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マラッカ・シンガポール海峡における航行安全と環境保全の向上に関するシンポジウム報告書

 事業名 マ・シ海峡の航行安全対策等の費用対効果と費用負担に関する調査
 団体名 運輸総合研究所 注目度注目度5


資料2-3 インドネシアからのプレゼンテーション関係資料
(仮訳)
UNCLOS1982に関連したマラッカ・シンガポール海峡の安全向上と環境保護に関する利用者の役割
ハシム・ジャラール
東南アジア研究センター
 
1 UNCLOS(国連海洋法条約)1982に関連したマラッカ海峡における航行安全及び環境保護の向上に関する利用国の役割を論ずるに際して、我々は論議を利用国が出来得ることに限定すべきではなく、他の利用者−海運会社、石油輸出業者のほかマラッカ・シンガポール海峡を経済、貿易、輸送の場として利用する輸入業者など−がなし得ることも調査すべきであると提案したい。事実、マラッカ・シンガポール海峡を通過目的で利用するあらゆる商業、貿易上の活動は、当海峡の航行安全と環境保護の向上に貢献するべきであり、また、貢献するよう要求されて然るべきである。
 
2 UNCLOS1982の第43条では、協力は「海峡利用国と海峡沿岸国」の間で行うべきであると規定されているが、私の意見では、これはUNCLOS1982が基本的に独立主権国家間の条約であったためである。第43条には、その他の利用者をこうした義務または協力の奨励から除外することを禁止する規定はない。
 
3 海峡沿岸国と利用者の間の協力問題は、国際航行のために利用される幅24マイル未満の海峡での通航制度に関する長い交渉で達成された、最も基本的な妥協の一つであった。多くの人が知るとおり、沿岸国、特にインドネシアとマレーシアは、領海の一部を形成する海峡の通航制度は、1958年ジュネーブ条約の領海に関する制度に従った「無害通航」制度でなければならないと主張した。他方、おそらく沿岸国以上に海峡を広範囲に通過のため利用している海運国は、かかる海峡を通る「航海の自由」の体制を適用したいと望んでいる。こうした2つの全く相反する立場の妥協を図る様々な試みは、第43条、すなわち、「通過航行」は認められたが、同時に利用者は、航行及び安全のために必要な援助施設の維持に当たって沿岸国に協力し、助力するよう求められ、また、船舶からの汚染の防止、軽減及び規制をするよう求められる、という趣旨の規定によって最終的に解決が図られた。
 
4 UNCLOS1982の採択から25年間、また、1994年に発効してから13年間、利用国や利用国の企業は、船舶の通過・通航により必要性が生じた、または生じる可能性のある、海峡における航行安全の維持または環境保護のための支払いまたは貢献を何らすることなく海峡を利用し、それによって様々な利益を継続的に得てきた。他方、沿岸国は、航行安全を向上し海洋環境を保護するため、多くの資金を支払い、また努力を行ってきた。多くの利用国、特に先進海運国の財政能力とは異なり、特定の沿岸国、特にインドネシアの財政能力は、非常に限定されているということ、また一方で、同国はマラッカ・シンガポール海峡以外の別の海域で多くの他の問題や懸念を抱えているということに留意すべきである。
 
5 海洋法条約の交渉中に、こうした問題を解決するための幾つかの提案が行われた。それは、海峡の通航を容易にするために行った海峡沿岸国に対し、利用国は補償を提供するようにとの提案であった。提案された方式は、海運国が反対している料金や通航料を意図していなかった。一方、航行援助施設の設置及び維持管理において、安全通航を維持または促進するその他の措置の採用において、または、特定の船種の事故の際の汚染または危険に対する何らかの予防手段を取る必要がある場合において、海峡沿岸国は援助を受けるべきだという解釈には、強い支持があった。賦課金の徴収方法、またはその使途、管理の方法について幾つかの議論があった。そして、国際機関によって特別基金を設立・管理し、安全通航の維持・促進のために、そして沿岸国が受けた、または受けるであろう損害・被害に対する沿岸国への補償のために、当基金が使われるべきである、という提案さえ行われた。しかし、UNCLOS1092以来、1981年の回転基金設立により日本が行った幾つかの措置を除き、この考えに関する具体的な動きはなかった。
 
6 コスト分担の考え方は、英国の提案を含め、その他の提案によりその後再び繰り返された。沿岸国がそもそも一種の「補償を受ける権利」について議論したのに対し、英国版は制度化・義務化には幾分消極的であるという点で、英国の提案は沿岸国の提案とは幾分違っていた。
 
7 海峡を単に通過する船舶に料金を課すという意見は一般に海運国には受け入れられなかったが、賦課金を「船舶に対して行われた特定のサービスのみに対する支払いとして」外国船舶に課すことは可能かもしれない。これらの賦課金は無差別に課せられなければならない(UNCLOS第26条)。したがって、問題は賦課金が認められるかどうかではなく、賦課金が差別的かどうかである。
 
8 UNCLOS1982の採択から25年が経ち、その間、海峡の安全航行の促進のため多くの努力が行われてきた。今では、利用者は今や何らかの形で海峡の安全航行及び海洋環境の保護を促進するために貢献すべきだと思われる。とりわけ、現在ますます多くの船舶が海峡を利用しており、航行安全を促進し船舶による汚染から環境を保護することで沿岸国はしばしば多くの問題に直面しているため、私には海峡を利用する際に「フリーライダー」でいられる期間は今や終わったと思われる。
 
9 実際、日本は非常に早い段階からこの問題を理解していたと思われ、海峡における航行安全の促進に実質的に貢献してきた。具体的には、共同水路測量調査の援助、航行援助施設の設置、UKC3.5メートルなど航行に係る特定の合意の制度化、分離通航制度(TSS)の確立、海峡で船舶によって生じた油汚染の問題に対処するため沿岸国が緊急措置を取ることを支援する1981年の回転基金の設立、において貢献してきた。
 
10 その他の利用者は同様の関心を示さず、逆に彼らは、援助を提供することなしに、沿岸国はあらゆる種類の脅威から船舶を守るべきだと主張し続けている。幸い、最近こうした沿岸国の努力を支持する利用者もあり、2005年9月にジャカルタで行われたマラッカ・シンガポール海峡に関する最近の会議では、利用者が海峡における航行安全と安全保障の促進を支援する意欲を示し、ある程度の進展があった。日本、中国、韓国、米国などの一部の国は、特にキャパシティ・ビルディング、技術支援、その他の必要と思われる設備の分野で援助を必要とする沿岸国の負担を分担する意欲さえ示している。事実、これらの国々の一部は、ニーズの特定とその必要量を示すよう沿岸国に要請しており、それに基づいて、これらのニーズに応えるため、どの分野で、どのように沿岸国を支援できるか検討できるとしている。
 
11 2005年9月のジャカルタ会議、その他の展開及びその後の会議における結果に基づいて、沿岸国、特にインドネシアが既にこの問題を検討し、そのニーズをより具体的に特定する過程にあると私は理解している。現在、インドネシアは少なくとも航行安全のため、数年にわたり実施する4,100万米ドル以上の経費を要する6つのプロジェクトを提出している。中国が特定のプロジェクト、特に、津波で被害を受けた航行援助施設の更新に関するプロジェクト第6の支援・資金援助の提案を行ったことは喜ばしい。そのうち他国も同様な約束をしてくれることを私は希望する。また、沿岸国は、統合海事システム、追加の航行援助システム、また、より効果的でより近代的な通信施設とレーダーを整備し、当海峡における取り締まり及びパトロールを行うための多くの船舶と航空機も必要であると私は理解している。また、沿岸国は訓練、技術支援なども必要である。私の希望は、沿岸3ヵ国が6つのプロジェクトで示したように、コスト効果と効率性を達成するため、この問題に関する彼らのニーズを調整できるようになることである。
 
12 皆が既に知っている通り、マラッカ海峡において津波で被害を受けた航行援助施設の更新に関するプロジェクトのほか、その他のプロジェクト提案には次のようなものがある。
 
a. マラッカ・シンガポール海峡の分離通航帯(TSS)内の沈船除去。これまでに12の沈船が確認されており、その全部は事実上マレーシア及びシンガポールの海域内またはその近くにある。除去を行うには約5年間で1,900万米ドル程度の経費を要する。この中には、シンガポール海峡のインドネシア海域内の分離通航方式(TSS)付近にあるCC Hyundai 105の沈船は含まれていない。シンガポール海域を通航して自動車を運送していたHyundai 105は2004年マレーシア船舶と衝突し、不可解な理由と状況によりバタム近くのインドネシア海域で沈没した。
 
b. マラッカ・シンガポール海峡における有害危険物質(HNS)への準備と対応に関するキャパシティ・ビルディング。HNS対応センターの設置場所として提案された6地点は、事実上すべて、マレーシアとシンガポールであることが確認されている。インドネシア海域または沿岸における対応センターは提案されていない。本プロジェクトのコストは2年間で350万米ドル程度と見込まれている。
 
c. 小型船舶向けクラスB船舶自動識別装置(AIS)トランスポンダーの実演プロジェクト。本プロジェクトは約6ヵ月で40万米ドルを要する見込みである。
 
d. 航行安全と海洋環境の保護を向上させるためのマラッカ・シンガポール海峡における潮汐、潮流、風測定システムの設置。このプロジェクトは4年かかると見込まれ、4年目末にシステムの見直しが行われる。測定システムの設置場所として12地点が提案されている。本装置の設置に要する当初資金は約774,400米ドル、海岸観測所の委託に対する初年度コストは約66,000米ドル、その後運営第4年度までの年間維持管理コストは561,000米ドルになると見込まれる。また4年間の総コストは1,401,400米ドルになると見込まれる。
 
e. マラッカ・シンガポール海峡における航行補援助施設の更新と維持管理。現在、マラッカシンガポール海峡には選別された約29の航行援助施設があり、その大半はインドネシアの海域にある。依然使用可能なものもあるが、一部は状態が悪く、紛失したものさえある。プロジェクト遂行には10年を要し、10年間の更新及び維持管理コストは18,225,000米ドルと見込まれている。
 
f. マラッカ・シンガポール海峡で津波事故により被害を受けた航行援助施設の更新。現在、マラッカ海峡、特にアチェ州マラッカ側の海峡には、津波により損害を受け、または破壊された7つの航行援助施設がある。津波により被害を受けた航行援助施設の更新コストは276,000米ドルと予想され、更新には約3年かかる予定である。中国が、クアラ・ルンプールで行われた前回の会議(2006年)において本プロジェクトを実施する意図を既に表明しており、プロジェクトを実行するため一部の技術準備作業が現在進行中だと理解している。
 
13 全体として、この6つのプロジェクトは、数年間、一部は最長で10年間継続することとなり、6つのプロジェクトが実施される全期間中に約42,802,400米ドルを要する見込みである。日本など1国の支援がある場合でも、こうした金額を全て沿岸3ヵ国のみが負担する一方で、航行安全及び環境保護の促進による恩恵をその他の利用者(国家、企業、または団体など)が享受するとしたら、不公平だと私には思われる。
 
14 当海峡における安全、セキュリティ、海洋環境保護を促進する費用を寄付する方法については様々な方式がある。それは関係する沿岸国と寄付者(国家、国際機関、民間企業、団体など)間の相互間の取り決めにより行うこともできる。この場合、寄付者はニーズを考慮して援助できるものを選ぶことができ、このような形で、関係沿岸国を支援する寄付または援助の方法は、関係者の間でのバイ(二国間)の問題となる。インドネシアはこうした方法を選択すると私は理解している。
 
15 沿岸3ヵ国と関係する寄付者によって、おそらく当海峡における航行安全及び環境保護の促進のための特別な基金の創設という可能性もある。この場合、特別な基金は沿岸3ヵ国によって関係寄付者との協力で管理され、環境汚染防止のために設立された現在の回転基金の管理と非常に似たものとなろう。
 
16 当海峡における航行安全及び環境保護の促進のための特別基金の設立の場合には、基金は寄付を行う緊急性に注目し、国家またはその他の各利用者によって直接的に、かつ任意で寄付されるか、または沿岸3ヵ国とおそらくIMO事務局が代表する利用者の間の協力により管理される可能性がある。既に設立された回転基金、ASEAN基金、大陸棚委託基金、南シナ海基金、特別信託基金、国際海底機構の寄付基金とは違い、航行安全及び海事セキュリティのための基金の額はニーズが大規模であるため、巨額なものとなろう。
 
17 何れにせよ、原則的に受け入れ可能な基金設立のための基本規則は、沿岸3ヵ国が、利用者の意見を考慮しながら起草し、決定しなければならないだろう。
 
18 マラッカ・シンガポール海峡の利用者による航行安全及び環境保護のための寄付は、1981年から設立されている回転基金と関連させ、同基金に加えることも可能かもしれない。この場合、回転基金は当海峡の海洋環境おける船舶に起因する油汚染の軽減だけを意図したものであるため、1981年2月11日のインドネシア・マレーシア・シンガポール及び日本のマラッカ海峡協議会の間で締結された覚書(MOU)は、その付属書類を含めて再検討し、拡大させる必要があるかもしれない。しかし、インドネシアは、航行安全の促進のための基金と、現在の環境保護を目的とした回転基金とは別にする方を望んでいると私は理解している。
 
19 沿岸国と利用者の間の将来の協力に関するこれらの方式が、国家または民間企業など利用者の意見と関心を考慮した上で、沿岸3ヵ国−すなわちTTEG(沿岸3ヵ国技術専門家グループ)又は沿岸3ヵ国の上級官吏−によって決定されることを、私は提案したい。基金が設立された場合、利用者が基金に惜しみなく寄付すること、また自らのためと同時に沿岸国の保護のため、航行安全を促進するため沿岸3ヵ国によって作成された6つのプロジェクト案に惜しみなく寄付することを、私は心から希望する。そうすることは、最終的に、利用者が自分で当海峡を管理し海兵隊を派遣することを企てるより、政治的により現実的で法律的により受け入れられ易いだろう。さらに、長期的には利用者にとっても沿岸国にとっても安上がりだと私は信じている。
 
20 最後に、私はこの非政府会合の参加者全てに対し、マラッカ・シンガポール海峡について今年シンガポールで開催される次回正式会議の成功のために貢献していただくよう、そして昨年(2006年)クアラ・ルンプールで行われた前回のマラッカ・シンガポール海峡に関する会議で沿岸3ヵ国が提出したプロジェクト提案に対する貢献と支援を特定し、具体化していただくよう、お願いしたい。
2007年3月14日、クアラ・ルンプール
 
ハシム・ジャラール教授
(東南アジア研究センター)


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更新日: 2020年4月4日

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