・・鋼製連絡橋桁2基に凹損,係船ドルフィンの防舷材及び上部コンクリートに破損等

原因
停泊当直が行われなかったこと

主文

 本件桟橋衝突は,強風下の錨泊中,停泊当直が行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月11日05時30分
 京浜港川崎区東京電力扇島LNGバース
 (北緯35度28.2分 東経139度44.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 ケミカルタンカー旭生丸
総トン数 199トン
全長 45.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
(2)設備及び性能等
 旭生丸は,昭和61年7月に進水した船尾船橋型ケミカルタンカーで,航行区域を限定沿海区域とし,専ら塩酸専用船として水島港で船積し,名古屋港を主な揚荷港に,時折京浜港に寄港する運航に従事していた。
 錨として両舷船首に重量425キログラムのストックレスアンカー各1個を,錨鎖は直径25ミリメートル,1節の長さ25メートルを各6節備え,操舵室には,航海計器として磁気コンパス,レーダー,GPS及び操舵装置,機関操縦装置が,通信設備として船舶電話,VHFがそれぞれ設置されていた。

3 事実の経過
 旭生丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,塩酸約360トンを積み,船首2.4メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成16年3月10日11時40分千葉港千種岸壁を発し,横浜市鶴見区末広町の荷揚場に向かった。
 A受審人は,錨泊して翌日の着岸を待つこととし,13時30分京浜港川崎区扇島沖合の錨地名YK1と称する危険物積載タンカー用錨地内で,東京ガス扇島LNGバース灯(以下「LNGバース灯」という。)から078度1,250メートルの,水深約18メートル,底質泥の地点に至り,両舷錨を投下し,船首を南西風に立たせ,北東方の東京電力株式会社西火力事業所東扇島火力発電所LNGバース(以下「東電バース」という。)まで約700メートルの位置において,錨鎖各舷4節を延出して二錨泊した。
 A受審人は,危険物積載船が指定錨地の許可を受ける際の注意事項として,当直体制を強化して見張りを励行すること,気象,海象の把握を行うこと及びVHF16チャンネルを常時聴取すること等があり,停泊当直者を配置しなければならないことを知っていたが,乗組員は疲れているので代わりに自分が時々昇橋すれば良いと思い,同当直者を配置しないまま,錨泊を続けた。
 A受審人は,折から寒冷前線の接近により,18時ごろより風速毎秒15メートルを超える南西風が吹き,走錨のおそれがある状況となっていたが,各舷4節ずつ延出して二錨泊しているので大丈夫と思い,依然停泊当直者を配置することも,また,錨鎖を増し延ばしすることもなく錨泊を続けた。
 A受審人は,時々昇橋して錨泊位置を確かめ,翌11日05時前に走錨していないことを確認ののち自室で休息したところ,その後増勢した南西風及び風浪により,いつしか北東方に向かって走錨を始めたが,停泊当直を行っていなかったので,このことに気付かず,05時30分少し前再び昇橋したとき,東電バースが左舷船尾至近に迫っているのを認め,急ぎ機関用意を令したが間に合わず,05時30分旭生丸は,LNGバース灯から063度1,900メートルの地点において,船首が215度を向いたまま,その左舷船尾が,東電バース重油船桟橋の鋼製連絡橋桁に20度の角度で衝突し,次いで左舷船側及び船首部がそれぞれ連絡橋桁並びにドルフィンに衝突した。
 当時,天候は晴で風力8の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,神奈川県東部に強風,波浪注意報が発表されていた。
 その結果,フォクスルデッキ,左舷側外板及び同船尾外板等に亀裂を伴う凹損等を生じ,重油船桟橋は鋼製連絡橋桁2基に凹損,係船ドルフィンの防舷材及び上部コンクリートに破損等を生じたが,のちそれぞれ修理された。

(本件発生に至る事由)
1 南西からの風勢が強くなるのを知っていたものの,錨鎖を増し延ばししなかったこと
2 二錨泊しているので大丈夫と思い,停泊当直者を配置しなかったこと
3 停泊当直が行われず,走錨に気付かなかったこと
4 寒冷前線の接近で,南西からの風波が増勢したこと

(原因の考察)
 船長が,南西からの風勢が強くなるのを知って錨泊したのち,停泊当直が行われていたなら,走錨を早期に発見することができ,機関を使用して沖合に移動し桟橋への衝突は回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,二錨泊しているので大丈夫と思い,停泊当直者を配置しなかったこと及び停泊当直が行われず,走錨に気付かなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,全6節のうち4節で錨泊し,南西からの風勢が強くなるのを知っていたものの,
錨鎖を増し延ばししなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 寒冷前線の接近で,南西からの風波が増勢したことは,通常の気象変化と考えられるから,原因とならない。

(海難の原因)
 本件桟橋衝突は,夜間,京浜港川崎区の錨地において,着岸待ちのために錨泊中,寒冷前線の接近に伴って南西からの風波が増勢する状況下,停泊当直が行われず,走錨に気付かないまま東電バースに圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,錨泊中に南西からの風波が増勢する状況となった場合,北東方の東電バースに近い錨地であったから,走錨しても早期に発見できるよう,停泊当直者を配置すべき注意義務があった。しかるに,同人は,二錨泊しているので大丈夫と思い,停泊当直者を配置しなかった職務上の過失により,同当直が行われず,走錨に気付かないまま同バースに衝突する事態を招き,左舷側外板及び同船尾外板に亀裂を伴う凹損等を,桟橋の鋼製連絡橋桁2基に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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