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V. 現地調査報告
1. 現地調査概要
・調査日:平成19年3月6日〜7日
・調査団体:
(1)兵庫県洲本市(旧五色町)
(2)兵庫県南あわじ市
(3)兵庫県芦屋市
(4)兵庫県西宮市
(5)片山キッズクリニック(兵庫県神戸市)
 
2. 現地調査報告
(1)兵庫県洲本市(旧五色町)における取組
 旧五色町は、1956(昭和31)年の町制施行後、高度経済成長とともに都市部への人口流出が進み、1970(昭和45)年には淡路島内の市町村で最初に過疎地域に指定された。以来、過疎脱却を目標として、企業誘致による雇用確保、分譲宅地整備・町営住宅整備による定住促進、子育て支援、等の諸施策を推進してきた。その結果、国勢調査ベースでの総人口は1990(平成2)年の10,232人から、2000(平成12)年には11,090人、2005(平成17)年には11,101人と増加傾向にある。また、合計特殊出生率も1995(平成7)年の1.70から2000(平成12)年には1.82まで上昇するなどの成果が現れてきている。
 
(1)企業誘致による雇用確保
 1980年代初頃から、廃校となった校舎跡地等を工業用地として整備し、企業誘致を開始した。町出身の経営者がいる等、町にゆかりのある企業を中心に誘致を行い、用地造成の他、排水等の諸問題につき行政が責任を持って解決を行う等の努力を行った結果、1982(昭和57)年以降、11社の誘致が実現している。
 
(2)分譲宅地整備・町営住宅整備による定住促進
 企業誘致の進展に伴い、誘致した企業従業員向けを初めとする住宅需要に対応し定住を促進するため、遊休農地等を活用した分譲宅地の整備を開始した。1989(平成元)年度以降、4団地・計693区画の分譲を行っている。
 また、宅地分譲に伴い、分譲宅地に人口が集中し町内で過密・過疎のアンバランスが起きることから、人口減少の著しい地区への定住促進を図るために町営住宅の整備を計画的に実施し、県営住宅と併せて25団地・498戸を整備している。
 こうした定住促進策により都市部から移住してきた住民の要望に応える形で、運動公園や図書館、保育所等の施設整備を実施し、それらの施設でのパート雇用が、子育てをしながら働きたい母親向けの就労機会の創出にも貢献している。
 
(3)子育て支援
 5つの小学校区全てに保育所を設置し、必要なところでは延長保育も実施している。また、待機児童を出さないよう、早期に入所予定児童数を把握して、必要に応じ受入枠を拡大するなど弾力的な運用を行っている。
 小学生の放課後の居場所づくりのため、鮎原保育所に児童館を併設(五色町子育てセンター)する他、他の4つの小学校区でも、保育所やコミュニティセンターに併設する形で、「かざぐるま」(五色町子育て支援事業)という放課後児童健全育成事業を実施している。児童館や「かざぐるま」では、乳幼児から中学生までに遊びや活動の場所を提供するとともに、子育て悩みの相談員や子育て支援指導員、両親教育インストラクターを配置して、育児相談や育児サークルの活動支援を行っている。
 また、保健センターや教育委員会が、子育て関係情報の広報を行い、その周知に努めている。
 
五色町子育てセンター
 
センター内部
 
 以上のとおり、(1)、(2)、(3)を初めとする諸施策の推進により、人口増加や合計持殊出生率の上昇といった成果が現れてきているが、
・医師の確保(特に産婦人科・小児科の医師不足が深刻で、場合によっては島外の病院に頼らざるを得ない。若い医師は子弟の教育がネックとなり、なかなか来てくれない。)
・旧五色町で諸施策を推進する助けとなっていた行政と住民との信頼関係の維持(企業誘致における町にゆかりのある企業の発掘や、遊休農地等を活用した分譲宅地整備では、行政に対する住民の信頼感を背景に情報提供や用地取得が円滑に行われたが、合併後もこのような信頼関係を維持できるか。)が今後の課題として挙げられる。
 
(2)兵庫県南あわじ市における取組
 南あわじ市は、2005(平成17)年1月に緑町、西淡町、三原町、南淡町の三原郡4町が合併して誕生した。国勢調査ベースでの総人口は1990(平成2)年の57,526人から2005(平成17)年には52,283人と減少傾向にあるが、合計特殊出生率は2000(平成12)年、2005(平成17)年ともに1.51と横ばいを維持し、かつ全国値(1.26)よりも高い数値となっている。
 同市では、市の活力を維持し、永続的な発展を目指すため、急激な人口減少・少子高齢化に対応した施策を総合的に展開することとしているが、その中でも持徴的な取組としては、地域の大人達による声掛け・見守り運動である「地域のおじさん・おばさん運動」が挙げられる。
 
(1)地域のおじさん・おばさん運動
i)運動の経緯
 この運動は、子どもと大人相互の関心の薄さや人間関係の希薄化に対する問題意識が端緒となり、「地域の子どもは地域で守り育てる」(大人の責任は子どもを守り成長させること)という気運を盛り上げ、地域の連帯感と教育力を高めることを企図したものである。2001(平成13)年度から三原郡4町にて運動の構想及び準備が進められ、2002(平成14)年3月からメンバー登録を開始した。その後、2007(平成19)年2月末時点で、約18,500人がメンバー登録を行っている。
 
ii)運動の内容
 登録対象者は、20歳以上の南あわじ市在住・在勤者。希望者は、個人もしくは自治会等の団体単位でメンバー登録を行う。登録されたメンバーは自主的に、
・通学路でのあいさつ、声掛け
・交通安全当番
・ラジオ体操への参加
・「チャレンジ教室」(小学校区単位で子どもたちの希望に応じて行う、花づくりや清掃活動、昔の遊び等の体験活動)の指導
を行う。
 
iii)運動の到達目標
・地域の子どもと大人の触れ合いやコミュニケーションが図られ、顔の見える関係がつくられる
・親や大人をはじめ、地域全体で子どもの健やかな成長を見守るという気運が生まれる
・子どもたちが、のびのびと安心して生活できる地域環境づくりが進められる
・子どもたちの事故や非行がなくなる
・子どもたちが、事故や犯罪に巻き込まれるようなことがなくなる
 
iv)運動の課題
 運動を推進していく中で、登録者の意識啓発が進み、自主的な地域での世代間交流に発展している例も見られるようになってきているが、登録メンバー全員にこのような自主的な取組が広がっていくかが今後の課題である。
 
(2)その他の取組
 当市では、本年1月に、市長を本部長とする少子対策推進本部を立ち上げると共に、本年4月から少子対策担当部署「少子対策課」を新設して、本格的に少子化対策事業を推進することとしている。
 主な施策として、
・若者の出会いづくり支援等の結婚促進関連事業
・新婚世帯家賃補助や通勤・通学者交通費助成等の定住促進関連事業
・企業誘致事業等の雇用促進、職場の子育て環境改善関連事業
・子育て学習センター事業や保育料第2子以降無料化事業、在宅子育て応援事業等の子育て支援関連事業
・少子対策情報の集約及び発信事業
を行うこととしており、事業にかかる財源は土木費や事務費等の経費削減等により確保することとしている。


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