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7.7 試験結果のまとめ
7.7.1 防水試験
 熱収縮チューブとパイプの接合は強力であり、今回実施した防水試験では接合面がずれる等の現象は見られなかった。
 電線部からの防水に関しては、防食層付きの電線の場合は全く浸水はなかったが、防食層無しの電線の場合は浸水したものが多く見られた。
 防食層無しの電線にブチルゴムを塗布したものはわずかではあるが、浸水したものがあり、防水に対して完全なものとはならなかった。
7.7.2 冷熱サイクル試験、塩水噴霧試験、日照試験
 これらの一連の試験においてパイプの腐食等はあったが、熱収縮チューブに外観上の変化は見られなかった。
7.7.3 打撃試験
 環境試験未実施品と一連の環境試験後の供試品について打撃試験を行ったが、環境試験未実施品と環境試験実施品に差異はなく、熱収縮チューブは温度、塩水噴霧及び屋外での暴露に対して強度等に変化を生じることは無かった。
 打撃位置に対する強度に関しては、打撃位置(1)及び打撃位置(3)のように水平位置に打撃を加えた場合はへこむ程度で問題はなかったが、打撃位置(2)のようにパイプの角に打撃を加えた場合は殆どの供試品が防水性能や強度に影響を及ぼすおそれのある亀裂を生じ、パイプまで貫通した。
 図7.7a及び図7.7bは熱収縮チューブを2層〜4層にした場合の打撃試験における熱収縮チューブの各層の厚みの合計に対する供試品の状況の関係を示したものである。
 熱収縮チューブを複数枚被せた場合の打撃試験において、打撃を1回与えた場合、約2mmの合計厚み(2層)の場合は貫通したが、それ以上の合計厚みの場合はくぼんだ状態であるが貫通は無く、3mm程度まで厚くなると、問題は無いと考えられる。
 
図7.7a 熱収縮チューブの厚みに対する打撃状況(打撃1回目)
 
図7.7b 熱収縮チューブの厚みに対する打撃状況(打撃2回目)
 
第8 熱収縮チューブを用いた電線貫通部工事の評価
8.1 電線貫通金物使用時と熱収縮チューブ使用時の作業時間比較
8.1.1 電線貫通金物使用時の作業時間
 電線貫通金物使用時の作業時間は作業者の熟練度で大きく左右されるが、今回5件の作業時間を見てみると、3分26秒から6分50秒の間に収まっている。作業環境、電線種類貫通金物の種類の組み合わせ等で時間の差異がでていると思われる。
 今回の作業時間の計測は、工事現場にて貫通金物に電線が通っている状態から、グランド頭部を締め付け、さらにパテを詰めて終了するまでの時間を計測した。
 
表8.1.1 電線貫通金物作業時間
電線 貫通金物 作業時間 作業者
TPYCY-4 GT-25 4分25秒 A
MPYCY-7 GT-20 6分50秒 B
DPYCY-1.5 GT-20 3分50秒 A
MPYCYS-7 G-25 3分44秒 A
MPYCYS-7 G-25 3分26秒 A
平均作業時間 4分27秒
 
8.1.2 熱収縮チューブ使用時の加熱時間
 熱収縮チューブ使用時の作業時間も作業者の熟練度で左右されるが、温度上昇試験時の加熱時間は17秒から40秒までとなっている。これは熱収縮チューブの長さが100mmの場合でこれより長い場合は当然時間も長くかかる。しかし、100mm程度の長さであれば概ね1分以内に作業が完了できるものと思われる。
 今回の作業時間の計測は、熱収縮チューブの加熱試験時の作業時間の計測値を使用した。
 
表8.1.2 熱収縮チューブ作業時間
電線 貫通金物 熱収縮チューブ 加熱時間 作業者
DPYC-1.5 SGP-20 NOR-A 35-8-2.5 30秒 C
7C-2VC 24秒
RG-12U 30秒
TPYC-10 SGP-25 NOR-A 35-8-2.5 20秒
TPYC-10 SGP-40 NOR-A 65-15-3 40秒
DPYCY-1.5 SGP-20 NOR-A 35-8-2.5 22秒
7C-2VCY 17秒
RG-12UY 21秒
TPYCY-10 SGP-25 NOR-A 35-8-2.5 18秒
TPYCY-10 SGP-40 NOR-A 65-15-3 36秒
平均作業時間 26秒
 
8.1.3 作業時間比較
 上記の表でもわかる様に、熱収縮チューブを用いて作業したほうが約10倍の早さであることがわかる。
 
8.2 電線貫通金物使用時と熱収縮チューブ使用時の材料費比較
 電線貫通金物も大きさの種類も多いが、今回は暴露部での使用頻度が多いと思われる寸法のもので、SGP-40に相当する直径の貫通金物(グランド)と熱収縮チューブの材料費の比較をおこなう。比較材料は下記の表8.2.a及び8.2.bによる。
 
表8.2.a 貫通金物比較材料
甲板用貫通金物 隔壁用貫通金物 詰め物及びパテ
JIS GT-20 JIS G-20 プラシール B-R 5Φ
JIS GT-25 JIS G-25 プラシール B-R 10Φ
JIS GT-30 JIS G-30 ネオシール B-3
JIS GT-35 JIS G-35
JIS GT-40 JIS G-40
 
表8.2.b 熱収縮チューブ比較材料
熱収縮チューブ 貫通パイプ
NOR-A 35-8-2.5 SGP-20(白)
NOR-A 65-15-3 SGP-25(白)
SGP-32(白)
SGP-40(白)
 
8.2.1 電線貫通金物使用工事の材料
 SGP-40までの甲板用貫通金物としてはGT-15、GT-20、GT-25、GT-30、GT-35、GT-40があるが、価格は、仕入れ量(使用量)や取引先の条件などにより大きく変わる事があるので数字をだす事が難しいが、概ね\1,700から\5,200程度であろうと推察する。
 また、詰め物、パテは量も少ししか使用せず、これも\100か200程度見ておけばよいと思われる。従って甲板用電線貫通金物を使用した場合の材料費は、概ね\1,800から\5,400程度と思われる。
 同様に隔壁用貫通金物を使用した場合は\800から\2,500程度を見ておけばよいと思われる。
 
8.2.2 熱収縮チューブ使用工事の材料費
 熱収縮チューブはNOR-A 35-8-2.5及びNOR-A 65-15-3の価格及び貫通パイプ(面取り加工品)の合計金額でおこなった。熱収縮チューブは長さを100mmとしパイプは長さを300mmと100mmでおこなう。
 
 内面接着剤付き熱収縮チューブは定尺1.0mで、使用する場合は鋭利な刃物で使用長さに切断して使用する。
 熱収縮チューブの価格は100mmの場合概ね\200から\300でこれに面取り加工を施した300mmパイプの価格を加味すると\500から\900程度となる。またパイプ長さが100mmの場合は概ね\400から\600程度と思われる。
 
8.2.3 貫通金物及び熱収縮チューブの材料費比較
 甲板用貫通金物使用時とそれに対応する熱収縮チューブ使用時を比較すると甲板用貫通金物\1,800〜\5,400に対し熱収縮チューブ\500〜\900と3.6倍〜6倍の差がでている。
 同じように隔壁用貫通金物使用時とを比較すると\800〜\2,500に対し\400〜\900で2倍〜4.2倍の差となっている。
 
8.3 その他のメリット
 作業時間、材料費でも電線貫通金物使用時に比べてかなりのメリットが出ているが、これ以外の事についてもメリットがあるのでそれについて検証する。
 
(1)船首マスト立ち上がり部等で貫通金物を使用している時は、この部分を亜鉛どぶ付けメッキを施している。この場合、メッキ後に貫通金物のボディー側のネジきりをおこなわなければならないが、熱収縮チューブを使用しているとその必要がない。
 
(2)船体の構造にもよるが、機関室通風機、その他、暴露区域に少ししか電線が出ない場合に、熱収縮チューブをその部分に用いることにより、防食層無し電線が使用でき、電線コストが下がる。
 
(3)内面接着剤付き熱収縮チューブと防食層付きケーブルの組み合わせにより、確実な防水処理が出来る。
 
8.4 総合評価
 以上の結果から 船用電線(ビニル系やゴム系の外被又は防食層付)の貫通部の防水処理として熱収縮チューブを使用することは可能であり、コスト面でも従来の電線グランドに代えて適用することにより有利であることが立証できた。


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