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講義5 支援の実際〜サポーターの心構えと条件
講師:池田ひかりさん NPO法人女性の安全と健康のための支援教育センター運営委員
1. 支援を必要とするとき
 支援が必要な時というのは、「自分の力だけでは解決ができない問題」が起こっているときです。問題が起きているときではなく、自分の力で解決できない時に支援が必要になります。自分のやり方だけではどうにもならないときに、初めて何らかの支援にアクセスする。ここで大事なのは、風邪を治すのは医師や薬ではない、どんなに優秀な医師や薬があっても、私たちに治癒力がなく弱りきっているときは恐らく治らない。医師や薬の力を借りて、私たちの治す力が治す。支援も同じで、支援者が問題を解決するのではなく、制度などを利用して相談者が自分の力で解決する。支援者が解決してあげるわけではなく、支援者の力やさまざまなサービスを利用してその人が自分の力で解決する、ここが支援を考える時にとても大事なところです。
 また、支援の必要がなくなったにもかかわらず、必要のないものがずっと提供されていたとしたら、どういうことが起こるでしょうか。もう健康であるのに薬をずっと飲んでいたら、今度は違うところが具合悪くなってきます。その人が本来持っている力が弱くなり奪われていく。支援者がいないと生きていけない、支援者に聞かないと決断ができないということが起こってくる。これを起こらないようにすることが大事です。どこまで境界線を踏み越えて行くのか行かないのか、自分で生きていくことを取り戻すことが支援です。
2. DV被害者支援とは
(1)暴力を受けるとどういうことが起きるか(ジュディス・ハーマンの著書「心的外傷と回復」より)
 「無力化」「他者からの離断」:周囲との人間関係が切れていく。
 回復する時は、この無力化が有力化、周囲との人間関係が結び直されるとジュディス・ハーマンは言っています。このふたつが大きなキーワードです。
(2)DV相談は離婚を勧めることか?
 DV相談をすると、離婚や家を出ることを勧められるから怖くて相談ができないという声をよく聞きます。DV相談は何をするところなのかということを押さえておかないと、離婚や家を出させることだということになってしまう。これらは悪くはないが、有効な方法の一つでこの方法を取る人も多く、結果として安全が守られることはたくさんあります。しかし、これを勧めることがDV相談なのではありません。
(3)どんな力が奪われていくか
 ・「基本的信頼を創り出す能力」が奪われ、人を信頼できなくなる
 ・「自己決定能力」が奪われる
 ・「新しいことを始める能力」が奪われる
 ・「安全感・安心感」が損なわれ奪われる
 DV被害者支援は、これらを取り戻していくプロセスです。電話でいきなり、それは家を出るしかない離婚だと言われたら、安全安心は感じられない。それらが感じられる関係の中で初めて人とかかわってもいい、信頼できる、人とかかわっているといいなと思えて人とかかわることが復活し、自分の力が取り戻されていく。そういう関係性の中で、結果として家を出たり、離婚をするという方法をとるかもしれません。DV被害者支援は、安全感安心感やその人の力を取り戻すプロセスです。
3. 相談を受けるときに心がけること
(1)ひとりにしない
 どうしていいか分からない相談を受けたときに、その人と一緒に考える存在になることを心がける。解決方法を持っていなくても、一緒に考えて何か方法が見つかるかもしれないし、一緒に考えてもらっているということだけで相談者が少し落ち着き、余裕が生まれることがある。そのことだけでも十分に大きな意味があります。
 しかし、ほかにいい支援をしてくれる機関がある場合には、無理して抱え込む必要はないが、どこにもお願いする先はないということは多くある。そのような時にとにかく一緒に考えてあげる。ただ自分たちにできること、できないことをはっきりしておく。それを相手に伝えることが必要です。
 相談が手馴れていくと、いわゆる「相談員」になってしまうということがありますが、そうならないように相談があった時にその人に対して、自分が大事に思っている人と同じ重みを持っている人なのだ、同じだけの重さを歩んでいる人だということをイメージとして頭に入れておくといいと思います。
(2)安全・安心を感じてもらう
 暴力の被害に遭うことは、力による支配の被害体験です。支援者と相談者の関係に支配関係をつくるとしたら、それは絶対に安全安心感には繋がりません。どうしても支援者の方が力を持っているということを自覚し、相談者を支配・コントロールしないことが大事です。
 まず、相談者が感じ考えていることを最大限尊重する。その人が今どう考えどう感じているかに沿う。客観的にかなり危険だと感じられる状況でも、その人が自分で考えて行動することが大事です。最初からすべてを話さないかも知れない。それでもあなたの感じ考えていることに沿って、私たちは支援をしますよ、何度でもあなたはどう思う?どう考える?と聴いていくことが大事です。何を語るのか語らないのか、いつ語るのか、それはすべて相談者が決めていいことです。例えば同じ支援団体内でこの人には語れるけれどあの人とは語りたくない、それもOKです。そのことを待つ、認めるということも大事です。
 プライバシーの保持も大事です。公的なところだと、プライバシーが守られないような場所での聞き取りがありますが、そのような中では相談者は多くを語れません。記録の管理では、保管はどのようにされているか、誰がその記録を見るのか、残された記録が先々どうなるかがきちんと相談機関で決められていて、記録の目的を話し了解を得ることは、安全安心感に繋がります。
(3)エンパワーメント
■「何とかなる」と思ってもらうこと
 相談をしたがその時は解決できなかった。でも少しほっとできた、何かが少し動いたというような感じを持ってもらう、次の相談に繋がるような相談をするということです。もう二度と相談したくない、と思われるような相談をしない。すぐ次に繋がらなくとも、またどこかで相談をと思ってもらえるような相談をする。
 何とかなると思ってもらえるような相談とは、相談員のほうが、暴力の加害に関しては100%加害者の責任だと思っておくことです。「あなたは悪くありませんよ」と言うのはいいのですが、問題なのはそう思っていない人がそう言う時です。本当はこの人に問題があって殴られてもしようがない、と内心思いながらあなたは悪くないと言っても、相談ではそれは相手に伝わります。
 その人に性格上の欠点があるとかは別の問題で、暴力の加害に関しては100%加害者の責任であることを理解しておくこと。どこかで殴られる側にも問題があるともし思っているとしたら、その段階では相談員をするべきではありません。
・暴力は100%加害者責任
・暴力は加害者自身の問題
・繰り返すことの危険性
・暴力は被害者を支配するための方法
・暴力のサイクル
・身体的な暴力以外もDV
■相談者が持っている力を信じること
 長年ひどい暴力を受けていると、弱々しくひとりでは何もできないのでは、と思う人もいます。でもその人は力がないわけではなく、もともとは持っている。この人はやれる力を持っているということを信じる。この人だめな人よね、私がいないと何もできないわ、ともし思っていればその人を価値下げするようなやりとりになり、上からものを言うということが起こります。相談者は敏感なので読み取ります。
■その人が持っている力を評価して言語化して返してあげること
 暴力被害の中にいると、自分は何もできないだめな人間だと思わされていくので、そうではない、これができていると返してあげることが大事です。するとその人は自分の生活の中でやれていないことにばかりにスポットを当てていた自分の見方が変わり、元気になる。それは力です。相談をしてくれたこと、暴力の中で子どもをよく育ててきたこと、とても大変なことで、それはあなたがやっぱりやってきたことだと思いますよ、と。
4. 支援者が支えられること
 支援者の健康保持は大切です。トラウマになるような出来事に遭った人たちの支援で話を聞くことで、同じPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状が起こってくるといわれています。これを自覚していないと影響が出、支援者自身に周囲への不信感、いろいろな力が奪われるというようなことが起こってきます。相談者との関係での不信、話が聴けなくなると関係が変化、人間関係が壊れてきます。
■支援者二次受傷の発生要因
 起こりやすい発生要因としては、
(1)支援者にかかわること:過去のトラウマ体験や、現在の生活に過度のストレスがある。支援のための適切な訓練を受けていない。
(2)利用者にかかわること:自傷行為が頻繁(自殺願望、自殺企図)。安全の確保不可。利用できる資源に限りがある。深刻なトラウマ体験。
(3)支援環境:トラウマ体験とその影響に無理解な社会。被害者を責める根強い社会通念。資源の不足。人権を尊重しない支援団体。
■二次的外傷ストレスに遭わないために
 (1)支援者は十分な休息と休養を取ることができる (2)場合によっては支援者が担当する利用者の数を対応可能な範囲内に抑える (3)支援者は有資格者、有経験者からの十分なスーパービジョンが受けられる (4)支援団体は利用者のトラウマ体験の深刻さとその影響を理解、支援者に無理をさせないようバックアップする (5)支援団体は支援者に二次受傷のサインが見られないか常に気を配っている (6)支援者は定期的な継続研修を行う (7)支援者は長期休暇を取ることができる
 常に自分の心の健康に気をつけながら相談をしていくことは、いい支援を長く続けていくためには大事なことです。


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