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精神科訪問看護の質を高めるサポートシステム
2006年10月21日(土)
熊本大学 医学部保健学科精神看護学
教授 宇佐美 しおり
I. 精神科訪問看護の質とは
■構造−人員配置、訪問件数、訪問対象、能力開発に関する機会
■過程−日常生活の維持や改善(食事や排泄、活動と休息、孤独と人とのつきあいのバランス)、苦痛の緩和、危険防止(転倒・転落)、重要他者・家族との絆を深める機会の提供、不安への対処、医療チームの提携
■評価−満足度、再燃率、再発率、再入院率
 
II. 精神科認定看護師、精神看護専門看護師の役割
■ケア困難な患者への直接ケア、コンサルテーション、教育、研究、倫理的調整・調整活動を通してケアの質も改善、向上に貢献する役割・機能を有する。
■精神科認定看護師(Certified Nurse):リハビリテーション、急性期、慢性期
■精神看護専門看護師(Certifed Nurse Specialist, CNS):現在29名
 
III. CNSの実践例、ケア困難な患者への直接ケア
■スタッフへの不信感、病棟ナースへの攻撃、行動化・自傷行為が頻繁におこる、場合等。
■アセスメント:患者・家族の状況、スタッフ間、医療者間のダイナミクス、看護師の状況(チームとしてのまとまり、ナースの意欲、ナースの臨床能力、チームとしてのまとまり)を判断
 
■問題の組み立てと介入
■患者へのアプローチ:精神療法的アプローチ、認知・行動療法的アプローチ、リラクゼーション、教育的アプローチ
■家族へのアプローチ:家族療法的アプローチ、家族への教育的関わり、家族・患者・医療者をつなぐ
■ナースへのアプローチ:具体的なケア方法の提案、ナースの行っているケアの保証、危機介入的アプローチ、看護チームへの教育的アプローチ、チームのフォローアップ
■医師へのアプローチ:治療の方向性について積極的に意見交換、脅かさないようにチーム医療の展開、専門家同士のパートナーシップをめざす
 
■成果
■身体症状、精神状態の改善(問題行為の減少)
■症状の悪化防止
■日常生活の拡大
■ストレスへの対処行動の高まり
■患者と家族の相互作用が始まる
■家族の安定、家族の患者への理解が促進される
■家族のケア力の高まり
■ナースへの成果:患者理解が深まる、陰性感情の軽減、共感的態度の高まり、ナースが安心してケアに取り組む、ケアの幅が広がる、スタッフが連携できるようになる、ケアの一貫性・継続性が高まる
■医師への成果:薬物療法が適正になった、医師とナースの協同作業が促進される、治療体制が整った
 
コンサルテーション
■具体的な対応を知りたい
■今行っているケアでいいのか確認したい
■患者さんへの理解を深めたい
■何がおこっているのか振り返りたい、ケアの大変さを理解してほしい
 
■コンサルテーションの内容にみられた患者の特徴
 
■不安が強い
■ナースコールが頻回である
■医療者への不満
■家族の不安
■身体症状を頻回に訴える
■気分が落ち込む
■ナースを攻撃する
■行動が落ち着かない
■家族の協力がえられにくい
■ナースへの過度の依存
■ナースのケアを拒否する
 
■コンサルテーションの成果
 
■情報の共有ができた
■医療スタッフ間で気持ちや体験を分かり合えた
■患者さんへのケア意欲を取り戻した
■チームで関わる体制が作れた
 
教育:フォーマル・インフォーマルな教育、役割モデル
研究:病棟のケアの質に関する研究(ニアミス、抑制・拘束数、患者満足度等)
調整:スタッフ間、医療者間のケアの調整
 
IV 精神科認定看護師、精神看護専門看護師の精神障害者の地域生活促進のための役割例(例 ACT)
■K病院の概要
■私立精神病院K病院(300床、急性期治療病棟、急性期病棟、回復期病棟、慢性期病棟、老人病棟、アルコール病棟)
■平成13年7月から非常勤の専門看護師として勤務
■期待されていた内容:(1)急性期治療病棟の人格障害患者へのケアの展開、(2)コンサルテーション、(3)院内教育における教育的関わり、(4)ケアの向上に関する研究活動、(5)チーム間の調整、(6)長期入院患者の地域生活促進とマネージャーとしての役割ICM、ACTの導入)
 
ACTとは(Assertive Community Treatment Model)
■重症な精神障害者を対象に(二重診断、薬物依存、ホームレス、GAF35以下、35歳未満の場合GAF30以下)、地域での生活を中心として、病状の改善のみではなく生活の質に焦点をあてたケアを提供する、サービスの提供に制限を決めず継続的な関わりを多職種で実施していく(1日24時間、365日体制、危機介入にも対応する)。
 
ACT Fidelity Scale
人的資源:少人数担当制、チームアプローチ、チームミーティング、スタッフの継続性、精神科医・看護師・薬物、アルコール依存専門家がスタッフにいる、プログラムのサイズ
組織の枠組み:明確な加入基準、治療サービスへの責任、救急サービス、入院に対する責任、無制限のサービス提供
サービスの特徴:地域に根ざしたサービス、積極的な関わり、サービスの量・頻度。インフォーマルな支援システムへの関わり、重複診断ケースに対する治療グループ、チーム内の当事者スタッフ
 
ACTの成果
■再入院の減少
■自立して生活できるようになる
■精神症状のコントロールがよくなる
■生活の質が改善する
■薬物依存の再燃がへる
■就労状況がよくなる
■当事者と家族の満足度があがる再入院の減少
■地域での生活期間が長くなる
■生活の満足度が高くなる
 
スタッフのACT実施のための訓練
■根拠に基づく実践としてのACT
■何がアクトで、アクトでないものは何か
■アクトの基礎原理
■役割と責任
■アクト日々の実践における13のステップ
 
■包括的アセスメント(身体状況、精神状況、個人の能力、強さ、もっている資源)→これまではできないことばかりに焦点をあてていたがACTはその人の強さに焦点をあてる
■スタッフと患者さんの比率:1:10をこえてはいけない
■週3回は訪問(コンタクトをとる)
■定期的なミーティング
■サービスが病院内ではなくアウトリーチであること
■病院外でリハビリテーション、治療を積極的に行っていくこと
■症状管理に焦点をあてる
■危機的状況の中で容易に患者さんにアクセスできること
■期間が限定されずにサービスが提供される
 
■ACTの13のステップ
■1. 最初のアセスメント(患者さんのACTへの導入)
■2. ニーズアセスメント、患者さんへのサービスの説明
■3. 最初のチームの介入、情報収集
■4. 3. をもとに<包括的アセスメント>:計画は2週間以内にたてる
■5. 回復過程への治療
■6. クライエントの同意
■7. 週ごとの治療のスケジュール(外来のみではなくリハビリテーション、CBT、カウンセリングなども含み日々の活動で必要な事柄への治療的アプローチ)
■8. 日々のスケジュールの計画
■9. スケジュール以外の他の機会を提供
■10. 日々のミーティングをチーム間で行う
■11. 計画されていない日々の活動についても考慮
■12. 危機介入
■13. 日々のスケジュールの振り返り
 
ACTにおける事例
■Yさん、52歳、30年入院、気分変動が激しく、被害妄想活発、統合失調症、3人兄弟だが3人とも統合失調症で仲が悪い、両親も本人が高校の際に死亡。その後は、兄弟で支え合いながら生活してきた。
■自宅へ帰りたいとの要求強い。女性スタッフへ攻撃的で夜間は特に怒りっぽい。自宅はあるが帰れない、どうしても帰りたいと本人が希望しACTを立ち上げる。
 
CNSのアセスメント
■気分変動、思考内容(妄想)、洞察と判断能力についてかなり不安定であり、孤独感やこれまでの地域での生活体験の乏しさがよりこれに拍車をかけている。
■一人暮らしのための金銭管理(使わないのにタクシー代には使って生活費がたりなくなる)、交通機関が作れない、夜間睡眠、日中のすごし方(日中のリズムと負担感)の練習が入院中からかなり必要であると考えられた。
 
CNSの働きかけ
■関係する人々:受け持ち看護師、訪問看護師、ソーシャルワーカー、医師との頻回な情報交換とネットワークづくり
■再入院の判断を誰がするのか、本人をいれての定期的なミーティングとサポート(コンテインされている感覚を強化していく)
■病棟へのサポート(もちだしのため病棟にかかる負担感が大きい)
■組織・システムづくりとシステムが動いているかどうかの確認
 
課題
■連携の流れがまだできていない→流れをつくる
■看護者への負担が大きい→人員配置の調整
■業務外の勤務が増える→診療報酬との関連
■医師やソーシャルワーカーの参加を積極的にどう作っていくか→システムづくり
■スタッフの臨床能力と退院促進への意欲をどう支えていくか→サポート・システム
■入院中からの訓練やサポートの強化
■ACTの評価:再入院、地域での生活期間、満足度などを1ヶ月ごとにとっており、継続していく予定。
 
V. スーパーバイザー的リーダーの存在とスーパービジョン
■事例検討会:事例を通して自分のケアをふり返ったり新しいケア方法を模索する
■コンサルテーション:ケア提供者同士が、内外の資源を用いて直面する課題を解決していくプロセス
■スーパービジョン:臨床能力を高めていくための繊細な指導、教育、ガイダンス
 
コンサルテーション
■ただ単にアドバイスをするということだけでなく、内外の資源を用いて、問題を解決したり変化を起こすことができるように、その当事者やグループを手助けしていくプロセスである。
■コンサルテーションのタイプ:課題適応型コンサルテーション、プロセス適応型コンサルテーション
 
コンサルテーションのモデル
■ケース中心のコンサルテーション
■コンサルティ中心のケースコンサルテーション
■プログラムに関する管理コンサルテーション
■コンサルティ中心の管理に関するコンサルテーション
 
コンサルタントの役割
■エキスパートとしての役割
■事実を発見する役割
■客観的な観察者としての役割
■何を選択するのかを明確にする役割
■問題の共同解決者としての役割
■教育者としての役割
 
コンサルテーションのプロセス
■システムへの参入
■問題の明確化
■目標と期待する結果の明確化
■データ収集
■計画・実施
■フォローアップ
 
引用・参考文献
■片田範子ほか:看護ケアの質の評価指標と評価方法の開発、看護研究、31(2),3-69,1998
■島内節:海外の訪問看護の実態、35(1),67-77,2002
■Marshall, M, Lockwood, A: Assertive community treatment for people with severe mental disorders, John Wiley&Sons Ltd2004


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