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発達障害幼児の家庭養育

 事業名 障害児子育て支援のための研修会等の開催
 団体名 全国心身障害児福祉財団  


5. 事例を通して
 子どもの発達にとって、あそびの中でいろいろな経験を積み重ねていくことが大切だということはわかりますが、「何でも口に入れてしまうから」とか「すぐ他の子の髪を引っぱって泣かせてしまうから」などの理由で大切な経験の場を避けてしまったり、親子ともども引っ込み思案になってしまったなどという経験はありませんか。ここでは、こういった子どもたちの困った行動について、「何故そうなるのか」そして「どう対応したらいいのか」ということをいくつかの事例を通して考えてみたいと思います。
 
――口になんでも入れてしまうA君の場合――
 2歳男児。精神発達遅滞、脳性マヒ、指を唇にあてていることが多く、小石、絵具など何でも口に入れてしまう。
 生後3ケ月頃から始まる指しゃぶりは、口でその感覚を確かめていますが、5〜6ケ月になると、口から離した手や握った物を眺めるようになります。これは次第に、口だけではなく、目も同時に使って物を確かめるようになってきた証拠です。このことは、座位が安定すると、より巧くなってきます。
 A君の場合は、乳児期の体のつっぱりが強く、指しゃぶりができなかったとお母さんから聞きました。2歳で寝返りをし、座位が不安定ながらとれるようになったのは2歳半です。指しゃぶり、物しゃぶりが不十分なまま育ち、物の確かめを口から手へ、手から目へと移すことにつまずいているものと考えました。そこで、まず安定した座位をとり、両手を使いやすくし、しかも、使った手を目で追えるようにしました。そして、万一口に入れても安全な素材(例えば、春雨、小麦粉、ゼリー等)を使い、さまざまな感覚を手で確かめられるように工夫をしていきました。
 最初の頃は、すぐ口に入れていましたが、徐々に手であそぶ時間が長くなりました。しかし、マヒの影響もあって、指先だけで触れていることが多く、物の感覚がしっかりと手のひらから伝わりません。そこで手のひら全体で体を支えるような四這いや、手あそび等で手のひらを開かせることも大切にしてきました。
 また、自由に動ける子どもであれば、運動の中で、いろいろな感覚の経験をしているわけですが、A君の場合は、自分一人では運動に制限があるため、大人が動かすことで、口ではない他の感覚を働かせることも大切と考えました。体をくすぐられたり、さすられたりして肌で感じとること、トランポリンやハンモック等で揺れや振動を感じること、プールで冷たさや水流や水圧等を感じることなど、さまざまな感覚を働かせるようにしてきました。
 その後は他の感覚が働いている時には、指を唇にあてていることも、物を口に入れることも、ほとんどなくなっていきました。そして、このような全身への刺激をひじょうに好み、まっしぐらに這っていっては楽しむようになり、座り込んで物を口に入れることは減少していきました。
 
――友だちにかみついたり、髪の毛を引っぱるB君の場合――
 3歳男児。精神発達遅滞、脳性マヒ、点頭てんかん。友だちに寄っていき、かみついたり、つねったり、髪の毛を引っぱったりします。
 B君の対人関係をみてみると、母親との依存関係を卒業して、他の大人に関わりを強く求め出したと同時に、他の子どもの様子もよくみるようになってきていました。全体的な精神発達の状況も1歳半程度で、問題となる行動は他の子どもの存在に気づき、関心を持ち始めたことで生じてきた行動と考えました。
 たまたまそばにいる子どもの髪を引っぱったりしたことで、予期せぬ「面白い」反応が返ってきて、またやってみたいという気持ちが起こるのでしょうか。次には、相手が泣くという反応を期待して行動するようになり、不適切な行動が学習されてしまいます。子どもに関心を持つとはいえ、この発達レベルでは、関わり方のレパートリーは少なく、言語も未熟なため、このような行動で関わることになります。また、相手もいつも同じような反応しかできずに関係が変化しにくいため、問題になってきます。
 このように、子どもに関心を持ち始めたことで生じてきた行動ということを理解し、かみついたり、髪の毛を引っぱったりするのではなく、他のコミュニケーションの仕方を教えていくということを指導のポイントにしました。友だちの方に寄っていって、その行動が生じそうになったら頭をなでるように誘導したり、「握手」と関わり方を促すようにしてきました。また、手をつなぎあってできる手あそびなど、子ども同士での楽しいやりとりも多く行ってきました。
 その後、手あそびの場面になると、自分の出番だとばかりに友だちのところへ行っては手をとり、指導者に歌をうたってほしいと要求を出すようになりました。このような中で、友だちの方でもB君に関心を寄せ、受身になるばかりでなく、違う関わりで接してくれるようになり、B君の友だちへの関心を満たしてくれるようになりました。このようにして少しずつではありましたが、問題の行動は減少してきました。
 
――電気などにこだわりの強いC君の場合――
 4歳男児。精神発達遅滞。鏡に映る物や光の点滅をじっとみて喜ぶことが多く、他のあそびに誘ってもなかなかのってこないで、またもとのあそびに戻ってしまいます。体調がすぐれない時にこのようなことが多くみられました。
 C君の場合は視覚が敏感で私たちには気づかないような微妙な変化を目でとらえ、それを楽しんでいるようでした。C君の育ちをふり返ってみると、おとなしかったため、お母さんにあまり手をかけられずに育ったようでした。その上頻繁に発熱・気管支炎をくり返していました。このような状況の中で、生活空間も狭められて、乳児期初期に必要とされるような、母親とのあそびや情緒交流が乏しかったのではないかと考えられました。
 C君が一人であそんでいるところになるべく他人が介入していき、人とのあそびに展開していきたいと考えました。しかしむやみに介入すると嫌がられ、むしろこだわりを強めてしまうこともありますので、子どもの様子をよくみて、タイミングよく介入するようにしました。C君は点滅した時にうれしくて跳びはねるので、同じように跳びはねてみせると、それをみて楽しんでくれるようになり、今度はその行動を期待してくるようになりました。大げさに、おもしろおかしく名前を呼びながら、光の点滅とともに顔を出したり、くすぐったりするのも楽しいようでした。
 それと同時に、類似した他の物へ対象物を置き換え、こだわりに広がりを持たせることも大切にしてきました。鏡だけでなく、プラスチック、アルミ容器などにシルエットを映したり、玩具の電車を走らせたり連結したりすることで、代替できるようになりました。その結果、電車を走らせたいがために、大人にレールをつないでもらいたがったり、連結させてもらうなど、前記のような大人の介入の余地が大きく出てきました。物にこだわる子どもにとって、類似したものであれ代用がいくつも可能になっていくということは、ただ単に対象物が広がるということだけではなく他の物でも受け入れられる(「これが本当はやりたいのだけれど、他のこれでもいいや」というような)心の幅が広がってきたことを意味し、ひいては生活全体や対人関係の広がりにもつながっていくことが期待されます。こだわるという行動は、なかなか改善しにくい行動ですが、焦らずに人が媒介となり、広げていくことを大切に関わっていきたいものです。
 
――紙にこだわるDちゃんの場合――
 6歳女児。自閉的傾向、精神発達遅滞。紙にこだわり、紙をみつけると破いてしまい、絶えず手に紙を持っている。
 Dちゃんは常に手に紙を持ち、指先でたたいたり、唇にあてては感触を楽しんだり、耳もとでたたいては、その音を聞いてニコニコしています。持つ紙はその時々で、新聞紙、広告紙、週刊紙、辞書などいろいろと変わり、今まで持っていた紙がその時の気分にそぐわなくなると、他の紙を探し回ります。そして自分で「これ」と思う紙は手あたりしだいに破いていき、クシャクシャにしては自分の好みの硬さにします。そういう時は指示も通りにくくなり、多動になります。
 Dちゃんはツメかみも激しく、手のツメはもちろんのこと、足のツメまでかんでしまいます。また時々テレビの音を高くしてはキャッキャッと声を出しながら飛び回ることもありました。また暑さ寒さに関わりなく衣服を嫌がり脱いでしまうこともありました。
 上記の様子から触覚と聴覚が鈍く、より強い刺激を求めているのではないかと考えて医師に相談したところ、皮膚刺激や音刺激を与える必要があるという指導を受けました。まず、まわりの刺激に左右されないようにするために個室を利用しました。始めは手で直接皮膚のマッサージをしてあげ、徐々に布やブラシなどを使用して柔らかな刺激から強い刺激へと変えていきました。また皮膚刺激と平行していろいろな音を強くしたり弱くしたりして聞かせました。その時は抱いてあげるなどのスキンシップも心がけるようにして情緒の安定もはかってきました。
 紙破りを全くさせないようにするのは困難でした。情緒的に不安定な時には紙へのこだわりが強く出るので、こんな時は紙を破きたいという気持をある程度充足させるために、場所と破いてよい紙を決めて意図して紙破きをさせるようにしました。そして情緒的に落ち着いたところで他のあそびへと誘うようにしてきました。また、時にはその日の遊びを紙遊びにして、他の子どもたちと一緒に思いきり紙で遊びます。いろいろな紙を用意して、大人も一緒になって破いたり、たたいたりして楽しみました。
 そうしていくうちに心身共にリラックスしていることが多くなり、動きも落ち着いてきました。そうなるとまわりの刺激も入りやすくなり指示にのれるようになります。Dちゃんもようやく他の子どもたちと一緒におもちゃ遊びや運動遊びにも参加できるようになり、あそびに広がりが出てきました。
 
 以上の事例から「困ったこと」といわれる子どもたちの行動について考えてみると、そこには必ず理由(原因)があります。まず、お母さんは子どもがなぜそのような行動をとるのか、その原因を考えてみる必要があります。原因としては、次のことが考えられます。発達の遅れから次の段階になかなか進むことができずに生じるものと、それに感覚障害などの複雑な問題が加わる場合とがあります。
 原因がつかめたら次の対応策です。発達の遅れが主な原因となっている場合、早くその段階を卒業させてあげることが一番です。例えば、振る・投げる・たたくといった行為で物に働きかける発達段階に滞っているために何でも投げてしまうような場合であれば、ただ感覚的にポイと投げるのではなく、穴に向かって投げるというように投げる行為に目的を持たせ、あそびとして発展させていくような関わりが必要でしょう。
 複雑に問題が絡みあっている場合、前述のような関わりと同時に器質的なところからくる問題への対応も必要となります。例えば事例のA君の場合は、脳性マヒによる運動の制限が種々の感覚経験の不足を生み出し、口以外の触感覚が未発達な状況でしたから、種々の感覚に働きかけています。Dちゃんの場合には、触覚や聴覚に問題を持っていたので、皮膚刺激や音刺激を段階を追って与えていくという働きかけをしています。こうしてA君の場合もDちゃんの場合も、器質的な問題に働きかけながら全体的な発達を押し上げていくことで「困った行動」が減少していきました。しかし、いずれの場合でも子どもの行動が一朝一夕に変るわけではなく、細かなステップと長い時間が必要です。
 「困ったこと」は子ども自身にとっては決して困ることではなく、むしろその発達段階にある子どもであれば当然のことといえるでしょう。子どもの全体的な発達を押し上げ、次の段階へと子ども自身の力で踏み出していけるような、一人ひとりの子どもに合った援助の方法を専門家に相談しながらみつけ出してほしいと思います。


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更新日: 2020年4月4日

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