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2. 宮城県仙台市における取組
(1)仙台市における少子化の現状
 仙台市においては、現在仙台市すこやか子育てプラン第3期行動計画(2005(平成17)年度〜2009(平成21)年度。以下、「すこやか行動計画」という。)に基づき、同プランの基本理念である「子供がすこやかに育つまち仙台」の実現に向けて取り組んでいる。
 しかし、仙台市における少子化は急激に進行しており、特に、出生数は2003(平成15)年度以降、わずか3年のうちに約9,900人から約9,000人へと急激に減少している。合計特殊出生率も低下し続け、2005(平成17)年には1.11と全国平均(1.26)や宮城県平均(1.24)を大きく下回る状況が続いている。
 現在、第2次ベビーブーム世代が出産適齢期にあるにもかかわらず、このように出生数が減少している事態となっていることを考慮すると、現時点で迅速に、かつ的確に対応を講ぜず、出生率が一層低下し続けた場合、出産適齢期の助成数がますます減少していく次の世代以降においては、出生数の急減が懸念される。
 
(2)「仙台市緊急少子化対策『子育て支援アクションプログラム』」の策定
 こうした状況に対応するため、すこやか行動計画全般について着実な推進を図る一方で、急激な少子化進行の背景を調査・分析した上で、すこやか行動計画に掲げた施策のうち、特に深刻化している問題に対応するための緊急度の高い事業で、主に2007(平成19)年度に取り組むものに関して、「仙台市緊急少子化対策『子育て支援アクションプログラム』」を策定した。
 
<検討の視点>
 少子化対策として、市として何が出来るのか、何をやるのが一番実効性があるのかを考えた場合、金によるケア(児童手当や、子育て家族への税制上の優遇措置等の経済的支援)に関してはナショナルミニマムとして国が行うべきであり、一方で人によるケア(子育て家庭の孤立化への対応等)は、地域の実情や各子育て家庭の実情も良く把握できる自治体としての市が実施するべきであるとの考えから、人によるケアを中心に取りまとめた。
 また、市はかなり地域経済に対しても影響力を持っていることから、働き方の見直し等、企業への働きかけの効果も大きいのではないか、ということも考慮に入れて取りまとめを行った。
 
<緊急少子化対策の基本的な柱>
 緊急事業の事業内容の検討に当たっては、2004(平成16)年3月に実施した「子育てに関するアンケート」等の調査結果に加え、子育て現場を直に把握するため、緊急に2006(平成18)年7月から11月までにわたって、保育所、幼稚園、児童館その他の乳幼児施設に赴いて行った。子育て中の保護者、子育て支援者等との意見交換における意見・要望を踏まえた上で、緊急度の高い課題とその対応策を検討し、次の3項目を基本的な柱とした。
・地域支援
 核家族化、都市化の進展に伴い、人間関係の希薄化が進み、特にいわゆる転勤族が多い本市においては、近隣に肉親や頼れる人が少ないことにより、とりわけ家庭内で子育てしている親子(0〜2歳児の約8割を占める。)の孤立化が進行している。そのため、こうした孤立しがちな子育て家庭を地域全体で支える体制を構築する。
・両立支援
 女性の就労意欲の高まりの中、両立支援において、「ワーク・ライフ・バランス」すなわち仕事時間と生活(育児)時間のバランスをとることにより、出産後も無理なく就業を継続できる環境作りが求められている。
 そのため、大多数を占める中小企業を対象に、育児休業の取得促進など、子育てしながら働きやすい環境の整備を促進する。
・経済的支援
 出産、育児、教育、医療等、子育てに係る費用に対する負担感が増大し、子供を産み育てる意欲を阻害する要因となっている。そのため、国・県との役割分担を明確にし、その制度の動向を踏まえながら、子育て家庭への経済的支援の充実を図る。
 
<緊急少子化対策の施策体系と主な施策>
(1)地域支援のために
 地域において子育て家庭に対する育児支援を強化することにより、育児への不安や負担感を軽減し、孤立化の防止を図るため、のびすくネットワーク、ご近所ネットワーク、児童館地域ネットワーク、の3つのネットワークの形成を図る。
i)のびすくネットワーク
 仙台市では現在、乳幼児の一時預かりや親子の集い、遊び、相談の場として、市内17か所の保育所に「子育て支援センター」を設置しているが、全市域をカバーできていない。そこで、2007(平成19)年度に、親子の集い、遊び、相談の場として市内12か所の保育所又は児童館に「子育て支援室」を設置し、「子育て支援センター」と合わせて、おおむね2中学校区に1か所の割合で、地域子育て支援拠点を緊急に整備する。
 更に「子育て支援センター」同様、乳幼児の一時預かりや親子の集い、遊び、相談の場を提供する幼稚園への支援も行うこととしている。
 また、交通至便な都市機能集積地に、乳幼児の一時預かりや、親子の集い、遊び、相談、子育て情報の収集・提供の場として、「のびすく仙台」という全市対象の子育て支援拠点を設置しているが、市内3つの都市部それぞれをカバーするよう、同様の子育て支援拠点を更に2か所緊急に整備する。
 
ii)ご近所ネットワーク
 仙台市で就学前の子どもを持つ親子にアンケートを実施したところ、「近所とほとんど付き合いがない」と回答した割合は、1994(平成6)年には概ね20%程度であったが、2004(平成16)年には40%とほぼ倍増していた。同様に「近所と全く付き合いがない」と回答した割合も3%から6%に倍増するなど、子育て家庭の孤立化が顕著となってきている。
 そこで、2007(平成19)年度より、近所で子育て家庭への見守り・助言などを行う「子育てサポーター」の育成・登録を行い、近所での支援の輪を形成する。「子育て支援サポーター」の育成・登録に際しては、主任児童委員や地域住民・町内会、育児サークル・NPO等、様々な地域の主体の協力・参加・支援を仰ぐこととしている。
 また、なかなか外出できない子育て家庭や、個別に相談を受けたい子育て家庭に対して区役所が実施する戸別訪問につき、2007(平成19)年度より、対象を従来の第1子から、第2子以降の全ての子供に拡大するとともに、保健師による保健指導だけでなく、保育所の保育士による子どものしつけ方や遊び方等の子育て情報の提供も行うこととしている。
 
iii)児童館地域ネットワーク
 仙台市では、小学校区ごとに児童館を設置しているが、i)で述べた「子育て支援室」による子育て支援に加え、児童館が設置されていない地域の子どもや児童館があっても子どもの数が多すぎて放課後児童クラブに入れない子ども向けに、放課後子どもプランと連携して、空き教室等の学校施設を活用し放課後子ども教室の活用を推進する。また、様々な地域の主体と連携して、児童館ごとの子育て支援の役割を充実させることとしている。
 
(2)両立支援のために
 従来の両立支援は、保育所の整備により子ども預ける場所を確保することが中心であったが、育児休業を取得しづらいため仕事を辞めてしまうという状況や、子どもが生まれて1年程度は自分で子育てしたいというニーズを鑑みて、市内の中小企業を主な対象として、ワーク・ライフ・バランスの観点から働き方の見直しなど、仕事と育児の両立支援を積極的に働きかける。
 具体的には、2007(平成19)年度に、中小企業の実態調査を実施するとともに、中小企業育児休業制度活用状況表彰やシンポジウム開催といった啓発活動を実施することとしている。
 また、保育所における産休明け保育や育児休業明けの予約保育に向けた検討や、事業所内保育を推進することとしている。
 
(3)経済的支援のために
i)乳幼児医療費助成
 宮城県と共同で実施しているものであるが、2007(平成19)年度から対象年齢を小学校就学前まで拡大するとともに、所得制限の緩和を実施することとしている。
ii)その他の経済的支援
 2007(平成19)年度から、特定不妊治療助成については年間助成費の増額及び所得制限の緩和、幼稚園就園奨励費については助成額増額、児童手当については支給額の増額を実施することとしている。
 
(3)その他
・子育て家庭の孤立化を防ぐ取組については、地域の実情や各子育て家庭の実情も良く把握できる自治体としての市が中心となるが、企業への働きかけ等の仕事と家庭の両立支援に関しては、市単独で推進するには難しいため、県や他の市町村との連携により推進していくべきである。
・これから結婚を考えている人や、結婚して子どもがいない人が、子育て中の親が苦労している姿を見て大変そうだと思うと、「子どもを育てたくない」という逆インセンティブになることがあるかと思われる。子育て家庭の孤立化を防ぐことによって、第2子以降を生んでも良いかなという気運を醸成するとともに、地域中で子育てが楽しんでできるような雰囲気や環境をつくっていくことが必要と思われる。


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