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第4章. 改善方策の方向性整理
4-1 考え方
(1)ノンステップバスの標準仕様
 国土交通省自動車交通局では、平成15年3月にとりまとめられた「次世代普及型ノンステップバスの標準仕様策定報告書(平成18年3月に一部改訂)」の趣旨に基づき、標準仕様ノンステップバスに補助金を重点化して交付し、安全性及び利便性の高いノンステップバスの普及がより一層推進されるよう、標準仕様ノンステップバスの認定制度を創設し、平成16年1月19日から開始している。さらに、一層の室内移動性、乗降性の向上を図るため、平成18年3月20日に当該認定制度の仕様の変更を行っている。
 ノンステップバスの普及率は、平成18年3月31日現在で15.0%に達しており、バリアフリー新法では平成22年までの普及率の目標値を30%以上としている。東京都だけでみると、平成17年度において既に43%に達しており、今後、車いす使用者の路線バス利用が一層進むことが予想される。
 乗降装置、固定装置に関わる標準仕様の要旨は次のとおり。
※乗降装置
・幅:800mm以上。
・長さ:1,050mm以下。
・地上高150mmの縁石より車いすを乗降させる際のスロープの勾配は12%(約7度)以下。
※固定装置
・前向き乗車:3点ベルト式(床側3点、車いす側4ヵ所をベルトにより固定)。
・後ろ向き乗車:背もたれ板を設置し、横ベルトで固定。
注)いずれの方式も車いす用姿勢保持ベルト(シートベルト)を用意する。
 
(2)課題の再確認
 標準仕様のノンステップバスにおいて、車いす使用者を乗降介助する際、乗務員が停止位置を確認してから車いすを固定するまでに、5〜6分かかることが本研究でのアンケート結果等から明らかになった課題である。
 
(1)乗降装置
 車いす乗降装置は、スロープ(可搬型、手動の引き出し型、電動)とリフト装置があるが、わが国では主にスロープが使われている。その中でも電動式スロープは機器の具合により、使用できなくなる可能性があり、車いす使用者が乗車できなくなった事例も報告されているため、ここ数年、可搬型スロープの使用が多くなってきている。またそれらを使用するバスもノンステップ型(床面地上高35cm)、ワンステップ型(床面地上高55cm)があり(バリアフリー新法では床面地上高65cm以下と規定)、それぞれの床高さに対応したスロープが必要である。本年度の研究の結果、ワンステップバスのスロープについては勾配が急となり、車いす使用者の後方への転倒の危険が増し、さらにスロープ上端部とバス床面との境界部分に段差が生じる問題がある。
 このため、本研究は高齢者・障害者が最も利用しやすいノンステップバスのスロープの長さ、耐荷重、脱輪防止策について、可搬型を中心に一定の解決方向を示すことが必要と思われる。
 
(2)固定装置
 わが国のノンステップバス固定装置の現状は、「次世代普及型ノンステップバスの標準仕様」で定められた3点ベルト式であるが、車いすの固定に要する時間は約3分程度である。具体的手順としては、車いすスペース座席の跳ね上げ、固定ベルトの準備、固定ベルトのフックを床面と車いすの両方、計7ヵ所に掛ける、ベルトを締める、シートベルトを装着するといった煩雑な作業となっており(車いす使用者の乗降には、スロープ等もあり、5〜6分かかっている)、バス運行の定時性確保に影響している。
 標準仕様の「車いす固定装置は、短時間で確実に車いすが固定できる構造とする」規定を達成できるように、車いす使用者に快適にバスを利用していただくために、安全面、操作面で優れた固定装置について研究し、いくつかの改善の方向性を示すことが必要と思われる。その際、交通事故等の緊急時に車いす使用者が容易に脱出できる固定装置、シートベルトであることも重要である。
 
図4-1 4本の固定ベルトとシートベルトの装着
 
(3)車いす
 車いす自体の強度について、自動車に乗車することを前提とした検討が十分に行われていない。車いすの種類によっては、固定ベルトのフックが掛けにくい場合がある。車いすの種類が多様であることが、汎用性、かつ使いやすい固定装置の導入を困難にしている。
 シートベルトは、車いす使用者の腰の適切な位置をサポートできるように設置する必要があるが、多くの車いすは肘掛けの下をシートベルトが通らない構造になっている。
 
(3)関係者の要望、対応の方向性
1)車いす使用者のニーズ
(1)乗降装置
 ノンステップバスの構造上の改善要望として、「スロープの傾斜をゆるくしてほしい(49.5%)」は、約半数近くの利用者が改善を要求している。
 
(2)固定装置
 ノンステップバスの構造上の改善要望として、「車いすの固定方法を簡単にしてほしい(50.5%)」が約半数の利用者が改善点として挙げており、固定、脱着時間の短縮が強く望まれている。車いす固定ベルトの使用経験率(横ベルトを含む)は、約6割にとどまっている。車いす使用者は、「他の乗客に迷惑がかかる」と思い、車いすの固定を遠慮している場合がある。
 本調査の車いす使用者へのアンケートでは、乗車時の向きについて46%の人が「後向きでもかまわない」と回答している一方、54%の人は「必ず進行方向前向きに乗車したい」と回答しているので、今後も利用者の意見を踏まえた継続的検討が必要である。
 
(3)接遇・介助
 乗務員の接遇・介助の改善点は、「車いすの取り扱い等運転手の教育を充実させてほしい」とする要望が80.2%と最も高い。
 
2)バス事業者による乗降装置・固定装置の運用
 ノンステップバスにおいて、車いす使用者を乗降介助する際、乗務員が停止位置を確認してから車いすを固定するまでに、個人差はあるが5〜6分かかっている。
 一方、乗務員へのヒアリング調査では、「車いす使用者は時間を気にせずゆっくりと安全に乗車していただきたい」と思っているバスの乗務員が多いことがわかった。
 
(1)乗降装置
 可搬型、引出し型等、車種別に統一規格となっていないため、慣れるためにも規格を統一してほしいという要望は多い。駐車車両により歩道に正着できない、又は歩道がない等の状況によりスロープが急勾配となる場合があり、特にワンステップバスにおいては介助中に危険を感じることもあることが明らかになった。
 なお、一部の事業者では、可搬型スロープを2本用意し、歩道にスロープを展開できるかどうか等の道路状況に応じてスロープの長さを使い分けている。
 
(2)固定装置
 乗務員へのヒアリング調査により、3点式の車いす固定ベルトは、ほとんどの利用者が装着を遠慮する、横ベルトのみで固定する場合と固定しない場合があることが明らかになった。乗務員アンケートにおける、乗務員が車いすの固定を断られた理由は、「(利用者が)固定に抵抗を感じるから(55.7%)」、「時間が気になるから(38.5%)」、「他の乗客の反応が気になるから(28.7%)」、「特殊な車いすだから(21.3%)」が多い。
 
3)バスメーカー
(1)乗降装置
 扱いやすいスロープの開発と格納方法等、利用者が円滑に乗降できる仕様の継続した検討が望まれる。利用者がスロープから脱輪して転落しないような構造に配慮することも重要である。
 
(2)固定装置
 ノンステップバスの普及に合わせて、操作性、汎用性の向上した固定装置の開発を、福祉車両における技術等も取り入れながら検討していくことが望まれる。
 車いす使用者乗車中に衝突事故等が発生した場合の安全性について、車いすメーカーと一体となった検証が必要である。
 
(4)関係者への安全確保の啓発
 安全対策を強化するためには、バスメーカー、車いすメーカー、バス事業者(乗務員)だけでなく、利用者、道路管理者等全ての関係者の協調が期待される。
 例えば、次のような取り組みが考えられる。
 
(1)乗降装置
・スロープからの脱輪防止、かつ円滑な乗降の妨げにならないエッジの仕様について、利用者の意見を聴きながら、車いすメーカー、自動車メーカー、バス事業者等関係者が検討する
・バスが正着できるための違法駐車車両の取締りを警察と連携して行う
・バス事業者は乗降中の転倒事故等が発生しないように、車いす使用者の適切な接遇・介助の乗務員向け実技指導の際に、車いす使用者にも参加してもらう
 
(2)固定装置
・車いすメーカー、自動車メーカー等による衝突安全性の検討
・車いすメーカー、自動車メーカー、バス事業者、利用者等による改善案の検討
・固定の徹底、固定することの重要性及び安全性との関わりについてバス利用者・乗務員に理解を図る


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