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平成17年横審第52号
件名

漁船第八福吉丸漁船第八十六稲荷丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢,岩渕三穂,古城達也)

理事官
供田仁男,河野 守

受審人
A 職名:第八福吉丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
a
受審人
B 職名:第八十六稲荷丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
b

損害
第八福吉丸・・・船首部に擦過傷
第八十六稲荷丸・・・船首部に曲損

原因
第八十六稲荷丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー,速力)不遵守,見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第八福吉丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー)不遵守,動静監視不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第八十六稲荷丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったばかりか,第八福吉丸を目視できるようになった際,見張り不十分で,漂泊中の同船を避けなかったことによって発生したが,第八福吉丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったばかりか,第八十六稲荷丸を目視できるようになった際,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月6日01時00分
 銚子港沖合
 (北緯35度48.0分 東経140度57.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八福吉丸 漁船第八十六稲荷丸
総トン数 82トン 81トン
全長   37.96メートル
登録長 31.10メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット 672キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八福吉丸
 第八福吉丸(以下「福吉丸」という。)は,昭和59年1月に進水した大中型まき網漁業船団付属のバウスラスターを装備した鋼製探索船で,操舵室前部中央に操舵スタンド,その右側に機関遠隔操縦装置,両舷にレーダー各1台,左舷後方に魚群探知機,GPSプロッター等の航海計器を装備し,法定灯火に加え,マストに船団標識灯である緑色全周灯2灯,魚群を発見したときに点灯する赤色全周灯(以下「赤灯」という。),赤色回転灯を備えていた。
イ 第八十六稲荷丸
 第八十六稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)は,昭和59年7月に進水した大中型まき網漁業船団付属のバウスラスターを装備した鋼製探索船で,操舵室前部中央に操舵スタンド,その右側に機関遠隔操縦装置,それらの両脇にレーダー各1台,左舷端にGPSプロッター等の航海計器,魚群探知機をそれぞれ装備し,法定灯火に加え,マストに船団標識灯である黄色全周灯2灯,赤灯,赤色回転灯,青色回転灯を備えていた。

3 事実の経過
 福吉丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,操業の目的で,船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成16年7月5日22時00分銚子港内の千葉県銚子漁港を船団の僚船とともに発し,折から霧により視程が500メートルに狭められた視界制限状態の中,法定灯火に加え,赤色回転灯,船団標識灯を表示し,同港沖合の漁場へ向かった。
 A受審人は,霧中信号を行うことなく,操舵スタンド後方に置いた椅子に腰をかけて操舵操船に従事し,航海士及び甲板員を見張りに,通信士を魚群探知機の操作にそれぞれ当たらせて沖合に向かい,港界を過ぎたころ,0.5ないし0.75海里レンジとしたレーダー画面上に数隻の映像が映る状況下,速力(対地速力,以下同じ。),針路を適宜変更しながら魚群探索を開始した。
 ところで,銚子港沖合で操業するまき網漁業会社間では,規則として決められていなかったものの,魚群を探知した船団は赤灯を表示して周囲で魚群を探索する他の船団に周知することとし,また,同灯を視認した他の船団は,操業の妨げにならないよう,同灯を表示した船団を迂回することになっていた。
 翌6日00時30分A受審人は,北北西方に極低速力で移動する魚群を発見して赤灯を表示し,約300メートル南西方向に離れた網船と魚群を挟み込むように,その動きに合わせて時折機関を極微速力前進にかけて進行し,00時55分銚子港東防波堤川口灯台(以下「川口灯台」という。)から057度(真方位,以下同じ。)5.2海里の地点に達したとき,ほぼ漂泊状態となって網船の投網開始を待った。
 00時57分少し前A受審人は,船首が315度を向首しているとき,レーダーにより左舷船尾67度1,000メートルに稲荷丸の映像を探知でき,その後同船が自船に向首し,衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 00時58分半A受審人は,左舷船尾67度500メートルに霧の中から現れた稲荷丸の灯火を初めて目視したが,自船が赤灯を表示していることから,稲荷丸が接近しても避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかったので,その後稲荷丸が自船に向首し,衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,機関をかけて移動するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中,01時00分川口灯台から057度5.2海里の地点において,315度を向首した船首部に,稲荷丸の船首部が後方から67度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風力5の南南西風が吹き,波高2メートルの南南西方からのうねりがあり,視程は500メートルで,千葉県全域に濃霧注意報が発表されていた。
 また,稲荷丸は,B受審人ほか4人が乗り組み,操業の目的で,船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,同月5日22時30分銚子港内の茨城県波崎漁港を船団の僚船とともに発し,折から霧により視程が500メートルに狭められた視界制限状態の中,法定灯火に加え,船団標識灯を表示して同港沖合の漁場に向かった。
 出港操船後B受審人は,手動操舵を甲板員と交代して操船指揮に当たり,一等航海士,甲板員を見張りに,通信長を魚群探知機の操作に当たらせ,安全な速力にすることも,霧中信号を行うこともなく,銚子港の港界に達したころ,0.5ないし0.75海里レンジとしたレーダー画面上に数隻の映像が映る状況下,針路,速力を適宜変えながら魚群探索を開始した。
 翌6日00時50分B受審人は,川口灯台から071度3.95海里の地点に達したとき,再び操舵に就き,針路を022度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの速力で進行中,00時57分少し前川口灯台から061度4.75海里の地点に達したとき,正船首1,000メートルに漂泊中の福吉丸のレーダー映像を認めることができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じないまま進行した。
 00時58分半B受審人は,霧の中から現れた福吉丸の灯火を正船首500メートルに目視できるようになり,その後衝突のおそれのある状況となったが,そのころレーダー画面左舷方に映っていた他船団が投じた網に気をとられ,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けないまま続航した。
 00時59分少し前B受審人は,正船首間近に福吉丸の灯火を初めて認め,機関を微速力前進に減じ,次いで全速力後進としたが及ばず,ほぼ原針路のまま,約3ノットとなった速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,福吉丸は,船首部に擦過傷を,稲荷丸は,船首部に曲損をそれぞれ生じたが,稲荷丸はのち修理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,霧のため視程が500メートルに制限された銚子港沖合において,魚群探索中のため北上中の稲荷丸と,魚群を探知して漂泊中の福吉丸とが衝突したものであり,海上衝突予防法第19条視界制限状態における航法を適用するのが相当であるが,両船が500メートルに接近すると,互いに目視できるようになり,その操船性能からして避航措置をとる時間的,距離的余裕があったと考えられるので,同法第38,39条船員の常務も併せて適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 福吉丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(3)稲荷丸の灯火を目視しても,赤灯を表示しているから接近しても避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 稲荷丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力にしなかったこと
(3)レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(4)針路を保つことができる最小限度の速力に減じなかったこと
(5)福吉丸を目視できるようになっても,見張りを十分に行わなかったこと
(6)福吉丸を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,福吉丸が,霧で視界制限状態となった銚子港沖合において,魚群を探知して漂泊中,霧中信号を行っていれば,稲荷丸に自船の存在を認知させることができ,また,レーダーによる見張りを十分に行っていれば,稲荷丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かったものと認められる。
 さらに,霧の中から現れた稲荷丸の灯火を目視した際,動静監視を十分に行っていれば,同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,警告信号を行うことも,更に接近したとき衝突を避けるための措置をとることもでき,衝突を防止できたものと認められる。
 従って,A受審人が,霧中信号を行わなかったこと,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったこと,稲荷丸の灯火を目視した際,赤灯を表示しているから同船が接近しても避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 一方,稲荷丸が,霧で視界制限状態となった銚子港沖合において魚群探索中,霧中信号を行っていれば,福吉丸に自船の接近を認知させることができ,また,レーダーによる見張りを十分に行っていれば,福吉丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことが分かり,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることができたものと認められる。
 さらに,霧の中から現れた福吉丸を目視できるようになった際,見張りを十分に行っていれば,同船に向首し,衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり,同船を避けて衝突を防止できたものと認められる。
 従って,B受審人が,霧中信号を行わなかったこと,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと,福吉丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じなかったこと,福吉丸を目視できるようになった際,見張りを十分に行わなかったこと,同船を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 稲荷丸が,安全な速力としていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧のため視界制限状態となった銚子港沖合において,稲荷丸が,霧中信号を行わなかったうえ,レーダーによる見張り不十分で,漂泊中の福吉丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じなかったばかりか,福吉丸を目視できるようになった際,見張り不十分で,同船を避けなかったことによって発生したが,福吉丸が,霧中信号を行わなかったうえ,レーダーによる見張り不十分で,かつ,稲荷丸を目視できるようになった際,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,霧のため視界制限状態となった銚子港沖合を魚群探索のため北上中,前路で漂泊中の福吉丸の灯火を目視できるようになった場合,同灯火を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,レーダー画面に映った他船団の投じた網に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,福吉丸の灯火に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,自船の船首部に曲損を,福吉丸の船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,霧のため視界制限状態となった銚子港沖合において,魚群を探知して漂泊中,接近する稲荷丸の灯火を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が赤灯を表示しているので稲荷丸が接近しても避けていくものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,稲荷丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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