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平成17年門審第84号
件名

押船160新力丸被押起重機船250新生号漁船福吉丸衝突事件
第二審請求者〔理事官勝又三郎〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,尾崎安則,片山哲三)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:160新力丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:福吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
新力丸押船列・・・250新生号が船首左舷に塗料剥離
福吉丸・・・船首上部損壊

原因
新力丸押船列・・・見張り不十分,行会い船の航法不遵守
福吉丸・・・見張り不十分,行会い船の航法不遵守

主文

 本件衝突は,両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近した際,160新力丸被押起重機船250新生号が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったことと,福吉丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月2日08時20分
 関門港若松区
 (北緯33度56.5分 東経130度51.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船160新力丸 起重機船250新生号
総トン数 19トン 1,852トン
全長 13.50メートル 57メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 956キロワット  
船種船名 漁船福吉丸  
総トン数 1.1トン  
登録長 7.70メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 58キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 160新力丸
 160新力丸(以下「新力丸」という。)は,平成6年12月に進水し,沿海区域を航行区域とする最大とう載人員4人の2機2軸固定翼式推進器2個を装備した一層甲板型鋼製押船で,船体中央部の甲板下に機関室が,同室上部甲板上に構築された高さ約8メートルの櫓の上に船橋が設けられていた。
 船橋内には,前部中央に操舵輪,その前部に磁気コンパス,その左舷側にGPS,レーダー,及びその右舷側に主機遠隔操縦装置がそれぞれ設置され,船橋前面及び側面は角窓となっていた。
 また,船体の前後部に被押船との結合用アームが装備され,主に250新生号と結合して運航されていた。
イ 250新生号
 250新生号(以下「新生号」という。)は,平成6年に建造された鋼製非自航型起重機船で,船首甲板上に旋回式クレーン(以下「クレーン」という。),その甲板下にサイドスラスタ室,船体中央部に積荷区画及び船尾中央部に押船結合のための凹部,並びにその凹部を囲むようにして甲板上に2層の居住区が設けられ,浚渫及び港湾建設工事,並びに工事原材料等の運搬に使用されていた。
 また,同船は,船尾凹部に押船との結合用ポストを4本装備し,新力丸の船体のほぼ全部を同凹部に嵌合させて(以下,この状態を「新力丸押船列」という。)運航されており,航行中,クレーンのジブを船尾方に向けて船首尾線から約15度右舷側に振り,その先端部を船尾甲板右舷側に設けた架台に載せて格納していた。
 新力丸押船列の航行中の空船時における,船首方の見通しについては,クレーンハウスによって新力丸の船橋から正船首方の両舷に各6度の範囲で死角を生じていた。また,クレーンのジブによって右舷方の見通しにやや支障が生じる状態であった。
ウ 福吉丸
 福吉丸は,昭和61年3月に進水し,一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央部付近の甲板下に機関室,同室上に操舵室を設けていた。
 操舵室内には,GPS,プロッタ及び魚群探知器がそれぞれ設置され,同室前面及び側面は角窓となっており,死角はなかった。そして,船尾甲板で作業するとき,操舵室により前方に死角を生じる状況であったが,身体を左右に移動することで,同死角を補うことができた。

3 事実の経過
 新力丸押船列は,A受審人と作業員4人が乗り組み,回航の目的で,新力丸が船首2.1メートル船尾2.6メートル,新生号が船首尾ともに1.7メートルの喫水をもって,平成16年12月2日07時57分関門港若松区第6区の安瀬泊地を抜錨し,苅田港に向かった。
 08時06分少し過ぎA受審人は,抜錨時からレーダーを作動させて1人で操船にあたり,若松洞海湾口防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から308度(真方位,以下同じ。)1.0海里の地点で,針路を107度に定め,機関を全速力前進にかけて6.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 08時07分A受審人は,肉眼により右舷前方1海里あまりのところに操業中の漁船群を認めたので,これらの動きを監視しながら,このまま直進して関門第二航路に入ったところで,右転して同航路及び関門航路の右側をこれに沿って航行するつもりで続航した。
 08時16分半少し前A受審人は,関門第二航路の少し外側に達し,同航路に沿う針路に転ずることとしたとき,転針方向を見たところ同方向に他船を認めなかったことから,予定通り右転することにしたものの,周辺の景色から,同航路に入航したものと思い,船位を確かめないまま,同時16分半防波堤灯台から041度730メートルの地点で,針路を143度に転じ,航路外であることに気付かず,そのまま進行した。
 08時17分A受審人は,防波堤灯台から051度710メートルの地点に達したとき,船首死角内の正船首方650メートルばかりのところに福吉丸が存在し,その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していたが,転針するときに転針方向に他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,船首部に見張員を配置して船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,福吉丸の左舷側を通過できるように針路を右に転じることなく,前示の漁船群の動静に気を奪われたまま続航した。
 08時20分わずか前A受審人は,新生号の左舷後部甲板上にいた作業員が同船船首方に駆けて行き,同受審人に向かって機関を後進にかけるよう手を振って合図したのを認めて機関を操作したが効なく,08時20分防波堤灯台から091度900メートルの地点において,新力丸押船列は,原針路,原速力のまま新生号の船首左舷と福吉丸の船首とがほぼ真向かいに衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんど無く,潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は,作業員から福吉丸と衝突したことを知らされ,事後の措置にあたった。
 また,福吉丸は,B受審人が1人で乗り組み,さわらの曳き釣り漁の目的で,船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同月2日07時40分関門港福浦湾の係留地を発し,関門航路に面した若松区の漁場に向かった。
 ところで,B受審人は,普段から船舶が輻輳する関門港の航路内では操業を行わず,同航路を避けて操業することとしていた。
 08時07分少し過ぎB受審人は,関門航路の少し外側となる防波堤灯台から119度1.0海里の地点に至り,船尾両舷から釣り針数個がつけられた釣り糸を1本ずつ流して操業を開始し,針路を321度に定め,機関を半速力前進にかけて5.0ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 08時14分B受審人は,防波堤灯台から095度970メートルの地点に至ったとき,右舷側の釣り糸にさわらがかかったので速力を0.5ノットに減じ,舵中央にして放置し,自船がほぼ直進する状況のもと,船尾甲板上から釣り糸を手繰り寄せて,さわら2匹を船内に取り込んだのち,同釣り糸を海中に再び投げ入れようとしたところ,糸が絡んだのでこれを解(ほぐ)し始めた。
 08時17分B受審人は,防波堤灯台から093度940メートルの地点に達したとき,正船首650メートルばかりのところに新力丸押船列が存在し,その後同押船列とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していたが,航路外を南下する他船はいないと思い,後部甲板で前示の釣り糸の絡みを解すことに熱中し,前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同押船列の左舷側を通過できるように針路を右に転じることなく続航した。
 こうして,B受審人は,08時20分わずか前釣り糸を解して糸を流し終わって船首方を見たとき,至近距離に迫った新力丸押船列を認めたが,どうすることもできず,福吉丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,新力丸押船列の新生号は,船首左舷に塗料剥離を生じ,福吉丸は,船首上部が圧壊して転覆したが,新生号のクレーンにより吊り上げられ,のち修理された。また,B受審人は,衝突の衝撃により海中に投げ出されたが付近の僚船に救助された。

(航法の適用)
 本件は,港則法が適用される関門港で,航路外を南東進中の新力丸押船列と一本釣りの範疇(はんちゅう)にある曳き釣り漁を操業しながら航路外を北西進中の福吉丸とが,互いに視野の内にある状況のもと,ほとんど真向かいに行き会う状態で衝突したものであるが,同法には本件に適用される航法規定はないから,海上衝突予防法第14条の行き会い船の航法が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 新力丸押船列
(1)死角を生じていたこと
(2)船位を確認していなかったこと
(3)航路外を航行していたこと
(4)前路に他船はいないと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(5)針路を右に転じなかったこと

2 福吉丸
(1)航路外を南下する他船はいないと思い,曳き釣り漁の釣り糸の絡みを解すのに熱中し,前路の見張りを十分に行わなかったこと
(2)針路を右に転じなかったこと

(原因の考察)
 新力丸押船列が,福吉丸を視認していたなら,その動静を監視することで,同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,針路を右に転じて,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路に他船はいないと思い,船首部に見張員を配置して船首死角を補う見張りを十分に行わず,針路を右に転じなかったことは,本件発生の原因となる。
 新力丸押船列は,関門港若松区第6区の安瀬泊地から苅田港に向かっていたのであるから,港則法第12条により法定航路を航行する義務があったものの,同法の規定に従って関門航路内を航行していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であり遺憾であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正すべき事項である。
 新力丸押船列の船首方に死角が生じていたことは,通常の操船位置からの船首方の見張りの妨げになるが,船首方に見張員を配置することにより,その死角を補うことができるのであるから,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 福吉丸が,新力丸押船列を視認していたなら,その動静を監視することで,同押船列とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,針路を右に転じて,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,航路外を南下する他船はいないと思い,曳き釣り漁の釣り糸の絡みを解すのに熱中し,前路の見張りを十分に行わず,針路を右に転じなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,関門港において,航路外を南東進する新力丸押船列と北西進する福吉丸の両船が,ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近した際,同押船列が,前路の見張りが不十分で,福吉丸の左舷を通過することができるように針路を右に転じなかったことと,福吉丸が,前路の見張りが不十分で,新力丸押船列の左舷を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,関門港において,苅田港に向かう予定で南東進する場合,船首方に死角を生じていたから,船首方から接近する福吉丸を見落とさないよう,船首部に見張員を配置して死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,転針するときに転針方向に他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,福吉丸に気付かず,同船の左舷を通過することができるように針路を右に転じることなく進行して衝突を招き,新生号船首左舷に塗料剥離を生じさせ,福吉丸船首上部を圧壊して転覆させ,また,B受審人を海中に投げ出させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,関門港において,曳き釣りによる操業を行いながら北西進する場合,船首方から接近する新力丸押船列を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,航路外を南下する他船はいないと思い,釣り糸の絡みを解すのに熱中し,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,新力丸押船列に気付かず,同押船列の左舷を通過することができるように針路を右に転じることなく進行して衝突を招き,前示のとおり両船に損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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