ラックス・リサーチは、今後、世界のナノテク市場がどのように移行していくのか予測しているが、当面は工業製品への応用が主体になると見ている。
図2: 今後のナノテクの応用分野
図3: ナノテク市場の動向
これまで世界規模でナノテク市場がどう移行していくのか見てきた。ここでは、その市場を牽引してきた米国でナノテクがどのように位置づけられているのかを見ていく。
米連邦政府がクリントン政権時代の2000年に「国家ナノテクノロジー・イニシアチブ:National Nanotechnology Initiative (NNI)」の方針を打ち出したことで、米国がナノテクを重要な国家事業の1つとして捉え、本腰を入れていくことが明らかになった。折しも、それまで未曾有の景気を米国にもたらしていたハイテク市場が「ネットバブル」の崩壊によって急速に萎みつつあった時期でもある。
現在、IT産業がようやく回復基調に戻り、その一方でバイオテク産業が注目される中、ナノテクがもう1つの柱として捉えられ、ブッシュ政権も同分野の開発を最優先課題として位置づけている。
2005年会計年度における連邦政府のナノテク研究開発予算額はおよそ10億ドルである。これは、全世界のナノテク投資額の4分の1に相当する規模である。これに、州政府や民間による投資をあわせると約30億ドルに膨れあがる。この額は今日世界で投入されているナノテク予算のおよそ38.4%を占める。2001年〜2005年会計年度までに米政府が同分野に投入した金額は総額40億ドルに上る。
研究開発予算から見れば、米国がナノテク研究開発ではトップの環境を保有していることがわかる。さらに、起業数、特許件数、論文数等でも米国が群を抜いている。しかし、他の国も同様にナノテクの研究開発に力を入れており、米国も座視しているわけにはいかない。米国調査会社ラックス・リサーチは、国民1人当たりの研究費用では、韓国、日本、台湾の方が米国より多いと指摘している。
これまで米国は、その国力とふんだんな資金を投入し、あらゆる分野でトップを走ってきた。外国から優秀な人材を自国に招き入れることで、基礎研究の基盤を強固にしてきた。しかし、中国の台頭に見られるように、これまで発展途上国として位置づけられてきた国が、最新科学技術の開発に力を入れることで国力をつけてきた。そこで、これまで米国に留まっていた優秀な外国人研究者が自国へ戻るという「Uターン」現象が起こりつつある。2010年までに世界の物理学者の90%がアジア出身で、そのうちの50%がアジアで働くようになると予測する専門家もいる。米国はこれまで自国で見たことが無かった「頭脳流出」に初めて直面することになるだろう。となると、連邦政府がいくら、ナノテクを奨励していこうとも、米国は優秀な人材を育成するだけの場所となってしまう可能性もある。
連邦政府の積極的な動きとは裏腹に、民間セクターの動きは緩慢だ。年間あたりのナノテク会社の起業数は30〜40社程度で、年々横ばいの状態が続いている。
こうして見ると、米国のナノテク市場を牽引してきたのは、連邦政府が自ら舵を取り、国家プロジェクトとして、位置づけてきた功績が非常に大きい。
1997年にナノテクに拠出した米政府の助成金は、欧州、日本のいずれよりも少なかった。しかし、翌年から同国は、ナノテク研究開発に対する拠出金を一気に引き上げた。その後、2001年〜2002年にかけて拠出額の伸びが鈍化する。背景には、米国の経済不況や、2001年9月11日に起きた同時テロの余波で、国家安全保証が最優先されたことが考えられる。その後、米経済が回復基調に戻り始めると、再び拠出額でトップとなっている。その規模は、2005年で全世界の政府がナノテクヘ供出した額の約4分の1にあたる10億8,100万ドルに達している。
推定拠出額は、引用元によって相違が出てくる。例えば、欧州連合(EU)が発表したリポートでは、2004年におけるナノテクヘの政府投資は推定35億ドル。ラックスの推定額は46億ドルと他に比べて高い数値となっている。しかし、これら全ての報告で共通しているのは、政府によるナノテクヘの拠出が増加し、米国政府がそのトレンドを創り上げているという点である。
米国のナノテクヘの力の入れようは、連邦政府の努力だけでは表せない。実は、州や地方自治体による研究開発の援助も決して無視できないほど大きな存在となっている。ラックスによると、米国の州及び地方自治体は、同分野における研究開発、施設の建設、インキュベーション等で2004年に4億ドルを投資している。同年に米政府が費やした金額が9億8,900万ドルであるとするなら、およそ半分近くが州・地方自治体によって拠出されていることになる。そして、米国では産学民が様々な形で協力することで、ナノテク開発研究の裾野を広げている。
表4: 政府機関によるナノテクR&D
地域 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
EU |
126 |
151 |
179 |
200 |
〜225 |
〜400 |
〜650 |
〜950 |
日本 |
120 |
135 |
157 |
245 |
〜465 |
〜720 |
〜800 |
〜900 |
米国 |
116 |
190 |
255 |
270 |
465 |
697 |
862 |
989 |
その他 |
70 |
83 |
96 |
110 |
〜380 |
〜550 |
〜800 |
〜900 |
合計 |
432 |
559 |
687 |
825 |
〜1,535 |
〜2,350 |
〜3,100 |
〜3,700 |
成長率* |
100% |
129% |
159% |
191% |
355% |
547% |
720% |
866% |
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*1997年との比較
出典:The National Nanotechnology Initiative at Five Years
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