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3. 宮崎県西米良村における取組
 宮崎県西米良村の人口は、1998(平成10)年の1,604人から現在では1,362人に減少している。この間、人口65歳以上の高齢者の占める割合は33.4%から40%に上昇しているが、0歳から4歳の乳幼児数は、47名から46名とほぼ横ばいを保ち、2003(平成15)年から2005(平成17)年の出生数は、7人、9人、10人と増加している。
 村では、少子対策を緊急の課題としてとらえ、以下に述べるとおり、様々な取組を行っている。
 
(1)西米良村の人口減少・少子化社会への対応に関する取組
(1)出産祝い金の支給
 出産を迎えた若い世帯が一番困るのは、給料が安いことによる経済的負担である。また、妊娠中には約80キロ離れた病院まで半日・1日がかりで、15回から20回程度健診に行くため、健診費用だけでなく交通費も負担となる。
 そこで、出産を迎えた世帯の負担を少しでも軽減するため、西米良村の住民基本台帳に記録され、かつ居住している者を対象に、第1子5万円、第2子10万円、第3子30万円、第4子以降は第3子の金額に10万円ずつ加算した出産祝い金を支給している。第3子以降の出産祝い金は報償的な意味合いから、第2子までと比較して増額となっている。第3子以降をどのようにして増やすかも大きな課題である。
 結婚に対する価値観の変化から、全員が結婚するという前提は成り立たなくなっているが、一方、仕事と子育ての両立の問題、出会いの場の創出、経済的負担の問題は村で支援することができるため、様々な取組を行っている。
 
(2)すくすく子育て支援金交付金の支給
 未就学児を養育している保護者で、児童とも西米良村の住民基本台帳に記録され、かつ居住している者を対象に、村内の商店等で生活必需品の購入又は役務の提供を受ける場合にその金額の2割・1世帯当たり9万6千円を限度に交付金の支給を行う。
 この取組について、若者の子育て支援策として直接的に金銭を交付するのは賛否両論がある。しかし、村の置かれた少子化・高齢化の現状を鑑みると、今少子対策を行わなければ人口回復力がなくなることや、総額で4百万円程度の負担で子育て支援、村内商店街の活性化、若者の定住促進が可能となることから意味があるものと考えている。併せて、村内で買い物をすることによって、子どもたちやその親たちと村民との交流が進む効果も現れており、順調に機能しているものと思われる。
 
(3)保育料の減免
 児童が第3子以降の場合は、一人月額10,500円を控除し、1世帯で児童が3人以上保育園に入園する場合は、3人目の児童から全額を控除する。
 これも第3子以降の出産祝い金同様、報償的な意味合いがある。
 
(4)乳幼児医療費助成
 現在は小学校就学前までの乳幼児を対象としているが、小学生・中学生は病気にかかりにくくなるため、対象を中学生まで拡大することも検討している。
 
(5)若者定住住宅建設
 村出身者で高校、大学生活を都会で過ごした者にとっては、都会と村との環境の差(プライバシーの確保等)でショックを受けることが多い。そこで、都市並みの住居環境の確保、安価で快適な住宅の提供による地域内定住の促進を図るために、1996(平成8)年度に若者定住住宅の建設を行った。
<若者定住住宅概要>
・建設戸数:16戸(現在は満室)
・入居資格:村内に住所を有する18歳以上40歳未満の者
 
(6)乳幼児(0歳から3歳未満)を入所対象とした保育所の建設(村単独事業)
 従来、村では、個人で乳幼児1人か2人を対象とする預かり保育サービスが行われていたが、保育料が高価であることから、1999(平成11)年度に定員12名の保育所を建設して、預かり保育を行っている。村では夫婦共働きの世帯が多くなってきていることから、非常に好評である。なお、3歳以上は通常の保育所に移行する。
 
(7)菊池奨学資金の貸与
 旧藩主である菊池家が山林売却によって得た2千万円を1965(昭和40)年に村に寄付し、それを原資に、村外に下宿して高校・大学に進学する者に対する奨学資金の貸与事業を行っている。貸与した奨学資金は無利子であること、卒業後償還期間(10年)内を村内で就業した者には就業期間内に償還すべき金額を免除することが特徴である。
 
(8)西米良型ワーキングホリデー制度
 西米良村では農作業の人手を確保するとともに、村外者との交流を村の活性化につなげようと、1998(平成10)年から全国に先駆けて「西米良型ワーキングホリデー制度」を開始した。都市部の人々は働きながら田舎生活(観光旅行)を楽しめ、受け入れ側は人手不足の解消や新しい風を呼び込むことができるなど双方にメリットがある。
 参加者は受け入れ農家から得た賃金で村に滞在し、余暇を楽しむことができる。運営主体は第3セクター「株式会社 米良の庄」。受け入れ農家の状況を確認しながら、参加希望者に人手を必要とする農家を紹介する。
 当初、5戸だった受け入れ先は現在、花やユズなどの農家と食品加工所を合わせて10件程度。参加者の報酬は1人1日(7時間)、4,270円。双子キャンプ村に3,000円で宿泊でき、滞在費用はほとんどかけずに余暇を過ごすことが可能。1週間滞在の場合は、3日間を仕事に充てて、残りはゆったりと村を満喫する人も多いようである。
 これまでに全国各地から、10歳代から60歳代までの男女351人が体験。うち半数以上が若い女性である。何度も制度を利用して村を訪れたり、夏の花火大会や各イベントに遊びに来たりするケースも増えている。
 また、ワーキングホリデー制度がきっかけとなって結婚し、都会から村に移住した例もある。
<実績推移:1997(平成9)年度は試行年度>
利用者数 延べ滞在日数 リピーター
1997(平成9) 29 153 0
1998(平成10) 44 177 3
1999(平成11) 26 130 4
2000(平成12) 46 227 10
2001(平成13) 44 226 11
2002(平成14) 53 519 7
2003(平成15) 47 179 8
2004(平成16) 31 113 4
2005(平成17) 31 157 2
合計 351 1,881 49
 
(9)出会いの場の創出、結婚報奨制度
 農林業に従事する村民は出会いの機会が少ないことから、出会いの場を創出するため、2001(平成13)年から、地域の特産品や特性を活用した体験型のアウトドアパーティを実施している。また、結婚報奨制度も実施している。
 
(10)親子のレクリエーション教室
 村内に点在する母子の孤立を防止するとともに、子育てや生活の知恵の共有化を図るため、親子のレクリエーション教室を実施している。
 
(2)その他
・近年、出生数が増加しているのは、村が働く場の確保や(1)で述べた様々な取組を積み重ねてきたことによるのではないか。子どもを生もうと思ってもらう、子ども2人を3人にしようと思ってもらうのは至難の業である。そのためには「社会で子育てを行う」というシステムをコストをかけてでも行わなければならない。
・(1)で述べた取組の財源は、2001(平成13)年から2004(平成16)年度にかけて実施した財政改革の成果である。現在の地方財政制度が維持されるのであれば、村としては財源の心配をあまりしないで済む基盤づくりはしたと思っている。
・高齢対策と少子化対策とのバランス確保のため、高齢対策として、病院の整備・充実や生涯現役の生き甲斐づくり等、様々な事業を実施している。高齢者には生き甲斐づくりと健康づくりが一番喜ばれるのではないか。


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