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海運業界及びKL声明
 
 沿岸3ヵ国は、マラッカ・シンガポール海峡の航行安全の向上のため30年以上協力してきた。過去2年間には、沿岸3ヵ国は協力レベルを新しいレベルに進め、第43条に従って、利用国との協力メカニズムを確立するために前進してきた。これらの前進は、2005年のバタム共同声明7、2005年のジャカルタ声明8、2006年のKL声明9に記載されている。
 
 海運業界と非政府団体による自主的貢献制度は、KL声明に記載された沿岸3ヵ国間の最新協定と一致している。
 
 第一に、航行安全を向上させるためにKL会議で沿岸3ヵ国が提出した6つのプロジェクトの一つは、マラッカ・シンガポール海峡における航行援助施設の更新と維持管理に関するプロジェクト第5号である。
 
 第二に、KL声明で合意された点の一つは、上記プロジェクトの資金調達メカニズムの確立及び当海峡の航行援助施設の維持管理・更新のため、海運業界及びその他利害関係者が沿岸国及び利用国と協力しなければならないということである。
 
 第三に、KL声明で合意されたもう一つの点は、航行安全及び環境保護について沿岸国、利用国、海運業界、その他の利害関係者の間の対話と緊密な協力を促進する協力メカニズムの確立である。
 
 プロジェクト第5号(訳者注:原文誤り)と資金調達メカニズム及び対話メカニズムに関する詳細は、2007年9月にシンガポールで開かれるフォローアップのIMO会合において、沿岸国より提出されると期待されている。それと同時に、海運業界の代表者は、当海峡の航行援助施設の維持管理・更新のための資金調達メカニズムの確立について沿岸国と協力するため、対話メカニズムの確立を受け入れることを示すべきである。こうした行動は、UNCLOS第43条の目的達成に向けた重要なステップとなろう。これらの問題について沿岸国と対話を行うメカニズムを確立することによって、海運業界は、当海峡の航行安全と環境保護を向上させるため沿岸国と協力する企業の社会的責任の意味を認識していることを示すことになる。
 
民間企業による自主的貢献はUNCLOSと両立している
 
 UNCLOSの下で、沿岸国はその領海内の国際航行に利用される海峡における航行援助施設のシステムを構築する明確な義務を有してない。沿岸国の唯一の義務は、海峡内の航行に関し、沿岸国が知っている危険について適切な公表を行うことである(第44条)。しかし、1974年海上人命安全条約(SOLAS)10第5章、航行援助施設の設置と運営に関する規則13では、各締約国政府は、
 
 個々に、または他の締約国政府と協力して、実際的かつ必要と考える場合、通航量から正当化され、危険の度合から必要な場合、航行援助施設を提供する義務を負う
 
と規定されている。
 
 さらに、規則13は、当該航行援助施設を設置する場合、締約国政府は国際勧告と指針を考慮する義務を負うと規定している。
 
 国際航行に利用される海峡の安全と環境保護に関して利用国と沿岸国間の協力を求めるUNCLOSの規定は第43条である。注釈者によると、第43条は、マラッカ海峡のような海峡を意識して起草されたものであるという。11同条は利用国及び沿岸国は「合意により協力すべきである」と規定している。UNCLOS第3部の起草を担当した主要関係者の一人Satya Nandanによると、第43条の目的の一つは、沿岸国が通航船舶に一方的に料金を課さないようにすることであったという。12
 
 第43条が国際航行に利用される海峡を通航する船舶に対して一方的に料金を課さないことを意図したものだとすれば、これは領海の無害通航に関する第26条と一致する。UNCLOS第26条は、領海を通航するという理由だけで外国船舶が通航料や料金を課されてはならないとしているが、沿岸国は領海の通航船舶に対し、無差別に、「船舶に実際に与えられたサービス」の料金を課すことができると規定している。第26条の目的は灯台使用料や係船浮標使用料など船舶に対する一般的サービスに対する料金徴収を禁じるが、曳航や水先案内などの船舶への特定のサービスに対する料金は認めるということである。13
 
 第43条は、沿岸国と利用国間の協力を促進し、助長することを意図したものである。「すべし」という言葉が使われているため、第43条の用語は勧告的であるが、文脈と目的に照らして読むと、その言葉は利用国が沿岸国と誠実に交渉して協力への合意に達する努力をするよう求めているように思われる。Satya Nandanは、利用国が協力への正当な要請を拒否した場合、それはUNCLOS第300条に基づく権利の濫用になるかもしれないと示唆している。14さらに、第43条の解釈及び適用に関する利用国と沿岸国間の紛争を解決するため、第15部には強制力のある紛争解決に関する規定がある。
 
 第43条は、航行援助施設の設置と維持管理の費用、新しい灯台や浮標の設置などの事例や深喫水の船舶に対する新しい水路の浚渫などの活動経費を負担するための国際協力の基礎を提供している。第43条で想定されている協力は沿岸国と利用国間の合意による協力である。第43条に基づく協力は直接でもよいし、国際組織を通してもよい。第43条に基づく利用国と沿岸国間の合意は正式な条約でも非公式な取り決めでもよく、様々な形式を取ることができる。ある利用国が沿岸3ヵ国と協定を締結し、航行援助施設の維持管理のために、1つあるいは複数の沿岸国に直接の技術援助または財政援助を提供することは可能である。別の利用国が港湾入港の条件として、海峡通過後に港湾に入港する船舶に対し手数料を課し、当該手数料を海峡の航行援助施設を維持管理するための基金に支払うことを沿岸3ヵ国と合意することもできる。また沿岸3ヵ国と利用国は、海峡の航行援助施設を維持管理・交換し、海峡の航行安全を他の面でも改善するため、沿岸国による基金の設立に合意することができる。さらに、利用国と沿岸国は、利用国の国民が船舶を所有している場合、または船舶が海峡を通過した後で利用国の港湾に寄港する場合、利用国は海峡を通過する船舶を保有する海運会社に対し基金に寄付するよう促すことを合意できる。
 
 結論として、第43条は国際航行に利用される特定海峡の航行安全を改善するため協力する利用国と沿岸国間の合意を想定している。第43条は、港湾入港の条件として利用国が特定の海峡を通過する船舶に料金を課すことができるという、利用国と沿岸国の合意を妨げるものではない。また、第43条は、民間企業(及びその他非政府組織)が航行援助施設やその他安全装置の設置と維持管理、そして海峡の航行援助施設の改善のために沿岸国が設立した基金に白主的寄付を行うことを排除していない。仮に、この基金が沿岸国と主要利用国間の合意に従って設立され、IMO及び主要な国際海運団体により承認されるなら、それは国際航行に利用されるその他多くの海峡で踏襲される先例を確立することにはならないだろう。
 
ロバート・ベックマン(RSIS)
 
7 シンガポールMFA報道発表として発行された、マラッカ・シンガポール海峡に関する第4回沿岸3ヵ国閣僚会議のバタム共同声明、2005年8月2日。
8 マラッカ・シンガポール海峡の安全、セキュリティ、環境保護の向上に関するジャカルタ声明、2005年9月8日、IMO/JKT 1/2
9 マラッカ・シンガポール海峡の安全、セキュリティ、環境保護の向上に関するクアラルンプール声明、2006年9月20日、IMO/KUL 1/4、以下のIMOホームページでオンラインにより入手できる。
10 1974年11月1日に採択され、1980年5月25日に発効している。修正本文は以下のU.S. Coast Guard Navigation Centerのオンライで入手できる。
http://www.navcen.uscg.gov./marcomms/imo/default.htm
11 S.N. Nandan and D.H. Anderson、「国際航行に利用される海峡:1982年国連海洋法条約の第3部に関する論評」、60英国国際法年鑑 159-204(1989)の193ページ。
12 Satya N Nandan、「1982年国連海洋法条約の国際航行に利用される海峡に関する規定」、(1998)2 シンガポール・ジャーナル・オブ・インターナショナル&コンパラティブ・ロー393-399の397ページ。
13 1982年国連海洋法条約:註解書、第2巻(Satya N. Nandan and Shabtai Rosenne, editors, Martinus Nihoff, 1993)の235ページ。
14 Satya Nandan, 上記12の397-398ページ。


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