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(2)健康的な生活リズムの整え方
(1)睡眠時間を一定にして十分にとる
 生体リズムや生活のリズムを整えていくには規則正しい生活習慣を設定し、身につけさせることが何より大切となります。その手始めとして、睡眠時間を一定にすることから始めます。「早寝早起きは三文の得」と昔からいわれています。睡眠は心身の健康の源となりますので、子どもの睡眠のリズムに合せて、家族も早寝早起の習慣化をはかりたいものです。
 子どもは大人ほどには体力がなく、寝不足は途端に次の日の生活や体調に影響を及ぼしてきます。睡眠の乱れの原因の一つにテレビがあげられます。夜9時過ぎにニュース番組や映画などの面白い番組が組みこまれていますので、大人はついつい夜型人間になりがちになります。子どもも一緒にお付き合いをして、隣の部屋から聞こえてくるテレビの音や音楽に気をとられ、眠る時間が遅くなり、熟睡できなくなってしまいます。子どもへの配慮を心掛けましょう。
 日中は、子どもにとってお昼寝も大切となりますので、買物や外出時間、散歩などの時間設定はできるだけ計画的に、一定にします。来客などでも乱れがちになりますが、そのような時は臨機応変に対応し、工夫してお昼寝の時間を十分に確保してあげるようにしましょう。
(2)食事やおやつの時間を一定にする
 睡眠のリズムに続いて、食事の生活リズムづくりも健康保持にとっては欠かせません。最初はバランスのとれた食事内容と必要量を考えた献立てを考えてあげることから始めます。変化に富んだ工夫された魅力ある豊富な食生活の習慣化を心がけることは、身体の健康ばかりか、心を豊かにもしてくれます。食事の充実を通して、何事にも積極的にとり組む活動意欲が湧いてくるかもしれません。
 食事は楽しく、待ち遠しいものとなることからリズムがついてきます。口の機能や全身の機能に問題をもった子どもばかりでなく、偏食や拒食といった問題をかかえた子どもの場合も、専門家に相談・指導を受けながら食事の生活リズムづくりに工夫をこらして下さい。年中、年長になるにつれ、保育園や通所センター、学校に通ったりと、子どもなりの社会参加をする機会も増えてきますので、その機会も活用します。特に障害の重い子どもの場合は、通園する以前から、お母さん以外の誰からも食事介助を受けて食べさせるようにし、何でも、できるだけ上手に食べられるように準備しておくことが大切です。健康に通園継続できるようになると、集団生活の中での食事やおやつの生活リズムも自然に身につき、学校生活にもスムーズに移行することができるようになるでしょう。
(3)排便の規則正しい習慣化
 快食快便は相互に深い関係があり、健康保持には欠かせない条件となります。排便の規則正しい習慣化を促すには、できれば毎朝決った時間にトイレに連れて行くことから始めます。
 脳性マヒの子どもの場合は、膀胱・直腸にも痙性という障害があり、緊張してのけぞったりするとなおのことコントロールが難しくなります。痙性があると膀胱・直腸も固く緊張し、出るといっては出なくなったり、緊張を自分なりに調整して排尿便するのに時間がかかります。排便姿勢は前屈位にすると痙性が緩み、排泄しやすくなります(図1-3)。時間をたっぷりとって便器に座らせ、排泄の習慣化をはかり、排便の生活リズムを身につけさせていきます。その準備として日中の運動や体操も大切で、規則正しい睡眠や食生活リズムをつくることが前提となります。
 とかく、歯の病気や口辺の機能障害があると、糊状食や食べやすいようにつぶした軟食が常食となりますので、便秘の子どもが圧倒的に多くなっています。便秘予防のためには、野菜や海草類をきざんで食べさせたり、繊維質のさつまいもや牛乳などを毎食一品添えることで、お腹の生体リズムが整ってきます。食事づくりに工夫をこらし便秘予防に気をつけながら、1〜2日に1回程度の排便の規則正しい習慣化を身につけさせましょう。
 
図1-3 正しい排便姿勢
 
 「睡眠」「食事」「排便」のどの生活リズムをつけていく場合にも共通していえることは、短期間で身につくものではないということです。一朝一夕では成り立ちません。また、障害があると、発熱やてんかん発作の頻発などのほか、外出や来客といったちょっとした生活の変化で簡単にリズムが乱れたり、せっかく身についたそれぞれの生活リズムも崩れたりするものです。また最初から組み立てなおしが必要となることもしばしばあります。焦らず、あきらめずにゆとりをもって、またパターン化することなく常に工夫をこらし、気長に家族みんなの協力を得ながら習慣化の努力を続け、その子なりの生活リズムを身につけさせて下さい。
 
2. 睡眠
 睡眠は、食事、排泄、入浴、あそび、外出など、生活全体の関わりの中でみていくことが大切です。生活が充たされないと睡眠の乱れが生じ、健康保持にも影響をおよぼしてきます。
 乳幼児期は、成長と共に生活のリズムが変化し、それと共に睡眠のパターンや時間も変化します。そこで、睡眠の発達の大まかな流れを知っておく必要があります。また、障害が睡眠の発達をどのように妨げ、睡眠のリズムづくりを難しくし、あげくの果てにはどのような「睡眠障害」を来しやすいのかについても知っておくと、予測を立てて予防しやすくなり、多少の乱れが生じてもあわてないでみていけるようになります。
 睡眠の発達を妨げないようにするには、どのように環境を整えて養育していったらよいのでしょうか。もしも、何らかの障害が出てきた場合にはこじらさないように、早めに手を打っていくことがポイントとなります。どのように対応していったらよいのか、こうした課題について順を追って述べていきましょう。
 
(1)睡眠の発達
 障害をもった子どもの睡眠は、月齢に伴う身体的・生理的成熟の要素、障害に関わる要素、それに精神発達との関わりの三者が微妙に影響しあって発達し、症状を呈してきます。例えば、生活年齢は6歳でも、身長・体重といった外見上の発達や自律神経の調整機能の成熟・精神発達に伴うあそび、運動量に伴う新陳代謝量などとの絡みで、1〜2歳レベルの睡眠パターンや睡眠量を必要としている子どももいます。その上、てんかんを合併しているため、抗てんかん剤を飲んでいたり、常に虚弱で発熱や肺炎などをくり返している子どもの中には、1日中トロトロとまどろみ、あるいは熟睡しており、まるで新生児期の睡眠状態を呈している子どももいます。また、乳幼児期の子どもの個性の幅は広く、最初からあまり寝ない子もいます。それでも必要な睡眠量をとっていますので、心配はいらないという場合がほとんどのようです。個人差が大きいということも認識しておきましょう。
 家庭環境や家族構成、生活の仕方によっても個人差が出てきます。寝やすい環境づくりに気配りをするといっても、家族中がピリピリと抜き足差し足で歩いてみたり、兄弟の行動を制限し過ぎたりなどの過度の配慮は考えものです。子どもは日常生活で普段耳にする騒音に対しては慣れていくものです。あまり神経質になる必要はありません。
 以上のことを念頭において、わが子がどの発達レベルや発達パターンにあるかを知り、発達に沿った睡眠の習慣づけやしつけをその子なりの速度ややり方に合せて行っていきます。睡眠の発達は、大きく睡眠時間と睡眠のパターンの発達に分けられます。
睡眠時間の発達
 睡眠時間とは、昼夜の総睡眠時間をいいます。睡眠は、新生児の頃は20時間ぐらいで、1日のほとんどが眠っている状態です。それも、加齢とともに減少します。この睡眠時間の減少は、昼寝の時間の減少が主となります。加齢にともなう睡眠時間の減少、睡眠回数の減少については表1-1を参照して下さい。同じく、0歳から12歳まで掲載されている睡眠の発達表(表1-2)も参考にして下さい。また、昼寝の必要性については表1-3を参考にして下さい。
睡眠パターンの発達
 生まれたばかりの赤ちゃんは、授乳との関係で、浅い眠りと目覚めの周期を不規則に小刻みにくり返し、昼夜に関係なく自分の生体リズムで生活しています。1ヵ月くらい経つと、次第に昼間は目覚めている時間が長くなり夜中の授乳間隔があいてくる、というように、徐々に昼夜の区別がついてきます。
 3〜4ヵ月頃には、昼間は3〜4時間の授乳間隔となり、夜中は5〜6時間まとめて眠るようになります。昼間、目覚めている時には散歩や買物にも連れて行けるようになり、日光浴や赤ちゃん体操なども積極的に行うようになります。そのようにして昼夜の区別がはっきりしてきます。
 6ヵ月頃になって離乳食も始まると、お腹も満たされ、眠る前にたくさんミルクを飲んでオムツをとり替えてもらうと朝までぐっすり眠り、昼寝も、午前と午後1回ずつのパターンになる子どもが多いようです。この頃から、起床、食事、昼寝の時間、散歩、入浴、就眠などの1日の生活を規則正しく習慣づけていくことで、生活リズムができあがっていきます。
 
表1-1 年齢による睡眠時間の変化
睡眠時間
月・年齢 睡眠回数 全睡眠時間 夜間の睡眠時間
時間・分 時間・分
0ヵ月
1ヵ月
2ヵ月
3ヵ月
4ヵ月
5ヵ月
6ヵ月
7ヵ月
8ヵ月
9ヵ月
10ヵ月
11ヵ月
12ヵ月
1年
2年
3年
4年
 
 
3.7
3.5
3.5
3.4
3.1
3.1
3.0
3.0
2.8
2.9
2.8
2.1
1.8
1.6
1.4
 
 
15:12
14:28
14:00
13:46
13:15
12:48
12:44
12:35
12:26
12:31
12:17
12:00
11:30
10:55
10:55
 
 
8:55
9:09
9:08
9:16
9:18
9:13
9:19
9:28
9:28
9:29
9:25
9:31
9:28
9:28
9:48
 
表1-2 睡眠の発達
(鈴木栄、岩瀬勝彦:「すいみんの発達」.小児医学.1974)
月・年齢
時間
0〜1
ヵ月
1〜2
ヵ月
2〜3
ヵ月
4〜6
ヵ月
7〜12
ヵ月
13〜36
ヵ月
3〜6歳 6〜12歳
16〜18 15〜17 14〜15 13〜14 11〜13 11〜12 10〜11 8.5〜10.5
8〜9 6〜7 5 4 3 1〜2 0〜1 0
8〜9 9 9〜10 9〜10 9〜10 9〜10 9〜10 8.5〜10.5
 
表1-3 昼寝の有無
昼寝の有無
年齢 昼寝あり(%)
1年
2年
3年
4年
94.9
80.7
64.2
43.5
13ヵ月〜23ヵ月 1983 大原俊夫等
 
図1-4 睡眠のサイクル
ひとりの乳児の生後3日から4年まで(G. G. Jenkins, These are your children, Scott, Foresman and Co. 1966, p.342)
 
 9〜10ヵ月頃になると、ハイハイやつたい歩きが上手になり、いたずらも盛んになってきます。少しもじっとしていられず、よく体を動かしてあそびます。あそび疲れて夜中はグッスリ熟睡し、朝方まで目覚めなくなってきます。昼寝も午後1回だけという子どもも出てきます。何でも興味を示して動きまわるこの時期に、十分に体を動かしてあそんだり戸外に出ることが少ないと、寝つきが悪かったり、夜中に目が覚めてあそび出して親を悩ませる、ということも出てきます。
 1歳頃になると歩けるようになり、ますます外に出かけるのを好むようになります。バランスをとりながら、両手を上げ、全身で歩き回りますから、疲れて夜中はグッスリ眠ります。この頃になると、子どもにも1日の生活の流れがわかってくるようになりますから、夕食の時間をほぼ一定にし、お風呂に入ってパジャマに着替え、歯をみがいて、挨拶をしてベッドに入る、といったひと続きの日課をパターン化して規則正しく習慣づけると、一人で寝る習慣も身についてくるようになります。
 このようにして、睡眠のサイクルも、成長に伴って多相性から単相性と移行します。睡眠の深さは、4歳頃になると入眠後が最大に深い眠りを示し、それから徐々に浅くなって、6〜7時間後に最も浅くなり、また徐々にグッスリ眠って10時間後に最大深度になる、というように大人の二層性の山型を示すようになってきます。その睡眠のサイクルの発達は図1-4をみるとよりはっきりとわかります。
 赤ちゃんの睡眠は、レム睡眠が長いのが特徴といわれています。レム睡眠とは、脳は目覚めているものの体は完全に眠っている状態の睡眠です。眠っていると思うとチョコチョコ目を覚まし、目が半開きの状態で瞼をパチパチさせていたり、手足や口元、顔面をピクピクさせ、よく寝返りを打ったりするのはレム睡眠の仕業ということです。障害をもった子どもの場合は、このような“赤ちゃん睡眠パターン”の状態が長く続きます。体の成熟の割合には運動量が不足していたり、口辺のマヒのために離乳食も進まず、ミルクの量も足りずに空腹状態が続いたりするとさらに発達を妨げ、睡眠パターンが乱れ、睡眠障害を来してきます。


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