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平成17年広審第114号
件名

貨物船幸丸漁船豊正丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:幸丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:豊正丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
豊正丸・・・左舷中央部外板に亀裂を伴う損傷

原因
幸丸・・・追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
豊正丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,豊正丸を追い越す幸丸が,豊正丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,豊正丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月25日05時45分
 播磨灘
 (北緯34度32.8分 東経134度08.7分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船幸丸 漁船豊正丸
総トン数 135トン 4.9トン
登 録 長 39.51メートル 2.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 323キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 幸丸は,主として大阪港と香川県詫間港との間において鋼材の輸送に従事する鋼製貨物船で,A受審人が妻の機関長と乗り組み,鋼材371トンを積載し,船首2.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成16年11月24日23時00分大阪港堺泉北区を発し,詫間港に向かった。
 A受審人は,発航操船に引き続き在橋して明石海峡を通過し終えるまで船橋当直に就き,その後機関長に同当直を任せたのち,翌25日04時00分松島灯台から323度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点において,再び同当直に当たり,針路を254度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.1ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,所定の灯火を表示し,レーダーを休止したまま,自動操舵により進行した。
 05時33分A受審人は,讃岐千振島灯台(以下「千振島灯台」という。)から034.5度1.7海里の地点に達したとき,右舷船首8度1.4海里のところに豊正丸の船尾灯と,左舷船首方に他の漁船(以下「漁船」という。)の船尾灯を視認し,自船が両船より速いことを認め,両船の間隔が約1海里あるので,その間を航過するつもりで続航した。
 05時42分A受審人は,千振島灯台から337度1.1海里の地点に達したとき,漁船が右回頭して自船の前路に向かい始めたのを認め,右舵をとって針路を270度に転じたところ,豊正丸が右舷船首8度650メートルとなり,その後同船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近したが,同船に近づくことになっても右舷側になんとか替わせるものと思い,手動操舵に切り替えただけで,豊正丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかった。
 05時45分少し前A受審人は,漁船が反転して左舷方に替わったとき,豊正丸が至近に迫って衝突の危険を感じ,機関を後進にかけたが及ばず,05時45分千振島灯台から318度1.3海里の地点において,幸丸は,機関後進により291度に向首し2.5ノットの速力となったとき,その右舷船首部が,豊正丸の左舷中央部に,後方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期で,視界は良好であった。
 また,豊正丸は,底びき網漁に従事するFRP製漁船で,電気ホーンを設備し,B受審人(昭和60年6月一級小型船舶操縦士免許取得,平成17年3月一級小型船舶操縦士免許及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が妻の甲板員と乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,同月25日04時50分香川県小江漁港を発し,播磨灘の漁場に向かった。
 目的地に着いたB受審人は,1回目の操業を開始し,05時13分千振島灯台から010度1.5海里の地点において,針路を246度に定め,機関を回転数毎分2,100にかけ,2.3ノットの曳網速力とし,所定の灯火を表示し,舵輪後方に置いた台に腰掛け,手動操舵により進行した。
 ところで,B受審人が行う底びき網漁は,船尾から長さ約100メートルのワイヤロープ2本を引き,その先端に長さ約35メートルの化学繊維索と長さ36メートルの袋網を含む漁具を取り付け,これを約1時間曳網したのち10分かけて揚網するものであった。
 05時33分B受審人は,千振島灯台から339度1.2海里の地点に達したとき,1.5海里レンジとしたレーダーで,左舷船尾16度1.4海里のところに幸丸を探知し,続いて同船のマスト灯と右舷灯とを視認したが,両灯火の見え具合から,幸丸が自船の左舷方を追い越していくものと思い,その後の動静監視を十分に行わなかった。
 05時42分B受審人は,千振島灯台から323.5度1.3海里の地点に達したとき,幸丸が左舷船尾32度650メートルのところで右転し,その後同船が自船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然動静監視不十分で,このことに気付かず,警告信号を行わないで続航した。
 B受審人は,幸丸が間近に接近しても,機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行し,05時45分少し前至近に迫った幸丸を認めて右舵一杯としたが及ばず,豊正丸は,ほぼ原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸丸は,右舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが,豊正丸は,左舷中央部外板に亀裂を伴う損傷を生じ,のち修理された。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,播磨灘において,豊正丸を追い越す幸丸が,豊正丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,豊正丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独で操舵と見張りに当たり,播磨灘を西行中,豊正丸を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近した場合,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けるべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船に近づくことになっても右舷側になんとか替わせるものと思い,豊正丸を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,幸丸の右舷船首部外板に擦過傷を,豊正丸の左舷中央部外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,単独で操舵と見張りに当たり,播磨灘で操業中,左舷船尾方に幸丸のマスト灯と右舷灯とを視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,両灯火の見え具合から,幸丸が自船の左舷方を追い越していくものと思い,その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,幸丸が自船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して幸丸との衝突を招き,前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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