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まえがき
 この報告書は、日本財団のご支援により、平成18年度補助事業として、当協会が実施した「電線貫通部の工事方法に関する調査研究」の成果をまとめたものである。
 電線貫通部の工事としては、防火隔壁の電線貫通方法と防水を目的とした電線貫通方法があるが、防火隔壁の電線貫通方法については、専門メーカーが夫々より良い機材資材を開発し、国家機関や各船級協会(日本海事協会等)の型式承認を取得し市場に提供している。
 防水の電線貫通方法については、電線グランド方式に信頼が置かれ、電線グランドを凌駕する新しい手法に付いては特段の開発が行われているわけでもない。むしろ、場所によっては、電線グランドの防水性をより確実にするため、電線グランドの上からさらに熱収縮チューブを付加したり、詰め物を充填するような工事すら行われている場合もある。
 このような状況に鑑み、従来の電線グランド方式に代わる防水電線貫通工事方法として、「熱収縮チューブ」のみの採用で防水性の確保が出来ることを確認するための調査研究を実施した。
 なお、本調査研究を実施するにあたっては、東京海洋大学海洋工学部 海洋電子機械工学科木船弘康助教授を委員長とする「電線貫通部の工事方法に関する調査研究委員会」を設置し、各委員の熱心なご検討とご協力によるほか、国土交通省のご指導を得て実施したものであり、これらの方々に対し、心から感謝の意を表する次第である。
 
第1 緒言
1.1 調査研究の目的
 船舶に搭載される電気設備は、甲板機械、航海計器、無線設備、冷暖房設備、計測制御装置等、近年ますます技術の高度化が図られるとともに規程・規制の改正と相まって、船舶に搭載される電気設備の種類が増加し、機能の向上により船舶の安全航海に大きく貢献してきている。
 船舶の電気設備の増加に伴い、設備の据え付け、改修等に伴う電線布設・結線等電装工事に関係する工事量は増加する傾向にある。
 船用電線、接続端子、電路・ケーブルダクトその他装備機材については、開発改良が進められてきた。また、電線を電路に支持・固定する電線支持・固定工事材料、電線貫通金物、電線保護材料等も改良が進められ、徐々にではあるが電装工事の方法も改良が進められてきた。しかしながら、船舶ではその使用される環境が厳しく、かつ、陸用に比較してその需要量が少ないため、船舶のニーズに沿った電装工事用材料については、その開発・改良のスピードが鈍いものとなっている。
 電線布設工事の中でも、隔壁等の電線貫通工事は比較的工数を要する工事であり、この工事を確実に、効率的、経済的に実施しなければならない。
 本調査研究は、この電線貫通部の工事方法として、貫通金物の電線グランドに替えて熱収縮チューブを使用する工事の方法について調査研究を実施することにより、電装工事の合理化に寄与することを目的とする。
 従来の電線布設工事では、電線を箱体・天井・壁・床・隔壁・甲板等を貫通させる場合には、その貫通部に気密性、水密性及び防火性に対し性能機能を満足し、かつ、電線を損傷しないよう貫通させる様々な電線貫通方法があり、電線グランド、電線コーミング、MCT(マルチケーブルトランジット)等がある。
 船用電線グランドは、国内では、日本工業規格の“船用電線貫通金物”として規格化されているが、この電線貫通金物を用いた電装工事を実施して、防水性を確保するためには、相応の技量と時間が必要であり、熟練工が必要とされる分野であった。
 この作業方法を改善することは、熟練工に頼ることなく、普通程度の作業者にも任せられることとなり、電装工事の容易さ、工事時間の短縮、コストの削減等の合理化にも大きく寄与するものと期待できる。
 このような事情により、本委員会では、気密性及び防火性に関する部分を除き、従来の電線貫通金物の代表格である「電線グランド」タイプに代わり、工事が簡単で、防水性を確保することができ、かつ、外傷保護にも効果があるものとして、「熱収縮チューブ」を使用する電線貫通部の工事方法の改善に関する調査研究を行い、その有効性についてまとめた。
 
1.2 調査研究の実施
 調査研究を進めるに当たっては、(社)日本船舶電装協会に「電線貫通部の工事方法に関する調査研究委員会」を設置し、以下の調査研究を実施した。
 
(1)熱収縮チューブに関する調査
熱収縮チューブの種類等
熱収縮チューブの材質、特性等
材質、強度、収縮率、耐熱性、防水性
熱収縮チューブの使用例
 
(2)熱収縮チューブ使用範囲の検討
 熱収縮チューブの使用可能範囲を検討し、その具体例を下記に示す。
a)船首マスト立ち上がり部の貫通場所
b)電線管用ステイ(プル)ボックスの貫通部
c)暴露甲板(上甲板等を含む)に貫通する貫通箇所
d)暴露に設置される機器、器具の防水グランド部
 
(3)熱収縮チューブを用いた電線貫通部の作業試験
 (2)の熱収縮チューブ使用範囲の中から代表例として、試験用資材を選定し、作業を実施する。
 
(4)熱収縮チューブ作業済み部材の強度等試験
a)防水試験
b)冷熱サイクル試験
c)塩水噴霧試験
d)日照試験(促進)
e)打撃試験(冷熱サイクル試験、塩水噴霧試験、日照試験後に実施)
f)熱収縮がJIS電線に与える影響調査
(1)心線間の絶縁抵抗等試験
(2)電線の温度上昇調査
 
(5)熱収縮チューブを用いた電線貫通部工事の評価
 従来の工事方法と比較し、工事工数やコストの比較を実施する。
 
1.3 調査研究委員会
電線貫通部の工事方法に関する調査研究委員会委員名簿
(順不同、敬称略)
区分 委員名 所属等
委員 木船弘康 東京海洋大学 助教授
今村 剛 (財)日本海事協会 機関部 主管
藤吉正俊 製品安全評価センター
金子喜一 西日本電線(株)機能商品事業部 事業部長
林 裕二 ユニバーサル造船(株)電気武器設計室
宮脇 要 渦潮電機(株)波方工場 工場長
光原良雄 山陽船舶電機(株)常務取締役
オブザーバー 池田隆之 国交省舶用工業課
高峰研一 国交省安全基準課
神谷和也 国交省検査測度課
事務局 松村純一 (社)日本船舶電装協会 常務理事
荒木義和 (社)日本船舶電装協会 指導技師
三瓶義文 (社)日本船舶電装協会 指導技師
清水国明 (社)日本船舶電装協会 指導技師
新田泰彦 (社)日本船舶電装協会 指導技師
 
1.4 委員会の開催
第1回委員会
平成18年4月27日(木) 於:船舶海洋ビル 8F会議室
議事:
(1)事業計画について
(2)作業部会の設置について
(3)調査研究内容について
a. 熱収縮チューブについて
b. 熱収縮チューブを用いた貫通金物工事の方法について
c. 熱収縮作業済みチューブ部材の強度等の試験について
(4)調査研究の進め方について
a. 委員会スケジュールについて
b. 調査研究担当委員について
 
 
第1回作業部会
平成18年6月27日(火)於:渦潮電機株式会社波方工場及び今治造船所
(1)今治造船所で建造中の貨物船の船橋及び船首楼における電線貫通部の工事状況実態について、調査を実施した。
(2)熱収縮チューブを用いた作業の実施
(3)熱収縮チューブを電線に被覆する場合の電線温度上昇調査
(4)熱収縮作業済みチューブ部材の強度等の試験(実船耐候試験)
 光原委員から下記試験を開始した旨紹介があった。
a. 船舶の暴露甲板上で、長時間の日照試験。
b. 船舶の機関室で、蛍光灯による照射試験。
 
第2回委員会
平成19年2月8日(木) 於:船舶海洋ビル 8F会議室
議事:
(1)前回議事録について
(2)第1回作業部会議事録について
(3)環境試験について
(4)熱収縮チューブ作業済み部材の強度等試験について
(5)耐候試験結果について
(6)熱収縮がJIS電線に与える影響調査について
(7)熱収縮チューブを用いた電線貫通部工事の評価について
(8)報告書について
 
第3回委員会
平成19年2月28日(水) 於:船舶海洋ビル 8F会議室
議事:
(1)前回議事録について
(2)報告書の確認


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