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平成17年広審第128号
件名

貨物船第十八協立丸漁船大宝丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月10日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(川本 豊)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第十八協立丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:大宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十八協立丸・・・損傷ない
大宝丸・・・船首部破損,船長が全治1週間の胸部打撲,船長の妻が1箇月の安静を要する左多発骨折及び左血胸

原因
第十八協立丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
大宝丸・・・見張り不十分,音響信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第十八協立丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る大宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが,大宝丸が,見張り不十分で,有効な音響による信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月24日15時00分
 周防灘東部祝島北方
 (北緯33度51.4分 東経131度54.6分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八協立丸 漁船大宝丸
総トン数 499トン 4.98トン
全長 65.02メートル  
登録長   9.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第十八協立丸(以下「協立丸」という。)は愛媛県松山市西垣生地区を基地として山口県及び大分県の諸港に寄航する船尾船橋型の砂利採取運搬船で,A受審人及び船長Cほか3人が乗り組み,空船のまま,船首1.2メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,平成16年12月24日14時20分山口県徳山下松港内の光地区を発し,大分港に向かった。
 C船長は,出港操船に引き続いて船橋当直にあたり,大水無瀬島南端を右舷側に0.2海里ばかり離してつけ回したのち,14時38分大水無瀬島灯台の南東0.5海里に達したとき,船首の出航配置を終えて昇橋していたA受審人に対して大分港の港外まで単独で船橋当直にあたるよう指示したうえ,同人と当直を交替して降橋した。
 A受審人は,C船長から当直を引き継いで間もなく,上関方面から徳山湾に向かう小型貨物船2隻を左舷方に認めたので左転して避航したのち,14時48分大水無瀬島灯台から181度(真方位,以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき針路を202度に定め,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 A受審人は,定針したのち操舵室前部のフロントガラス前面に置いた椅子に腰掛けて続航中,14時54分大水無瀬島灯台から188度3.6海里の地点において,右舷船首19度1.8海里のところに東行中の大宝丸を視認でき,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めることができる状況にあったが,2隻の小型貨物船を避航したばかりなので,近くに他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず,右転して大宝丸の進路を避けることなく進行した。
 こうしてA受審人は,大宝丸の存在及び接近に気付かないまま続航するうち,15時00分協立丸は,大水無瀬島灯台から192度4.8海里の地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が大宝丸の船首部に前方から51度の角度で衝突した。
 C船長は,船体に衝撃を感じて何事かと居住区から外に出たところ右舷船尾至近距離に大宝丸を認めたので,急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
 当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,大宝丸は,小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和50年10月一級小型船舶操縦士免許取得)と同人の妻が乗り組み,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日05時30分山口県佐賀漁港を発し,同県笠戸島の南方5海里ばかりの漁場に向かった。
 B受審人は,07時00分漁場に到着して金ゲタによる底びき漁を開始し,その後7回ばかり底びき漁を繰り返して操業を終え,14時20分大水無瀬島灯台から225度8.9海里の地点を発し,針路を尾島の北方に向く073度に定め,8.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 ところで,大宝丸は,操舵室を装備していなかったものの,船体中央部に無線機やGPS装置等を置いた棚付きのFRP製格納庫があり,その船尾側に舵輪と機関操作レバーが取り付けられていて,B受審人が航行中に舵輪後方で操舵操船にあたるときは,格納庫の高さが同人の眼高より高いため前方を見通せないので,踏み台に立った姿勢で見張りを行う必要があった。
 B受審人は,漁場を発進したのち妻に前部甲板上で漁獲物の選別を行わせ,自身は舵輪後方で踏み台に立った姿勢で続航中,14時54分大水無瀬島灯台から199度5.2海里の地点に達したとき,左舷船首32度1.8海里のところに南下中の協立丸を視認でき,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを認めることができる状況にあったが,前路を一瞥(いちべつ)して他船はいないものと思い,舵輪後方の踏み台から降りて右舷船尾甲板に立ち,右舷前方の鼻繰瀬戸からの来航船の有無に気をとられ,見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かないまま進行した。
 B受審人は,その後協立丸が避航の気配のないまま間近に接近したが,同船に対して避航を促すよう有効な音響による信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航するうち,大宝丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,協立丸には損傷がなく,大宝丸は,船首部が破損したが,のち修理され,B受審人が全治1週間の胸部打撲を,同人の妻が1箇月の安静を要する左多発骨折及び左血胸を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,周防灘東部において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,南下中の協立丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る大宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行中の大宝丸が,見張り不十分で,有効な音響による信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,周防灘東部を南下する場合,右舷前方から接近する大宝丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,2隻の小型貨物船を避航したばかりなので,近くに他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,大宝丸との衝突を招き,同船の船首部に破損を生じさせたほか,B受審人に全治1週間の胸部打撲を,同人の妻に1箇月の安静を要する左多発骨折及び左血胸を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,周防灘を東行する場合,左舷前方から接近する協立丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前路を一瞥して他船はいないものと思い,右舷前方の鼻繰瀬戸からの来航船の有無に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,協立丸との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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