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平成17年仙審第42号
件名

漁船第三友榮丸漁船長運丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月28日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,原 清澄,大山繁樹)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:第三友榮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:長運丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三友榮丸・・・左舷後部に破口を生じ,浸水,転覆し,全損処理
長運丸・・・船首部に亀裂を伴う擦過傷

原因
長運丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三友榮丸・・・警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,長運丸が,見張り不十分で,漂泊中の第三友榮丸を避けなかったことによって発生したが,第三友榮丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月28日10時10分
 青森県白糠漁港(焼山地区)東方沖合
 (北緯41度06.02分 東経141度26.87分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三友榮丸 漁船長運丸
総トン数 15.78トン 15.49トン
全長   18.70メートル
登録長 15.45メートル 15.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130 110
(2)設備及び性能等
ア 第三友榮丸
 第三友榮丸(以下「友榮丸」という。)は,昭和40年7月に進水し,いか一本釣り漁業等に従事する木製漁船で,漁労設備として,いか釣り機を両舷にそれぞれ6台及び操舵室に魚群探知器を装備し,そのほか航海用具として操舵室にレーダー及びGPSをそれぞれ1台装備していた。
イ 長運丸
 長運丸は,昭和41年6月に進水し,いか一本釣り漁業等に従事する木製漁船で,漁労設備として,いか釣り機を両舷にそれぞれ5台及び操舵室に魚群探知器及びソナーを装備し,そのほか航海用具として操舵室にレーダー及びGPSをそれぞれ1台装備していた。

3 事実の経過
 友榮丸は,A受審人及び同人の息子の甲板員1人が乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年10月28日07時50分青森県白糠漁港(焼山地区)を発し,同港の北東方2.5海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,白糠漁港(焼山地区)の南東方には,6月中旬から11月中旬までの間に自衛隊による六ヶ所対空射場が開設され,10月1日から31日までの08時から19時の間,北緯41度04分03秒東経141度23分12秒の地点を中心とする半径10キロメートルの円のうち043度(真方位,以下同じ。)から128度までの扇形区域に,対空射撃訓練区域が設定され,付近には3隻の監視船を配置するなどして訓練中の当該区域は立入りが禁止されていたが,実際の射撃実施時間の開始及び終了は監視塔からのサイレンの吹鳴,信号弾の打ち上げ,同塔から監視船への無線連絡などで部外者にも知らせ,射撃時は監視塔に吹き流し,射場入口及び監視船に赤色警戒旗の掲示をしており,付近で操業する漁船等は,これらの合図等により射撃が行われているかどうか判断し,指定の訓練時間内においても訓練区域内に入っていた。
 A受審人は,07時50分ごろ漁場に着き,操業を行ったが漁模様が悪く,10時ごろから射撃訓練が中断することを知ったので,訓練区域内で操業を行うこととして漁場を移動し,09時50分ごろ訓練区域内となる白糠港焼山北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から092度2.4海里の地点に着き,機関を中立運転として漂泊を始め,東方に船首を向けて操業を再開し,操舵室でいか釣り機遠隔操作装置を操作し,ときどき0.75海里レンジとしたレーダーを見ながら周囲の見張りをしていたところ,10時04分ごろ左舷正横方0.75海里ばかりに南下してくる船舶を初めて視認し,しばらく見ているうち自船と同型船であったので長運丸であることを知った。
 10時08分A受審人は,前示漂泊開始地点で087度に向首していたとき,左舷正横460メートルのところに自船に向かって接近する態勢の長運丸を認め,その後,同船が自船に向首したまま接近し,衝突のおそれがある態勢となったが,長運丸がそのうち避けると思い,警告信号を行わず,クラッチを入れて移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 A受審人は,長運丸の針路が変わらないまま左舷至近に迫ったとき,初めて衝突の危険を感じ,舵中央のままクラッチを前進に入れて機関を全速力としたが及ばず,10時10分北防波堤灯台から092度2.4海里の地点において,同一方向に向首した友榮丸の左舷後部に,長運丸の船首が直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期で,視界は良好であった。
 また,長運丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同日05時00分白糠漁港焼山地区を発し,同港の北東方3海里ばかりの漁場に向かった。
 B受審人は,05時30分ごろ漁場に着き,操業を行ったが漁模様が悪く,10時ごろから射撃訓練が中断することを知ったことから,中断の間に訓練区域を横断して南下し,むつ小川原港の東方沖合の漁場に向かうこととし,09時53分北防波堤灯台から049度3.0海里の地点を発進し,針路を177度に定め,機関を全速力前進にかけ,7.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵によって進行し,操舵輪の右舷側後方に立ってソナーを見たり,時々3海里レンジとしたレーダーを見ながら操船に当たり,10時02分訓練区域に入って続航した。
 10時08分B受審人は,北防波堤灯台から087度2.4海里の地点に達したとき,正船首方460メートルのところに左舷側を見せて漂泊中の友榮丸を視認することができ,その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,訓練区域内で操業している漁船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかったので,友榮丸の存在に気付かず,右転するなど同船を避けることなく進行中,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,友榮丸は左舷後部外板に破口を生じて浸水し,水船の状態で白糠漁港焼山地区に向けて曳航中,同地区入口付近で転覆し,引き揚げられたが全損処理され,長運丸は船首部に亀裂を伴う擦過傷を生じ,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,青森県東岸に設定された対空射撃訓練区域内の海域で,漂泊していか一本釣り漁を操業中の友榮丸と漁場移動のために南下中の長運丸が衝突したもので,適用すべき航法について検討する。
 友榮丸は,漂泊していか一本釣り漁の操業中であったが,船舶の操縦性能を制限する網,なわその他の漁具を用いていないので,漁ろうをしている船舶とは認められない。従って,本件は,漂泊中の動力船と航行中の動力船との衝突事件である。
 当時,同訓練区域内は航行可能な状況であったことが認められることから,通常の海域において発生したものである。このような場合,適用すべき定形航法がないところから,海上衝突予防法第38条及び第39条を適用して船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 友榮丸
(1)自衛隊の訓練区域内でいか一本釣り漁を行っていたこと
(2)自船に向かって来航する長運丸を視認し,その後同船を見ていたが,そのうち避けていくと思っていたこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 長運丸
(1)訓練区域に入って航行したこと
(2)訓練区域内で操業している漁船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わず,友榮丸に気付かなかったこと
(3)衝突するまで友榮丸に気付かず,同船を避けなかったこと

3 その他
 訓練区域付近にいる漁船等が,実際の射撃訓練が行われていないときに,訓練時間内において同区域内に入っていたこと

(原因の考察)
 本件は,長運丸が,見張りを十分に行い,漂泊中の友榮丸を認識して避航すれば,本件発生を回避できたと認められる。
 しかしながら,B受審人は,自衛隊の対空射撃訓練時間内の訓練区域内で操業している漁船はいないと思い,前路の見張りを十分に行わず,前路で漂泊中の友榮丸に気付かなかったものである。
 したがって,B受審人が,訓練区域内で操業している漁船はいないと思い,見張りを十分に行わず,友榮丸を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,漂泊中の友榮丸が,警告信号を吹鳴し,衝突を避けるための措置をとっていれば,本件発生を回避できたと認められる。
 しかしながら,A受審人は,自船に向かって接近してくる長運丸が,そのうち避けると思い,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置とらなかった。
 したがって,A受審人が,長運丸がそのうち避けると思い,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置とらなかったことは本件発生の原因となる。
 訓練区域付近にいる漁船などが,実際の射撃訓練が行われていないときに,訓練区域内に入っていたことは,本件発生に至る経過で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,青森県白糠漁港(焼山地区)東方沖合において,漁場移動のため南下中の長運丸が,見張り不十分で,漂泊中の友榮丸を避けなかったことによって発生したが,友榮丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,青森県白糠漁港(焼山地区)東方沖合において,漁場移動のために南下する場合,前路で漂泊中の友榮丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかながら,同人は,訓練区域内で操業している漁船はいないと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の友榮丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,友榮丸の左舷後部外板に破口を,長運丸の船首部に亀裂を伴う擦過傷をそれぞれ生じさせ,のち友榮丸が破口からの浸水で転覆したことによって全損処分されるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,青森県白糠漁港(焼山地区)東方沖合において,いか一本釣りの操業のために漂泊中,自船に向かって接近する長運丸を認め,衝突のおそれがある態勢になった場合,警告信号を行い,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,長運丸がそのうちに避けると思い,警告信号を行わず,クラッチを入れて移動するなどの衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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