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平成17年神審第70号
件名

旅客船第一小川丸貨物船ハン ヨン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月26日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史,佐和 明,中井 勤)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:第一小川丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ハン ヨン船長

損害
第一小川丸・・・船首ブルワーク部損壊,乗客2人が頸椎捻挫等の負傷
ハン ヨン・・・損害ない

原因
第一小川丸・・・居眠り運航防止措置不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ハン ヨン・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第一小川丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切るハン ヨンの進路を避けなかったことによって発生したが,ハン ヨンが,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月11日10時02分
 和歌山県潮岬南東方沖合
 (北緯33度23.9分 東経135度50.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船第一小川丸 貨物船ハン ヨン
総トン数 7.3トン 1,996トン
全長 14.95メートル 90.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 330キロワット 1,765キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第一小川丸
 第一小川丸(以下「小川丸」という。)は,平成4年2月に進水し,春先はかつお曳縄漁に,春から夏にかけては,主に,客を乗せてホエールウォッチングに従事するFRP製小型兼用船で,船体中央より後ろに操舵室が設けられ,電気ホーン,GPSプロッター及び魚群探知機が装備されていた。
イ ハン ヨン
 ハン ヨンは,西暦1988年(以下「西暦」を省略する。)9月に進水した,専ら大韓民国インチョン港と大阪港及び神戸港などとの間の貨物輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,船橋にはレーダー2台のほか,自動衝突予防援助装置及びGPSプロッターが装備されていた。

3 事実の経過
 小川丸は,A受審人が1人で乗り組み,乗客4人を乗せ,ホエールウォッチングの目的で,船首0.25メートル船尾0.30メートルの喫水をもって,平成17年5月11日06時00分和歌山県串本漁港を発し,同県潮岬南東方約12海里沖合の海域に向かった。
 A受審人は,07時少し過ぎ前示海域に至り,鯨やイルカを探して移動し,4頭の鯨と多数のイルカを乗客に見せたのち,帰途に就くこととし,09時28分潮岬灯台から138度(真方位,以下同じ。)11.0海里の地点において,針路を332度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分1,450にかけ11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,潮流によって右方に3度圧流されながら進行した。
 A受審人は,操舵室の右舷側にある操縦席に腰を掛け右側の壁に身体をもたれかけた姿勢で見張りに当たっていたところ,航行に支障のある船が前方におらず,視界良好で,鯨やイルカを十分に見せて乗客を満足させた充足感や帰途に就いたことなどから気が緩み,眠気を催してきたが,まさか居眠りをすることはないと思い,窓を開けて外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
 09時53分A受審人は,潮岬灯台から127度6.6海里の地点に達したとき,右舷船首55度2.1海里のところに前路を左方に横切る態勢のハン ヨンを初めて視認したものの,一瞥して左に替わっていくものと思い,同じ姿勢で見張りを続けるうち,居眠りに陥った。
 09時57分A受審人は,ハン ヨンが同方位1.1海里になり,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,居眠りをしていてこの状況に気付かず,速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく進行し,10時02分潮岬灯台から118度5.2海里の地点において,小川丸は,原針路,原速力のまま,その船首がハン ヨンの左舷後部に後方から72度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,ハン ヨンは,大韓民国国籍のB指定海難関係人が同国籍船員6人及びフィリピン共和国国籍船員6人とともに乗り組み,鋼材約2,545トンを積載し,船首4.05メートル船尾5.65メートルの喫水をもって,平成17年5月9日23時00分茨城県鹿島港を発し,大韓民国ピョンテク港に向かった。
 B指定海難関係人は,船橋当直を00時から04時までと12時から16時までを二等航海士と操舵手,04時から08時までと16時から20時までを一等航海士と甲板員,08時から12時までと20時から24時までを自らと操舵手がそれぞれ行う4時間3直制としていた。
 越えて同月11日08時00分B指定海難関係人は,一等航海士と交替して操舵手と2人で船橋当直に就き,09時47分潮岬灯台から105度7.5海里の地点において,針路を260度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて11.1ノットの速力で進行した。
 定針する前,B指定海難関係人は,左舷前方約4海里のところに前路を右方に横切る態勢で北上中の小川丸を双眼鏡で初認したが,まだ距離が遠いのでそのまま続航した。
 09時57分B指定海難関係人は,潮岬灯台から113度6.0海里の地点に達したとき,小川丸が左舷船首53度1.1海里になり,その後,衝突のおそれがある態勢で接近したが,やがて双眼鏡で確認して,同船の船首付近で立ち上がって自船に向けて手を振る女性がいたことから,自船の存在を認識しているので,自船の進路を避けて後方を替わすものと思い,その後,小川丸の動静監視を十分に行うことなく進行した。
 こうして,B指定海難関係人は,小川丸が避航の気配のないまま衝突のおそれがある態勢で接近したが,警告信号を行わず,更に間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中,衝突の直前,左舷船尾至近に迫った同船に気付いたが,どうすることもできず,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,小川丸は,船首ブルワーク部を損壊し,船首甲板上の乗客2人が衝突の衝撃で約2週間の通院加療を要する頸椎捻挫等を負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,和歌山県潮岬南東方沖合において,北上する小川丸と,西行するハン ヨンとが衝突したものであるが,衝突前の両船の関係をみると,互いに進路を横切り,衝突するおそれがある態勢で接近していたことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 小川丸
(1)居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(2)居眠りに陥ったこと
(3)ハン ヨンの進路を避けなかったこと

2 ハン ヨン
(1)動静監視を十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,北上中の小川丸と西行中のハン ヨンとが,互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近して発生したものであり,小川丸が,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば居眠りに陥らず,ハン ヨンの前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付き,同船の進路を避け,衝突を回避できたものと認められる。
 一方,ハン ヨンも,左舷前方から前路を横切る態勢で接近する小川丸を認め,その後,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたとき,双眼鏡で確認し,小川丸の船首付近で立ち上がって自船に向けて手を振る女性がいたことから,自船の存在を認識しているので自船の進路を避けて後方を替わすと判断した後も,小川丸の動静監視を十分に行っていれば,同船が避航の気配のないまま接近したとき,警告信号を行い,更に間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとり,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,小川丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で居眠りに陥り,ハン ヨンの進路を避けなかったこと及びハン ヨンが,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,和歌山県潮岬南東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,北上中の小川丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切るハン ヨンの進路を避けなかったことによって発生したが,西行中のハン ヨンが,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,和歌山県潮岬南東方沖合において,帰港のため北上中,操縦席に腰を掛け壁にもたれかけた姿勢で見張りを続けているうち,航行に支障のある他船が前方におらず,視界良好で,鯨やイルカを十分に見せて乗客を満足させた充足感や帰途に就いたことなどから気が緩み,眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,窓を開けて外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りをすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するハン ヨンに気付かず,速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,小川丸の船首に損壊を生じさせ,乗客2人に約2週間の通院加療を要する頸椎捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が,和歌山県潮岬南東方沖合において,西行中,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する小川丸を認めた際,同船の動静監視を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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