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3. インタビュー
 
vol.3 〜千葉県富津市教育委員会 今井常夫先生〜
 第3回目は、千葉県富津市教育委員会の今井常夫指導主事です。今井さんは木更津市立金田小学校の教諭時代に、地元の海に広がる盤洲干潟を題材にした学習に取り組み始めました。いまや金田小学校の干潟をテーマにした総合的な学習の時間は、海洋関係の専門家はもちろん、一般のメディアからも注目される全国的に有名な海の学習です。また2003年度のワークショップでは、毎回遠路ご参加いただき、貴重なアドバイスをたくさんいただきました。そんな今井さんに、海で行う学習について聞いてみました。
 
Q1. 金田小学校の盤洲干潟を題材にした学習は、いまや全国的にも非常に有名な海の学習活動として注目を集めています。そもそも今井さんが干潟を子どもたちに学ばせようと思ったきっかけは何ですか?
A1. わたしたちが、最初から「これこそ金田小の学習としてふさわしい。」と考えていたわけではないんです。子どもたちとともに学習を進めていくうちに、盤州干潟が、東京湾に残る唯一の自然河口干潟であること、身近な自然の中で体験を通して環境について学ぶことができることなど、干潟という題材の様々な可能性を教師自身が発見していったというのが正直なところだと思います。言い換えれば、私たちも干潟から学んだのだと思います。
 
 
Q2. 干潟を題材にしたことで、良かった部分と悪かった部分を教えてください。
A2. 干潟を題材にしたことで、よかったことは地域の中で干潟に対する評価が高まったことです。子どもたちの学習を見ていただいたり、作品をいろいろなところで発表したりすることで、今まで無関心だった保護者や地域の方にも干潟のすばらしさを知ってもらうことができました。
悪かったところは・・・わたし自身が、地元の出身ではないため異動によって他校に転勤してしまい、干潟学習のその後を見届けられないことでしょうか。これから、干潟がどのようになっていくのか、自然環境の保全ができるのかまだまだ未知数です。また、干潟で学習していく上で、地域の人々との関わりや産業との関わりなどについても、やり残したことがたくさんあります。
 
Q3. 今井さんにとって、「海」とは何でしょうか?
A3. 幼かった頃は、「海」は、海水浴などで楽しむ場所でしかありませんでした。干潟を子どもたちと学びながら、「川」や「山」と密接に結びついており、生き物は、その環境によって上手に住み分けていることを学びました。
「海」は、教育活動を進めるフィールドとして貴重な体験をさせてくれる場所だと思います。そして、海に囲まれた日本にとって、「海」を通して学ぶことはとても大切なことではないかと思います。
 
 ありがとうございました。
 
vol.4 〜北海道大学・大学院水産科学研究院 岸道郎先生〜
 
 第4回目は、北海道大学・大学院水産科学研究院の岸道郎教授です。岸先生は、海洋物理学の研究の傍ら、日本海洋学会の教育問題研究部会の世話人としてもご活躍中です。ご存知“海のトリビア(日本教育新聞社)”は、当財団と岸先生をはじめとする日本海洋学会との協力の賜物でした。海のトリビアの提出前の原稿は、奥様やお嬢さまにもチェックしていただいたとか・・・。今回は、岸先生に海洋物理学の教育と日本海洋学会の取り組みについて聞いてみました。
 
Q1. 子どもたちを海につれてゆくと、真っ先に興味を示すのは、魚やカニなどの生き物だと思います。海洋物理学というと、子どもたちにとってはやや取っ付きにくい印象がありますが、海洋物理学を身近にするためのアイデアは何でしょうか?
A1. 「海洋物理学」という言葉を言わないことでしょう。「海の波はどんなふうに荒れてくるのか」「地球が温暖化したら海の流れがどう変わるか」「海の水はどこから流れてきてどこへ行くのか」みたいなことを研究している、って言えば納得しますよ。「魚は変温動物だ」ということは中学で習います。小学生でも、理科が得意な子は知っていますよね。「水温が変われば今泳いでいる場所では泳げなくなるでしょう?」「カニは海の底にいるけど寒くないのかな。温度をどうやったら測れるかな?」ってな感じで話せばいいのですが・・・。でもそんなこと話すことのできる人は、そうはいませんって。問題はそこですね。
 
Q2. 日本海洋学会が主催する海の自然科学教室では、いろんな分野の先生方が工夫を凝らしていましたね。日本海洋学会による海洋教育の取り組みについて教えて下さい。(*海の自然科学教室の様子は、本HPの海の学習見聞録に掲載しています)
A2. 箇条書き風に言うと以下のようになります。
(1)海洋の知識の普及(むずかしく言えばこうなります)
 海を学ぼう(東北大学出版会)、海のトリビアなどの本を作ったり、学会のHPを充実したり、我々の知識をあまねく普及させて「海のファン」を増やすこと。
(2)海洋教育の普及
 学校の教科書で少しでも海のことを扱ってもらうように、しかるべきところに働きかけをする。
(3)海洋の指導者の育成
 学校の先生に海の知識を身につけてもらうため、教員養成課程のある大学で「海」の授業をさせてもらう。教科書になくても、先生たちが海の知識を持っているだけでも、状況は好転すると思われるから。
 で、このような取り組みには、海洋政策研究財団との共同作業が不可欠になってきています。財団の過去における海洋教育の実践と学会の豊富な人材の橋渡しをしたいと思います。
 
Q3. 岸先生にとって、「海」とは何でしょうか?
 
 
A3. よく、金メダルを取った選手に「あなたにとってオリンピックは何ですか」とか、アイちゃんに「あなたにとってゴルフとは何ですか」っていう質問してますが、「オリンピックは世界のトップの競技会」だし「ゴルフは玉を打つ競技」ですよね。だから「海は地球の面積の70%を占める水たまり」ですよね。だから、この種の質問は私は好きではありません。海洋学をしていて面白いか?と言われれば「おもしろい」と答えるし、どこが面白いか?と聞かれると「全部が見えるわけではないから面白い」と答えるし、「生態系モデルの研究をしていてどこが面白いか」と聞かれれば「観測で分からないことが、モデルでだんだん分かってくるところ」とか・・・。
 
 ありがとうございました。
 
vol.5 〜横浜市立西柴小学校 坂田邦江先生〜
 
 第5回目は、横浜市立西柴小学校の坂田邦江先生です。坂田先生は、西柴小学校4年生のクラス担任をされている傍ら、横浜の野島海岸や海の公園で進められているアマモ場の再生活動に児童とともに参加し、昨年結成された特設クラブ「西柴アマモ隊」の世話役としてご活躍中です。2005年に神奈川県で開催された「全国豊かな海づくり大会」では、西柴アマモ隊のメンバーが大会メッセンジャーの大役をつとめ、ご臨席の天皇皇后両陛下から子どもたちに暖かいお言葉をいただいたそうです。今回は、坂田先生に西柴アマモ隊の活躍について聞いてみました。
 
Q1. 西柴アマモ隊の子どもたちはどのようなきっかけでアマモに興味を持ったのですか?
A1. 3年前、4年2組で最初に取り組んだ課題は、「命いっぱいの活動」でした。体験学習に行き、ホタルの命に感動した子供たちが、桜、虫、魚、水草、それから鳥、海という6つのグループに分かれて活動を始めました。その中の「海の命いっぱい」の子供たちは、教育ボランティアとしてツバメの話をしてくださった野鳥クラブの方から、「皆さんが海の命いっぱいを学習するのなら、アマモというのを紹介しましょう」と教えていただいたことが、アマモに出会ったきっかけでした。
 アマモの種の選別会があるということを聞き、その年の夏休みに子どもたちと一緒に選別会に参加しました。その後、アマモ場再生会議の皆様のイベントに参加するようになりました。約1年間通して、アマモの役割や、アマモの育て方や、人としてアマモにどのようにかかわれるのかということを学びました。
 
 
 その後、子供たちは5年生に進級し、私も担任が変わりました。4年生の時、総合でほかのグループだった子供たちが、今年も城ヶ島でアマモの種子選別会があると聞き、「僕たち、アマモのことをしていないので、やってみたい」と誘い合って、一緒に参加するようになりました。初めての参加でしたが、この1回だけで終わらずに、お互いに連絡を取り合い、次回も参加しようということになりました。そこで、私がその世話人をすることになり、子どもたちが決めた「西柴アマモ隊」の活動が始まりました。この活動は、1年間続きました。
 学校では新年度企画が始まり、アマモ隊の活動を特設クラブとして位置づけることを提案しました。「まち」で行われている海の再生活動を学校の教育の中に取り込み、子供たちの主体的で実践的な力を育てていきたいという内容を提案しました。その結果、これまでの活動が認められ、西柴アマモ隊として正式に位置づけられたのです。
 
Q2. 何かと忙しい先生にとって、子どもたちの活動を支えるのは大変だったと思います。子どもたちが活動を続けていく上で、一番重要なことは何でしょうか?
A2. 子どもたちが、活動に対して自分から関心をもって自主的に活動することが一番大切だと思います。
 
Q3. 最後に、坂田先生にとって「海」とは何でしょうか?
A3. 海から生まれ進化してきた私たちが、海を汚してきました。これからも、人類が地球上で生き延びるためには、海を守り、海をきれいにしていかなければ−−−絶滅の日は近いと思います。そして、絶滅は人間だけでなく、生命全体の命の灯火が消えるときではないでしょうか?
 
 ありがとうございました。
 
vol.6 〜海洋政策研究財団 菅家 英朗 研究員〜
 第6回目は、海洋政策研究財団の菅家英朗研究員です。菅家さんは、海洋教育のなかでも安全管理をご専門に研究しています。学校の教育現場で海が取り上げられにくい理由のひとつは、「海は危険」というイメージがあるためという声を耳にします。一人の先生の目が何人の子どもに届くのか、そんな研究が求められていると思います。そこで今回、菅家さんに海の活動における安全についてお伺いしたいと思います。
 
Q1. 教育現場では、先生が子どもたちを海につれて行きたいと思っても、事故のことを考えると尻込みしてしまうケースが多々あるようです。先生方にアドバイスがあればよろしくお願いいたします。
 
 
A1. 海は決して危険ではありません。日常生活と全く同じで、どこにどんな危険が潜んでいるのかが分かっていれば、安全に楽しく海辺の活動を行うことができます。実際に海辺に行って子どもたちと一緒に海を楽しみながら、そこに潜む危険を見抜いて適切に対処する力を身につけさせることが、日常での海辺や川、池での事故防止にもつながります。一方で、海に潜む危険を知るための良い教材がなかなか見つからないという問題があるので、私たちも積極的に先生方に対して、教育現場で使いやすい情報や資料を提供していきたいと考えています。
 
Q2. 学校教育の中で海洋教育を実施する場合、NPOなどに御協力願って安全性を確保するのも一案だと思いますが、参考になる事例があればお聞かせ下さい。
A2. 海洋教育のお手伝いをしているNPOやボランティアグループは、ほとんどの場合、学習内容に関する指導や助言、活動のサポートが目的で、安全面まで配慮している事例はそれほど多くないのが実態だと感じています。そんな中で、横浜の海でアマモ場の再生活動をしている「金沢八景−東京湾アマモ場再生会議」は、多くのスタッフが職業ダイバーや海に関わる実務者なので高い安全意識をもっています。彼らの活動は参考になる好例だと思いますが、全国的に見れば稀なケースではないでしょうか。現在、国土交通省が中心となって、海辺のアクティビティだけではなく安全管理や安全教育のスキルを身につけた自然体験活動の指導者「海辺の達人」を養成しています。学校教育を支援しているNPOやボランティアの方々に対して、このような指導者養成講座の受講を義務付けるといったことが必要かもしれません。
 
Q3. 最後に、菅家さんにとって、「海」とは何でしょうか?
A3. 海は空気と同じで、普段はその恩恵を感じませんが、その存在がなくなれば私たちは生きていくことができません。私にとっての海は、まさに命を支えてくれる大切な存在です。と言うと格好良いですが、ぶっちゃけ、特に理由はないけど海に行くと楽しいから、海にかかわる仕事をしているだけです(笑)
 
 ありがとうございました。
 
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