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看護の視点で行うレクリエーション
〜QOLを目指して〜
2006年10月20日(金)
もりおか心のクリニック
副院長 高橋 政代
看護師が行なうレクリエーション療法
高橋政代/レク・コーディネーター/
福祉レクワーカー/もりおか心のクリニック
I レクリエーションは「人間の生きるよろこび」
 一般の健康な人でも精神障がい者でも、すべての人間が人生を楽しく前向きに生きるために、また、個人のQOLの向上、社会全体の行政課題である活力の維持、医療費の抑制などにも、レクリエーションは大切な役割を担っている。
 人が元気で生き生きと過ごすためには、社会的な関わりが不可欠である。特に、統合失調症、のみならず、うつ、ひきこもり、人格障害、種々の依存症などの精神の障がいを抱えている方々は、コミュニケーションスキルが苦手な人が多い。また、高齢者においても、残存機能を最大限に生かしながらQOLを高めるレクリエーションの果たすべき役割は大きい。
 このようなことから、今まで重要視されていなかったレクの必要性がやっと見直され、ホームヘルパー、介護福祉士、保育士、福祉系大学、看護学校の養成過程において、また、地域の保健活動、各種の専門団体のセミナーなどで、積極的にレクリエーションを取り入れている。
 しかし、どんなにレクリエーションが、QOLを高める重要な効果があっても、対象者への一方的な押し付けは、意欲の低下を招き、依存的、受け身的になってしまい、逆にQOLの低下を起こす可能性もある。大切なのは、あくまでも主体は対象者にあることを忘れずに支援することである。
 一人ひとりの「個」を尊重し、「今」が充実するように寄り添い、よりよく生きることを支援していくことによって元気が生まれてくるのである。
 レクの目的や基本姿勢は、健康な人からADL全介助の人まで全く同じである。
 その人の意見をとり入れ、その人に合ったやり方にアレンジして提供していくことで目的も目標も達成される。
 レクは自分が「いま、ここ」に存在することを感じ、楽しむことに価値がある。
 支援者である私たちは、「生きるよろこびづくり」を実現させるお手伝いが大きな目的である。
 今回の研修では私たち看護師が、看護の視点で精神障がい者のレク支援を行なう意味と目的を一緒に考える機会にしましょう。
 
II レクリエーションって、何だろう?
 病棟やデイケアで、OTさんが中心になって行なっているレクリエーション療法。今回は看護師として、レクリエーションという意味を正確に理解し、今後の支援活動の糧にしよう!
 
1 レクリエーションの意味
・語源 ラテン語「Recreation」
 「Re-creare」レ・・・再び クリアーレ・・・創造
 すなわち「創り直し」
 壊れたものを元に戻すこと。病気から回復すること。疲れを気分転換によって取り除くこと。
 精神科的には、その人らしさの回復を目指すことにつながる。
 レクリエーションとは単なる遊びではなく、健康的で創造的価値のある活動であり、遊びから価値を引き出し、生活を活性化することである。
 
2 レクリエーション活動の身体的効果
 「運動」「栄養」「休養」という健康法。レクリエーションの活動の多くは、ほどよい身体運動刺激となり、また、精神的ストレスを解消し、食事もおいしく食べることができるようになる。
 レクリエーションはまさに「快食」「快眠」「快便」を実現させてくれる活動なのである。
 また、これは生活リズムを整え、昼夜逆転を防止することにもつながり、デイケア、デイサービスでも、積極的に取り入れられている。
 
3 レクリエーションで生きがいづくり
 人が人となるのは、人の間を生きるから。人間存在の「人の間」的あり方は、生きがいに大きな影響がある。人が生きることに自信が持てるのは、その人を必要とし、その人を愛することのできる他の人間が存在するから。人間と人間のあいだに楽しいコミュニケーションをかもし出すレクリエーション。人間は理性だけで生きていない。理性の深層に感性、感情があって、これが人間活動のエネルギーを生み出している。
 「よりよく生きること」の支援がレクリエーションの目的である。
 
III レクリエーション療法とは(レクリエーション・セラピー)
 精神障がいを持った方のレクリエーションを理解するために、少し「精神科のレクリエーション療法」にも触れておきたい。\(^◇^)/
 レクリエーション療法は、身体的、精神的障害を持つために、または社会的、情緒的な制限があるために、レクリエーションの参加が困難な人たちが対象となる。そして、目的は、それらの障害の機能改善や回復である。そのために、種々のレクリエーションの活動を用いたプログラムが計画され、実施される。この行為をレクリエーション・セラピーと呼ぶ。
 
精神科におけるレクリエーション療法は
 患者さんに健康的な刺激を与え、気分の転換を図り、病的な体験のとらわれから解放し、集団生活の適応を拡大させる目的で行なわれる。治癒への努力を与える生命的なエネルギーを引き出すために、遊びの持つ快楽と、コミュニケーションを活用することは大きな有効性を持っている。レクリエーションは「楽しい癒し」という性格を持つものである。
・精神科の慢性期の患者さんはADLが、ある程度自立していても精神症状のため、適切な日常生活を送ることが困難であったり、長期入院による社会相互作用の欠如のために、引きこもりや、コミュニケーション障害など、基本的な人間関係の障害が目立つ場合が多い。
 集団生活をしていながら、病的な自分の世界に閉じこもりがちな個人に対して、人と人とのスキンシップや、心のふれあいや、みんなで声を出して一体感を感じる場を提供することにより、人との関わりを自然にプラス思考で受け入れることを感覚的に経験できる機会にする。
 
○支援上の留意点
・参加者の構成に合ったレクリエーション種目の選定、提供
・対象となる個人や集団の自立度に合わせた支援
・マンネリ化を防ぎ、適宜、いろいろな体験をすることにより、変化に対応していける自信を身につける援助
・レクリエーションプログラムの評価を必ず行ない、記録に残して次のプランに生かす。
 
IV 福祉分野のレクリエーション
 精神科分野のレクと福祉分野のレクの考え方は相乗していなければならない。では、福祉分野のレクとは何だろう?
 
1 福祉レクリエーションという観点から考えるレクリエーション
 「レクリエーション=体験から得られる満足感、充実感、達成感、明るい気分、楽しさなどの情緒」と理解することが大切である。つまり、レクリエーションをダンスやキャンプ、あるいはボーリングなどの活動や種目として理解してはいけない。レクリエーションとは「個人の建設的な感情」を意味している。
 
2 福祉レクリエーションの特徴
 社会福祉サービスの利用者の日常生活の小さな楽しみ活動から、いわゆる余暇活動である施設の行事やクラブ活動、そして疾患の治療や機能訓練まで、非常に幅の広い活動を視野に入れているところに特色があるといえる。
 
生活のレクリエーション化とレクリエーションの生活化
・生活の快適さ、楽しさを追求する。
・レクリエーション(遊び)を生活に根付かせる。
・レクリエーションと生活の統合
 
〔福祉レクリエーション援助の目的〕
1 適度なストレス発散、気分転換
2 趣味などの楽しみ活動の育成
3 張りのある生活づくり
4 生きる意欲を高める
5 好ましい対人関係づくり
6 グループ活動への参加意欲を高める
7 ADLの向上
8 安らかな精神状態づくり
 
〔必要なレク支援〕
1. 人と関わる
参加意欲を高めるためには
(1)状態の把握
何もしたくない理由がどこにあるのか、多方面から状態を把握する
心身の状態・ADL・生活習慣
(2)雰囲気づくり
おもしろそうだな、やってみたいなと思えるような雰囲気づくり
安心感・わかりやすく情報を伝える
(3)興味・ニーズ
何をもとめているのか
話を聞く機会を持つ・周囲の人から話を聞く・ステップを踏んで。
2. 外に出る(出れない人はベッドサイドで)
季節を楽しむ、五感で楽しむ・・・外気や自然のものに触れる、聴く、嗅ぐ。
3. 楽しく食べる
ギャッジアップ、BGM、旬の食べ物、食器、花を飾るなど
4. 「自分」を表現する
自己選択、自己決定できる関わり。そのための選べる情報の提供。
 
 最終的に自分で決定させるようにあせらず、ゆっくり、ていねいに・・・。


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