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 前頭前野は一つ目に「不適切な行動を抑制する」という働きがありブレーキの役割を果たすのです。また、突発的な状態の時に瞬時にどう行動したらよいかを決定する場所なのです。二つ目は「物事を頭に浮かべて計画や概念を作り出す」、目先の事に捕らわれない長期的な利益を選択します。三つ目は「感情を体験して知覚に意味を持たせる」、四つ目は「注意、集中」、思考に波長を合わせて物事に集中する場合に関与してきます。だからここの働きが駄目になった場合には「やる気がない、無計画、善悪の判断が利かない」といった要するに動物的本能で行動するという事が起こりやすくなります。一八四八年の話ですがイギリスに鉄道工事の主任をやっていた好青年で真面目、勤勉な二十五歳の男性がいました。ある日、爆発事故で鉄の棒が吹き飛び彼の左上額から前頭部にかけて穴が空いてしまいました。記録には「両脇を抱えられて病院に行った」とありますので歩く事は脳機能的に問題はなく、知能指数も変わりなかったようですが人間性、人格が大きく変わったそうです。彼は会社は行かないし無計画、汚い言葉を吐く、突然キレる、そして子供っぽい顔に変容して十年後に全身痙攣で他界したそうです。一八四〇年代当時は医学界において前頭前野がどういう役割を果たしているのか解明されていなかったのですが、この事件によって人格に関係する大切な場所であると判ったのです。
 半ゲーム脳になると子供達は笑わない、喋らない、無表情、そして忘れ物が多くなる傾向にあります。ゲームだけでなくテレビも三時間以上、携帯も一時間以上を数年やると同じ状態になります。ゲーム脳になると突然豹変しますので壁を蹴ったりわめいたり暴れるような事があればほぼゲーム脳であると思って間違いないでしょう。ベーター波の状態から前頭前野が活性化されないと動物的になってしまうという事が分かります。目から入った情報は「空間位置関係を認知して前頭前野→形、色を認識して側頭連合野→運動連合野から運動野に入って脊髄を通って手が動く」というのがノーマルの状態です。人間は適応能力がありますから目から入った情報は視覚や形、空間位置関係を認知して一気に手が動いて前頭前野にはどんどん情報が来なくなってきます。前頭前野に入って思考が入ると指の動きが止まってしまいます。それが毎日のように行なわれると前頭前野が発育不全、ブレーキが利かない、行動を監視する事が出来ないといった事になります。したがって目から入った情報は古い脳の扁桃体を通して一気に行動をとるために人間としての道徳心、理性といったものが失われるのです。最近、車で移動している時に大勢の人が公園で昼食を取っているのを見かけたのですが皆、土の上に座り込んで食事をしていました。椅子はあるのにサルの集団が食事をしているようで動物化しているように思えました。理性や道徳心というものがどんどん失われているような気がします。
 赤ちゃんの脳を染めたものには細胞体だけでほとんど枝が出ていません。二歳頃になると枝があちこちに伸びてネットワークを形成しています。発達曲線に注目すると三歳で七十パーセントくらい出来上がっていますので「三つ子の魂、百までも」という諺がありますが実際に大切な時期だという事が言えます。十歳までには九十五パーセントまで出来あがります。二〇〇二年に電話相談の番組に出演した際、「一歳半からゲームをやっていて現在八歳、ゲームをやるたびに口から泡を吹いて痙攣を起こしてひっくり返る。脳の検査は六回やったけれども全て正常、フラッシュ刺激でもひっかからなくてゲームに負けるとキレて機械を放り投げる」というような子の相談がありました。昨年、小児学会は「二歳までテレビ、ビデオを見させない」という提言をしました。アメリカは一九九九年には提言していたのですが、それは目から入った情報や耳からの情報は赤ちゃんの場合は何が何だか分からないので映像を見せても視覚情報が強烈で脳の神経回路が組みあがらないという理由があるからです。語りかけの重要性については例えば「象さん鼻が長い、キリンさん首が長い」という話を毎日すると赤ちゃんであってもウェルニッケ(言葉をファイルしたり記憶したりする場所)とブローカ野(言葉を作る場所)、それから運動野に情報が出力されます。赤ちゃんというのはスキンシップを大切にして目を見て語りかけてあげると母親の口元を見て一生懸命に声を出そうと努力します。それはネットワークを形成しようとしているからなのです。最近の母親はミルクを与えている時はメールの時間で赤ちゃんが目元を見ていても無視する、そうすると赤ちゃんなりに「人間は目を見ても無視する、合わせないものなのだ」と刷り込みをされるのです。そして大きくなっても目を合わせない、ある意味で愛情の欠落した子供として育っていきます。大切な時期にそういう事をするとその子にとって不幸な状態が起こっていくのです。
 アメリカで日本人の父親と韓国人の母親との間に生まれた十四歳の医学部学生はIQが二〇〇ありました。妹もIQ二〇〇でどういう教育をされたかというと生後八ヶ月の時から毎日十冊ずつ本を読んで聞かせたのだそうです。テレビで育った子は人の話は一切聞かない、聞く耳を持つ子供を育てるにはやはり赤ちゃんの時から会話を良くする事、あるいは本を読み聞かせする事が大切です。遺伝的要素は六十パーセント、環境的要素は四十パーセントと言われています。推定八歳のオオカミ少女は村に連れ戻っても食べる時はオオカミと同じように皿に口をつけて食べ、歩く時は手と膝をつけて歩いていました。この子が歩けるようになったのは十三歳で、十七歳まで生きたと言われていますが覚えた言葉は四十語足らずでした。普通、三歳児で九百語くらいを覚えるのですが環境によって人間でありながら人間の行動が出来なかったという不幸な例だと思います。
 姪から生後八ヶ月の子供が笑わないと言われました。四ヶ月前から毎日四時間、テレビとビデオを見せるようになってから笑わなくなったのだそうです。計測してみると右脳の働きが非常に悪かったので映像を見せるのを止めさせ、それから三ヵ月後にやっと笑うようになりました。そのまま放置していたらとんでもない事になっていたと思います。この子は今、テレビをつけていると消してしまい親が見ていても「テレビ、ねんね」と言って人と会話をしたがっていました。その後、子供は飛び跳ねる事が好きなので特殊なクッションを与えるとピョンピョンと飛ぶようになりました。現在、三歳六ヶ月なのですが脳波を測ると非常に改善されていたので運動の重要性も分かりました。運動しないとセロトニン欠乏、表情が低下、姿勢困難、前かがみになる、痛みに過敏になる、不眠症、自律神経の乱れ、集中力低下などを引き起こします。広いところで運動して遊ぶと脳の重量は大きくなりますが孤独に生きていると脳の重量は小さくなります。それは自乗突起の発達の違いでよい環境に育つと枝があちこち出て情報を他に伝えるからですが、貧しい環境では枝も少なく情報を伝える力も非常に悪くなります。
 ゲーム脳になった子は自分の言いたい事だけ言って人の話を一切、聞きません。小学生三人で「りんご、バナナ、パイナップル」と果物の名前を記憶させるゲームを行ないました。自分の番が来たら立つという簡単なゲームですがゲーム脳の子はひと回りで全部忘れて大変でした。学校で先生の話を聞いても十数秒前の事は忘れてしまいますから教室でうろうろする、外に出てしまうという事になります。三十分ゲームをした後に勉強しても意味がない、早く寝たほうがよいのです。同様に一時間ゲームをして勉強をしても全く意味がない、アルファーとベーターの重なっている半ゲーム脳状態の子は教科書を開いても十分と持たない、それ以上は無理なのです。「ゲームをやっている子ほど学力は低下している」と福島県での調査も新聞に出ていました。もしゲームをやりたいのなら小学生、中学生は毎日十五分まで、ただしその三倍ほど読書をして感想文を手書きで行なって下さい、そうすればゲーム脳にはなりませんが百パーセント出来ないと思います。ゲームをやっている子は攻略本もマンガですから親が気を付けてやらないといけません。大学生の女の子は一日七時間ゲームをやっていてアルバイトもゲームセンターと徹底してゲーム漬けで百パーセント人の話は守らないという状態になっています。守らないというよりは消えてしまうと言った方がよいかも知れない、だから次の日に電話をすると「えっ、何でしょう?」という話になってしまいます。
 三年前から毎日三、四時間ゲームをやってきた八歳の男の子のお母さんが私の講演を聞いて「よくキレる」と相談に来ました。調べると完全にゲーム脳でしたので私が「このままゲームをやっているとお父さんお母さんの顔が分からなくなるよ、いいの?」と言うと子供は「嫌だ!」と答えましたので「ゲームを毎日やるなら十五分、日曜日は三十分」と約束しました。それから一ヵ月後に再び脳を調べるとベーター波が上がっていました。ゲームの時間は一応の基準として三十分以内、出来れば十五分にとどめる方が依存性になりにくいです。三十分だと一時間やる可能性があり、小学校時代に毎日一時間ゲームをやっていたら中学校になった頃には脳が動かなくなります。読解力が極端に悪くなって何を書いているか分からなくなるのです。携帯メールを一時間に四十通、十時間やっていた高校生の女の子は朝、何を食べたか分からないといった認知症と同じ症状が出ていました。この子が将来、母親になったらどうなるのだろうと考えたら本当に恐ろしい、だから子供にチャットは絶対にやらせてはいけない、はまるとある意味では将来のニートになるのです。オンラインゲームも小学生、中学生にはやらせないで下さい。学校は行かない、夜遅くまで起きている、朝は眠いという事になって来ます。
 扁桃体というのは臭いや音、視覚情報などの記憶が強烈に残る場所で兵士が戦争をして国に帰ってきてから飛行機の音を聞くと戦場を思い出すというのはこの部分に情報が焼き付けられているからです。長崎の小学生が起こした事件でもあの子は相当パソコンをやっていたと思います。普段も「死ね」「殺す」とかいう言葉を平気で言っていた、要するに理性が失われていたのです。そして嫌な事が(チャットの画面に)文字で書かれたので視覚的情報として一生消えない、恨みつらみが永遠に続いてチャンスがあったら一気に殺すという事になったのです。しかも悪いとは思わない、殺しておいて「怜美ちゃんにはいつ会えるのだろう」と「リセットすれば生き返る」という感覚になってしまっていたのです。だから殺人をするような過激なゲームはある程度大人になってからやる事にしないと、ある意味では洗脳ですから気を付けなければなりません。
 単語を覚えるテストを十問ほどパソコンクラブの生徒に出題したところ、十二名中七名が全く答えられませんでした。最高でも二つしか覚える事が出来なかったのです。最近の子供は言った事はやるけれどもそれ以外はやらない、「それは言われていません」という答えになるのです。普通は回りの事も気が付くはずなのですがロボット的人間がどんどん増えています。ゲームをやらない、あるいは十五分以内にする事によって前頭前野は改善されます。読書をしている子ほど成績は上位ですので本を読む事は非常に大切です。前頭前野の働きは創造性、理性、道徳性、反省、将来の計画、行動を常に監視し善悪の適切な判断をしている、自己コントロール、意思決定領域、作業記憶といったものです。自然の中を散歩すると目に見えない形で前頭前野は活性化されます。緑を大切にする事がいかに大切か、それから「日本人は目で食する」と言われるように他の文化と違って感性を高めているのです。目で見て「美味しそう」というのは視的、美的感覚です。そして嗅覚で匂い、箸を使って体制感覚、口の中で味覚を感じ咀嚼に伴う聴覚、こういった日本の伝統的な食文化は非常に上手く作られているのです。日本食というのはよい材料で灰汁を取るという引き算の考え方で西洋的な食事は足し算の食で色々なものを混ぜていきます。そういった意味ではもう一度、日本食というものを見直して家庭で食べて頂くと子供にも非常によいのではと思います。
 提言としましては
・テレビやビデオを長時間見させない、そして聞く耳を持つ子供に育てる
・スキンシップを大切にして目線を合わせる
・人の愛情を育む
・色々な遊びを通じてその中で色々な我慢をする事を体験させる
・運動によってバランス感覚を養う
・十分な睡眠を取る
といった事を申し上げ、話を終わらせて頂きたいと思います。


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