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平成17年神審第86号
件名

貨物船第五拾参宝来丸はしけマルダイB-116衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史,佐和 明,中井 勤)

理事官
宮川尚一,小俣幸伸

受審人
A 職名:第五拾参宝来丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第五拾参宝来丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)
C 職名:第十八山和丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第五拾参宝来丸・・・船首に凹損
マルダイB-116・・・船首部に凹損

原因
第五拾参宝来丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,第五拾参宝来丸が,見張り不十分で,錨泊中のマルダイB-116を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月7日03時55分
 姫路港飾磨区
 (北緯34度45.5分 東経134度39.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第五拾参宝来丸  
総トン数 411トン  
全長 61.32メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 引船第十八山和丸 はしけマルダイB-116
総トン数 97.32トン  
全長   51.00メートル
登録長 24.41メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第五拾参宝来丸
 第五拾参宝来丸(以下「宝来丸」という。)は,昭和61年11月に進水した船尾船橋型の鋼製石材運搬船で,前部甲板上にジブクレーンを装備し,船橋にはレーダー及びGPSプロッターが装備されていた。
イ 第十八山和丸
 第十八山和丸(以下「山和丸」という。)は,昭和57年4月に進水した鋼製引船兼押船で,D社所有のはしけの曳航に従事していた。
ウ マルダイB-116
(1)マルダイB-116(以下「B-116」という。)は,昭和58年に建造された非自航型の鋼製はしけで,専ら山和丸に曳航されて浚渫残土や砕石などの土運船として輸送に従事していた。
(2)簡易標識灯
 B-116は,法定の錨泊灯の代用として,日光弁を内蔵し,単一乾電池4個を電源とする光達距離2.0キロメートル,2秒1閃光で単白光を発するE社製のL-2型標識灯を,船首中央部ウインドラス上で水面上高さ約3.5メートルのところと船尾中央部昇降タラップの水面上高さ約4.5メートルのところに各1個設置していた。

3 宝来丸の船首死角
 宝来丸は,操舵室が上甲板上高さ4.5メートルで船首端から約45メートルのところにあり,同室前端から前方約28メートルのところに,長さ約6.5メートル幅約3.5メートル上甲板上高さ約3.6メートルの運転台付き機械室及び長さ約25メートルのブームを有するジブクレーンを装備していたが,当時ブームは格納されており,さらに,満船に近くトリムも少なかったことから,船首死角はなく,操舵室からの見通しは良かった。

4 事実の経過
 宝来丸は,A受審人及びB受審人がほか1人と乗り組み,砕石約1,000トンを積載し,船首2.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年10月7日03時30分兵庫県姫路港飾磨区第1区船場川8号岸壁を発し,大阪港堺泉北区に向かった。
 A受審人は,法定灯火を表示し,離岸操船に引き続き,自ら操舵輪後方に立って手動操舵に就き,船尾から出港配置を終えて昇橋してきた機関長に機関の遠隔操縦を任せ,レーダーをスタンバイ状態にしたものの作動させることなく姫路港飾磨航路を南下した。
 03時50分少し過ぎA受審人は,飾磨東防波堤灯台から225度(真方位,以下同じ。)300メートルの地点において,飾磨航路南方出入口の南東方に錨泊中の貨物船の灯火を認め,同航路を通過したのち左転すると同船に接近することとなるので,早めに航路外東方に出ることとし,針路を110度に定め,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 B受審人は,船首での出港配置を終えて船首の500ワットの作業灯を消し,03時50分半次の船橋当直に就くために昇橋したが,まだ暗さに目が慣れておらず,見張りを十分に行える状態ではなかった。
 03時51分少し前A受審人は,飾磨東防波堤灯台から213度270メートルの地点に達したとき,正船首820メートルのところに,錨泊中のB-116が表示している2秒1閃光の白色点滅灯2個を視認できる状況であったが,出港配置から昇橋した見張りの補助者となる2人がいたことから大丈夫と思い,前路の見張りを十分に行わなかったので同船の存在に気付かないまま機関回転数を徐々に上げて続航した。
 A受審人は,前路で錨泊中のB-116の存在に気付かず,右転するなど同船を避けることなく,増速しながら進行中,03時55分飾磨東防波堤灯台から129度800メートルの地点において,宝来丸は,同一針路のまま7.0ノットとなった速力で,その船首がB-116の船首部に右前方から5度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西風が吹き,視界は良好であった。
 また,B-116は,C受審人がほか2人と乗り組む山和丸の左舷側に空倉のまま横抱きされ,船首尾とも0.8メートルの等喫水をもって,平成16年10月6日14時10分姫路港飾磨区を発し,同港の錨地に向かった。
 C受審人は,14時30分姫路港飾磨航路から東方に約800メートル離れた船舶が輻輳しない前示衝突地点の水深10メートルのところにB-116の船首錨を投じて錨鎖5節を延出して錨泊させ,黒球を掲げて船首尾の簡易標識灯の点灯の確認をしたのち,山和丸で揚土場である姫路港飾磨区中島岸壁に係留中の他のはしけに向かい,同船に横付けして待機した。
 こうして,B-116は,前示錨泊地点で無人のまま錨泊中,船首が285度に向いていたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,宝来丸の船首及びB-116の船首部にそれぞれ凹損を生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 宝来丸
(1)特定港に出入りするとき命令の定める航路を航行しなかったこと
(2)A受審人が,見張りの補助者2人がいるので大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかったこと
(3)B受審人が,見張りを十分に行えなかったこと
(4)錨泊中のB-116を避けなかったこと

2 B-116
(1)法定の錨泊灯の設備がなかったこと
(2)簡易標識灯を表示していたこと

(原因の考察)
 本件衝突は,姫路港において,出航中の宝来丸と錨泊中のB-116が衝突したものであるが,宝来丸が見張りを十分に行っておれば,錨泊中のB-116の存在に気付いて同船を避け,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,見張りの補助者2人がいるので大丈夫と思い,見張りを十分に行わず,B-116を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 B受審人が,船首の出港配置を終え,すぐに昇橋した数分後に衝突しており,宝来丸の当時の運航模様を勘案すると,同人が見張りを十分に行えなかったことは,本件発生の原因とならない。
 宝来丸が,特定港に出入りするとき命令の定める航路を航行しなかったことは,遺憾なことであるが,同船が航路を離れてから,衝突に至るまで約4分間あり,見張りを十分に行っていれば錨泊禁止区域でない海域に錨泊中のB-116との衝突を回避でき,本件発生との間に相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,同種海難防止の観点から,是正されるべき事項である。
 B-116が,法定の錨泊灯である光達距離3海里の白色全周灯2個の設備がなく,光達距離2キロメートルの簡易標識灯しか表示していなかったことは,遺憾なことであるが,宝来丸が,B-116に向首したときの距離が約800メートルで,見張りを十分に行っておれば同灯火を視認でき,衝突を回避できたと認められるから,本件発生の原因としないが,今後,同種海難防止の観点から,是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,兵庫県姫路港飾磨区において,宝来丸が,出航する際,見張り不十分で,錨泊中のB-116を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,兵庫県姫路港飾磨区において,出航する場合,錨泊中のB-116を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,出港配置を終えて昇橋した見張りの補助者が2人いるので大丈夫と思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中のB-116の存在に気付かず,右転するなど同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き,宝来丸の船首及びB-116の船首部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人及びC受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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