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平成17年仙審第36号
件名

貨物船阿武隈丸漁船第十八徳洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月16日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,原 清澄,大山繁樹)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:阿武隈丸船長 海技免許:二級海技士(航海)
補佐人
a
受審人
B 職名:第十八徳洋丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
阿武隈丸・・・左舷後部外板凹損及び右舷船尾端圧壊
第十八徳洋丸・・・球状船首凹損及び正船首部外板に亀裂を伴う凹損

原因
第十八徳洋丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
阿武隈丸・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十八徳洋丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る阿武隈丸の進路を避けなかったことによって発生したが,阿武隈丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月24日00時00分
 津軽海峡東部
 (北緯41度33.0分 東経141度12.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船阿武隈丸 漁船第十八徳洋丸
総トン数 498トン 138トン
全長 75.91メートル 41.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 672キロワット
(2)設備及び性能等
ア 阿武隈丸
 阿武隈丸は,平成3年9月に広島県尾道市の造船所で進水し,航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端から船橋前面までの距離が約60メートルであった。
 運動性能は,海上試運転成績書によれば,最大速力が14.13ノット,初速14.09ノットにおける最短停止距離及び時間が654メートル及び2分35秒で,舵角35度における右旋回時の最大縦距が約221メートル,最大横距が約190メートル,30度旋回及び360度旋回に要する時間がそれぞれ23秒及び2分46秒であった。
 航海計器類は,レーダー2台,自動操舵装置,GPS及びドップラー式ログなどを装備し,本件時は,主レーダー,GPS及びドップラー式ログが稼動していた。
イ 第十八徳洋丸
 第十八徳洋丸(以下「徳洋丸」という。)は,平成7年4月に長崎県長崎市の造船所で進水し,従業制限を第1種のいか一本釣漁業に限定した鋼製漁船で,船橋には魚群探知器及びソナーのほか航海計器類としてレーダー2台,GPS,自動操舵装置及び気象用ファクシミリを備えていた。
 本件時は,魚群探知器及びソナーを休止とし,GPS,気象用ファクシミリ及び2台のレーダーをそれぞれ6海里及び12海里レンジとして稼働していた。
 いか釣り機は両舷にそれぞれ11台及び船尾に2台備え,そのいか釣り機で船橋からは周囲が見にくい状況となり,また,航行中は船首が浮上し,船橋中央で片舷約8度の船首死角を生じる状況にあった。

3 事実の経過
 阿武隈丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,石灰砕石1,500トンを積載し,船首3.99メートル船尾4.77メートルの喫水をもって,平成16年7月23日17時40分青森県八戸港を発し,秋田県能代港に向かった。
 船橋当直は,単独4時間3直制を採り,甲板手が00時から04時まで及び12時から16時まで,一等航海士が04時から08時まで及び16時から20時まで,A受審人が08時から12時まで及び20時から24時までをそれぞれ受け持っていた。
 20時00分A受審人は,むつ小川原港東方沖合を北上中に一等航海士から船橋当直を引き継ぎ,船橋中央前面のジャイロコンパスの後ろに立って当直に当たり,22時55分尻屋埼灯台から037度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点に達したとき,針路を290度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.5ノットの対水速力で自動操舵により進行した。
 A受審人は,折からの津軽海峡を東方に抜ける暖水系海流の西方に流れる反流や潮流の影響を受け,左方に圧流されていることを知り,23時22分尻屋埼灯台から312度6.0海里の地点(以下「10度右転地点」という。)で,ほぼ290度の実効進路を保持するよう,針路を300度に転じ,13.0ノットの対地速力で続航した。
 23時40分A受審人は,下風呂港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から071度9.0海里の地点に達したとき,左舷船首9度7.9海里のところに徳洋丸の白1灯を肉眼で初認して直後に双眼鏡で白,緑2灯を認め,目視及びレーダーで動静監視を行い,同時51分同船が左舷船首9度3.5海里となったとき,北防波堤灯台から059度7.3海里の地点(以下「5度右転地点」という。)で,このころから海潮流の影響がなくなったものの,自船の船位が海潮流の影響で予定針路より南に位置していることから針路を305度に転じ,11.5ノットの対地速力で進行した。
 23時53分A受審人は,北防波堤灯台から056度7.1海里の地点に達したとき,徳洋丸を左舷船首9度2.6海里に認めるようになり,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,徳洋丸が避航船なので自船を避けるものと思い,警告信号を行わず,大きく右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 A受審人は,同じ針路,速力で進行中,至近に迫った徳洋丸を認め,23時58分手動操舵に切り替え,針路信号の短音1回を吹鳴して針路を330度とし,その後右舵20度で右転したのち舵中央としたが及ばず,翌24日00時00分北防波堤灯台から046度6.8海里の地点において,ほぼ原速力のまま阿武隈丸が350度を向首したとき,その左舷後部に徳洋丸の右舷船首が後方から60度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,付近には海潮流の影響がなかった。
 衝突後,A受審人は,舵中央のまま機関を停止して惰力で北西方に約500メートル進出して停船し,接近してきた徳洋丸とVHF及び船舶電話で互いの船名や損傷状況を通報しあう混乱のなか,00時20分ごろ自船の右舷船尾部に徳洋丸の左舷船首部が再度衝突した。
 また,徳洋丸は,B受審人ほかインドネシア人の甲板員2人を含む7人が乗り組み,真いか66.4トンを積み,水揚げの目的で,船首1.90メートル船尾3.80メートルの喫水をもって,同月23日09時00分津軽海峡西口の西方160海里ばかりの漁場を発し,青森県八戸港に向かった。
 ところで,徳洋丸は,同年6月23日石川県小木港を出港して主に日本海中部及び北海道西方沖合の漁場で操業し,水揚げの間隔は約1箇月で,船橋当直については沖合の漁場移動は短時間であるのでB受審人が自ら行い,入港するときなど長時間の航海には甲板員に同当直を委ねることもあった。
 B受審人は,発進後船橋当直に就き,八戸港までは長時間であるので,昼過ぎに約5時間甲板員を船橋当直に就けて休息し,陸岸に近づいてから再度自ら同当直について津軽海峡に向かって東進した。
 23時00分B受審人は,大間埼灯台から000度3.0海里の地点で,針路を106度に定め,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対水速力で,折からの東方に流れる海流に乗り,13.7ノットの対地速力,104度の実効進路で進行した。
 B受審人は,航行中の徳洋丸に船首死角があり,操業中には周囲の漁船の動静を2台のレーダーで監視する習慣があったこともあり,立ってレーダーで周囲を監視しながら当直を行い,23時32分北防波堤灯台から350度6.3海里の地点に至り,12海里レンジとしたレーダーで,右舷船首4度12.0海里のところに阿武隈丸と,その近くに同船と同航する船舶の映像を認め,各船舶とは右舷対右舷で無難に航過できるものと判断して続航した。
 23時51分B受審人は,北防波堤灯台から031度6.1海里の地点に至り,このころから海潮流の影響がなくなったことから,徳洋丸の実効進路及び対地速力はそれぞれ106度,12.0ノットとなり,同時53分北防波堤灯台から035度6.2海里の地点に達したとき,阿武隈丸が右舷船首10度2.6海里のところに視認することができ,その後,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,これまでの経験から目視による動静監視を行わなくても大丈夫と思い,左側のレーダーの後方に置いたいすの背に肘をついた姿勢で,レーダーによる監視のみを行い,目視による動静監視を行わなかったので,このことに気付かず,右転するなど同船の進路を避けないまま進行した。
 B受審人は,23時58分阿武隈丸が吹鳴した短音1回の針路信号を聞き逃し,同時58分半レーダー映像の表示航跡の変化から阿武隈丸の右転を知り,目視による周囲の確認を行わず,同船の近くに同船に同航する船舶がいたことから,とっさに自動操舵のまま左転し,更に手動操舵に切り替えて左舵一杯で左転して機関を極微速力前進としたが及ばず,船首が050度に向首したとき,前示のとおり衝突した。
 その後,B受審人は,停止した阿武隈丸に近づき,同船との連絡を終え,衝突の混乱及び07時から始まる八戸港の競りに間に合わせようという気の焦りからか,周囲の状況を確認しないまま発進し,前示のとおり再度衝突した。
 衝突の結果,阿武隈丸は左舷後部外板に凹損及び右舷船尾端圧壊等の損傷を,徳洋丸は球状船首に凹損及び正船首部外板に亀裂を伴う凹損等をそれぞれ生じたが,両船とも自力で八戸港に入港し,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,津軽海峡東部において西行中の阿武隈丸と東行中の徳洋丸が衝突したもので,両船が互いに相手を視認しあうことができる状態となったとき,阿武隈丸は左舷船首9度に徳洋丸を,徳洋丸は右舷船首10度に阿武隈丸を見る状況にあり,当時の気象,海象などから船首の振れはほとんどなく,視界は良好で,互いに視野のうちにあったものと認められ,A受審人は,衝突まで徳洋丸の左舷灯を見ることがなかったことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 阿武隈丸
(1)A受審人が,徳洋丸が避航船で同船が自船を避けるものと思っていたこと
(2)A受審人が,針路信号を行ったものの,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 徳洋丸
(1)B受審人が,目視による見張りを行わず,レーダーのみで周囲の監視を行っていたこと
(2)B受審人が,阿武隈丸の針路信号に気付かなかったこと
(3)B受審人が,阿武隈丸と右舷対右舷で航過できるものと思っていたこと

(原因の考察)
 本件は,西行中の阿武隈丸が,警告信号を吹鳴し,衝突を避けるための協力動作をとっておれば,本件発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,徳洋丸の避航を期待し,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,東行中の徳洋丸が,目視による見張りを行い,レーダーによる適切な動静監視を行っておれば,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する阿武隈丸を認識して衝突を避けることができ,本件発生を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が,目視による見張りを行わなかったこと,レーダーによる適切な動静監視を行わず,右舷対右舷で航過できると思っていたこと及び阿武隈丸の針路信号を聞き逃したことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,津軽海峡東部において,両船が互いに針路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近する際,東行する徳洋丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る阿武隈丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する阿武隈丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,津軽海峡東部において,レーダーで右舷前方から接近する阿武隈丸の映像を認めた場合,衝突の有無を判断し,両船の見合い関係を確認できるよう,目視でコンパス方位の変化を確かめるなど,阿武隈丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまでの経験から目視による動静監視を行わず,レーダーの監視のみで大丈夫と思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,阿武隈丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,阿武隈丸の左舷外板に凹損,右舷船尾端の圧壊等の損傷を,徳洋丸の球状船首に凹損,正船首部外板に亀裂を伴う凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,津軽海峡東部において,左舷前方から接近する徳洋丸の白,緑2灯を認め,同船の避航動作を認めることができなかった場合,速やかに警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,徳洋丸が避航船なので避けてくれると思い,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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