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5-3-3 エコロジー・コーティングス(Ecology Coatings, Inc.)
設立年:1990年
代表者:Richard Stromback最高経営責任者(CEO)
企業形態:未上場
 
(1)ビジネスの市場背景
 コーティングは一般になじみのない処理工程だが、メーカーにとっては、コストを引き上げる要因の1つとなっている。メーカーは、年間で総額200億ドルをコーティングに費やしているという。さらに、コーティング工程に必要な人件費や工場スペース、時間等のコストが加算される。
 そこで期待がかかっているのが、ナノ粒子を使った新しいコーティング素材である。実際、コーティングは、ナノテクの実用化が最も進んでいる市場でもある。このほか、ナノテックス(Nano-Tex)が開発したシミやシワができないズボンや、銀粒子を織り込んだ臭いを吸収する靴下等が商品として出ている。
 エコロジーが開発しているコーティング技術は、車の塗装等で使用する従来のコーティング素材を超える速乾性を持つ。例えば、コーティングが乾くまでに通常だと20分ぐらいかかるところが、同社の製品を利用すればわずか2〜3秒。さらに、揮発成分を含まないため、米国環境保護局(EPA)の規制対象外となり、さらなるコスト削減が望める。
 
(2)主要技術
 エコロジーが開発したコーティング素材は、個体と液体の両方の性質を持ち合わせている。同物質はナノ粒子から成る粘度の非常に高い液体である。製品に含まれるナノ分子は光阻害物質を含んでいる。そこへ、紫外線を照射すると、分子内の電子が自由になり、分子同士の結合が促される。その結果、一様のコーティングが可能になる仕組みである。実際にコーティング剤に紫外線に数秒間あてるだけで固体化する。
 
図17: コーティングの工程
 
 同社の技術を使うことで、余分な塗料が蒸発したり、有毒ガスが発生するのを防ぐことができる。通常の塗装では、実際の塗装材料の20〜30%の分子がコーティングに使われるに過ぎない。残りは溶剤や添加物で、それらのほとんどが工程の段階で蒸発しているという。
 エコロジーの技術は、塗装に必要となる有機溶剤等を必要としない。
 
(3)将来的に見込める市場
 エコロジーはすでに、化学大手デュポンと提携している。デュポンは今後、同社の技術を自動車メーカー向けに応用していく。また、同様に同社の技術ライセンスを取得したナノダイナミックス(NanoDynamics)は、柔軟なスクリーンや耐熱コーティングの開発に利用していく。同社はまた、塗装サービスを提供するレッド・スポット・ペイント&バーニッシュ(Red Spot Paint & Varnish)とも提携している。エコロジーの技術は、レッド社が提携するプロパンガスタンクのレンタル大手が採用している。
 一方、同社の技術者は、このコーティングを使って紙を防水し、さらにその上に字を書いて水につけてもにじまないことを発見した。同社は現在、新しい方向性として防水紙の研究を続けている。同社は製品化を目指し、すでに大手化学会社等と交渉を進めている。実用化されれば、配送パッケージ等に貼って、上からビニールの袋で覆う必要のないラベル等の用途が考えられる。
 また、コーティング剤は、アウトドア用品やスポーツ用品、靴等にも使える可能性がある。また、ゆくゆくは建材にも使えると期待されている。
 同社は、大手企業との戦略提携による、自社技術の提供によって収益を確保していく。
 
(4)考察
 一部のアナリストは、同社がこれから製造プロセスの構築といった課題に直面していくと指摘している。しかし、ストロムバック氏によると、製造に特別な機械等は必要なく、大量生産できるという。エコロジーの化学物質は現在、特許を申請中である。
 今後、類似した技術が相次ぎ登場するが予想され、その場合、今度は価格競争と特許訴訟の件数が急増する可能性がある。
 塗装には様々な機能が要求される。例えば、見た目の光沢感や滑らかさをといった美粧性もその1つである。現在の段階で、同社のコーティングが既存のコーティングを上回る光沢等を出せるのか不明である。素材の性質によって開拓できる市場(例えば、ガスタンクのように見た目があまり気にならない製品等)が限られてしまう可能性もある。
 
5-3-4 ナノステラ(Nanostellar, Inc.)
住所:3603 Haven Avenue、Suite A、Menlo Park、CA 94025
設立年:2003年
代表者:Dr. William Miller(会長、創業者、暫定CEO)
企業形態:未上場
 
(1)ビジネスの市場背景
 同社はスタンフォードの科学者、KJチョウ、マイケル・パク、ウィリアム・ミラー(William Miller)(元スタンフォードの副学長)の3名によって設立された。チョウ博士が開発したのは、約3万個の原子レベルでの素材の性質を調べる方法だった。超ミクロの世界での素材開発は、特に次世代の半導体技術の開発に躍起となっている半導体企業にとって最重要課題である。インテルやテキサス・インスツルメンツは、同氏の技術を使って誘電率(K)の高い誘電体の選択に利用している。
 その後、米航空字宙局(NASA)のエイムズ研究センターの技術を融合してできあがったのが、ナノ素材を設計するのに利用する高精度のモデリングソフトだった。このソフトは「ナノテク分野のCADソフト」と呼ばれ高い評価を受けている。例えば、同社のソフトは合金のナノ粒子を設計する段階で、その構成原子の数を10個〜10万個まで調節できる。これに、実際の製造実験を組み合わせて、新素材を開発するのが同社のビジネスモデルだ。
 同社は現在、触媒素材の開発に自社の技術を利用している。その中でも真っ先に商用化が期待されているのは白金(プラチナ)グループ金属(パラジウム、ロジウム)の触媒の代替製品である。
 なお、同社は未上場のベンチャー企業だが、3iテクノロジー・パートナーズ、モニター・ベンチャーズ等、ナノテクやエネルギー市場に注目する数社の著名なVC企業から投資を受けている。同社は現在、5つの技術特許を申請中で、いずれもナノ触媒の製造に関するもの。
 
(2)主要技術
 現在、自動車触媒と呼ばれる排気ガスを抑制するための技術が自動車に導入されている。通常は、アルミナをベースとして、プラチナ・グループ金属を加えた「三元触媒」が用いられている。プラチナとパラジウムは炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を還元する能力が高く、パラジウムは窒素酸化物の還元に優れている。これらの触媒を利用することによって、排気ガスに含まれる有毒成分をできる限り減らすことができ、クリーン・テクノロジーとして注目を集めている。
 こうした中、ナノステラは、触媒市場の需要が非常に高まっている事に着目、効率の非常に高いプラチナをベースにしたナノ結晶による触媒を開発している。同社によると、プラチナ・グループを使った触媒の売上げは年間およそ100〜120億ドルに達しているという。自動車向けだけでも50〜70億ドル規模になる。触媒が使われるのは、自動車部品の1つ、触媒コンバータ(キャタライザー)と呼ばれる部分である。年間1億台ものキャタライザーが製造されている。控えめな推計でも、アジアの自動車用触媒市場は、年間30〜40%の成長率を持つだろうと予測されている。
 同社が特許を保有するプラチナ・ナノ結晶を使えば、従来の触媒に対してはるかに少量のプラチナで同様の触媒効果をあげることができる。同社は当面、プラチナの量を50%減らした触媒を発売し、今後、プラチナの含有量を70%減らすことを目標にしている。
 現在ナノテク業界では、新たな高性能の物質を開発するため、貴金属を組み合わせながらその合成物を検証していくのが主流となっている。また、触媒の表面積を大きくすることで効率を高めるための研究開発も盛んになっている。
 これまでこの技術を利用して作られた貴金属複合ナノ分子で触媒に使われているものとしては、低燃費ディーゼルエンジン、燃料電池、石油化学製品向け触媒等がある。
 
図18: キャタライザーへの応用
 
(3)将来的に見込める市場
 ナノ触媒は、自動車業界で注日され、すでに導入されていることは先にも述べたが、クリーンエネルギーを開発する上では重要な役割を果たすことになる。今後もコンバータを含め同業界で必要不可欠な存在になる。
 例えば、カリフォルニア州は、クリーン・テクノロジーの開発を促進するためのイニシアチブ「Green Wave」を設置、5億ドルの民間投資を誘致している。
 また、ナノ触媒は、脱臭技術や水質浄化技術等、環境保全に役立つ製品にも導入されている。ナノステラは家庭用の電化製品等には触媒を提供していないが、今後マーケティング次第では市場を広めていく可能性は大きい。
 同社の製品は、ガソリンほかディーゼルエンジン用触媒、幅広い石油産業への応用が期待されている。今後、酸化炭素の排出規制が強まれるにつれて、新たな触媒技術への需要が高まるため、ナノステラにとって市場の拡張が期待できる。
 
(4)考察
 ほかにナノ触媒を開発する企業として、新興企業ネックステック・マテリアルズ(Nex Tech Materials)やヘッドウォーターズ(Headwaters)がある。前者は、ウォーター・ガス・シフト(WGS)触媒と呼ばれる技術を開発しており、非自然発火性のセリア(酸化セリウム)に基づいた、燃料処理システムに使用されている。また、改良されたロジスティック・ディーゼル燃料から水素を作り出すために必要な触媒を開発している。硫黄に対する耐久性の高い質膜とあわせ、硫黄除去システムの負担を減らすことができる。また、セリアでは金属を使う必要がないため、コスト削減という利点もある。こうした技術は、燃料関連の触媒開発でナノステラの競合となってくる。
 ナノステラは、触媒開発のシミュレーション機器やその手段を向上し、より早く安価なナノ構造物質を生産できるような体制が必要となるだろう。


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