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2-2-2 NNI重点投資分野
 NNIは「プログラム・コンポーネント・エリア(Program Component Area: PCA)」として以下に挙げる7分野を重点研究分野に指定している6
 
(1)ナノスケールで生じる現象とプロセスに関する基礎
 (Fundamental Nanoscale Phenomena and Process):
 ナノスケールで発生する物理的・生物学的・工学科学的新現象に関連した基礎知識の発見と開発。ナノスケール構造・プロセス・メカニズムに関する科学的及び工学的原理の説明。
 
(2)ナノ材料(Nanomaterials):
 画期的なナノスケール及びナノ構造材料の発見と、ナノ材料特性の包括的理解を目的とした研究。標的とする特性を備えたナノ構造材料の設計と合成を目指す。
 
(3)ナノスケールのデバイスとシステム(Nanoscale Devices and Systems):
 画期的デバイスやシステムの創造又は既存デバイスやシステムの改良のためのナノスケール科学工学原理を応用した研究開発。性能改良や新機能開発を目的としたナノスケール又はナノ構造材料の結合等。
 
(4)ナノテク計測(器具)研究・測定学・標準
 (Instrumentation Research, Metrology and Standards):
 先端ナノテク研究と実用化に必要となるツールに関連した研究開発。特性決定・測定・合成のための次世代の器具や、材料・構造体・デバイス・システム設計等が該当する。用語・材料・特性決定・検査・製造の標準規格等、標準化のための研究開発や活動も含まれる。
 
(5)ナノマニュファクチャリング(Nanomanufacturing):
 大規模で信頼性に優れ、かつ、コスト効率の高いナノスケール材料・構造体・デバイス・システムの製造に関する研究開発。超小型トップダウン・プロセス、複雑化するボトムアップ又はセルフ・アセンブリー・プロセスの研究開発や統合等。
 
(6)主要研究施設及び研究器具調達
 (Major Research Facilities and Instrumentation Acquisition):
 ナノスケール科学・工学及び技術の研究開発のための国家科学インフラを開発・支援・強化するための活動や、ユーザー施設の設立、器具の調達等。
 
(7)社会的局面(Social Dimensions):
 ナノテクが社会にもたらす恩恵やリスクに関する研究や活動。環境・人体・安全に及ぼす影響、教育、倫理・法律・社会的問題の研究等。
 
6 PCAの7分野はNSET小委員会がNNCOの協力を得て策定したNNI戦略計画(NNI Strategic Plan)の中で定義されている。
 
 以下はNNI参加省庁の重点分野(PCA)別2006年度投資計画である。
 
表7: NNI参加省庁の重点分野別2006年度投資計画
(単位:100万ドル)
省庁 ナノスケールで生じる現象とプロセスに関する基礎 ナノ
材料
ナノスケールのデバイスとシステム ナノテク計測(器具)研究・測定学・標準 ナノマニュファクチャリング 主要研究施設および研究器具調達 社会的局面 NII
合計
NSF 95 75 54 12 24 24 60 344
DOD 35 83 99 3 2 6 2 230
DOE 48 33 5 11 0 109 1 207
NIH 46 17 67 6 0 1 8 144
NIST 5 1 2 39 19 8 1 75
NASA 4 17 10 0 1 0 0 32
USDA 1 2 6 0 1 0 1 11
EPA <0.5 0 <0.5 0 0 0 4 5
NIOSH 0 0 0 0 0 0 3 3
DOJ 0 0 0 0 0 0 2 2
DHS 0 0 1 0 0 0 0 1
出典:NNI
 
 NNI参加省庁のPCA別投資額をみると、ナノテク研究に特に力を入れている省庁(NSF、DOD、DOE、NIH、NIST)は7分野のうち最低6分野に投資を行っていることがわかる。
 特に予算割当額の大きい省庁の2005年度及び2006年度の重点分野は以下のとおりである。
 
(1)NSF: ナノマニュファクチャリング最先端研究施設の創設、社会的問題の理解及びナノテク教育を支援し、さらに学際的研究への支援を強化する。
 
(2)NIH: 国立ガン研究所(National Cancer Institute)のガン研究におけるナノテク同盟(Alliance for Nanotechnology in Cancer)、国立環境衛生学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)国立毒物学プログラム(National Toxicology Program)のナノスケール材料研究、及び職場における健康と安全のためのナノテク応用を検討する国立労働安全衛生研究所(N10SH)の活動への資金提供を2005年度に開始したが、2006年度はこうした支援活動を本格稼動する。
 
(3)DOD: 自省のミッションに応じたナノテク利用に対応できる材料、デバイス、システムのアプリケーション(適用業務)開発を強化する。
 
(4)DOE: 既存のナノスケール・サイエンス研究センター(Nanoscale Science Research Center)5施設への資金提供を継続する。
 
(5)NIST: 米商務省傘下のNISTは、開所して間もない先端計量研究所(Advanced Measurement Laboratory)と国立ナノマニュファクチャリング・ナノ測定施設(National Nanomanufacturing and Nanometrology Facility)の整備を進め、産官学の研究者に最先端研究施設やインフラを提供する。
 
 NNI発足以降、ナノテクの環境、人体、安全面への影響は重要な研究分野として認識されてきた。ナノテクの実用化による利益享受を目的とする研究開発と、ナノテクが環境や人体に及ぼす影響に関する調査研究については、NNIによる投資バランスをいかに保つかが、個人や団体だけでなく議会でも一部の関心の的となっている。このため、NNIが責任あるナノテク開発を実践していることを説明する目的で、行政管理予算局(Office of Management and Budget: OMB)は前述の「社会的局面PCA」のうち、環境・健康・安全に関する研究予算額推定の提出を全機関に義務付けている。
 
表8: 2006年度NNI社会的局面PCA推定投資内訳
(単位:100万ドル)
省庁 環境・健康・安全に関する研究開発 教育・倫理・法律・その他社会的問題
NSF 24.0 35.5
DOD 1.0 1.0
DOE 0.5 0.6
NIH 3.0 5.0
NIST 0.9 0.0
NASA 0.0 0.0
USDA 0.5 0.5
EPA 4.0 0.0
NIOSH 3.1 0.0
DOJ 1.5 0.0
DHS 0.0 0.0
合計 38.5 42.6
出典:NNI
 
2-3 ナノテク関連法律
2-3-1 連邦法
(1)21世紀ナノテク研究開発法
 (21st Century Nanotechnology Research and Development Act of 2003, Public Law 108-153、以下21世紀ナノテク法):
 ブッシュ大統領が2003年12月3日に署名して成立した法律。ナノテク分野における米国の競争力を維持する目的で、米国で実施されるナノテク研究開発に対し、国家レベルの組織的・協調的アプローチを取り入れた点で画期的だった。この他に、NNIの下で行われるプログラムや活動を法制化し、予算を認可したことに加え、大統領が策定する国家ナノテク・プログラム(National Nanotechnology Program、後述)について、省庁間調整をつかさどる全米ナノテク調整局(National Nanotechnology Coordination Office: NNCO)を新設し、法的権限を与えたこと等がポイントである。21世紀ナノテク法が網羅しているのは、
 
1. 2005-2008年度のナノテク研究開発予算として、NNI参加16省庁のうち、5省庁(NSF、DOE、NASA、NIST、EPA)に37億ドルの予算を認可する。残りの省庁もNNIの予算配分を受けているが、法律では配分の対象としていない。
2. 国家ナノテク・プログラムを実施する。
3. 国家ナノテク・プログラムの調整事務局として、NNCOを設置する。
4. 米国ナノテク準備センター(American Nanotechnology Preparedness Center)を創設し、ナノテクが米国及び世界に与える影響について、環境、社会、倫理、労働の各方面から研究する。
5. 国家ナノテク諮問委員会(National Nanotechnology Advisory Panel: NNAP)を設置し、NNIの活動を定期的に評価、改善案の提言を行う。主に学術研究機関と産業界から、大統領がメンバーを指名する。
 
(2)ナノマニュファクチャリング投資法案
(Nanomanufacturing Investment Act of 2005)-HR1491
 カリフォルニア州選出のマイケル・ホンダ下院議員(民)が2005年4月に提出した同法案は、2005年10月時点で、下院の環境・技術・標準小委員会で検討作業が行われている。
 内容は、ナノマニュファクチャリング技術の実用化推進を目的に、商務長官に対し、(1)ナノマニュファクチャリング投資パートナーシップ(2)諮問委員会の創設を要求する。パートナーシップは、民間投資家からも資金を募り、商業化前(pre-commercial)ナノマニュファクチャリング研究開発プロジェクト(基礎研究を除く)に資金を提供する。また、助成金の最低85%を、新興企業に割り当てる。
 
(3)マニュファクチャリング技術競争力法案
(Manufacturing Technology Competitiveness Act of 2005)-HR250
 ミシガン州選出のバーノン・J・アーラーズ下院議員(共)が2005年1月に提出した同法案は、5月にユニオン・カレンダー(歳入・歳出関係の議案目録)に登録された。2005年10月時点では、本会議での審議待ち。
 同法案では、製造面の革新と教育を支援し、また、中小規模製造業者支援を拡張するためのプログラムを支援する目的で、製造関係の研究開発活動を調整する省庁横断型委員会を設置する。委員は、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)、NIST、国土安全保障省科学技術総局、NSF、エネルギー省等の職員の中から大統領が指名する。また、この法案はNISTが実施する11分野の研究活動に対して予算を認めており、予算配分の対象に、NISTの国立ナノマニュファクチャリング・ナノ測定施設での研究を挙げた。
 
(4)規制当局による独自の規制策定
 連邦規制当局は、ナノテクが管轄分野に及ぼす影響を重視し、規制策定に向けた準備を独自にすすめている。以下に、FDAとEPAの例を示す。
 
1. FDA:
 FDAは、医薬品、医薬品デリバリーシステム、化粧品、医療機器、ワクチン、及び食品の安全性と有効性を監督、承認する機関である。規制対象の製品が、ナノテク又はナノ材料を利用して開発・製造される可能性があることから、製品の安全性を確保する目的で、ナノテクが製品に与える影響と課題を調査し、規制を検討している。
 規制上の検討課題としては、特にナノテクを利用して開発された又はデリバリーにナノテクを利用する医薬品及びデリバリーシステムの命名法、品質、安全性、環境への影響を挙げている。中でも医薬品の安全性を問題視しており、ナノ材料といった新材料又は化学的に構造を変化させた既存の材料の利用に起因する、前例のない毒性リスクが生じる可能性を重視し、これらリスクを査定するための医薬品の新たな試験や検査方法が必要との見解を示している。
 
2. EPA:
 産業廃棄物の削減やクリーンエネルギーの創造等、ナノテクがもたらす利点を認める一方で、ナノ材料独特の組織・反応性・サイズ等が、人体やその他生物、環境におよぼす潜在リスクを認め、健康や環境保護の観点から規制を検討している。その準備として、大気や土壌にあるナノ粒子、及びナノ材料のライフサイクルの影響や、天然及び人工ナノ材料の毒性、人やその他生物への暴露経路、生物内蓄積について調査を行っている。
 ナノテクの影響を言及した規制に関しては、2005年10月時点で成立したものはまだない。また、ナノテクの環境汚染に関する連邦法案もなく、今後、実際に無数のナノテク商品が市場に出回るまで規制が出てくることは可能性として低い。


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