3. 政府機関による支援プログラム
3-1 連邦政府機関によるイニシアチブ:国家ナノテク戦略(NNI) 7
すでにこれまで述べてきたNNIは2001年、ナノスケール科学・工学・技術の各分野における連邦政府機関の研究開発活動を調整することを目的に、省庁横断プログラムとして発足した。NNIの主な活動分野は以下のようになっている。
・基礎的知識の創造に焦点をあてた基礎研究
・ナノテクが影響を与えると期待される応用分野に焦点をあてた応用研究
・施設、装置、器具等のインフラストラクチャ
・労働者訓練を含む、学生、教師、一般国民の教育・啓蒙
・環境・健康・経済・倫理・法律問題を含む社会的影響
NNIは2004年12月に戦略計画の見直しを行い、ビジョンと目標が再度確認された。戦略計画は「ナノスケールレベルの事象を理解・制御する能力が、技術及び産業界に改革をもたらす未来の実現」をビジョンに掲げ、ビジョン実現のために達成するべき目標として以下の4点を定めている。
(1)ナノテクの可能性を最大限に実現するために世界レベルの研究開発プログラムを実施する。
(2)新技術の製品化を支援し、経済成長、雇用の創出、その他公共の利益を実現する。
(3)ナノテクの進化に欠かせない教育を行い、熟練労働者を養成し、及びインフラストラクチャとツールを開発する。
(4)ナノテクの責任ある開発を支援する。
NNIはこの他に主要投資分野としてPCAを定めている。PCAの具体的な内容はすでに、2-2-2項「NNI重点投資分野」で述べた。また、NNIの予算は2-2-1項「連邦政府のナノテク予算」を 参照。
2005年5月に発表されたNNIの活動及び今後の見通しをつづった報告書「NNIの5年間:国家ナノテク諮問委員会による評価及び提言」8 は、これまでのNNIの成果を以下のように報告している。
・「ナノスケールレベルの事象の制御に関する基本知識の向上」を実現した。具体的に、2004年は全50州の500強の大学、政府研究所、及びその他の研究所で2,500件強の研究プロジェクトが実施され、知識の向上に貢献した。
・第3者による評価パネル「NSFビジター委員会(NSF Committee of Visitors)」によって、「学際的ナノテク・コミュニティーを創設した」と評価された。
・35を超えるナノテク関連研究センター、ネットワーク、ユーザー施設から成るインフラストラクチャを構築した。
・NNI予算の約8%を主に環境:健康:安全:その他社会的関心事に関する研究に投資することにより、ナノテクの社会的影響と応用に関する理解を促進した。
・大学院生、大学生、高等・中等学校生を対象としたナノテク教育プログラムを設立した。これらプログラムには、2004年だけで1万人を超える大学院生、及び教師が参加した。
・NNIウェブサイト9 を定期的に更新することにより、公衆への周知普及を支援した。同サイトは今日、研究者、教育者、マスコミ、そして一般大衆に(連邦政府のナノテク取り組みに関する)主要情報源として活用されている。
報告書を作成したNNAP10 は、ナノテク分野における米国の国際的競争力強化の観点から、連邦政府のナノテク投資を概ね評価している。一方、報告は、一般的にナノテクを応用した製品の開発が進んできたにもかかわらず、ナノスケールレベルのプロセスと反応(behavior)に関する基本的理解は非常に初期段階にあると指摘している。アプリケーションの開発が活発化するにはまだ時間がかかるとの見解を示し、米国が新興技術分野で主導権を握り、さらに開発の恩恵を享受するためには、連邦政府は今後も投資を続ける必要があるとまとめた。また、民間セクター及び州・地方レベルの経済開発関係団体・組織との提携並びに国際レベルでの相互交流の強化がプログラムの強化につながると述べた。
NNAPは今後の主な注力分野として(1)技術の商業化と技術移転(2)教育と訓練(3)環境と安全性(4)ナノテク研究開発投資と、国家安全及び経済成長における目的との連携(5)米国の競争力のモニタと更新の継続を挙げている。
8 "The National Nanotechnology Initiative at Five Years: Assessment and Recommendation of the National Nanotechnology Advisory Panel", President's Council of Advisors on Science and Technology, May 2005
10 国家ナノテクノロジー諮問委員会(National Nanotechnology Advisory Panel: NNAP)。21世紀ナノテクノロジー研究開発法に基づき、連邦政府のナノテクノロジー研究開発プログラムの評価を目的に米国議会によって設立された。2004年7月23日、ブッシュ大統領は大統領科学技術諮問委員会(PCAST)にNNAPの役割を任命した。
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NNIによると、米国では現在、ナノテク研究開発予算の半分が民間大手企業によるもので、残り半分を連邦・州・地方政府、小規模事業者、及び投資家が出資している。連邦政府は個々の省庁機関がそれぞれの目的に応じて助成金プログラムを設立し、民間及び教育機関の研究開発活動を支援している。以下は、助成金プログラムを実施している主な省庁機関とプログラムの紹介サイトである。
(2)DOD:
1. US Army Funding Opportunities
3. Office of Naval Research (ONR) Multidisciplinary Research Program of the University Research Initiative (MURI)
4. ONR Research Tools Design Consortia
6. Defense University Research Instrumentation Program
(3)DOE: Office of Basic Energy Sciences
連邦政府省庁が提供するナノテク関係の助成金プログラムは、「Programs: Center for Integrated Nanotechnologies11」のサイトで、名称、提供省庁機関等によるキーワード検索で調べることができる。このサイトは、エネルギー省科学局ナノスケール科学研究センター(Nanoscale Science Research Center)統合ナノテクセンター(Center for Integrated Nanotechnologies)が管理しており、情報は毎月更新されている。
一方、これらの助成金プログラムとは別に、経済成長を支援するとの観点から技術の商業化開発推進を目的としたプログラムも設置されている。これらのプログラムは小規模事業者支援に着目し、小規模事業者と大学、及びその他の研究機関との協力体制の支援に焦点を置いている。特に規模が大きいプログラムとして知られるのが、中小企業局(Small Business Administration: SBA)が管理する、中小企業技術革新研究(Small Business Innovation Research: SBIR)とスモール・ビジネス・テクノロジー・トランスファー(Small Business Technology Transfer: STTR)である12。
NNIによると、小規模事業者は現在、米国新規雇用の3分の2を創出しているとされ、米国の経済成長に多大な貢献を果たしている。また、小規模事業者の特許取得件数は今日、大手企業に肩を並べるほどに増えており、政府による助成プログラムの成果と考えられている。
外部研究開発予算が1億ドルを超える連邦政府機関は、商業化及び公衆の利益になる可能性があると考えられる研究開発又は画期的研究を行う小規模企業を対象に、年間予算の2.5%をあててSBIRプログラムを運営する13 ことが法律で義務付けられている。SBIRプログラムを通じて小規模企業に拠出された金額は今日までに100億ドルに達している。SBIRに参加している省庁機関は、NIH、USDA、DOD、DOED、DOE、DOT、EPA、NASA、NIST、NSF、DARPA、米空軍、海軍、陸軍である。
また、外部研究開発予算が10億ドルを超える連邦政府機関は、年間予算の0.3%をSTTRプログラムの運営に当てることが義務付けられている。現在は、DOD、DOE、保健社会福祉省(NIH)、NASA、NSFの5省庁機関がSTTRプログラムに参加している。
両プログラムの詳細は、以下の法律によって定められている。
(1)Small Business Innovation Development Act of 1982
Small Business Research and Development Enhancement Act of 1992
Small Business Innovation Research Program Reauthorization Act of 2000.
一方、NISTのプログラム「Advanced Technology Program (ATP)」は、連邦政府機関と民間セクターが資金を出し合って運営する官民合同プログラムである。商業化が期待され、かつ国家に多大な恩恵をもたらすと期待される革新的技術の開発の加速を目的としている。
NSFと州政府による共同プログラム「競争的研究を活性化するための試験的プログラム(Experimental Program to Stimulate Competitive Research)」14 は、特定の州の大学、産業界、政府、及び連邦政府の研究開発機関との連携を軸に、地方(州)における科学・技術資源の開発と、それら資源を経済成長のための基礎として利用することを目的としている。
同様に州の経済振興を目的としたプログラムでは、DODのプログラム「競争的研究を活性化するための国防総省試験的プログラム(Defense Experimental Program to Stimulate Competitive Research)」15 がある。従来、連邦政府の研究資金の分配が少なかった州の大学に着目し、国防関係の研究機会の拡大を目指している。2003年は本プログラムを通じ、14州で18の教育機関が実施する合計31のプロジェクトに合計1,570万ドルが拠出された。
13 プログラム予算を持った省庁機関がプログラム応募企業を審査し、助成金拠出先を決定する。
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