日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第67号
件名

貨物船ルイクアン貨物船ピンヤンナンバー5衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均,川本 豊,米原健一)

理事官
阿部房雄

指定海難関係人
A 職名:ルイクアン二等航海士 
B 職名:ピンヤンナンバー5二等航海士

損害
ルイクアン・・・右舷船首部外板に亀裂を伴う損傷
ピンヤンナンバー5・・・左舷船尾部と救助艇を圧壊

原因
ルイクアン・・・追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ピンヤンナンバー5・・・動静監視不十分,警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ピンヤンナンバー5を追い越すルイクアンが,ピンヤンナンバー5を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,ピンヤンナンバー5が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月13日02時02分
 釣島水道
 (北緯33度57.5分 東経132度42.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ルイクアン 貨物船ピンヤンナンバー5
総トン数 6,577トン 1,434トン
全長 127.92メートル 75.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 5,400キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア ルイクアン
 ルイクアン(以下「ル号」という。)は,1995年12月にドイツ連邦共和国で建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,満載時の旋回径は,縦距が409メートル及び横距が254メートルであった。
イ ピンヤンナンバー5
 ピンヤンナンバー5(以下「ピ号」という。)は,昭和63年8月に日本で建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,海上公試運転成績表(船体部)写によると,右旋回時の縦距が185メートル及び横距が208メートルで,左旋回時は,それぞれ180メートル及び214メートルであった。また,全速力前進中,後進発令から船体停止までの所要時間は,2分5秒であった。

3 事実の経過
 ル号は,主として上海港と大阪,名古屋両港間においてコンテナを輸送する貨物船で,A指定海難関係人ほか中華人民共和国人船員17人が乗り組み,コンテナ3,451トンを積載し,船首6.30メートル船尾6.90メートルの喫水をもって,平成16年6月11日04時00分(現地時刻)上海港を発し,瀬戸内海経由予定で,大阪港に向かった。
 A指定海難関係人は,翌々13日00時50分愛媛県由利島西方で昇橋して前直の三等航海士と船橋当直を交替し,甲板手を補佐に就けて同当直に当たり,所定の灯火を表示して伊予灘を東行し,01時41分少し前釣島灯台から340度(真方位,以下同じ。)1.0海里の地点において,釣島水道灯浮標に並んだとき,針路を推薦航路線に沿う055度に定め,機関を全速力前進にかけ,15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,安芸灘南航路第1号灯浮標(以下,「安芸灘南航路」を冠する灯浮標名についてはこれを省略する。)を正船首わずか左に見る態勢で,自動操舵により進行した。
 定針したときA指定海難関係人は,右舷船首5度1.8海里のところに,同航中のピ号の船尾灯を視認し,その動静を監視していたところ,同船の速力が自船より遅いことを知って続航した。
 01時56分A指定海難関係人は,野忽那島灯台から193度1.3海里の地点に達したとき,ピ号が右舷船首11度1,000メートルに近づき,その後,同船に衝突のおそれがある追越しの態勢で接近したが,ピ号が第1号灯浮標付近に達して左方に屈曲した推薦航路線に沿ってゆっくり左転すれば,自船は右転して追い越そうと考え,ピ号の右舷側を追い越すなど,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行した。
 02時01分A指定海難関係人は,汽笛で長音1回を吹鳴したとき,右舷船首至近に接近したピ号が左転していることを認めて衝突の危険を感じ,手動操舵に切り替えて左舵一杯とし,機関を停止したが及ばず,02時02分野忽那島灯台から117度1.0海里の地点において,ル号は,船首が025度に向き,ほぼ13ノットの速力となったとき,その右舷船首部が,ピ号の左舷船尾部に,平行に衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には微弱な南西流があった。
 また,ピ号は,B指定海難関係人ほか中華人民共和国人船員9人が乗り組み,コークス1,002トンを積載し,船首2.70メートル船尾4.20メートルの喫水をもって,同月9日07時00分(現地時刻)同国天津港を発し,瀬戸内海経由予定で,兵庫県尼崎西宮芦屋港に向かった。
 B指定海難関係人は,越えて同月13日00時50分由利島南方で昇橋して前直の船長と船橋当直を交替し,甲板手を補佐に就けて同当直に当たり,所定の灯火を表示して伊予灘を東行し,01時29分釣島灯台から345度1,500メートルの地点において,釣島水道灯浮標に並んだとき,針路をほぼ推薦航路線に沿う053度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.8ノットの速力とし,甲板手による手動操舵で進行した。
 01時50分B指定海難関係人は,レーダーで左舷船尾10度1.1海里のところに,同航中のル号の映像を初めて探知したが,自船の速力が遅くて他船に追い越されることが多かったので,特に気に留めず,ル号までの距離を測定して接近状況を確認するなど,その後の動静監視を十分に行わないで続航した。
 01時56分B指定海難関係人は,野忽那島灯台から169度1.1海里の地点に達したとき,ル号が左舷船尾13度1,000メートルに近づき,その後,同船が衝突のおそれがある追越しの態勢で接近したが,依然動静監視不十分で,このことに気付かなかったので,警告信号を行わないで進行した。
 02時01分少し前B指定海難関係人は,第1号灯浮標と第2号灯浮標とを重視するようになったとき,ル号が左舷後方間近に接近したが,転針を遅らせるなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく,左方に屈曲した推薦航路線に沿うよう左舵5度を令し,少し左転して左舷後方至近にル号の船首部を認めて危険を感じ,右舵15度としたが及ばず,ピ号は,船首が025度に向いたとき,ほぼ原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ル号は,右舷船首部外板に亀裂を伴う損傷を生じ,ピ号は,左舷船尾部と救助艇を圧壊した。

(航法の適用)
 本件は,夜間,釣島水道において,いずれも東行中のル号とピ号とが衝突したものであり,適用される航法について検討する。
 事実の経過で示したとおり,ピ号は,01時56分野忽那島灯台から169度1.1海里の地点に達したとき,ル号が左舷船尾13度1,000メートルに近づき,その後,ル号がピ号の正横後22度30分を超える後方の位置から衝突のおそれがある追越しの態勢で接近しているので,海上衝突予防法第13条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 ル号
(1)ピ号を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったこと

2 ピ号
(1)動静監視を十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)左方に屈曲した推薦航路線に沿うよう左舵5度を令したこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,ピ号を追い越すル号が,ピ号を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けておれば,発生を回避できたと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,ピ号を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,ピ号が,左舷船尾方に同航するル号の映像を初めて探知した際,その後の動静監視を十分に行っておれば,同船が衝突のおそれがある追越しの態勢で接近していることに気付き,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることにより,発生を回避できたと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,ル号の動静監視を十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が,左方に屈曲した推薦航路線に沿うよう左舵5度を令したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,釣島水道において,ピ号を追い越すル号が,ピ号を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,ピ号が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,釣島水道を東行中,ピ号を追い越す際,ピ号を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,勧告しないが,他船を追い越す際には,同船を確実に追い越し,かつ,同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けなければならない。
 B指定海難関係人が,夜間,釣島水道を東行中,レーダーで後方から接近するル号の映像を初めて探知した際,その後の動静監視を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,レーダーで他船の映像を探知した際には,その後の動静監視を十分に行わなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION