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(3)社会保険料徴収の仕組みが国によって大きく異なっていること
 例えばオーストラリアやニュージーランドのようにそのための特別の制度を持たない国もあれば、そのための特別の規定を設けて主たる税徴収機関で徴収している国もある(OECD28カ国の中で11カ国。OECD以外ではアルゼンチン、ブラジル、ブルガリア、エストニア、ラトビア、ルーマニア、ロシア、スロベニア等がこれに属する)。ヨーロッパやアジアの多くの国ではそれを税徴収機関とは別の機関で徴収している(OECD28カ国中17カ国。但し韓国は2009年から税徴収機関と統合の予定。OECD以外の国ではチリ、中国、シンガポール等がこれに属する)。社会保険料収入は多くの国々で中心的な税収源になりつつある(例えばオーストリア、チェコ、フランス、ドイツ、日本、オランダ、スロヴァキア、スペイン等)ので、OECDは社会保険料の徴収費用を徴税費から除いて計算している。
 
(注5)表4にはほとんどの国で税徴収機関が税徴収以外の役割を果たしていることが示されたが、その具体的な内容が表5に示されている。上の項で示したような関税の徴収や社会保険料の徴収だけでなく、扶養費立替払いや奨学ローンといったいわゆる社会保険給付返還金の取り立てや資産評価、住民登録といった仕事までもが税徴収機関によって行われている。
 
表5 税徴収以外の機能
関税+法解釈 社会保障金給付 養育費取立て 奨学ローン取立て 資産評価 住民登録 その他
デンマーク × ×
ノルウェー × × × × × ×
スウェーデン × × × ×
日本 × × × × × ×
フランス × × × × ×
ドイツ × × × × × ×
イギリス × ×
アメリカ × × × × × ×
(注)その他の機能
デンマーク 農産物輸出返還
スウェーデン 私的負債および混雑課徴金の取立て
日本 アルコール産業の登録
フランス 国家資産の管理
ドイツ 持ち家や資本形成のための奨励金、ゲーム課徴金
イギリス 空港における反テロ活動
 
(注6)社会保険料の徴収を税徴収機関で行う国が増えてきているが、それは両徴収機関の統合が情報源の有効活用になり、徴税費を節減できると考えられているからである。IMFのスタフの分析によると、統合が行われる際に必要な制度は、i)両制度に共通する唯一の登録番号を設けること、ii)同じ所得の概念にもとづいた所得の情報を、雇い主ないし自営業者から得られる制度を設けること、iii)源泉徴収された税、社会保険料を(通常、銀行を通じて)徴収できる機関を設けること、iv)支払いのための帳簿や書類を作っていない雇い主等をフォローアップできる効率的な制度を設けること、v)監査規準に基づいてつくられた所得の情報の正しさを確認できる制度を設けること、である。また実際に統合が行われた国について調べてみると、統合にかかった限界費用がそれ程大きくないという点が上げられる。この点は別々の機関で似たような税を徴収する仕組みができていない国では特に重要な要素である。いくつかの国では徴収費用を引き下げるために、損害保険料、メディケア保険料、児童支援保険料、奨学ローンの返還金といったような税とはかなり異なった料金の徴収も税徴収機関に統合された。税徴収の観点からすると、社会保険料は税とは異なった目的を持っているにもかかわらず税の一種としての特徴も備えているので、税とは違った扱いがされる国があったとしても所得に関する情報、特に源泉徴収の部分の情報は徴税のために共有されるべきである。
 
(注7)税徴収機関が社会保険料徴収に携わっているかどうかと徴税費の関係をOECD諸国について示したのが図6である。税徴収機関が社会保険料徴収に関わっていない国の徴税費がY軸の1の線上に、関わっている国の徴税費がY軸2の線上に、そもそも社会保険料の徴収ということがない国の徴税費がY軸3の線上に示されている。図6を見る限り、税徴収機関が社会保険料を徴収している国の徴税費が低いとは一義的にいえない。しかしOECDの徴税費の中に社会保険料の徴収費用が含まれていないこと、および図6を見る限り社会保険料を税徴収機関とは別の組織で徴収している国の徴税費がそうでない国の徴税費よりも高くなっている国が多いということが言えるので、社会保険料を税徴収機関で徴収した方が、徴税費が少なくてすむということが言えるかもしれない。
 
図6 OECD諸国の社会保険料徴収機関と徴税費
 
(4)税徴収機関の果たす役割が国によって異なっていること
 例えばイタリアやチリでは脱税等の査察は徴税機関とは別の政府機関によって行われているし、メキシコ、アイルランド、スペイン、南アフリカ等では徴税機関によって本来の仕事以外の仕事、例えば関税の仕事、資産評価の仕事、社会保障給付の仕事等が行われている。これらの費用はいずれも徴税費から除かれて計算されている。
(5)共通の尺度がないこと
 残念ながら行政費用に関する世界共通の尺度はない。例えばその中に、雇主の年金費用、宿泊施設の費用、税の過払いに対して支払われる利子、金融機関への税徴収協力金、資本施設の購入費が含まれるかどうか国によって大きく異なっている。また税収を計算する際に“純額(税収マイナス税の返還額)”で計算するかあるいは“総額”で計算するかによって徴税費は大きく変わってくる。例えば徴税費が世界最小のアメリカ歳入庁(IRS)やアイルランド歳入庁はそれを“総額”で計算しているが、残りの多くの国は“純額”で計算している。
 さらに税収を現実の税収で測るか計算上の税収(法律に基づいて計算された税収)で測るかによっても徴税費は大きく変わってくる。
 
 以上の点を考えると、徴税費を税行政の効率性の代理変数とすることに十分注意をしなければならない。また徴税費は、現実の税収と法律上考えられる税収との差額(それをtax gapと呼んでいる)の問題を無視しているので、報告書はそれを効率性の指標とすることに問題があるとしている。
 このような徴税費は、一般に、例えばオーストラリア、香港、アイルランド、日本、シンガポール、英国、アメリカ等で、税行政の効率性を測るための代理指標として用いられている。つまり徴税費が低いほど、税行政が効率的に行われていると判断されている。しかしOECDの報告書は、徴税費だけで税行政の効率性を判断すると誤る要素として以下の点をあげている。
(1)税率の変更
 法定税率は徴税費を決める重要な要素である。理論的には、税制全体の租税負担を重くすると税収が増えるので徴税費を引き下げることになるが、それによって税行政の効率性が上がったとは言えない。
(2)マクロ経済の変化
 経済成長率が上がったりインフレが進んだりすると税収が増えるので徴税費は下がるが、それによって税行政の効率性が上がったとは言えない。
(3)税徴収機関による臨時支出
 しばしば税徴収機関は新しい情報技術(IT)のためのインフラ整備等に巨額の投資を行うが、このような投資は中期的に徴税費を引き上げがちである。また新税の導入も徴税費を引き上げがちである。しかしこのようなことによる徴税費の上昇は時とともに消えてしまうであろう。
(4)税徴収機関によって徴収される税の範囲が変更されることがある
 世界各国では時々、特定の税の徴収業務が、ある機関から別の機関に移管されている。例えばオーストラリアでは1999年に個別物品税の徴収業務が関税局から国税庁(ATO)に移管された。またイギリスでは社会保険料の徴収業務が少しずつ内国歳入庁(IRD)に移管されたが、IRDがその業務を完全に引き継ぎ終わる1999/2000年度まではそれは税収の中に含められなかった。いずれのケースにおいても、このような税徴収機関の変更は徴税費にプラスの影響が見られた。
 
3 税徴収機関の役割と機能
 現在の各国の税徴収機関は、表3で見たようにさまざまな税の徴収を行っており、また表4および表5で見たように、国によって若干の異なりはあるが、社会保険料や関税ばかりか扶養費立て替え払いや奨学ローンの返還金の取り立て等も行うている国もある。またそれ以外にも住民登録や資産の評価等の仕事を行っている国もある。
 このような税徴収機関の組織はどのような基準に基づいて作られているのであろうか。つまり税徴収機関の組織はどのように分割されて管理されているのであろうか。表6の1列目には、それが示されている。
 
表6 税徴収機関の機能分割
機関の分割基準 大納税者専門の部門がある 専用の処理センターあり 債務取り立て機能がある 脱税防止機能がある 専用の不服申立て機関 税個々の監査か統合か IT機能
デンマーク A 統合 ×
ノルウェー A 統合
スウェーデン A × 統合
日本 A 統合
フランス TP × 統合
ドイツ F 統合
イギリス A 分離 ×
アメリカ TP 統合
 
(注)機関の分割規準
T: 取り扱う税の種類によって部局を分割(上記国にはない)
F: 機能(例えば住民登録、税徴収、税務調査等)によって部局を分割
TP: 納税者のタイプ(例えば大納税者のみを対象とする)によって分割
A: 上記すべてに該当する基準によって分割
 
 Tタイプは最も古典的なタイプで、税徴収機関が徴収する税の種類によって分割されているような組織である。このようなタイプの組織は、次のような欠点をもっている。すなわち、i)それぞれの部局の機能が往々にしてダブるので効率ではない、ii)いくつかの税にかかわっているようなビジネスにとっては組織が煩雑である、iii)それぞれの税別に監査や徴税機能が分かれている場合には納税者の不平処理が面倒である、iv)いくつかの税にかかわる納税者間の取扱いに公平が保たれにくい、v)それぞれの税を扱う税務職員のスキルが特定のスキルに偏ってしまう、vi)全体的な税務行政上の判断が必要なのに断片的な判断になってしまう、等の欠点がある。このようなタイプの組織は北欧3カ国、我が国、主要先進諸国には見当たらない。
 Fタイプは税務行政上の機能(例えば住民登録、納税勘定、情報処理、監査、徴収、不平処理等)によって分割されているような組織である。このような組織は各税の管理を標準化して処理できるので上述したような欠点はないが、各税によって異なる納税者の反応にそれぞれ対応することはできないので、税管理サービスの低下をもたらす危険性は否定できない。
 TPタイプは先進国においてもかなり進んだタイプで、納税者のタイプ(例えば大企業、中小企業、自営業者等)別に分割されているような組織である。そのように分類された納税者グループはそれぞれ独自の特徴と税に対する態度を持っていると考えられるので、このように分割された組織で対応すると税管理サービスと租税回避行動に有効な対応ができると考えられている。事実、大納税者に対応する特別の組織は表6の2列目を見ても分かるように北欧3カ国、我が国、主要先進諸国のすべての国で設けられている。
 Aタイプは以上のすべてのタイプに該当するような仕組みを持っている組織である。
 表6の5列目には税徴収機関の中に脱税防止を目的とする組織があるかどうかが示されている。OECD諸国の中では、イタリアとハンガリーを除いたすべての国で、脱税防止を目的とする組織が税徴収機関の中に設けられている。
 表6の最後の列には、税徴収に関係するIT機能が税徴収機関の中に設けられているかが示されている。それを見ても分かるように、デンマークとイギリスでその機能はアウトソースされている。


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