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平成17年長審第47号
件名

船第十一 八幡丸油送船第拾幸徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月26日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:第十一 八幡丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)
補佐人
a
受審人
B 職名:第拾幸徳丸船長 海技免許 五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
第十一 八幡丸・・・右舷前部外板に凹損
第拾幸徳丸・・・船首部圧壊

原因
第十一 八幡丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー,速力)不遵守
第拾幸徳丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー,速力)不遵守

主文
 本件衝突は,第十一 八幡丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,第拾幸徳丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月8日00時20分
 千葉県犬吠埼南方沖合
 (北緯35度36.3分 東経140度52.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十一 八幡丸 油送船第拾幸徳丸
総トン数 499トン 498トン
全長 78.15メートル 64.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十一 八幡丸
 第十一 八幡丸(以下「八幡丸」という。)は,平成13年2月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型貨物船で,船体中央部に長さ40.20メートル幅9.50メートルの貨物倉1個を有し,船首端から船橋前面までの距離が約63メートルで,国内各港間の鋼材輸送に従事していた。
 操舵室には,前面中央に操船用コンソールが設置され,同コンソールには,中央にジャイロコンパスと一体型の操舵装置,左舷側にレーダー2台,衛星航法装置,右舷側に主機遠隔操縦装置などが組み込まれており,同室上部にモーターホーンを備えていた。
 操縦性能は,海上試運転成績書によれば,最大速力が機関回転数毎分280で14.1ノット,同速力における最短停止時間が2分5秒で,舵角35度における360度旋回に要する時間が左右それぞれ2分35秒及び2分38秒であった。
 主機は,クラッチ内蔵の逆転減速機を備えており,いつでも減速,中立及び逆転運転が可能であった。
イ 第拾幸徳丸
 第拾幸徳丸(以下「幸徳丸」という。)は,平成3年1月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型油送船で,船首端から船橋前面までの距離が約50メートルで,主に横浜港を基地として関東以北の各港間のA重油輸送に従事していた。
 操舵室には,ジャイロコンパスと一体型の操舵装置,カラー及び白黒のレーダー各1台,衛星航法装置などのほか,同室上部にエアーホーンを備えていた。
 操縦性能は,海上公試運転成績書によれば,最大速力が機関回転数毎分340で11.8ノット,同速力における最短停止時間が2分3秒,同停止距離が383メートルで,舵角35度における360度旋回に要する時間が左右それぞれ2分45秒及び2分44秒であった。
 主機は,クラッチ内蔵の逆転減速機を備えており,いつでも減速,中立及び逆転運転が可能であった。

3 事実の経過
 八幡丸は,船長C,A受審人ほか2人が乗り組み,鋼材1,549トンを積載し,船首3.57メートル船尾4.63メートルの喫水をもって,平成16年7月6日13時30分北海道室蘭港を発し,愛知県名古屋港に向かった。
 ところで,乗組員は,通常,父親が船主である船長(以下「船主船長」という。),機関長,一航士,次席一航士,一等機関士(以下「一機士」という。)の5人であったが,当時,一機士が休暇であり,船主船長が一機士職,一航士が船長職,次席一航士であるA受審人が一航士職を執っており,船橋における航海当直体制は,00時から04時まで及び12時から16時までをA受審人,04時から08時まで及び16時から20時までを船長,08時から12時まで及び20時から24時までを船主船長が入直する,単独4時間3直制をとっていた。
 八幡丸は,発航後,船主船長が発航時の操船を終えて当直をA受審人に委ねて降橋したのち,北海道恵山沖から東北地方太平洋岸に沿って南下し,翌7日11時ごろ金華山沖を通過して16時ごろ福島県東岸沖合に差し掛かり,徐々に霧模様となる中,南下を続けた。
 船主船長は,19時45分茨城県日立港東方22海里沖合で昇橋し,前直の船長から当直交替時より霧模様となったことなどの引継ぎを受けて当直に就き,法定灯火を表示し,同県東岸沖を南下するうちに霧が更に濃くなり,船首マスト灯の明かり具合から視程が約100メートルの視界制限状態となったことを知り,そのまま単独で当直を続け,やがて,昇橋してきたA受審人に当直を引き継ぐことにした。
 A受審人は,23時40分昇橋し,法定灯火が表示されていることを確認したのち,同時50分犬吠埼灯台から114度(真方位,以下同じ。)3.8海里の地点で,船主船長から視界が悪いので必要なときはいつでも船主船長もしくは船長を呼ぶようにと引継ぎを受けて当直に就き,2台装備されたレーダーのうち,主レーダーのみを作動させ,6海里レンジでオフセンターとして千葉県東岸沖を南下した。
 23時55分A受審人は,犬吠埼灯台から129度3.7海里の地点に達したとき,針路を218度に定め,機関を回転数毎分235にかけて11.5ノットの速力とし,自動操舵によって進行した。
 翌8日00時00分A受審人は,視程に変化がない中,レーダーで右舷船首1度7.4海里に北上する幸徳丸,その更に右側後方に2隻の反航船及び右舷船首45度3海里付近に3ないし4隻の漁船群の各映像を初めて認めたが,自分1人で対処できるものと判断し,船主船長もしくは船長を呼ばずに,単独当直のまま,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもなく続航し,同時12分少し前犬吠埼灯台から169度4.9海里の地点に達し,幸徳丸の映像の方位がほとんど変わらず,同船と3.0海里に接近したとき,自船の左舷側に他船の映像を認めなかったことから,手動操舵に切り替え,幸徳丸の映像を船首輝線の右側に見るよう,少しずつ左転を開始した。
 その後,A受審人は,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わず,幸徳丸の真針路や真速力を確認しなかったので,同船が右転して船首を自船の左舷方に向けたことに気付かず,幸徳丸の映像が船首輝線の右側から接近することから,同船の船首は自船の右舷方に向いているものと思って依然少しずつ左転しながら進行した。
 00時14分少し過ぎA受審人は,犬吠埼灯台から173度5.3海里の地点に達したとき,幸徳丸の映像が右舷船首10度2.0海里となり,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めたが,レーダー画面上の同船の船尾方へ伸びる航跡の残像を目視して,互いに右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを止めることもなく,幸徳丸の映像をレーダーで監視しながら続航した。
 A受審人は,00時20分少し前右舷船首至近に幸徳丸のぼうっとした明かりを認め,急ぎ機関停止としたが,00時20分犬吠埼灯台から177度6.3海里の地点において,船首が190度を向いたとき,八幡丸の右舷船首部に,幸徳丸の船首部が前方から50度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風はほとんどなく,視程は約100メートルであった。
 また,幸徳丸は,B受審人ほか4人が乗り組み,A重油990.269キロリットルを積載し,船首3.10メートル船尾4.10メートルの喫水をもって,同月7日14時30分京浜港横浜区を発し,宮城県石巻港に向かった。
 発航後,B受審人は,石巻港までの船橋当直を15時から19時まで及び03時から07時までを甲板員,19時から23時まで及び07時から11時までを一航士にそれぞれ単独で当たらせ,自らは23時から03時及び11時から15時に1人で入直する4時間交替の3直制とし,発航時の操船に続いて浦賀水道航路通過まで在橋することとし,16時00分浦賀水道航路第1号灯浮標を通過し,同時10分同灯浮標から南方1海里付近で当直を甲板員に委ねて降橋した。
 22時40分B受審人は,犬吠埼灯台から211度23.5海里の地点で,昇橋して前直の一航士から少し前から霧模様となって視程が約1.5海里であることを引き継ぎ,同時50分当直を交替し,法定灯火を表示して単独で船橋当直に当たって千葉県東岸沖合を北上した。
 23時00分B受審人は,犬吠埼灯台から209度19.8海里の地点において,針路を040度に定めて自動操舵とし,機関を11.2ノットの全速力前進にかけて進行した。
 23時20分ごろB受審人は,犬吠埼灯台の南西約16海里の地点に達したころ,霧が急に濃くなって視程約100メートルの視界制限状態となったが,霧中信号を行うことも,安全な速力に減じることもないまま,カラーレーダーを6海里レンジ,白黒レーダーを3海里レンジとしてそれぞれオフセンターとし,見張りを行いながら続航した。
 翌8日00時01分B受審人は,視程に変化がない中,犬吠埼灯台から195度9.0海里の地点に達したとき,カラーレーダーにより左舷船首1度7.0海里のところに南下する八幡丸の映像を初めて探知し,その後同船の映像を監視しながら進行した。
 00時12分少し前B受審人は,犬吠埼灯台から188度7.2海里の地点に達し,八幡丸の映像の方位がほとんど変わらず,同船と3.0海里に接近したとき,左舷対左舷で航過することとし,自動操舵のまま針路を050度に転じたが,その後レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わず,八幡丸の真針路や真速力を確認しなかったので,同船が左転して船首を自船の右舷方に向けたことに気付かず,八幡丸の映像が船首輝線の左側から接近することから,同船の船首は自船の左舷方に向いているものと思って続航した。
 00時14分少し過ぎB受審人は,犬吠埼灯台から184度6.9海里の地点に達したとき,八幡丸の映像が左舷船首12度2.0海里となり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めたが,依然として左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,八幡丸の映像をレーダーで監視しながら進行した。
 00時16分少し前B受審人は,八幡丸の映像が1.5海里となったとき,更に両船との航過距離を広げるつもりで針路を060度として続航中,同時20分少し前左舷前方に八幡丸の緑灯を初めて視認し,衝突の危険を感じて右舵一杯,機関を停止,次いで全速力後進としたが,及ばず,幸徳丸は,船首が060度を向いたまま,ほぼ原速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,八幡丸は,右舷前部外板に凹損を生じ,幸徳丸は船首部を圧壊したが,のちそれぞれ修理された。

(航法の適用)
 本件は,霧のため視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方沖合において,南下する八幡丸と北上する幸徳丸とが衝突したものであり,両船は,互いに他の船舶の視野の内になかったのであるから,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 八幡丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力に減じなかったこと
(3)両船間の距離が3海里となったとき,少しずつ左転を開始したこと
(4)レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったこと
(5)互いに右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと

2 幸徳丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力に減じなかったこと
(3)両船間の距離が3海里となったとき右転したこと
(4)転針後レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったこと
(5)互いに左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
(6)両船間の距離が1.5海里となったとき右転したこと

(原因の考察)
 本件は,八幡丸が,霧で視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方沖合を南下中,幸徳丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件の発生を防止できたと認められ,また,霧中信号を行っていれば,幸徳丸に自船の接近を認識させ,両船の適切な措置によって衝突を防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,霧中信号を行わなかったこと,幸徳丸と右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,幸徳丸と右舷を対して航過できると思ったのは,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わず,幸徳丸の真針路を確認しなかったことから,自船の左舷方に向いていた幸徳丸の船首方向が自船の右舷方に向いていると判断を誤ったことによるものと認められる。
 したがって,A受審人が,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,視界が制限された状況下,安全な速力に減じなかったこと,両船間の距離が3海里となったとき左転したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,幸徳丸が,霧で視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方沖合を北上中,八幡丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件の発生を防止できたと認められ,また,霧中信号を行っていれば,八幡丸に自船の接近を認識させ,両船の適切な措置によって衝突を防止できたと認められる。
 したがって,B受審人が,霧中信号を行わなかったこと,八幡丸と左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,八幡丸と左舷を対して航過できると思ったのは,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わず,八幡丸の真針路を確認しなかったことから,自船の右舷方に向いていた八幡丸の船首方向が自船の左舷方に向いていると判断を誤ったことによるものと認められる。
 したがって,B受審人が,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,視界が制限された状況下,安全な速力に減じなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 B受審人が,両船間の距離が3海里及び1.5海里となったときそれぞれ右転したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧で視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方沖合において,南下中の八幡丸が,霧中信号を行わず,レーダーで前路に探知した幸徳丸に対し,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったばかりか,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことと,北上中の幸徳丸が,霧中信号を行わず,レーダーで前路に探知した八幡丸に対し,レーダープロッティングその他の系統的な観察を行わなかったばかりか,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方沖を南下中,レーダーで前路に探知した幸徳丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,幸徳丸との衝突を招き,八幡丸の右舷前部外板に凹損を,幸徳丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方沖を北上中,レーダーで前路に探知した八幡丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷を対して航過できるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,八幡丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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