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1.4.2 国と州が共に権限を有する分野
 国と州が共に権限を有する分野については、憲法第117条第3項に定められており、以下のように分類されている。なお、同項末尾には「競合的立法事項については、州に立法権が帰属する。但し、基本原則の決定は、国の法律に留保される。」とされている。
1 州の国際関係及び州と欧州連合との関係
2 外国との通商
3 労働の保護及び安全
4 学校の自治並びに職業訓練及び職業教育を除く教育
5 職業
6 科学及び技術研究並びに生産的セクターの革新のためめ支援
7 健康の保全
8 食料
9 スポーツ法制
10 防災
11 領土の管理
12 民間の港湾及び飛行場
13 大規模な輸送及び航行網
14 通信制度
15 エネルギーの生産、輸送及び全国への配給
16 補充的及び補完的な保険
17 公的収支の調和並びに公財政及び租税制度の調整
18 文化財及び環境財の評価並びに文化活動の推進及び組織化
19 貯蓄銀行、農業金融公庫及び州レベルの信用金庫
20 州レベルの不動産及び農業信用団体
 
1.4.3 立法権について特段の定めのない分野
 憲法第117条第2項ならびに第3項で触れた以外の分野については、州のみが立法権を有する分野であるとされている(同4項)州に与えられている領域は、憲法には明示されていないが資料7によれば、以下の分野が考えられている。
1 州および州内部の制度及び組織(憲章で国法に拘束されない新しい組織のモデルを定める可能性を含む)
2 農業、林業、狩猟、漁業(エコシステムの保護との関係で国の権限と調整が必要)
3 手工芸(手工芸的な形態におげる財及びサービスの生産、手工芸の個人経営及び共同組合の保護と発展、職人の育成について)
4 商業
5 工業
6 観光業及びホテル業
7 エネルギー(地方の利益及び自己生産の側面に関して)
8 輸送及び道路整備
9 鉱山及び地熱資源
10 鉱泉及び温泉
11 教育援助、職業訓練、職業教育
12 興行
13 州の公共サービス
14 都市計画の調整
15 公共事業
16 地方行政警察
 
7 高橋利安(2005)
 
1.4.4 行政権
 行政権については、憲法第118条に定められている。2001年の憲法改正によって、「行政権能は、統一的な執行を保障するために、補完性、差異化及び最適性の原則に基づき、県、大都市、州及び国に移譲される場合を除き、コムーネに帰属する」とされている。統一的な執行を確保するために、国及び州の権限に基づき、より広域の団体に行政権を委譲することを示しつつ、行政権が第一次的に住民にもっとも近い基礎自治体であるコムーネに帰属されることを明確にしている。
 
2. 地方自治体の権限および事務
2.1 コムーネに与えられた権限および行政権
 コムーネの行政権については、統一的な執行を確保するために国及び州の権限に基づき広域の団体に行政権を委譲することを示しつつ、第一次的には住民に最も近い地方自治体であるコムーネに帰属されることとなっている(憲法第118条)。また、地方自治統一法典第13条にも「国の法律または州の法律の上で帰属が明確に規定されている事務を除いて、住民サービス、地域コミュニティ、地域整備および土地の利活用、経済発展に関する事務は、主としてコムーネに属する」とされている。
 
2.2 地方自治体の事務
 地方自治に関する戦後最初の体系的な法律であった地方自治法(1990年法律第142号)は、1997年から1999年にかけて定められたバッサニーニ法により、従来は国や州に帰属していた多くの事務が、コムーネ、県、州のいずれかの地方自治体に属することと定められた。中でも、「地方自治体の自治及び組織並びに1990年法律第142号の改正に関する法律」(1999年法律第265号)によって新地方自治法が改正され、地方自治統一法典第3条第5号において「コムーネと県は、補完性の原則に従い、固有の事務ならびに国法および州法律によって与えられた事務を行う」と定められた。
 その後、2001年の憲法改正により、県、大都市、州、国に属するとされるもの以外の全ての事務はコムーネに属することと定めちれた。
 近年のイタリアの地方分権化を進展させたこれらの憲法や法律により、地方自治体に移譲された分野はそれぞれ以下の通りとなっている。
 
2.2.1 州の事務
 州が立法権を有する分野については、原則として行政権も有する(憲法第117条)。しかし、立法および各分野における各種計画等を除く直接の行政サービスは県とコムーネに任せることが望ましいとされている。州が立法権と行政権を有する分野については1.4.3を、国と州が共に立法権と行政権を有する分野については1.4.2を参照することとする。
 
2.2.2 県の事務
 県は以下の分野において、県全域に係る行政事務またはその所属するコムーネ間の調整などに関する行政事務を行うことが定められている(地方自治統一法典第19条第1項)。
・環境保護および環境影響評価
・防災
・水資源およびエネルギー資源の保全等
・文化財の評価
・交通政策および運輸(輸送)
・公園、自然保護区等、自然環境および生息する動植物の保護
・狩猟および釣りに関する規制
・県のレベルで行われる廃棄物処理、水質汚濁、および大気中排気ガス、騒音の測定・規制・監視
・国および州から委任された公衆衛生および予防等の保健サービス
・国および州から委任された学校建設、および中等教育・芸術教育・職業教育にかかる事務
・統計情報の収集および分析、コムーネ等の地方団体の運営に関する技術的な支援
 
 県は、各コムーネとの協力およびその提案に基づいて定められた計画に基づいて、経済、産業、商業、観光、社会、文化、スポーツの各部門において、県域における行政上の事務事業の調整・推進を行うことが定められている(地方自治法典第19条第2項)。
 
2.2.3 コムーネの事務
 先の説明にもある通り、近年のイタリアにおける地方分権化により、地域住民および地域社会にかかわる事務のうち、県、大都市、州、国に属するものとされるもの以外の全ての事務は、補完性の原則によりコムーネに属することとされている。
 コムーネに属する事務のうち、バッサニーニ法によって、新たに国や州から権限委譲された分野は、以下の通りとなっている。
・生産活動の統制(支店の設置、工業施設の設置、拡大および閉鎖に関する手続き、建設許可等)
・地域見本市(出展資格の確認と出展の許可)
・都市建造物および土地の登記(20,000人以上の住民が住むコムーネについては登記事務および登記事項証明書の発行)
・公共事業
・住民の安全(コムーネ区域内の緊急措置の適用、単一または複数のコムーネ間の緊急時対応計画の準備、初期救急措置の実施、ボランティア消防団の組織化)
・保健衛生(緊急時における地域の保健衛生問題等に関する対応、州の計画への参加)
・社会福祉(各種サービスの供給、また年少者、青年、高齢者、家族、身体障害者、薬物依存者、社会福祉に蘭する協同組合、公共慈善救済施設、福祉ボランティア等に関する事務の全てまたは一部)
・職業教育
・文化活動(コムーネに属する文化財の再評価、文化活動の促進)
・行政警察(地域レベルで行う自転車等の協議開催許可、刃物類行商資格、代理人資格、花火業者資格、一般行商資格、射撃インストラクター資格、アパート賃貸申請の受付、その他コムーネにかかる行政警察措置全般)


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