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全国失語症友の会連合会よりご挨拶
全国失語症友の会連合会 理事長 松田 正久
 
 当会は、思いがけない脳卒中や事故などにより障害者となって、その後遺症として失語症等の言語障害を負い、悩んでいる仲間が集まり、失語症友の会を作って全国組織とした言語障害者団体です。
 私たちが言語訓練を受けているのは言語聴覚士(ST)からです。入院中はこのSTの先生から、失った言葉を取り戻すための訓練・指導を受けることが出来ますが、退院後は殆んどといってよいほどこの訓練が受けられなくなってきているのが実情です。特に最近は病院でのリハビリテーション期間は短縮され、早期退院が求められています。退院後は介護保険制度の利用によって言語訓練を続けることになりますが、受入れ側は決して充分な態勢ではありません。また診療報酬制度の改定により病院では集団訓練は受けられなくなりました。
 そのような実情の中、当会では1991年に「家庭で出来る言語訓練」を、引き続いて1998年には「家庭で出来る言語訓練その2」を刊行し各方面から多大のお褒めの言葉をいただきました。
 今回は日本財団様から助成金をいただきまして、岡山県言語聴覚士会のご協力によりまして、前述「家庭で出来る言語訓練」の延長線上に位置するとも言える「失語症者の自習問題集」を刊行する運びとなりました。
 たまたま今回はこれを刊行する絶妙のタイミングとなりました。失語症者の在宅訓練のみならず、関係諸氏も大いに活用されることを期待します。
 
林 吉止
 
岡山県言語聴覚士会から
1. ご挨拶
 私たち岡山県言語聴覚士会のメンバーが作成した自習教材を、このたび全国失語症友の会連合会が出版して下さることになりました。誠に有意義なことだと思います。
 米国のニューヨーク大学リハビリテーションセンターには、「家族を教育して当事者に対してSTと同様の対応をしてもらう」プログラムがあります。私もご家族、さらには失語症者ご本人が失語症訓練の主体になる必要がある、という考えに賛成です。私は患者さんやご家族に対して、学生に教えるのと同程度に詳しく言語症状や訓練の方法についてお話しするようにしています。もちろんわれわれ言語聴覚士にはわからず、ご本人だけが知っていることも多いわけです。言語障害の解釈をこちらが述べて、患者さんがそれについて「その通りだ」とか、「そうではない」と答えてくださることで、われわれ言語聴覚士が真実に近づく、という共同作業が行われていると考えた方が正しいと思います。訓練の方法も「難しすぎる」とか「ちょうど良い」などと、患者さんが私たちに教えて下さることで適切な課題を選ぶことができます。言語機能の評価や言語訓練は患者さんの積極的な関与によって成り立っているのだと思います。
 最近は医療機関でのリハビリテーションを実施する期間が制限され、病院を早く離れ、早く自立することが求められています。以前は長期に入院して失語症のリハビリテーションを受けることがありましたが、そんなに職場や家庭を空けていると自分の立場がなくなってしまい、かえって社会復帰に悪影響を及ぼすと考えられるようになりました。しかし、皆様よくご存知のように失語症は長期にわたって良くなりますし、読み書きなどは実際に読み書き活動をしなければ良くなりません。早めに社会に戻った方がよいし、言語機能の回復は最大限求めたいわけです。このためには外来訓練を受ける方法が良いのですが、それも徐々に減っていって、自習を行うことになります。自習では新聞、テレビなどのマスコミを利用したり、日記を書いたりすることが多いと思いますが、必要ならドリル教材を利用しても良いでしょう。岡山県言語聴覚士会はこれらの教材をホームページで公開してきました。インターネットを利用されない方も多いと思いますので、出版していただくことで、より多くの方にご利用いただけると思います。これらの教材を活用して、さらなる言語機能の向上を目指していただきたいと思います。皆様のお役に立てればわれわれ作成者にとってはこの上ない喜びです。
(岡山県言語聴覚士会会長 種村 純)
 
2. 本教材の使い方
 読み書き計算などのドリル集は世の中にあふれていますが、これらの多くは小中学生を対象としており、内容は子供っぽく、仮名書きが多すぎて、失語症の方にとっては使いづらいこともあります。この教材集は、とくに成人の失語症者を対象として、その言語機能の維持・向上に役立つようにと考えて、岡山県言語聴覚士会に所属する言語聴覚士の有志が作成したものです。問題の多くは岡山県言語聴覚士会のホームページに掲載されていますが、今回の出版に際して内容を見直し、また一部新しい問題を加えました。
 本教材集には、「単語の問題」「文の問題」「長文問題」「書字問題」「計算問題」の5つのパート、全計26種類の課題があります。それぞれの課題の中で設問は、おおむね易しいものから難しいものへと配置してあります。本教材集に取り組むときは、この中でご自分の状態や関心にあうものを選んでお使いください。1ページ目から始めなければいけないなどというルールはありません。また、例えば「何%以上正答したら合格」などという目標点は定めていません。解答を間違ったとしても、大事なのは問題に取り組むそのプロセスですから、気にされる必要はありません。あくまで知的な活動の一環として、人と比べることなく自分のペースで、楽しみながら問題に取り組んでいただだきたいと思います。
 本教材集は、1人で学習するのに使いやすいように配慮して作成したつもりですが、問題の中には、別冊の解答集に記した答え以外にも正解があるものもあります。そのような場合には、ご家族に見てもらったり、ご自分で辞書を調べたりして、答えを検討してみてください。
 また、言語の勉強(訓練)とは、何もこのような課題を行うことだけではありません。本を読む、雑誌を読む、新聞を読む、テレビやラジオを視聴する、日記をつける、俳句を作る、文章を写すなどさまざまな方法がありますし、何といっても人と会話をするということは、ことばに最もよい影響を与えるでしょう。
 私たちは失語症の方の言語機能の向上を願って教材集を作成しましたが、最も望んでいることは、失語症の方が孤立し孤独に陥ることのないような社会の実現です。この教材集が、失語症の方の言語機能の向上を通じて、お一人お一人の家庭や地域での交流の機会を増やし、より豊かな人生を送ることの一助となりましたら、私たち作成者にとってこれに優る喜びはありません。
(岡山県言語聴覚士会 地域医療保健福祉部会長 中村 光)
 
【問題作成者】
岡山県言語聴覚士会
種村 純、中村 光、太田千明、伊藤絵里子、井川裕通、井上尚美、植木 綾、岡田百合、小坂美鶴、児山昭江、竹本真弓、津茂谷佳子、難波 雄、松原絵里、山田恵美
 
内田信也


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