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3. 物に触ることを大切に
 触ることは、皮膚を通して自分でまわりの環境を感じとり、自分から環境へ働きかけていくことのできる大切な感覚です。子どもは、物に触れたり、触る経験をすることで、自分のまわりの物の違いに気づき、その物を理解し、生活に必要なたくさんの情報を得ています。
 赤ちゃんは、手や身体のいろいろな部位で物に触ることを通して、さまざまな感触に出会います。何でも口に持っていくのは、その大切な確かめをしているのです。物の手ざわり、はだざわりから、ザラザラ、スベスベ(滑らか)、熱い、冷たい、痛い、くすぐったい、固い、柔らかい、軽い、重い、小さい、大きいなどといった物の違いに気づきます。このような物を感じとる力を育んでいくことが大切です。
 子どもが手で物に触り、いじってみたいという気持は、触られて快いという経験や物に触ることが楽しいという経験を赤ちゃんの頃からたくさん与えることで、育てていくことができるのです。私たちが日々接している子どもたちの中には、物に触ることを嫌がる子や、反対に絶えず何か物を持っていて、手を使おうとしない子どもがいます。よくみていますと、子どもたちの感覚触覚が敏感だったり、鈍いといったことがいえます。この場合、いろいろな物で触ったり、こすったりといった皮膚を通しての感覚刺激を、体のいろいろな部位に与えることがまずは必要です。刺激の強さや素材は、子どもの様子をみながら、喜ぶものから与えましょう。
 運動機能に障害のある子どもは、手の動きに制限があったり、手の届く範囲が限られるために、触る経験が狭められてしまいます。まわりの大人が積極的に子どもに合わせて、物に触りやすい工夫や機会を用意してあげましょう。
 目の不自由な子どもは、視覚的障害を補うために、特に聞くこと、触ることの感覚を育てることが大切です。
触ること、触られることを楽しむ
 子どもたちの物を感じとる力を育てていくには、まず、いろいろな感覚刺激に慣れていくことが大切です。外に働きかけていく力の弱い子どもたちですから、慣れていくためには大人の働きかけが必要です。ここで気をつけなければならないことは、感覚刺激の与え方です。子どもの表情や様子をみながら、喜ぶ刺激から与えていきましょう。
 そして、自ら物に触ることを通して、様々な感触の違いを子どもは知っていきます。筆者は、子どもたちが楽しみながら様々な感触に出会えるようなあそびを“感覚あそび”と名付けて、試みてきました。ここではこの感覚あそびの中から、子どもたちに人気のあるあそびを紹介していきます。
●お母さんと楽しむマッサージ
 衣服の着替えの時、オムツの交換時など、ゆったりとした時間のとれる時に、お母さんの手やいろいろな素材のもので触れたり、こすったりするあそびです。マッサージをする時歌に合わせて行うと、歌に聞き入る様子がみられます。またマッサージの後、手足やお腹に口をつけて、「ブー」と音をたててあげると声をたてて喜びます。お母さんがゆったりとした気持で関わり、そっと抱いてこのあそびを終えます。
[用意する素材]
 家庭にある身近な物を利用しましょう。
 タオル(柔らか、洗いざらし、麻)、軍手、布きれ(目の粗いザラザラした布、滑らかなビロード布、ツルツルした裏地布etc.)ボア、毛皮、浴用ボディーブラシ、フェイスブラシ、爪ブラシ、その他いろいろな物で工夫してみて下さい。
●お母さんと楽しむ手あそび(図2-8)
 お母さんがあそび歌に合わせて、たたく・つねる・つまむ・くすぐるなどの刺激を子どもに与えるあそびです。このあそびは、自分からの動きの少ない子、感情表出の弱い子、人への意識の弱い子にくり返し行うことで、子どもの笑顔が期待できます。子どもと何をしてあそぼうかと考えてしまう時に、すぐ、楽しめるあそびです。手あそびの後にオンブや抱っこをして動いたり、揺らしたりすると喜ぶ姿がみられます。
●お風呂あそび
 毎日の生活の中で入浴時間は、子どもにとって楽しいあそびの時間になります。浴槽の中であちこち動かされたり、石けんの泡につつまれたり、こすられたり、シャワーをかけられたり、タオルで顔や身体を拭かれたりします。このように子どもは、お母さんにお風呂に入れてもらうことを通して、いろいろな感覚刺激(触・温(冷)・圧覚)に慣れていきます。
●水あそび
 水は多くの子どもたちが関心を示す素材です。子どもたちは、手や足や体全体で水の感触を感じとる他に、水圧、水流なども感じることができます。またじょうろで水をかけると、くすぐったい感じを楽しむ子もいます。浮くおもちゃや容器を持ち込むと、沈めたり、水の出し入れ、移しかえなどのあそびもできます。
●ボール・風船プール
 ビニールプールの中に、さまざまな大きさのボールや風船をたくさん入れます。その中に入ってあそぶことで、子どもの体に感覚刺激を豊かに与えてくれます。ボールや風船は弾力があるで、圧覚刺激を与えてくれます。このあそびは子どもに安心感をもたらし、情緒の安定がはかれます。多動な子どもに効果の期待できるあそびです。
 
図2-8 お母さんと楽しむ手あそび
 
●豆、ボタン類でのあそび
 
写真2-36 豆やボタンを使ったあそび
 
 素材そのものに触り、さまざまな感触を楽しむことから、握ったりつまんだりするあそびに発展できます。素材は、ビー玉、鈴、木製ビーズ、枕ビーズ、どんぐり、ボタン、小豆、大豆、米、マカロニなど、身近なもので工夫しましょう。金属製の容器の中に入れてあそんだり、太鼓の上に落としたりすると、音も同時に楽しめます。また、用意する容器の大きさで手の動きに違いがみられたりします。写真2-36の容器(ステンレス製バット)は大きい物を使っていますので、子どもの手の動きがダイナミックになります。
●砂あそび
 手のひらでふれたり、握ったり、指の間からサラサラ落としたりと、いろいろに感触を楽しむことができます。水を入れるとたちまち砂の性質や感触が変わり、形を作ることもできるようになります。シャベルやバケツやプリン等の空容器などの道具を持ち込むと、シャベルですくって入れたり出したりすることはもちろん、山を作ったり、穴を掘ったり、ごっこあそびもできます。いろいろなあそびができるすぐれた素材です。
●粉あそび
 粉をまき、手で触れたり指でなぞると、自分の動かした指のあとが目で確かめられます。サラサラした感触や、わずかな息で吹いた時の変化が楽しめます。
●フィンガーペインティング
 小麦粉のりを作って食紅で色をつけ、手全体でこねたり、指で描いたりしてあそびます。ヌルヌルベタベタした感触を楽しめ、手指の働きを高めます。
 体全体に塗りたくる(ボディペインティング)のも楽しいものです。このあそびを楽しめる子どもは、気持の発散ができ、情緒の安定もはかれます。家庭では、場所や後片付けのことを考えますと経験させにくいあそびですが、夏場、ビニールプールで水あそびをする時などに、試みてはいかがでしょうか。子どもの喜々とした表情が期待できます。小麦粉のりの作り方は、後で紹介します。
●小麦粉粘土でのあそび
 粘土を引っぱったり、たたいたり、つついたり、まるめたりしてあそびます。なめらかな感触のこの粘土は、少しの力を加えただけで変化をみせてくれます。また、型どりを楽しんだり、物にみたてて簡単なごっこあそびに発展させることができます。粘土は密閉容器やビニール袋に入れて冷蔵庫に保管すると、何回か使えます。小麦粉粘土の作り方は後で紹介します。
●春雨あそび
 春雨をお湯でもどし、食紅で色をつけて(透明感のある色になります)あそびます。あまり手につかず、なめらかな感触を楽しめます。わずかな力で握ったり、つまんだりできるのが特徴です。春雨にバニラエッセンスを入れると臭いも一緒に楽しめます。


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