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Chapter2 DV被害者を支援する
 社会的な動きの中で「女性に対する暴力」をどうとらえるのか、また、DVの特徴はどのようなものなのかを理解したうえで、実際の支援現場で被害者に向き合うには、さらに、法的な知識や現在の支援制度を念頭に入れて、支援者としてのスキルを身につける必要があります。ここでは、大まかにDV防止法や支援の流れについて触れます。
1. DV防止法と支援の流れ
 1993年、国連で「女性に対する暴力」撤廃宣言が採択され、95年、北京での世界女性会議において、家庭や地域社会、国といったさまざまなレベルで発生する「女性に対する暴力」根絶への取り組みが、重要課題として12の行動綱領の1つになりました。そうした国際的な動きと被害者や支援者の声に後押しされ、超党派の女性議員による議員立法により2001年4月6日に成立したのが、「配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」です。
 その前文では、配偶者からの暴力を「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」であると規定し、「個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっている」と表現しています。内閣府などの調査で、日本におけるDVの実態が明らかになり、被害者のほとんどが女性であると報告されながら、男女共同参画の視点から、法律の名称が「女性に対する暴力の防止」とならずに「配偶者からの暴力の防止」となったことについては、法律成立の間際まで議論されたところでした。
 DV防止法成立から3年目、2004年の改正を経て、現在有効となっているDV防止法のポイントは次表の通りです。それぞれの問題点や二次改正に向けての流れについては、Chapter 3を参照してください。
 
2. 保護命令
 DV防止法に定められた対策のうち、先進諸国の取り組みを参考として取り入れられた「保護命令」は、被害者や同伴する子どもの生命と安全に直結する大変重要な施策の1つです。被害女性が、加害者の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てることにより、加害者に対して「接近禁止命令」「退去命令」のいずれか、ないし両方が発せられる法的措置です。
 
◆これだけは押さえておきたいDV防止法のポイント◆
〜2004年法改正の内容を含む〜
 
1. 「配偶者からの暴力」の定義〜「身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命または体に危害を及ぼすもの)」または「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」とされ、一次改正により、対象となる行為の範囲が拡大。
2. 「配偶者暴力相談支援センター」の設置〜都道府県だけでなく、市町村でも機能を果たすことができることとなった。支援センターで担う業務は次の通り。
(1)相談または相談機関の紹介
(2)カウンセリング
(3)被害者及び被害者の同伴者の一時保護
(4)被害者の自立生活促進のための就業促進、住宅確保、援護等に関する制度の利用についての情報提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助
(5)保護命令制度利用についての情報提供、助言、関係機関への連絡その他の援助
(6)被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助
※業務を行うにあたり、必要に応じて民間組織との連携に努めることも新たに規定
3. 保護命令〜「更なる身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」とき、裁判所が被害者からの申し立てにより加害者に対し発する命令。接近禁止、退去命令、とも、改正により再度の申し立てが可能となった。
(1)接近禁止命令
 加害者に、被害者の身近へのつきまとい等を6か月間禁止するもの。一次改正により、被害者だけでなく、被害者と同居する子どもについても接近禁止命令を出すことが可能となった。
(2)退去命令
 加害者に、2か月間、住居からの退去を命じるもの。改正前は2週間であった。
※保護命令に違反した者には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
4. 被害者の自立支援〜「国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止するとともに、被害者の自立を支援することを含め、その適切な保護を図る責務がある」と明記
5. 基本方針・基本計画〜内閣総理大臣・国家公安委員会・法務大臣及び厚生労働大臣が定めた基本方針に即して、都道府県は、基本計画を定めるものとされた。2005年度中に、全国の都道府県で、それぞれの状況に即したDV対策基本計画が策定されている。
6. 被害者の適切な保護〜被害者からの苦情の適切かつ迅速な処理が明記。また、職務関係者によ配慮の規定に、「被害者の国籍や障害の有無を問わず、被害者の人権を尊重」し、「安全の確保・秘密の保持に十分な配慮」をすることが明記された。
7. 民間団体への援助〜DV被害者保護を行う民間団体に対し、国及び地方公共団体は、必要な援助を行うよう「努める」とされた。
8. 3年後の見直し〜改正法施行後、3年を目途として施行状況を見直す。
 
 保護命令の発令は、2006年の時点では、「更なる身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」と判断された場合のみに限られ、心理的な暴力、言葉の暴力などは、保護命令の対象となっていません。また、2004年の改正においては、被害者が同伴する子どもについても接近禁止命令の対象となりましたが、親族や支援関係者など、さらなる対象の拡大が求められています。3年ごとの見直し規定が盛り込まれたことから、次の改正に向けて、被害当事者、支援者、研究者たちが声を揃え、現実に被害者が直面している問題をより解決に近づけていくために、活発なロビー活動を展開しています。
 
配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律の概要
(チャート)
(拡大画面:202KB)
※内閣府 男女共同参画局ホームページより掲出
 
保護命令の申立手続き
 相談者が、保護命令の申し立てを希望する場合、保護命令の申立用紙はどこの裁判所でも入手でき、手続き自体は被害者本人だけでも可能なものですが、被害者が住民票を移さない限り、申し立てをする裁判所が、加害者と同じ住所地となることが多いために、被害者1人で行動を起こすには大きな不安が伴います。また「いつ、どこで、どのような暴力を受けたか」とか、「生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きい事情」を詳述しなければならず、自分の体験を時系列に置き換えて、裁判官に理解が得られる文章にまとめる作業は、思いのほか当事者にとっては負担になるものです。
 病院の診断書や傷の写真、といった暴力の証拠書類も、必須ではありませんが、あればあるだけ申立書の受理や保護命令の発令につながります。相談の中で保護命令を申し立てる可能性を察した場合には、被害の状況や日時などを簡単にでもメモに残し、証拠書類を見つからない場所に保管しておくように伝えましょう。
 また、人的要員が確保できるのであれば、保護命令の申立時や審問の際に、支援者が裁判所まで被害者に付き添うことも大変心強い支えとなります。予め、加害者審問の日時、控え室なども確認し、裁判所で加害者と遭遇することがないよう、配慮することも必要です。
 「接近禁止命令」「退去命令」のいずれも、再度の申し立てが可能になりましたが、実際には、相手側が命令に違反しない限り、直近の半年間は「生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きい事情」が存在しないことから、申し立てをしても受理されないケースがあります。仮に受理されたとしても、加害者にしてみれば、再度裁判所で審問を受けることになり、被害者への執着心や復讐心が再燃することも予想されます。再度の申し立てを行うにしろ、見送るにしろ、被害者の意思を尊重しながら、子どもや被害者の安全を最優先に考慮しなければなりません。


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